1




 ぎくしゃくした関係。
 錆付いてしまった、自分たち。
 諦め悪く何度も竜頭を回す、愚かな自分。
 それでも動かない時計。
 もう、動かない・・・・・・・
 美しい装飾の腕時計。
 ただ無情に、沈黙を続ける・・・・・・・
 静かに、眠っている。




          2





(ふぅ・・・・・・・)
 ため息をついたのは、銀色の忍。
 見上げる、家の天井。
 なにもないというのに、忍は虚ろな眼をして天井を見上げている。
 沈黙。
 その隣に寝ているのは、名も知らぬ女。
 昨夜、忍が抱いた女。
(つまらない)
 満足感がない。
 むしろ、余計に渇望感がひどくなったような、そんな感覚。
 ただ、性欲の処理をしただけ。
 終わってみれば、襲ってくる無気力。
 どうしようもない脱力感。
 全身に、力が入らない。
(なんでだろうな・・・・・・・・?)
 この忍。
 いまだ合う歯車を見つけられない。
 いや、見つけようとすらしない。
 だから動かない。
 動けない時計。
 歯車は、ひとつだけでは回らないというのに・・・・・・・・
 忍の時間は、止まったままだった。




          3





 久々に、顔をあわせる二人。
 それは本当に偶然。
 任務時間が必ずと言っていいほどずれている自分たち。
 それなのに、受付所の帰りに廊下でばったり・・・だった。
 銀色の忍、小さな微笑を浮かべながら手をあげる。
(久しぶり)
 すると小さな忍、どこか戸惑ったように瞳を揺らしたものの、すぐに笑みを返す。
 そして、ぎくしゃくとした動きで頭を下げながら言う。
(え、ええ・・・・・お久し振りです)
 他人行儀。
 さきほどの戸惑いは、数年ぶりに会う人物に対して、気さくに声をかけていいものか悩んでいたためだったらしい。
 だが、長らく会っていなければ、それは他人も同然。
 小さな忍は、そう判断したようだった。
(大きくなったな)
 しばらく会わないうちに、背が高くなっていた忍。
 凛々しい顔つきは、会っていなかった間の成長振りがうかがえる。
(あなたは、お変わりないですね)
 時が止まったままの忍。
 ただの挨拶代わりなのだろうが金色の忍、何気に核心をついてくる。
 銀色の忍は、苦笑しながら聞いた。
(昼飯?)
(え、ええ・・・・・・)
 一緒にどうだ、と、誘う銀色の忍。
 共に食事する二人。
 任務の話などの、たわいない世間話。
 ふとしたことで、会話が止まっては流れる沈黙。
 そして、また思い出したように始まる会話。
 昔のように、会話が弾まない。
 原因は、金色の忍。
 そこには、上忍を前にして、なんとも居心地悪そうな忍がいるだけだった。
 早く解放されたいと、ぴりぴりした空気を発している。
 その様子に銀色の忍、そっとため息をついた。




(オレね、十二のとき、あなたが好きだったよ?)




 あの頃は、まったく興味がなかった忍。
 時を逃してしまった忍。
 秒針が、ゆっくりゆっくりと遅れていく。
 今では、一日に二回だけ正確に合うだけの時計となってしまった。
 歯車を狂わせてしまった原因は、一体なんだったのか・・・・・・
 ぎくしゃくした関係。
 錆びついて、もう動かなくなった自分たち。
 下手に動かすと、ぽきりと折れる・・・・そんな関係。





(これから任務なので・・・・・それじゃこれで)
 そう言って、去っていく金色の忍。
 それを静かな眼で見送る、銀色の忍。
 遠くなっていく忍。
 だが、銀色の忍は、ふと思ったのだ。
 その小さくなっていく背を見て、強く思う。
 自分たちは、まだ壊れていないはずだ。
 まだ、直るはずだ・・・・・と。




