強い風が枯葉を散らす。
思わず空を見上げると、吸い込まれそうに薄く、見た事も無い青に目眩を覚えた。
風に吹きさらされている広場。遠くにまばらな人影。
自然と足が向いて、そして小さなベンチを見つけると、御剣はコートの襟を立て、腰を降ろした。
目を閉じる。そうしてしばらくすると慌てて駆けて来るはずの騒々しい足音は、勿論ここには無い。
冷えた手をポケットに突っ込むと、指に触れた何か。軽く瞬きした御剣の手が引っ張り出したのは。
糸鋸が吸っていたタバコ。
いつだったか彼を部屋に上げた時に忘れて行ったものだ。その内に返そうと思ってそのままになってしまっていた。
そっと鼻先にそれを近づけた。
男臭い彼の匂いとはまた違う。だがこれも間違いなく彼の匂いの一部だ。
ふと、今の様に冷たくなった指先を厚い手のひらに包んで温めてくれた事を思い出した。あの時に香った匂い。
現場に赴くと、捜査を終えて一人佇む糸鋸に出くわす事があった。
皆が捜査を終えて戻っていても、自分が納得出来ない時は、時間の許す限り残っているらしかった。
そんな糸鋸の捜査にかける情熱は、同じように自らにルールを課していた御剣には好ましく映った。
そういう時の糸鋸は大抵大きくため息をつき、何かにもたれてタバコを取り出す。
静かに紫煙をくゆらす糸鋸の顔は、証言台での冷や汗を流してしどろもどろの顔ではなく、捜査中の必死な、だが生き生きとした顔でもない。
仕事を終えた男の顔。
側にいる時には見られないその表情を、気がついた糸鋸が大きく手を振って駆け寄ってくるまで、御剣は飽かず眺めていた。
一本取り出したタバコは少しよれていて、それが余計、くたびれた彼を思い出させる。
――彼は。
――いつもこんな風にくわえて……そして、火を……つけ、て……
突然、他に何も考えられなくなってしまった。一つの想いが脳内を塗りつぶし、抑えていたものが言葉になり、溢れ出す。
「……キミ、に……会いた……い」
呟いた御剣の口から落ちたタバコは、膝の上で風に煽られて何処かへと持ち去られてしまった。
※「まんず。」ロゼ様にリクエストして書いていただいた、[桔梗の想い]にインスパイアされたものです