イタズラを愛し、そのためならどんな労力も厭わない子供。
うずまきナルトは朝から張り切っていた。
今日は4月1日、エイプリルフール。
ナルトのためにあると言っても良い日。
しっかり嘘を吐こうと前の日から準備していた。

去年まではイルカをターゲットにしていたが。
ナルトは今年からターゲットを変更する事にした。
今年のターゲットはナルトの現担任、はたけカカシ。
毎日くだらない嘘を吐くあの上忍に一泡吹かせようという魂胆。

というわけで、七班は休日にもかかわらず。
ナルトはいつもより早い時間に家を出て。
キヒヒとほくそ笑みながら、ナルトは駆け出した。
目指すはカカシの家!


ドアをノックする、いや蹴りつける音で、カカシは目を覚ました。
乱暴な呼び出しを続けるのが、自分の部下だという事に気付いて。
大きくため息をついてから、寝台から身を起こした。
今日一日を子供のために潰す覚悟をしてから。
少しだけ不機嫌そうな顔をしてドアを開けた。
そこには満面の笑みでカカシを見上げるナルト。

「おはよーってばカカシせんせー!!!」
「・・・・はよ」
「元気ないってばよ、どーしたの?」
「・・・・朝っぱらからテンション高いお前の方がおかしいよ」

欠伸をしつつ、あちこちに跳ねた髪を無造作に掻き上げるカカシ。
その仕草がちょっとムッときたらしく、ナルトは顔を顰めてみせた。
しかしすぐに思い直したのか、部屋に戻っていくカカシを追いかけた。
素っ気ないカカシの腰にしがみついて興奮気味に話しを始める。

「聞いて聞いて、大ニュースだってばよ!」
「なに?」
「なんと、一楽が世界進出だってばよー!!!」
「ハイそれ嘘」

カカシは服を着替えながら、いつもナルトに言われる言葉をそのまま返す。
あっさりと嘘を見破られて、ナルトは呆然とした。
どうもナルトは絶対にカカシが騙されると信じていたらしい。
悔しそうにカカシを睨む。

「何で嘘ってわかったんだってばよ?」
「わからないわけないでしょ」
「・・・じゃあこれ知ってる?サスケってばとうとうサクラちゃんに告白したんだってばよ!」
「それは絶対にあり得ないね」
「えー、なんで!?」
「秘密」

いつの間にか着替えを済ませていたカカシ。
ナルトの疑問に応えることなく、笑って誤魔化した。
サスケがナルトに対して好意を抱いているという事。
ナルトが気付いてない事をわざわざ教える必要はないから。

「さて、迎えに来てもらったんだからデートでもしましょうかね」
「はあ?せんせー何言ってるんだってばよ?」
「まあまあ、昼飯奢ってあげるからさ」
「行くってばよー!!」
「お前は食欲の鬼か・・・」


外で時間を潰してから一楽に赴いたナルトとカカシ。
いつもの如く、ラーメンを食べていた。
ナルトはいくつもの嘘をカカシに吐いたが、ことごとく見破られて。
ますます不機嫌そうな顔をしてラーメンをすすっている。
カカシにしてみれば、騙される方が無理なナルトの嘘。
むくれたナルトを横目で見て苦笑していた。

「あのね、騙されて欲しいならもうちょっとマシな嘘吐いてよ」
「カカシせんせーに言われたくないってば」
「俺の嘘はロマンがあるでしょ、お前の嘘中途半端なんだよ」
「う〜・・・・・」

ラーメンの丼を見つめ、ナルトは考え込む。
ナルトのせいで騒がしかった店内も、妙に静かになった。
しばらくの間考え込んでいたナルトは、いきなり顔を上げて自信満々に叫んだ。

「火影のじっちゃんとイルカせんせーって付き合ってるんだってばよ!!!」
「・・・・・・・」

さっきまでの沈黙とはまた別の沈黙が店内に降りた。
店の主人も客も爆弾を落としたナルトから目を逸らし。
それでもダメージを緩和する事ができずに固まっていた。

「あれ、どうしたんだってばよ?」
「お前って奴は・・・・」

突然店内の温度が下がった事に気付いてナルトが首を傾げる。
問いかけるように隣を見つめるが、カカシは小刻みに震えていた。
一番のダメージを受けたカカシは、隣のナルトを思い切りぶん殴った。

「いて──!!!何するんだってばよ!?」
「お前は里のタブーも知らないのか!?誰もが一度は考え、それでもあえて沈黙していた事をあっさり言いやがって!!」

カカシはそれ以上ナルトに何も言わせず、襟首を掴んで抱き上げた。
とんでもない事をしでかした部下の尻拭いにいつもより多く金を置き。
珍しく何度も頭を下げてから店を出た。


「痛いってば・・・・」
「当然の報いだ。畜生、想像しちゃったじゃないか・・・・」

一楽から逃げ出し、行き場のなくなった二人は里を彷徨っていた。
殴られた頭を両手で押さえ、ナルトは涙目でカカシを睨む。
カカシはまだ気分悪そうに手で口を押さえている。

「結局せんせーってば騙されてくれないってばよ。つまんねー」
「お前の想像力が貧困すぎるんだよ。そんなので俺を騙せる訳ないでしょ」
「むっ、むかつくってば!せんせーなんて大キライだってばよ!!」

歯を剥いて食ってかかるナルトを見てカカシは楽しそうに笑う。
それがまたナルトの機嫌を損ねたらしく、敵う訳ないのに殴りかかってくる。
へなちょこパンチを上手く避けてから、カカシはナルトを抱きしめた。
いきなりの抱擁にナルトは顔を赤らめて固まったが、すぐに腕の中で暴れ出した。
それでもカカシはナルトを解放せずにクスクスと笑う。

「うー、離せってば!!」
「やだよ、ナルトは俺の事嫌いかも知れないけど、俺はナルトの事大好きだから」
「え?」

ぽかんと口を開けてカカシを見つめるナルト。
カカシは少しだけ真剣な表情に戻って、小さく囁いた。

「好きだよ、ナルト。お前の事愛してる」
「カ、カカシせんせー・・・・」

信じられないという顔でカカシを見つめつづけるナルト。
カカシも頬を染めるナルトから目を離さずに、じっと見つめる。
しばらくの間そうして二人は見つめ合っていたが。
最初に沈黙を破ったのはカカシだった。

「嘘」
「・・・・へ?」
「嘘だよ」

間抜けな顔をしたナルトを見て、カカシは爆笑した。
その場で笑い転げているカカシを見てナルトはやっと状況がわかったらしい。
羞恥で染まっていた頬が怒りで赤く染められた。

「せ、せんせーのバカー!!」
「だってお前だって俺の事騙そうとしたじゃない。これでおあいこでしょ?」
「・・・・やっぱりせんせーのこと大キライだってば!!覚えてろってばよー!!!」

そんな捨てぜりふを吐いて、ナルトは走り去った。
取り残されたカカシはやっと笑いを抑えて立ち上がった。
装束の埃を振り払ってから、ナルトの後ろ姿を見つめて微笑んだ。
それから、ナルトにはきっと届かない言葉を遠ざかる背中に向かって囁いた。


お前は気付いてくれなかったみたいだけど。
いつまでも待つから、だからいつか気付いてよ。
俺が今日吐いた、たった一つの嘘。


2001.03.28






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