| 「その日の彼ら−都市伝説−」 「俺はナルトとの約束破ったりしないよ」 「それ、ホント?」 「ホントホント」 「絶対?」 「ぜぇーったいホント。だからね、ナルト」 俺の事、信じなさい カカシとナルト。 木ノ葉隠れの里を逃げ出した二人。 その日から二人はいつも一緒にいたのに。 ずっと二人でいるために逃げ出したのに。 しかし今、その片割れのカカシの姿はなかった。 ナルトは一人、身を隠す様に膝を抱えて座り込んでいた。 狭い路地裏の隅、そこは闇が重く凝ったような場所だった。 基本的に、二人には追い忍がついていない。 何故なら二人の脱走は火影に半ば黙認されていたから。 しかし、里の中にはそれを良く思わないものも多くいた。 だから時々、火影の意に逆らって二人を追ってくる者もいる。 そして折しも今日はクリスマスという日の午後、それは現れた。 いつもなら、カカシはナルトを庇いつつその場で始末をつける。 だが、なぜか今日は追い忍の人数が尋常ではなかった。 両手では全然足りない程の忍、そして悪い事に上忍ばかり。 いかにカカシでも、一人ではそれを相手にするには不利だった。 しかも、傍には何としてでも守るべき、ナルトがいるのだから。 しかし、ナルトだって別に弱くはない。 なんと言っても九尾の器になるくらいだし。 才能の上ではカカシの上を行っているかも知れない。 幾ら里でドベだったと言えども、成長だってしているし。 だから、戦わせようと思えばナルトはかなりの戦力になる。 だがカカシはナルトを戦わせようとはしなかった。 命を狙われ、憎まれていたとしても彼らは里の人間。 里から逃げたけれど、ナルトは故郷を愛しているから。 ナルトには里の人間を殺せない事をカカシは知っているから。 優しすぎる程優しいナルトを、カカシは愛しく思っていたから。 だからカカシは安全な場所にナルトを隠し。 すぐに戻ってくると、いつもの笑顔で約束し。 自らを囮に追っ手をナルトから引き離す事に成功した。 多分、カカシはどこか別の場所で彼らと戦うのだろう。 そしてナルトは一人、この場でカカシを待つことになった。 しかし。 それから二時間。 カカシはまだ戻ってこない。 ナルトは近づいてくる足音に何度となく伏せていた顔を上げたが。 未だにナルトの求める人物は、ナルトの前には現れてはくれない。 「・・・・カカシせんせー、は」 ぽつりと、零れた言葉。 今ここにはいない人の名。 呼吸さえ聞こえなかったこの場に。 ナルトの声だけが静かに響いていた。 「すぐ、戻って来るって、言ったから」 誰に言うでもなく呟かれる言葉。 まるで自らに語りかける様に。 まるで自らを励ます様に。 「オレは、せんせーのこと、信じなきゃ」 胸の奥から込み上げてくる感情を必死に押さえ込んで。 それでも小さく呟く声は微かに震えてしまうから。 自分が泣いてしまいそうな事にナルトは気付いた。 「カカシ、せんせー」 青い瞳を切なげに揺らして暮れ行く空をナルトは見上げ。 そして、数日前に二人で交わした会話を必死で思い返していた。 「もうすぐクリスマスだってば!!」 そう叫んでカカシを見上げるナルトの目はキラキラと輝いている。 祭り事の好きなナルトの微笑ましい反応に、カカシは苦笑するばかり。 ガシガシと髪をかき混ぜると嬉しそうに目を細め、カカシの腕をそっと掴む。 ナルトが何か言いたげにしているから、カカシは促す様に首を傾げてやった。 「ねえせんせー、知ってる?」 ニヤリ、と悪戯小僧の笑顔。 どうせろくでもない事を考えているのだろう。 それでも酷く楽しそうだから、カカシまで嬉しくなってくる。 「何を?」 「あのね」 そしてナルトが話し始めたのは、クリスマスの怪談。 数年前のクリスマスに恋人と待ち合わせしていた女性がいて。 しかし彼女は途中で事故にあって死んでしまい、待ち合わせ場所に行けなかった。 それから毎年クリスマスシーズンになると、その女性が待ち合わせの場所に行こうと、千切れた上半身だけで徘徊してるらしい。 「今頃どこかを彷徨ってるんだってばよ〜」 ナルトは半眼で、おどろおどろしい声色で囁く。 精一杯怖そうに語っている積もりなのだろうけど。 カカシにはナルトの言動全てが可愛らしくしか映らない。 「へえ、そうなの」 「・・・・・せんせー、怖くないのかってばよ?」 