独占欲
この人を独り占めしたいって貪欲に思っていた。
とてつもなく魅力的過ぎる人。私には勿体無いと思ってた。
想いが叶って結ばれた今も、独り占めしたいって気持ちは変わらないの。
前よりもっと強い気持ちで欲しいって思うようになった。
青は私の永遠の人。
側にいて不安を感じさせないで。
ずっと抱いていて。
彼は、心の奥の願いを見抜いていて、思うがままに愛してくれる。
離さないで。私も離さないから。
青がグラスを傾ける様子をぼんやり見つめていた。
何をやっても様になるから、くうっと唸ってしまう。
「どうかしたのか? さっきから」
青が怪訝な眼差しを送ってる。
私がグラスを唇につけたままじっとしてるから。
傾けたグラスの氷が溶けて、グラスの表面に水滴が滲んでる。
果汁を炭酸で割ったカクテル風のジュースだ。
「……いつか強くなれるのかな。そうしたら、酔わずに青に付き合えるのに」
しゅんとうな垂れる私の髪を青の掌が撫でる。
誕生日を迎えて封印していたアルコールを堂々と飲めるようになったけど、
アルコールを飲むとやはりくらくらする。
大人になったからって変わらないのだ。
「そんなこと気にするな。酒が弱い女の方が可愛いんだから」
青は私の髪をそっと梳いた。
照れるくらい優しい仕草に胸が熱くなる。
「一緒に朝まで飲んでみたいとか思わないの?」
きょとんと首を傾げると、青は苦笑を返してよこした。
「思わない。酒飲んだ後はお前を味わうって決まってるからな」
言い切る青をまた好きになる。
用意されたみたいに完璧な台詞だが、青はそんなことしない。
「好き」
「言葉だけじゃ足りないから、身体で埋めるんだろ」
ニヤリと笑い沙矢を抱きすくめた。
うっとりと酔いしれる表情をしている。
グラスが床に落ちる音がしたが、絨毯のおかげで割れることはない。
「お前はいい女だな」
耳元で感じる熱い吐息。
スマートに抱き上げて、寝室に向かう。
ベッドに下した沙矢は、くすくす女の顔をして笑っていた。
遊びで付き合ってい女は、酒が強かったな。
男に慣れていて後腐れもなかった。
煙草と香水の香りが体中に染み付いていて。
消し去りたい遠い記憶を呼び起こしても特に苛立ちは浮かばない。
もう、今更過ぎるからだ。
相手を昇りつめさせても、こちらは常に冷静なままだった。本気ではない戯れ。
若気の至りと思えば自然と笑みが零れた。
目の前にいる沙矢は、清らかさを失わない”女”。
都合のいい女に成り下がらなかった、誇りを持った女だ。
沙矢の隣に座り、抱き寄せ、耳元で囁く。
「好きだ。離さない」
「……青」
沙矢は口を開いてから、ほんの少し間を名を呼ぶ。
俺は口の端を吊り上げて微笑んだ。
「お前への想いは理性で抑えられないな」
「私も青への気持ちは理性で抑えられない程膨れ上がってる」
額に口づけを、啄ばむ。
髪をかき分けて耳のピアスを外した。
ベッドに備え付けられたサイドボードの上に置いて、見つめ直した。
髪をかき上げる沙矢の後ろに回り、背中を捕まえた。
ふわりと柔らかな髪の匂いが伝わってくる。
「がんじがらめにしてくれるの?」
背中から抱きしめると甘い声が、聞こえてきた。
俺は誘われるように答える。
「俺以外のことを心から消せるように、何もかも絡め取ってやる」
ワンピースの留め具を外し、下着を奪い去る。
「早く温めて。寒いの」
邪気のない瞳で誘惑されて、支配欲が、首をもたげてくる。
「ああ、いっそ凍えたいって思うくらいの熱が生まれるさ」
今宵は窓を開け放っていた。
雨が近付く湿ったにおいを感じる。
「二度と渇きを覚えないように、満たしてやるよ」
どくどくと、うるさいくらいに心臓の音が聞こえる。
はっと口を押さえた彼女の掌を引きはがす。
