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 噛み合わない。
 噛み合わない歯車。
 小さな歯車と大きな歯車。
 凹凹凸凸。
 これでは、回らない。
 動かないムーブメントの時計。
 竜頭を回しても、秒針はカチとも動かない。
 日頃、ケースに閉まって使っていなかったにも関わらず、やはり動かなくなった時計。
 新品同様のはずの、腕時計。
 なにが間違っていたのか・・・・・・
 機械設計か、環境が悪かったのか、なにか衝撃を与えてしまったのか・・・・・
 時を刻まなくなった時計。
 想い出を惜しむように、プラチナケースに保管する。
 ふと、寂しくなった手首を見た。
 手首にあたる風が、寒かった・・・・・・・




                 2





 ごめん・・・・・・・
 小さな忍が、ゆっくりと首を横にふる。
 さらりとゆれる、金色の髪。
(あなたの気持ちに、答えられない)
 しばしの沈黙。
 ややして、そうか、と、うなずく銀色の忍。
 金色と銀色。
 似た色にもかかわらず、この二人は対照的。
 姿容姿ではなく、雰囲気がまるで正反対。
 しばし沈黙。
 ややして銀色の忍が、苦笑しながら問いかけてきた。
(理由を聞いても?)
 金色の忍、少し逡巡したようだ。
 困ったように手を口元にあて、うつむく。
 そして、躊躇うようにして口を開いた。
(オレ、寂しがりだから・・・・・・・)
 それだけを、伝える。
 この銀色の忍。
 家を犠牲にしてでも、任務を取る典型的な忍。
 まさしく忍の鏡。
 この金色の忍。
 生まれたときから、ずっと一人だっただろうか・・・・・・
 任務と人付き合い、どちらかを選べと問われれば、人を選ぶ性格。
 いつも里にいない銀色の忍を、待つことができる性格ではない。
(じゃぁ、証だ)
(・・・・・・・・!)
 銀色の忍、短く言い捨てると何かを投げ捨てた。
 からんっと石にあたって、地面に転がる。
 見ればそれは、額当てだった。
 あろうことか銀色の忍、忍の証である額当てを捨てたのだ。
 そして、空気に晒される赤い眼、写輪眼。
 その眼に睨まれた者は、全て生きていないと噂される眼。
(どうしたんだってばよ・・・・・・・)
 小さく苦笑する、金色の忍。
 あきれたような微笑。
 眼をそらすようにして、地面に落ちている額当てへと視線を移す。
 ゆっくりした動作で、古びた額当てを拾い上げた。
 軽く土を払うと、銀色の忍の顔へ、元通りに戻そうとする。
 白い手が銀色の髪をかきわけて、後ろへ回される。
 近づいてくる顔。
(ダメだよ、先生)
 わかってないね、と、金色の忍は笑って言う。
 背が届かなくてやりにくいのか、結び目を作るのに苦戦しているようだ。
(先生は、自分で思っているより、重いものを背負っているんだよ?)
 簡単に捨てちゃダメだ、と、小さな忍は言う。
 やっと出来た結び目。
 離れようとする金色の忍の腕を、強くつかんでくる銀色の忍。
 そして、鋭く眼を細めて聞く。
(どうすればいい?)
 それを聞いて、面食らった小さな忍。
 だが次の瞬間、また小さく吹き出した。
 そして、どこか困ったように告げる。
(どうしようもないってば)
 銀色の忍の手から、ゆっくりと力が抜けていく。
 自由になった忍、数歩下がるとまた浮かべる苦笑。
 土を、軽く蹴りながら、どこか吹っ切るようにして言う。
(それに、オレはあなたに、なんの興味もないから・・・・・・・)
 噛み合わない歯車。
 時折、がちがちと噛み合いそうになるものの、やはりすぐに外れる。
 動かない。
 動いたことがない、機械式時計。
(ごめん・・・・・・・・)
 だが銀色の忍、めずらしく笑う。
 どこか哀しげな、その笑み。
(お前と一緒にいられる方法は・・・・ないのか?)
 めずらしい。
 本当にめずらしい。
 まさか、この人から自分に近づいてこようとしているなんて・・・・・・・
 こんなこと、初めてではないだろうか。
 金色の忍、びっくりして言葉も出ない。
 しばしそうしていた忍、ようやく我に返った。
(どうして今頃・・・・・・・・?)
 さぁ?、と、笑う忍。
 また流れる沈黙。
 金色の忍は、思いを馳せるように瞳を閉じた。
 そして、そっとため息をつく。
(もっと早かったら、変わっていたかもしれないけど・・・・・)
 なぜかそこで、金色の忍は笑った。
 くすっと、何かを思い出したかのような笑み。
 無邪気な瞳を、大きな忍に向けて首を傾げて言う。
(オレね、十二のとき、あなたが好きだったよ?)
 それを聞いた、銀色の忍。
 そうか、と、微かにうなずく。
 綺麗な青い瞳を見返しながら、苦笑。
(オレは、興味なかったな)
 らしい答え。
 二人は顔を見合わせ、どちらかともなく笑った。
 噛み合わない。
 歯車が、まったく噛み合わない自分たち。
 ぎしぎしと嫌な音を立てるときもあるが、やはり回ることはない。
(すれちがってばかりだね)
 ふふっと笑う、小さな忍。
 笑いつつ、どこか哀しげな瞳。
(ダメか・・・・・・)
(うん)
 違う歯車を見つけてしまった、小さな歯車。
 ぴたりと合った凹凸は、かちこちと回っている。
 時を刻んでいる。
 まるで、水晶発振式時計のように、刻々と時を刻み続けている。
 電池さえあれば、怖いぐらいに正確で、とまることがない時計。
 逆にいえば、電池が切れてしまったら、それまでなのだけれど・・・・・・・
(オレ、今はあなたのことを、何とも思っていないから・・・・・・・)
 バイバイと手をふる金色の忍。
 別れる二人。
 ゆっくりと、離れていく。
 静かに別れる。