「何が?」 さらりと返すと、ナルトは悔しそうに頬を膨らませた。 それがおかしくてカカシは吹き出してしまい、ナルトの機嫌は更に悪くなる。 顰めた顔にすら惹かれる自分を重傷だと認めつつ、カカシはそんな素振りを見せず。 怒りにまかせて振り上げられた拳を難なく避けて、その小さな身体を強く抱き締めた。 「ななな、何するんだってばよ!?」 「ナルトの事ギュッてしてんの」 「はーなーせー!!」 「嫌だね」 顔を真っ赤にして叫び腕の中で暴れるナルト。 それを見てカカシはクスクスと笑い、拘束を強める。 最初は必死に抵抗していたナルトだったが、最後には照れ臭そうにはにかんだ。 簡単な子供だと思い、カカシはまた笑いそうになるが、今度こそ機嫌を損ねない様笑いを堪える。 柔らかな髪を撫でながら、カカシは誰に言うでもなく、ポツリと呟いた。 「・・・ま、俺ならその幽霊みたいにナルトを待たせたりしないけどね」 「は?」 ナルトはそんな事を意図して話したのではないと、カカシは知っている。 それでもナルトが語るその怪談を、カカシはどうしても自分達と重ねてしまう。 クリスマスの日。 来ない恋人を想う男と。 待っている恋人を想う女。 もし自分達がそうなったら。 もし自分が死んで、ナルトを一人にしてしまったら。 もしナルトが死んで、自分が一人になってしまったら。 自分は、ナルトは、正気でいられるのだろうかと。 訳のわからない事を言いだした、なんてナルトは思っているのだろう。 腕の中で訝しげにカカシを見つたまま、何も言わない。 カカシはカカシでわかって貰おうとは思っていないから。 わざわざ詳しい説明などせず、言いたい事を口にする。 「何があったって、ナルトが待ってるなら絶対に行くよ」 「せんせー?」 「俺はナルトを一人になんてしないから」 「・・・・・」 それからカカシは。 ただ一つのことを、ナルトに伝えた。 当に日は沈み、辺りは暗闇に支配される。 それでもカカシはまだ戻ってこない。 ナルトは抱えていた膝に顔を埋めていた。 泣いているのか、それを堪えているのか。 ただ、身を縮めてナルトは小さく震えていた。 「何泣いてるの?」 何時間か振りに聞こえた声。 ナルトは弾かれた様に顔を上げた。 ナルトの視線の先には、一人の男の影。 暗くて顔は見えなかったが、それがカカシだとナルトはわかった。 月の光を弾いて、ナルトのお気に入りの銀色の髪が輝いていたから。 「・・・・かかし、せんせ?」 「うん」 呆然とした表情でカカシを見上げるナルト。 掠れた呼び声に頷き、カカシはそばにしゃがみ込んだ。 ナルトと同じ高さに視線を合わせ、悪戯っぽい笑顔で話し掛ける。 「俺が死んだと思った?」 「・・・・・」 「馬鹿だねえ」 「・・・・・だって」 小さく呟いたと同時に、青い瞳に涙が滲む。 カカシはそれを指で拭ってやりながら、咎める様な口調で言う。 「俺は戻って来るって言ったよね」 「・・・・うん」 「そりゃまあ遅くなったのは悪かったけど、ちゃんと戻ったでしょ」 「・・・・うん」 「ナルトとした約束は破らないって、俺は言ったよ?」 「・・・・うん」 何度拭って求まらない涙にカカシは苦笑を漏らし。 悔しそうに唇を噛むナルトを抱き寄せて、胸に顔を埋めさせた。 ジワリと、胸の辺りに濡れた感触が広がる。 「ほら、もう泣かないで」 「せんせぇ」 宥める様にナルトの背中をさすっていると、おずおずと小さな腕を回してきた。 その甘える様なナルトの仕草が、カカシに酷く愛しい。 「おバカさんなナルト君のために、もう一度言っておこうか」 「何だってば?」 「こんなこと言うのは、これが最後だからね」 「だから、何だってばよ?」 俺の事、信じなさい 2001.12.23 |
裏・北斗の歳星 昴さまからいただきました。
まほらの大好きな抜け忍のシリーズなんですvvv
ナルトがすんごくかわいいよぅ§(>_<)§
昴さまのサイトは私がネットでカカナルサイトを徘徊し始めた頃からずーっとファンでして
とにかく素敵なカカナル小説がい〜〜っぱいあって
もうもう、大好きなんです!
昴さま、ありがとうございましたvvv
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