| 月に似て ブラインドの間から差し込む光が、瞼の上を撫でて視界を白く染め上げる。 うっすらと開いた瞳に光の粒子が遠慮なく降り注いで。 その眩しさにカカシは瞳を眇めるようにして、二、三度瞬きを繰り返した。 ベッドに落ちる光は明るいけれど、季節はもうすぐ冬に入ろうかというところ。 特に朝方はベッドから出るのが嫌になるほどに冷え込みはじめている。 頬を掠める冷気に、カカシは微かに眉を顰めた。 朝起きるのも、寒いのもはっきり言って得意ではない。 出来ることなら日が高くなる頃までベッドで微睡んでいたいカカシにとってはキツイ季節だ。 ベッドの中でぐっと躰を伸ばすと、腕の先が柔らかい感触に触れる。 キシリとベッドを微かに揺らして。 カカシの隣で小さな気配が動いた。 鮮やかな金髪をシーツに散らして静かに寝息を立てる少年。 その姿に目を留めて。 カカシは途端に表情を和ませた。 金髪の愛し子の名はうずまきナルト。 13歳になったとはいえ、未だ幼さを色濃く残す愛らしい寝顔。 まあるい額を出して、すやすやと眠る姿はあまりにも幼く無防備で。 カカシは思わず苦笑いを洩らす。 それは、こんな子供に手を出してしまった自分に対してのものなのか、すでに躰を繋げる関係だというのにいつまで経っても無垢すぎるナルトに対してのものなのか。 (両方・・かな) こうして、共に朝を迎えるのもすでに数え切れないくらいなのに。 目覚めてその姿を目にする度にくすぐったいような気分になるのはなぜなのだろう。 ただただ、愛しさばかりが込み上げて来て・・。 「・・んっ・・」 カカシが動いたせいで布団の隙間から冷気が入り込んだのか。 ナルトが小さく声をたてて擦り寄ってきた。 カカシの胸に額を摩り付けるようにして躰を丸めると、満足したようにまた穏やかな寝息を立てはじめる。 きゅっとカカシのパジャマを掴んで。 離さないというように。 ぴったりとくっついて来る。 その様子に昨夜、ナルトが言ったことが思い出されて。 カカシは擦り寄って来たナルトを抱きしめたまま小さく笑みを洩らした。 * * * 「オレってば、カカシせんせーのコト、こんくらいスキ!!」 そう言って、カカシの膝の上でナルトが示したのは子供の両腕をめいっぱい広げた大きさ。 風呂上がりのナルトの髪をタオルで拭いてやっていたカカシは、ナルトを見つめたまま思わずその作業を停止した。 すごいでしょ、と言わんばかりのその表情に。 相変わらずの直球だ、とカカシは笑みを零す。 恋の手練手管なんぞ知らない子供だからこその、ストレートな告白。 騙し騙され、ドライな大人の恋愛しかしたことのないカカシには少し面映ゆい。 けれど、好きな子にそんな風に言ってもらえて嬉しくないはずがなく。 「じゃあ、俺はこのくらいかな〜」 ナルトを膝に乗せたままで、カカシが腕を横に広げると、明らかにナルトの倍はありそうな大きさ。 それを見たナルトはびっくりしたようにカカシを見つめて、それから悔しそうに頬を膨らませた。 「ずるいってばよ!」 そして、何を思ったのか、カカシの膝の上からぴょこんと飛び降りるとナルトはぐぐっっとめいっぱい背伸びをして、さらに上の方に手を伸ばした。 「こんくらい、スキだってば!!」 好きだという割には全く色気のない怒ったような声。 (もうちょっと雰囲気がある時に言って欲しいなぁ・・) そう思いつつ。 「じゃあ、俺はこのくらい〜」 スッと立ち上がったカカシが伸ばした手の先は、ナルトが示したものよりずっとずっと上。 「センセーずるいっ!!」 むぅ〜っとナルトが顔をしかめる。 (ズルイって言われてもなぁ・・) カカシの方が大人で体が大きいのだからしょうがない。 その後も意地になったナルトとそれを面白がったカカシの問答は延々と続き・・。 「じゃあ、じゃあ、木の葉の里を全部合わせたくらいスキ!!」 「俺は世界を全部合わせたくらい好きかな〜」 「うんと・・」 どんなにカカシに言い負かされても、ナルトは諦めようとはしない。 