毎夜抱き合わなくても前よりずっと近くにいることが嬉しくて寄り添うだけでも幸せだけれど、
抱けば抱くほど欲してしまう。
大切な彼女だから失えない。
誰にも渡してはならない。
「焼け死んだらどうしよう」
沙矢から零れる冗談まがいの言葉にただ笑った。
「それも本望だろ」
俺も冗談で返し、唇を重ねた。
何度か軽く啄ばんで、深く唇を合わせる。
舌を絡めれば、体中のの熱が沸騰していく。
淫靡な音を醸し出しながら、口づけを交わす。
「……っん」
互いの唾液が流れ込んでくる。顎を伝い落ちる前に飲み込んだ。
沙矢の下唇を指先と舌でなぞると体を震わせた。
「感じてるのか? 敏感だな」
後ろから抱きしめて耳朶を甘噛みする。
「ゆっくりイかせてやるから」
「あぁ……っん」
耳元に唇を添えて吐息混じりに囁けば、頤を仰け反らせた。
胸の膨らみを強弱をつけて揉みしだく。
どこに触れれば甘く啼くか、すでに指が覚えていた。
がくりと腕の中の体が傾ぐ。
酔いしれた表情で、体を預けてくる。
「……ふあ……っ」
「可愛いな」
心の底から発せられた言葉。愛しさが溢れ出し、行為がエスカレートする。
「……青」
沙矢の顎を掴み、名を呼ぶ唇を塞ぐ。必死で口づけを返す背を抱きしめる。
「沙矢」
仰向けに横たえて、首筋にキスを降らせる。
濡れた瞳の沙矢が見上げていた。
大きな瞳を潤ませて俺の首に腕を絡めた。
「私ね、最近とっても幸せなのよ」
抱き合う時に沙矢が笑う姿を見るなんて。
心を解放して預けてくれているんだなと思う。
「俺も同じだ。二度と離さないし泣かさない」
「嬉しい。好きよ、あなた」
あなたか……。
俺はクスリと笑い、唇で胸の頂を啄ばんだ。
「あ……あっ……はぁっん」
赤く尖り固くなったそれを舌先で転がすと、大きく体が反り返った。
喘ぐ声が甘さを増している。
指の腹で擦ると断続的な声が漏れ、俺をより扇情的な気分にさせた。
指と唇を胸から下へ滑らせてゆく。
指先で唇をなぞり、キスを落す。
ちゅ、と音をたてて啄ばむ。
きつく吸い上げると、赤い華が散っていく。
長い髪を乱れさせ、身を捩る沙矢を見て微笑む。
「綺麗だ」
むせ返るほどの熱気が部屋にこもっている。少し早めの熱帯夜だ。
指先で秘所に触れるとびくんと沙矢の体が跳ねた。
摩る程に蜜が滲む。糸を引くほど濡れている場所に唇を寄せた。
荒い息遣いを聞きながら、蜜を貪った。
「ああああああっ!」
速度を速めて蕾を弄ると、沙矢は恍惚の表情を浮かべて瞳を閉じた。
一度体が浮いた後ベッドに沈む。
瞳に情欲の炎を宿した青が、こちらを見下ろしていた。
既に全ての準備を終えているようだ。
意識を失くしていたのはほんの一瞬だったはず。一度目の絶頂。
これから何度二人で高みへ昇りつめるのだろう。
「私があなたを導きたいの」
たまには私から快感を与えさせて。
熱っぽい囁きに青の口元が歪んだ。
「お前が俺を迎え入れてくれるんだな」
にやりと笑い、私の腕を強く引いて抱き起こす。
「あっ」
反対に青がシーツの海に横たわった。
自然と彼の足の間に自分の体を割り込ませる形になり、敏感な場所が触れ合う。
手が握られている。自分から言い出したのに顔が真っ赤になった。
「手加減してくれよ?」
「青……自分を棚に上げないで」
「手伝ってやる」
私の言葉をさらりと聞き流した青が一段と強く腕を引いた。
膝を折った体勢で前のめりに青の方へ倒れこみそうになる。
「うっ……ん……あぁ」
焦熱が、膣内に入った。
青は余裕そうにこちらを見上げている。
衝動を感じて、腰を動かした。
「イイよ」
「やっ……恥ずかしい」
「体はそんなこと言ってないみたいだけどな」
羞恥を煽る台詞を言う時の青の邪悪な顔ときたら。
「口に出さないで」
「別に悪いことでもない」
