1
噛み合わない。
噛み合わない歯車。
小さな歯車と大きな歯車。
凹凹凸凸。
これでは、回らない。
動かないムーブメントの時計。
竜頭を回しても、秒針はカチとも動かない。
日頃、ケースに閉まって使っていなかったにも関わらず、やはり動かなくなった時計。
新品同様のはずの、腕時計。
なにが間違っていたのか・・・・・・
機械設計か、環境が悪かったのか、なにか衝撃を与えてしまったのか・・・・・
時を刻まなくなった時計。
想い出を惜しむように、プラチナケースに保管する。
ふと、寂しくなった手首を見た。
手首にあたる風が、寒かった・・・・・・・
2
ごめん・・・・・・・
小さな忍が、ゆっくりと首を横にふる。
さらりとゆれる、金色の髪。
(あなたの気持ちに、答えられない)
しばしの沈黙。
ややして、そうか、と、うなずく銀色の忍。
金色と銀色。
似た色にもかかわらず、この二人は対照的。
姿容姿ではなく、雰囲気がまるで正反対。
しばし沈黙。
ややして銀色の忍が、苦笑しながら問いかけてきた。
(理由を聞いても?)
金色の忍、少し逡巡したようだ。
困ったように手を口元にあて、うつむく。
そして、躊躇うようにして口を開いた。
(オレ、寂しがりだから・・・・・・・)
それだけを、伝える。
この銀色の忍。
家を犠牲にしてでも、任務を取る典型的な忍。
まさしく忍の鏡。
この金色の忍。
生まれたときから、ずっと一人だっただろうか・・・・・・
任務と人付き合い、どちらかを選べと問われれば、人を選ぶ性格。
いつも里にいない銀色の忍を、待つことができる性格ではない。
(じゃぁ、証だ)
(・・・・・・・・!)
銀色の忍、短く言い捨てると何かを投げ捨てた。
からんっと石にあたって、地面に転がる。
見ればそれは、額当てだった。
あろうことか銀色の忍、忍の証である額当てを捨てたのだ。
そして、空気に晒される赤い眼、写輪眼。
その眼に睨まれた者は、全て生きていないと噂される眼。
(どうしたんだってばよ・・・・・・・)
小さく苦笑する、金色の忍。
あきれたような微笑。
眼をそらすようにして、地面に落ちている額当てへと視線を移す。
ゆっくりした動作で、古びた額当てを拾い上げた。
軽く土を払うと、銀色の忍の顔へ、元通りに戻そうとする。
白い手が銀色の髪をかきわけて、後ろへ回される。
近づいてくる顔。
(ダメだよ、先生)
わかってないね、と、金色の忍は笑って言う。
背が届かなくてやりにくいのか、結び目を作るのに苦戦しているようだ。
(先生は、自分で思っているより、重いものを背負っているんだよ?)
簡単に捨てちゃダメだ、と、小さな忍は言う。
やっと出来た結び目。
離れようとする金色の忍の腕を、強くつかんでくる銀色の忍。
そして、鋭く眼を細めて聞く。
(どうすればいい?)
それを聞いて、面食らった小さな忍。
だが次の瞬間、また小さく吹き出した。
そして、どこか困ったように告げる。
(どうしようもないってば)
銀色の忍の手から、ゆっくりと力が抜けていく。
自由になった忍、数歩下がるとまた浮かべる苦笑。
土を、軽く蹴りながら、どこか吹っ切るようにして言う。
(それに、オレはあなたに、なんの興味もないから・・・・・・・)
噛み合わない歯車。
時折、がちがちと噛み合いそうになるものの、やはりすぐに外れる。
動かない。
動いたことがない、機械式時計。
(ごめん・・・・・・・・)
だが銀色の忍、めずらしく笑う。
どこか哀しげな、その笑み。
(お前と一緒にいられる方法は・・・・ないのか?)
めずらしい。
本当にめずらしい。
まさか、この人から自分に近づいてこようとしているなんて・・・・・・・
こんなこと、初めてではないだろうか。
金色の忍、びっくりして言葉も出ない。
しばしそうしていた忍、ようやく我に返った。
(どうして今頃・・・・・・・・?)
さぁ?、と、笑う忍。
また流れる沈黙。
金色の忍は、思いを馳せるように瞳を閉じた。
そして、そっとため息をつく。
(もっと早かったら、変わっていたかもしれないけど・・・・・)
なぜかそこで、金色の忍は笑った。
くすっと、何かを思い出したかのような笑み。
無邪気な瞳を、大きな忍に向けて首を傾げて言う。
(オレね、十二のとき、あなたが好きだったよ?)
