| 2月14日、ナルトは昼の休憩時にサクラからチョコレートを貰った。 勿論、渡された時にはサクラから義理だの余り物だのときっぱりと言われたし。 カカシと二人、ついでの様に渡されたそれはサスケへの物とは雲泥の差があった。 それでも、手の平にちょこんと乗るサイズの塊は、ナルトを充分幸せにした。 今まで義理チョコすらも、ナルトは一度として貰ったことがなかったから。 なのに義理とは言え、サクラからチョコを貰ってしまったのだから。 0から1に増える事は、ナルトを幸せにする位凄い事なのだ。 さて、話は変わって任務終了後の事。 ナルトはカカシに引きずられる様にして歩いていた。 いつもなら仲良く四人で帰るのだが、今日は違った。 何故ならサクラをサスケと二人きりにしてやることになったから。 しかし実の所、ナルトとしてはこの措置はかなり不本意だった。 カカシにサクラの為だと言われて了承せざるを得なかっただけで。 サクラが幸せになるのはとても良い事だとナルトも思う。 彼女を幸せに出来るのが、例え自分ではなかったとしても。 しかし、サクラの幸せがサスケの幸せに繋がるとなれば話は違う。 幾らサクラの為でも、サスケを幸せにする手伝いだけはしたくないのだ。 が、ナルトにはカカシに逆らえる程の知恵はなく。 なんやかやと上手い事言いくるめられて、今に至る。 天にも昇りそうだった先程の勢いは、今のナルトには全くなく。 頬を膨らませ、いかにも怒ってますというポーズでカカシの隣を歩いていた。 そしてカカシはと言えば、ナルトとは正反対に何やら上機嫌な様子。 膨れっ面のナルトの頬を突いては、それは楽しそうに歩を進めていた。 しばらくはナルトがご機嫌斜めだった為、二人の間に会話らしき物はなかった。 本当は、ナルトはもうサスケに対する嫉妬など、もう気にしていなかった。 今ナルトが不機嫌な原因は、自分をおちょくっているカカシの態度だ。 いつもカカシにはからかわれている為、ナルトはしょっちゅうむかついているが、今日は一段とむかついていた。 その不機嫌なまま口を利こうとしないナルトに、カカシは唐突に尋ねてきた。 「ねえナルト、なんか甘い物とか食べたくならない?」 脈絡のない問いに訝しそうな顔をしながら、ナルトは不機嫌を隠そうとせずに、ぶっきらぼうに答えた。 「別に食べたくないってば」 「え、そう?なに?俺だけなの?」 「そうだってばよ」 「んー、お前のおかげで毎日死ぬ程疲れてるからかな」 「・・・・・何だってばよ、その言い方は?」 「あのねえ、毎日の様なお前のドジに悩まされてどれだけ任務が滞ってる事か。ああ、今日もしっかりしくじってたよな。その度にフォローに走らされて、胃が痛くなる様な思いをしてるんだよね、俺は」 チラリとナルトに視線を走らせ、カカシはこれ見よがしに小さく溜息を吐いた。 カカシの負担になっている事を自覚しているナルトは、返す言葉もなく黙り込む。 「と言う訳でね、俺は今非常に甘い物に飢えている」 「何で疲れてて甘い物なんだってば?」 「覚えときなさいね。疲れてる時には甘い物を摂るのが一番なんだよ」 「へぇ〜」 「で、俺を疲れさせてる張本人のうずまきナルト君」 「何だってばよ?」 「チョコ食いたい。買って来て」 「・・・・何でだってば?せんせーもサクラちゃんからチョコ貰ってたってばよ。それ食えば?」 ナルトのその台詞に、カカシはわかってないなという様に肩を竦め首を振る。 そしてポケットからそのサクラから貰ったというチョコを取り出し、ナルトの鼻先に突きつけた。 「匂い、嗅いでみて」 ナルトはカカシの突拍子もない行動に驚きながらも、鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅いでみた。 次の瞬間、何とも言えない表情をしてナルトはチョコから顔を逸らした。 そしてポツリと呟く。 「・・・・・焦げ臭いってば」 香ばしいとはお世辞にも言えない、独特の匂い。 想像するまでもなく、中の物体は確実に焦げて、いや炭化している。 