 さぁ、始めよう、オーバーホール。
 この時計の息吹を、再び吹き返させるために。
 命を取り戻そう。
 ぽこりと開ける蓋。
 中には、複雑にからみあっている大小の歯車、バネ、ネジ・・・・・・・
 竜頭をつまんで、そっと取り外す。
 ばらばらにしていく、小さな部品。
 ルーペがないから、大きく目を見開いて、細く眼をしかめて、それらの部品をつまみあげる。
 一つ一つ、丁寧に外していく。
 どれか一つでも間違えたら、それでお終い。
 時計の命は、永遠に止まってしまう・・・・・・・





(あ、ああ・・・・・・っ!)
 ぎしぎしときしむ音がする。
 歯車が摩擦する箇所に、油をさす。
 神経質なまでの手つきで、油をさしていく。
 多すぎず少なすぎず油をさす、これが一番難しい。
 そして、はめる。
 ゆっくりゆっくりと、部品をはめこんでいく。
(いたい・・・いたいっ・・・っ)
 悲鳴のような音を立てる歯車。
 だが、ぎし・・・っという音、それまでと違う音が耳打った。
(ああ・・・・・・・)
 がちりと合った歯車。
 きしんだ音を立てながら、ゆっくりと動き始めた。
 動き始めた歯車。
 不思議なことに、それまでびくりとも動かなかった歯車が、少し動き出せばもはや止まらない。
 最初はゆっくりと。
 やがてその動きは、規則的な動きへと変化する。
 次々と、連鎖的に動き出す。
(壊れるかと思ったよ・・・・・)
 錆びついていた歯車。
 ぼろぼろで、脆くなっていた歯車。
 普通は、それを取り替えるものなのに・・・・・・
 この男は、それをしなかった。
 部品を取り替えることは、とても簡単。
 だけど、寂しい気がするのは何故だろう?
 やっと時間を取り戻した自分たち。
 再び息を吹き返した時計。
 やはり時計は、動いてこそ美しい。





 あんなに噛み合わなかった歯車。
 びくりとも動かなかった自分たち。
 動いてみれば不思議。
 きっちりとずれることなく、時を刻み続ける秒針。
 トゥールビヨン脱進機も真っ青の、精確さ。
 しかも、以前のような手巻きではなく、自動巻き。
 動いていれば、いつまでも時を刻み続ける時計。
 竜頭を巻く必要もないほど・・・・・
 石の数は、ちょっと少ないけれど、これぐらい不安要素があったほうが可愛げがある。
 かちかちと動き出す腕時計。
 なんて、相性がいいんだろうね・・・・・・・