                 3





(遅かったな)
 屋台に入った小さな忍を待っていた、忍の同僚。
 遅刻しない金色の忍にしては、めずらしい大遅刻。
(うん?)
 くすっと笑いながら忍、慣れたように椅子に腰掛ける。
 いつもの物を注文。
 そして、肘をカウンターにつくと、同僚に視線を向ける。
(懐かしい人に会っていたってばよ)
 それだけを言う。
 ごとりと、どんぶりが目の前に置かれると、忍は箸をぱきっと割る。
 そして始まる、雑談。
 任務のこと、さりげない世間話の中に情報交換、ちょっとした悩みを打ち明けたり、笑い話。
 たわいない会話。
 任務を終えた後の、ほっとした一時。
 小さな忍は、この時間が一番好きだ。
 もはや忍、懐かしい人物の話を出さなかった。
 終わったこと。
 もう終わったことだ。
 だが、ふと忍は思った。
(なんでオレたち、噛み合わなかったんだろうなぁ・・・・・)
 大事にしてきたはずの時計。
 傷がつかないように腕にはめることなく、汚れがつかないように外へ出したこともない。
 使わなければ寿命が長引くかと思い、竜頭を巻くこともしなかった自分たち。
 とんだ大失敗。
 動かない時計は、ゆっくりと酸化して錆びていく。
 機械は、動いてこそ息が吹き込まれるものなのに・・・・・・・・





 動かなくなった、ムーブメントの時計。
 複雑に絡み合っている歯車。
 どれか一つでも壊れていたら、動かない。
 時を刻まなくなる。
 生前の美しさはそのままの、ムーブメントの時計。
 見る者の目を奪うほどの美しさなのに、けして動くことはない。
 もう死んでしまった時計。
 動かなくなったその時計を、プラチナケースへ戻す。
 そっと、ケースの蓋を閉める。
 かつて共にいた想い出を、大事にしまうかのように・・・・・・・




 心の奥底へと・・・・・・













      10000ヒット、ありがとうございましたっ。
      まさか、このような数字を、当サイトで達成できるとは、思っても
     みませんでしたので、か、感無量です・・・っ。(じ〜んっ・・・っ)
      かなり分かりにくいですが、比喩的ムーブメント時計ネタです、はい。
     (ふりゃんく・みゅりゃーの腕時計、いつか買いたいのですが・・・・)←、?


      こちらの駄文は、お持ち帰り自由ですv
      捧げ物の部屋へアップしようかと悩んだのですが、そんな大層な
     駄文でもないので、こちらへアップいたしました次第です、はい。
      BGMは、友人が先週末に作曲してくれましたv
      こちらも、お持ち帰り自由です。
      内容と曲が合っているかは、わ、わかりませんが・・・・
      ただ、壁紙は素材のものを使用しておりますので、ご遠慮くださいませ。
     (二次配布になってしまいますので・・・・・)


      では、最後に・・・・・・
      当サイトへ通ってくださっている方、そして初めての方。
      本当に感謝致します。(ぺこり)
      今後とも、雨後の筍・茸狩りにお付き合いいただけると嬉しいですv
      ありがとうございました。


2002.2.8






山菜様のサイトで10000HIT企画をされていたのでソッコーでいただいてきましたv
カカナル中毒な私にとって山菜さまのサイトは砂漠のオアシス、心に咲いた一輪の華です!
ちなみに続編は裏にUPさせていただきましたv

山菜様、ほんとーにありがとうございました。
これからも頑張ってください。そして素敵なカカナル小説、読ませてくださいね!


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