ナルトはポケットから自分のチョコを引っ張り出して恐る恐る匂いを嗅ぐが、すぐに泣きそうな顔をしてカカシを見上げた。 カカシは同情する様にナルトの頭をポンとなで、言った。 「多分ね、サスケ用のチョコの失敗作だよ。それを体よく押し付けられた訳だ、俺達は」 「・・・・・押し付けられた?」 「そう。ま、はっきり言えば廃物処理」 「・・・・・・」 ナルトはショックを受けた様で、その場に呆けている。 まあそれも仕方がない。 初めて貰ったチョコがチョコではなく炭だったとしたら、誰でもショックを受けるだろう。 しかしカカシはナルトの悲嘆には目もくれず、話を続ける。 「俺は甘い物が食べたいのであって、発癌性物質を食べたい訳じゃないの」 「・・・・でも、どうせせんせーは他の人からも貰ってるはずだってばよ。それ食えば良いんだってば」 断定口調で敵意剥き出し。 ナルトの粗末な頭はこう考えたのだ。 カカシは、性格はともかく顔だけは良い。 だからカカシに好意を持つ者は多いはずだ。 里の女達がカカシにチョコを渡しているだろうと。 要するに、もてない子供の僻みなのだ。 恨めしそうな顔で見上げてくるナルトにカカシは苦笑する。 「何だか言い方に棘を感じるんだけど、まあいいや。俺はねー、本命以外からは貰わない事にしてるの」 カカシだって一応人間で大人なのだから、好きな相手がいたっておかしくはない。 ナルトにもそれ位はわかる。 だが。 ナルトは首を傾げた。 カカシは昼間サクラのチョコを受け取っていた。 カカシは本命しか受け取らない。 しかしサクラのチョコは受け取った。 これらが意味する所は・・・? 「え!?じゃあサクラちゃんがっ!?」 ナルトは驚いて目を丸くして叫んだ。 そしてカカシは何となく情けない表情を浮かべて溜息を吐いた。 「・・・・馬鹿」 それしか言う言葉がないと言う様にカカシは漏らし、ガックリと肩を落とす。 ナルトの表情は驚きからすぐさま怒りへと変貌し、抗議の言葉を叫ぶ。 「オレは馬鹿じゃないってばよ!」 「いや馬鹿。本気で馬鹿。救いようがない位馬鹿。天才の域に入ってる馬鹿」 「馬鹿馬鹿って何度も言うなってばよ!!」 奇声を上げながら掴みかかってくるナルトをカカシは簡単にあしらう。 そして、まるで幼い子供に噛んで含める様な口調で言った。 「義理だよ、サクラと同じようにね。一応可愛い生徒からの贈り物だから無下に断る訳にもいかないでしょ、俺も義理で貰ったの。だから俺の手元には炭化した元チョコレートが一つ」 「何、じゃあせんせーってば本命から貰ってないの?」 「ま、一日中任務だったしね」 なぜか明確な返答をしないカカシ。 ナルトは少し疑問に思ったが、理由がわからない。 首を傾げていると、カカシが誤魔化す様に話を変えてきた。 そしてナルトは自分が抱いた疑問をあっさり手放す。 後ろ暗い事があるカカシには、大変重宝な子供だ。 「毎日の様にラーメン食わせてやってるんだから、偶にはお前が奢ってくれても罰は当たらないと思うんだけどね〜」 「・・・・・・仕方ないってばよ」 確かに仕方ない。 ナルトはカカシに多大な負担を掛けている。 そして年がら年中かかしにラーメンをせびっている。 ここまでさせておいて、礼の一つもしておかないと後が怖い。 世にも恐ろしい目に遭う事請け合いだ。 ナルトはそう考え、ブルリと震えた。 すぐにカカシから離れて近くの店に飛び込む。 その店の中で一番安いチョコを掴んで勘定を払った。 それから走ってカカシの元に戻り、紙袋を押し付ける。 カカシは安物のチョコを貰う以上の笑顔でそれを受け取った。 が、ナルトは勿論それに全く気付かない。 笑顔のカカシに少々怯えつつ問いかける。 「なあせんせー、ホントに本命からチョコ貰ってないの?」 「・・・・・・んー、ヒミツ」 そう言うと、カカシはナルトから受け取ったチョコを口に放り込み。 ナルトには見えない様に顔をそっと背けてから、ニヤリと笑った。 カカシが本命からまんまとチョコを奪取した事。 その事実を知る者は、今の所カカシ本人だけ。 2002.02.13 |