 さぁ、動くと分かったら、本格的に仕事に入ろう。
 さっきは組み直しただけだから、今度はちゃんとオーバーホールをしよう。
 また部品を取り外す。
 その一つ一つに、ふっと息を吹きかけて埃を飛ばす。
 ああ、小さな部品が飛んでいかないように注意。
(・・・・・・・っ・・・っ!)
 冷たかったのか、息が強かったのだろうか。
 その部品は、ぶるりと震えるように動いた。
 そして次は、防水検査。
 ムーブメントを取り出したケースだけを、水に沈めよう。
 ああ、いけない。
 水がじわりと中に入ってきた。
 きっちり蓋をしめて、水一滴も染み出してこないように・・・・・・
 これで、水もれは大丈夫。
(いや・・・・・許して・・・・・・っ)
 次は、研磨作業。
 きっちりと綺麗に磨こう。
 ちょっと力を入れて、なおかつ優しく。
 きゅきゅっと、悲鳴をあげさせる。
(あ、ああ・・・・ん・・・・んんっ・・・っ!)
 きつかったのだろうか。
 たまらず漏れる嬌声が可愛い。
 さぁ、今度はムーブメントの組立だ。
 台の上に置いて、びくとも動かないように固定しよう。
 丁寧に、ゆっくりと部品を組み立てよう。
 はめ込んでいこう。
 がっちりと、かちっと音がするまで、隙間なく・・・・・・・
(・・・・き、きついってば・・・・・・っ・・・・!)
 かちかちと、手際よく組み立てよう。
 そうすれば時計も、きっと気持ちいいはず。
 次は、時間合わせ。
 きっちりと時間調整をしよう。
 さて、今何時かな?
 ぎりりっと回せば、痛そうに顔をしかめて自分を見上げてくる。
(・・・・・あぅっ・・・ま、回さないで・・・・・っ)
 身もだえする様は、自分をそそる痴態。
 でも、こんなところで終わったら、とっても危険。
 それにもう終わりだから、我慢してくれ。
 さぁ最後の仕事だ。
 ぱちんっと音がするまで、蓋をしめよう。
 指先が白くなるまで、きっちりと蓋をしめよう。
 そうしないと、湿気や埃が入って、また壊れてしまう。
 大事な大事な腕時計。
 最後まで気を抜いてはいけない。
 金色の蓋をきゅっと磨けば、のけぞる小さな身体。
 そして、どくんっと大きく身体を跳ねさせた。
(あ、ああ・・・・・・っ・・・・)
 快楽と苦痛が入り混じったその表情。
 新しく生まれ変わったように、綺麗だ。
 なぜかオーバーホールを終えたあとの時計は、ずいぶんと疲れて見える。
 ゆっくりと手を離すと、ぐったりとして動かない。
 でも、ちゃんと時は刻んでいる。
 かちかちと、秒針が精確に動いている。
 嬉しくて、思わず宝物である時計に口付けた。
 何度も何度も、口付ける。
 すると時計は、ぽっと顔を赤らめて恥じたような仕草。
(くすぐったいってばよ・・・・・・・)
 穏やかに笑う時計。
 息を吹き返した腕時計。
 自分は、心から安堵の息がこぼれるのを感じた。
(良かった・・・・・・・・)
 また自分たちは、共に生きていけるのだ。
 この手首の寂しさから、お別れすることができる。
 大事な時計はどこに行った?と、不安に襲われることはない。
 嬉しくて自分は、もう一度、時計に口付けた。
 そして、何度も何度も口付けた。
 再び動いてくれたことに、心から感謝をして唇を寄せる。
 そうすると、時計は微笑する。
 幸せそうに笑みをこぼす。
 そして時計は、美しいその瞳で自分を見上げて言った。




(直してくれて、ありがとう・・・・・・・・)




 自分も、囁くようにして言う。
 お疲れ様・・・・・・・と。





 動き出したムーブメントの腕時計。
 カチカチと、時を刻み始めた腕時計。
 初めて自分が惚れ込んだ腕時計。
 たとえ後で、さらに優れたムーブメントの腕時計が出てきたとしても、なぜか興味が湧かなかったりする。
 なぜだろうと考えて、思い当たる一つの答え。
 初めて持った時計には、強い思い入れができる。
 愛着もあるし、なにより自分と最初に歩んでくれた存在だから。
 そう。
 それは、人が人に恋する、初恋と似た感情なのかもしれない・・・・・













      発見できた方、おめでとうございます〜v
     (↑、た、大した駄文でもないくせに・・・・っ)
      時計に興味がない方には、かなり難しかったかと・・・・・

      
      駄文で申し訳ありませんでした・・・・っ。
      最初は、大きな歯車=カカシ、小さな歯車=ナルト君だったのですが、
     なぜか後半は、腕時計=ナルト君、時計技師=カカシ先生に・・・・
      す、すみませんでした・・・・っ。(脱兎!)


2002.2.10





はい!表に引き続き裏でもいただいてきてしまいました〜
もうもう、必死でヒントを検索して探しましたですよっ
これからきっと私は時計の針が回ってるのを見るたびに、カカシの腰が回ってるのを想像して一人悦にいっちゃってることでしょう(笑)
だってだって〜妙に艶っぽくないですか!?今回のHシーン!!
山名さま、ホントにホントにありがとうございます!



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