それを聞いた、銀色の忍。
そうか、と、微かにうなずく。
綺麗な青い瞳を見返しながら、苦笑。
(オレは、興味なかったな)
らしい答え。
二人は顔を見合わせ、どちらかともなく笑った。
噛み合わない。
歯車が、まったく噛み合わない自分たち。
ぎしぎしと嫌な音を立てるときもあるが、やはり回ることはない。
(すれちがってばかりだね)
ふふっと笑う、小さな忍。
笑いつつ、どこか哀しげな瞳。
(ダメか・・・・・・)
(うん)
違う歯車を見つけてしまった、小さな歯車。
ぴたりと合った凹凸は、かちこちと回っている。
時を刻んでいる。
まるで、水晶発振式時計のように、刻々と時を刻み続けている。
電池さえあれば、怖いぐらいに正確で、とまることがない時計。
逆にいえば、電池が切れてしまったら、それまでなのだけれど・・・・・・・
(オレ、今はあなたのことを、何とも思っていないから・・・・・・・)
バイバイと手をふる金色の忍。
別れる二人。
ゆっくりと、離れていく。
静かに別れる。
3
(遅かったな)
屋台に入った小さな忍を待っていた、忍の同僚。
遅刻しない金色の忍にしては、めずらしい大遅刻。
(うん?)
くすっと笑いながら忍、慣れたように椅子に腰掛ける。
いつもの物を注文。
そして、肘をカウンターにつくと、同僚に視線を向ける。
(懐かしい人に会っていたってばよ)
それだけを言う。
ごとりと、どんぶりが目の前に置かれると、忍は箸をぱきっと割る。
そして始まる、雑談。
任務のこと、さりげない世間話の中に情報交換、ちょっとした悩みを打ち明けたり、笑い話。
たわいない会話。
任務を終えた後の、ほっとした一時。
小さな忍は、この時間が一番好きだ。
もはや忍、懐かしい人物の話を出さなかった。
終わったこと。
もう終わったことだ。
だが、ふと忍は思った。
(なんでオレたち、噛み合わなかったんだろうなぁ・・・・・)
大事にしてきたはずの時計。
傷がつかないように腕にはめることなく、汚れがつかないように外へ出したこともない。
使わなければ寿命が長引くかと思い、竜頭を巻くこともしなかった自分たち。
とんだ大失敗。
動かない時計は、ゆっくりと酸化して錆びていく。
機械は、動いてこそ息が吹き込まれるものなのに・・・・・・・・
動かなくなった、ムーブメントの時計。
複雑に絡み合っている歯車。
どれか一つでも壊れていたら、動かない。
時を刻まなくなる。
生前の美しさはそのままの、ムーブメントの時計。
見る者の目を奪うほどの美しさなのに、けして動くことはない。
もう死んでしまった時計。
動かなくなったその時計を、プラチナケースへ戻す。
そっと、ケースの蓋を閉める。
かつて共にいた想い出を、大事にしまうかのように・・・・・・・
心の奥底へと・・・・・・
10000ヒット、ありがとうございましたっ。
まさか、このような数字を、当サイトで達成できるとは、思っても
みませんでしたので、か、感無量です・・・っ。(じ〜んっ・・・っ)
かなり分かりにくいですが、比喩的ムーブメント時計ネタです、はい。
(ふりゃんく・みゅりゃーの腕時計、いつか買いたいのですが・・・・)←、?
こちらの駄文は、お持ち帰り自由ですv
捧げ物の部屋へアップしようかと悩んだのですが、そんな大層な
駄文でもないので、こちらへアップいたしました次第です、はい。
BGMは、友人が先週末に作曲してくれましたv
こちらも、お持ち帰り自由です。
内容と曲が合っているかは、わ、わかりませんが・・・・
ただ、壁紙は素材のものを使用しておりますので、ご遠慮くださいませ。
(二次配布になってしまいますので・・・・・)
では、最後に・・・・・・
当サイトへ通ってくださっている方、そして初めての方。
本当に感謝致します。(ぺこり)
今後とも、雨後の筍・茸狩りにお付き合いいただけると嬉しいですv
ありがとうございました。
2002.2.8
山菜様のサイトで10000HIT企画をされていたのでソッコーでいただいてきましたv
カカナル中毒な私にとって山菜さまのサイトは砂漠のオアシス、心に咲いた一輪の華です!
ちなみに続編は裏にUPさせていただきましたv
山菜様、ほんとーにありがとうございました。
これからも頑張ってください。そして素敵なカカナル小説、読ませてくださいね!
ブラウザを閉じてお戻りください