どうしても、自分の方がカカシを好きなのだと言いたいらしい。 それでもお子様が起きているには酷な時間になったのか、眠そうに時折目を擦りだした。 「ナルト、眠いの?」 「ん〜・・眠くないってばよ・・」 そう言いつつも、眠さのためにとろりと瞳が潤んでいる。 しょうがない、とカカシが寝室に運ぶためにナルトを抱き上げる。 眠さを堪えて、ナルトが見上げた窓の外。 カカシの肩越しに綺麗な三日月。 閉じかけた瞳に映った、淡い光。 遠い遠い星。 ふいにナルトがカカシの耳元で囁くように呟いた。 「・・お月様に届くくらいセンセーがスキ・・だって・・ば・・」 カカシが驚いて抱き上げたナルトの顔を見る前に。 囁きは寝息にすりかわり、カカシが見たのは幸せそうに眠るナルトの寝顔だけ。 そのあまりの寝付きのよさに、カカシは思わず笑ってしまう。 「・・月・・ねぇ。それは、遠いなぁ・・」 しみじみといった風にカカシは笑みを含んだ声で呟いた。 久しぶりのナルトのお泊りに、カカシはもちろんその気だったのだけれど。 月に届くくらい、自分のことが好きだと。 幸せそうに眠りに就いた愛し子を無理に起こすのは忍びなくて。 カカシはナルトを寝室に運ぶと、そのままベッドに寝かせた。 見上げた寝室の窓の外にも儚く美しい月。 この場所に届く光は淡いけれど。 何光年もの彼方では彼の星は太陽の光を受けて煌煌と輝いているのだろう。 カカシは月までの遥かな距離を思う。 その距離が目の前で眠るこの子の想いの深さに等しいのだと。 これから先、月を見る度に思い出すのだろう。 自分のことをどんなに好きか一生懸命に示そうとするナルトにハイハイと頷いて、ナルトを満足させてやることは簡単だった。 けれど、カカシとてナルトを想う気持ちは誰にも負けないと自負しているわけで。 「これだけは譲れないよ」 大人気ないと言われようが、愛しいこの子に想いを伝えるためならば、関係ない。 すやすやと眠るナルトの額にキスを落とし、カカシはナルトの耳元に囁いた。 「月まで行って・・・・帰って来るくらいおまえが好きだよ」 * * * 「ホントは・・俺が持ってる言葉を全部使ったって、どのくらいおまえを好きかなんて、絶対に表現できないんだけどね・・」 抱きしめた小さな躰から、トクントクンと穏やかな、けれど確かな鼓動が感じられて。 ぬるま湯のような心地良さと安堵感。 ナルトが生きてカカシの傍にいる証。 むき出しのまあるい額に昨夜のように口づけて。 淡く開いた唇にも口づけて。 キスの数で愛情の深さを示すことが出来るなら一生かけて実践するのに、と思いながら。 何度もキスを繰り返す。 額に、瞼に、頬に、唇に。 触れた場所から少しでも想いが伝わればいいと。 願う。 何度もキスを繰り返すうちに、ナルトの白い瞼が微かに震えて。 ゆっくりと蒼い瞳が姿を見せる。 その対の瞳がカカシの姿を認めて、幸せそうに細められた。 「せんせぇ、おはようってば」 カカシが口づけていた唇から、寝起きのせいでいつもよりも舌足らずな声が零れて。 小さな手がカカシの頬に触れる。 温かなぬくもりを抱きしめて。 触れられた小さな手にキスをひとつ。 目元にひとつ。 頬にひとつ。 それから唇にはたくさん。 寒い朝。 温かな君。 たくさんのキス。 「おはよう、ナルト」 end |
吉田さまのサイトで6000HITを踏みましたらば、こんな素敵な小説をいただけました。
やった〜\(^o^)/
全体からカカシの、ナルトが愛しくって愛しくってたまらないっていう雰囲気が漂ってて
らぶらぶで萌え萌えですvvv
それでいて月の光のような透明感のあるお話ですよね。
読んだ後に胸がほわっと暖かくなりましたv
もう、幸せで涙が出そうです〜〜
リクエストは「砂糖10杯入れたよりも甘いらぶらぶ」だったんですけど、見事です。さすがです〜
これだからキリ番狙いは止められないんですよね。
吉田さま、ありがとうございましたvvvvvvv
ブラウザを閉じてお戻りください