さらに奥の方に青を感じた。
胸の膨らみを揉みこまれ、体が勝手に揺れた。
私ももっと奥に青を誘おうと夢中で腰を動かした。
本能が騒ぐからそれに従うだけ。
下から突き上げられる。
何倍もの強さで感じる快感に体が後ろへ倒れこみそうになるが、
繋がっている青は私を押し止めてくれた。
「最高だ」
掠れた声、艶めいた瞳。
律動を刻む青の動きをコントロールしようと腰を動かし、彼を締めつける。
「……ああっ……もう」
はあはあと喘いで、焦点の定まらない瞳で、青を見下ろす。
「イこう」
胸の膨らみに手を添えて揉みしだき、青が鋭く奥底を突き上げてくる。
抑えられない声を上げながら、防音完備された場所でよかったと冷静に思う。
内部で熱と熱がぶつかる。
みだらな嬌声を上げて、青の体の上に倒れこんだ。
虚ろな視界の向こうに青が腕を引いて体の位置を素早く入れ替えているのが見えた。
「沙矢」
俺の頬や唇に触れる沙矢の指先。
「青、綺麗ね」
「何言ってるんだよ」
「だって本当のことだもの」
沙 矢を見下ろして今度は俺が彼女の顔に指先で触れる。
「お前の方が綺麗だよ。身も心も形作るもの全部が」
「上手いのね。でも私、そんなに清らかな人間じゃないわ」
微笑んで沙矢は俺の背中に腕を回す。
「青のこと独り占めしておきたいし、私の中に閉じこめたいって
思ってる。苛烈な感情を持った女なの。醜さもいっぱいこの心にはある。」
「知ってる。俺はお前のそういう所好きだ、ずっと救われてきたからな。
それが普通だよ人間は。醜くなんてことあるものか」
柔らかな眼差しで沙矢を見つめると穏やかな顔で微笑んだ。
ふいに起き上がり抱きついてくる。
「青、好きよ。何度言っても抱きしめ合っても足りないくらい」
「そうだな」
細い腰に腕を回し、背を抱きしめる。
互いの背中で繋がれた指はこんなにも温かくて、沙矢が愛しくて。
どちらからともなく口づけを交わした。
軽く啄ばんで放して、深く口づけ合う。
再びシーツで絡む。
キスに意識を向けさせているうちに、準備を整えた。
ゆっくりと繋がる。
腰を前後させて律動を刻む。
沙矢は蕩けた表情をしている。
背に爪を立てられて痛みが走った。
共に、好んで受け入れる痛み。突き下ろして沙矢の中で円運動をする。
掻き混ぜると互いの持つ物が溶け合ってゆく。
どうしようもなく熱い体同士をぶつけると汗が飛び散る。
深く口づけて縺れた舌で感じ合う。
沙矢の奥で感じる箇所を探り当て自身を擦りつけると、高い啼き声が鼓膜を引き裂くようだ。
貫いて、深い場所で繋がって、体を切ないほどに強く抱きしめた。
密着度が高まる。
「ああ……うぅん……っ!」
沙矢から大きな嬌声が上がった時、互いに熱の奔流を迸らせていた。
薄い膜越しの繋がりでも充分感じることができる。
そこには愛という感情があるから、どんな物も隔たりにはならないのだ。
以前の青は、背を向けて煙草を吸う人だったが、彼は変わった。
今は私を抱き寄せて、髪を撫でてくれる。
アルコールの味のキスをしてくれる。
苦いけど甘いキス。
「キスだけでもとってもドキドキする」
「それだけじゃ満足できるわけないだろ。丸ごとお前が欲しいんだから」
「いつも側にいたいものね」
「勿論」
優しく微笑み、青が指に髪を絡める。くるくると巻きつけて放す。
私は肩に頬を寄せて彼の首筋にキスをした。
赤い痕は残らないだろう軽いキスを。
貪欲な独占欲を抱いているのは青だけじゃないのよ。
こうしてあなたを自分の物だって主張したいわ。
ぐいと腕を引っ張られ、抱きしめられる。
苦しい程の抱擁にただ安堵を感じていた。
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