「…検事は魔法使いみたいッスねー」
「魔法使い?」
夕日に照らされて伸びる二人の影。互いに顔を見合せて、解決の喜びに浸る。
「アザヤカに真相を解き明かす、魔法みたいに」
「魔法なら楽なのだが」
「魔法使いになるのが夢だったッス。なんでもパッと解決、カッコいいッス」
「そう言えば以前そんな事を言っていたな」
「結局今日もイイ汗かいたッス。あちこち証拠残しててくれて助かったッスけど」
「…その夢、叶えたではないか」
「え?」
立ち止まって振り返っている御剣の横顔。ロジックの駆け巡る伶悧な顔もいいが、糸鋸はやはり仕事を終えた後の静かな笑みが浮かぶこの顔が好きだ。ましてそれが自分に向けられるとあっては。
「私はそうやって褒められたくて仕事をしている」
ズボンのポケットに両手を突っ込んで、糸鋸は肩で御剣を小突く。
「みんなから褒められてるじゃないッスか。表彰までされて」
「…キミに褒められたいのだ」
御剣はおどける糸鋸にうつむくと微笑んだ。
「初めてキミに会った日からずっと。キミは私に魔法をかけた」
糸鋸の肩に手を掛けると、その背中に御剣はもたれる。
御剣の頭越しに糸鋸は後にした現場に目をやる。今はもう、事件があったことが嘘のように静まり返っている現場。
「その魔法は私のどんなロジックをも打ち砕いて、私はキミから離れられなくなった」
「検事のロジック崩す力なんてないッス」
ハッと気がついたように御剣の瞳が閃く。その閃きが糸鋸を射抜いた。
「ならばキミにかけられたのは、手錠なのかもしれないな」
ああ、覚えてるッス。あの時とおんなじ目。その目を見て自分は一気に怜侍クン好きになっちゃったッスよ。
「ヤッパリ魔法使いだと思うッス」