ウキウキと真紅の浴衣を御剣に着付ける糸鋸。誰が何と言おうとこれは浴衣デートだ。待ち合わせ場所までだが。
仕上げに帯の端をねじり上げ、結び目をポン、と叩いた。
「出来たッス!さあ、こっち向いて」
「うム」
おずおずと振り返る御剣。
「どうだろう」
「大丈夫ッス。怜侍クンは法曹界のベストドレッサーってぐはあっ!」
立ち上がって御剣を眺めた糸鋸が突然顔を押さえて膝を付いた。
普段はヒラヒラで隠された首から胸、そして色っぽい鎖骨までも、浴衣の襟元から覗いている。真紅の浴衣に白い肌がこれでもかと映える。
(なんという破壊力ッス!こ、これが話に聞く絶対領域…!)
「け、圭介?どうした、どこかおかしいのか?」
「イヤ、着付けは完璧ッス。ただちょっとその」
「ならどこか具合でも、」
「だ、ダメッスそれ以上、」
尋常ではない糸鋸の様子に、御剣は自分も膝を付いて糸鋸の肩を掴む。
「どうしたんだ」
「あ、そんな目で見ちゃダメッス!」
ほんのり頬を染め、御剣は心配そうに上目遣いで糸鋸を見つめている。
「そんな、そんな子猫みたいな目で…もう自分、限界ッスううっ!」
糸鋸が鼻血を噴いた。
「圭介!?」
「どうなることかと思ったッス」
「それはこっちのセリフだ!」
なんとなく事情はのみ込めたものの、御剣は今一つ腑に落ちない。
もっとあられもない姿を見ているだろうに。
「とにかく、そのままじゃダメッスね」
このまま御剣を連れて行くのは、飢えたケモノ達の中に獲物を放り込むようにしか思えない。
「ん、そうッス」
いいものがあるのを思い出し、糸鋸はいそいそとそれを持ってくる。
「これッス」
そう言って糸鋸は御剣の首にトノサマンのお面を掛け、胸元を隠した。
御剣が不思議そうな顔で鏡を見る。
「おかしくないだろうか」
「そんな事ねッス。お祭りと言えばお面ッス」
「だが、普通は頭につけたりするものでは」
「ソ、コ、で、い、い、ッス」
糸鋸は重苦しい声でそう言うと、真剣な目で御剣の肩を掴む。その勢いに、思わず御剣は頷いた。
「ちょっと時間食っちまったッスね」
糸鋸は玄関にしゃがむと、御剣の手を肩に置いて下駄を履かせてやる。
鼻緒に足を通しながら御剣がふと目をやると、浴衣の裾から覗く糸鋸のくるぶしやふくらはぎに、やけに色気を感じる事に気づいた。
なるほど。
御剣は伏し目がちないつもの笑みを浮かべると、糸鋸に手を差し出した。
今夜はあまりキミがしゃがまないように気をつけよう。
「どうしたッス?」
「納得した」
御剣は糸鋸を立たせ、襟を掴んで引き寄せてキスした。糸鋸が耳元で囁く。
「後でみんなの目を盗んでさらいに行くッス」
「…今夜所轄で一番の刑事が会場に現れると聞いているが?」
笑いながら御剣が、糸鋸の胸をトン、と叩く。
「ソイツなら非番ッス。怪盗が現れるにはうってつけッス」
糸鋸のその笑顔に、御剣はまた微笑んで彼の手を握るとドアを開けた。
※ネタ元は某アトラクションのポスター。そして会場には狼捜査官の目が光る。果たして怪盗ノコノコはお宝を盗めるのか…