今日も、予定したことのように忍の家を訪れた。
忍の部屋のベッドに座って何でもない馬鹿話を繰り広げた後
ポツリと、口から零れていた。
「お前は大人だよな、いつも思うけどさ」
苦笑いを隠そうともしない忍。
「買い被り過ぎや」
「俺なんかよりずっと大人じゃないか。何でも的確に
アドバイスしてくれて。明梨と上手くいったのもお前のおかげだし」
「結果的に見て俺の安っぽい戯言が役に立ったように感じただけや。
お前の努力が実を結んだんやないか」
ニッと笑い、頭をグーで殴られた。
勿論、本気の力ではなかったがさすがにグーで殴られては痛い。
「いて・・・何すんだよ」
「思うに、お前も明梨ちゃんも家庭には恵まれてるよ。
放任で大概のことは大目に見てもらえるやん。友達感覚の親子やし」
「いや、案外大変なんだぞ。俺なんてしょっちゅう遊ばれてるからな。
何せ母さんだけじゃなくて叔父にもからかわれてるんだぞ」
「友達みたいでおもろそうやん。目上の大人とそんな付き合いできて」
「お前の考え方も変だよな」
「そうか」
「そろそろ帰るから」
砌が立ち上がる。
屈伸をするように足を伸ばして立ち上がった後、砌は一瞬俺忍を見た。
「忍・・・・」
「なんや?」
「俺も明梨も、お前頼りすぎてるよなと思って。
そろそろ卒業しないとな」
「改まって何ゆうか思ったわ。卒業って俺、学校でも何でもないで?
頼られてるなんて思ったことないし、大した役にたってもないやん。
んな気にすんなって」
俺こそ、お前らに付き合っていることが楽しくて仕方ないんやで。
悪意のない笑顔を向けられて面食らう。
本当に、いいやつだよ。
「サンキュ。じゃあな」
言いたそうな顔でこちらを見ている忍。
俺があっさり引いたのに驚いたのだ。
そういえばずっと聞こうと思って聞いてなかったことがある。
告げられた時は驚きすぎて問い返せなかったから。
”いつから明梨のこと好きだったんだ?”
今更な疑問だ。
第一、忍には新しい彼女がいる。
玄関口まで忍に見送られて、俺は忍の家を後にした。
またなと片手を振りながら。
隣でふわふわと微笑む明梨。
何でこんなにあどけなく笑うんだ?
時々大人っぽい時もあるが素は無邪気で天然。
それが明梨だ。
「あう、忘れる所だった」
「妙な声出すなよ。心臓に悪い」
「砌も忘れてた?今日、バレンタインだよ
チョコ欲しくない?」
「・・・・・・・・くれ!」
鬼気迫る表情で明梨の肩を掴んだ。
「そんなに焦らなくてもチョコは逃げないよ」
ふふふと笑って明梨は床へと手を伸ばし、バックを拾う。
明梨は、赤い包装紙の四角い物を俺に手渡す振りをして高く掲げた。
手を伸ばして奪おうとしてもかわされる。
このやろ。去年と同じパターンだぞ。俺も学習能力ないよな。
何もしてないけど昼間からベッドの上で俺達は・・・。
ああ。バカップルだ。自覚してる分マシなのか?
「質問があります。正直に答えて下さい」
はいはい。
明梨は楽しそうだ。
「私以外に誰かからチョコレートをもらいましたか?」
「もらってないぜ」
明梨の目を見て真っ直ぐに言う。
「本当に?」
「お前以外の誰のを受け取るってんだよ」
俺達が付き合ってることクラスの皆知ってるからな。
去年まではくれようとした子いたけど、今年はない。
それを正直に言ったらモテるんだね、砌と言われただけだったが。
「よかったー。はい」
満足したのか明梨は、赤い包みを渡してくれた。
「サンキュ」
「どういたしまして」
「あ、ごめん。翠ママからもらう分は別だからね」
「ああ」
わざわざ謝ることでもないのにとおかしくなった。
お前が言ってるのは本命チョコのことだって気づいてるさ。
義理チョコは数に入れてないだろ。
明梨も親や忍にも渡すんだし。
「なあ、明梨」
「ん?」
手を握り締めて、見つめる。
「俺さ、忍にお前って大人だよなって言ったらさ、買い被りすぎ
っていわれたよ」
「砌、忍さんは同い年の友達として対等でいたいんだよ。
私もずっと嫌な思いさせちゃって
たと思うの。大人だってお兄さんみたいだって言って」
「本当は嫌だったんじゃないかな。自分だってお前達と
何も変わらないのに
って寂しかったんじゃない?」
「明梨・・・・・」
彼女の言ってることは間違ってない。
俺が気づいてなかったのだ。愚かなことに。
「俺はお前に教えられることが多いみたいだ。
本当、参るよ。明梨はどんどん先へ行くんだから」
肩より少し下までの長さの髪を梳く。
柔らかな感触に女の子だなって思う。
「最近の砌こそ変。ちょっと前の強気が威力なくしてる感じ」
「は?」
「だって前はセクハラ発言連発だったのに全然ないんだもん。砌こそ変わったよ」
「言葉で終れなくなるから」
ニヤリと笑ってやると明梨は顔を真っ赤にしながら言った。
「そうだった・・・冗談ばっか言われてた頃と今は違うんだ」
いきなり格言か。
はっとした。
「違うけど根本的なものは何も変わってない。
俺は明梨が好きだってことだ。お前も・・・」
ぐいと抱き寄せて背中に腕を回した。
「俺が好きだろ」
「・・・・・・・うん」
「大切なことは何も変わってないよ」
耳元で囁いて顎を持ち上げた。
明梨は瞳を閉じる。
ゆっくりと唇を重ね合わせた。
俺は後ろ手にベッドのサイドボードの上に、チョコレートを置いた。
「はあ・・・・ん・・・・・」
貫きながら膨らみを刺激すると甘い声が響く。
普段よりも格段に女っぽい明梨。
喘ぐ唇を塞いで口内を蹂躙する。
痺れが走る体。
背にしっかりと腕を回しているのを感じて一緒だというのを実感する。
「砌、好き、大好き」
「明梨・・・・好きだ」
抱き起こすと深くなる繋がり。明梨の締め付けもどんどんきつくなって。
荒い息遣いがどちらともなく洩れる。
細い体をしっかりと抱きしめて、一番深い場所を突き上げた。
「あああああっ!」
甲高い声が部屋中に響く。
最後は互いの名前を呼びながら、昇りつめた。
ふっと意識を失った体を一度優しく抱きしめて、横たえる。
髪を梳きながら、眠る横顔を見つめていた。
赤い包装紙を丁寧に剥がす。
ハート型ではなくプレート型のチョコレート。
砌&明梨
+++Sweetvalentine+++
「何かさ」
明梨は苦笑する俺を制するように。
「ヴァレンタインの意味知ってるよね?これでいいんだよ」
にこっと笑って明梨は、チョコレートを割り、俺に半分手渡す。
「はい」
自分の名前が書かれた方を渡すのはさすがに照れるらしく俯き加減だ。
「だって折角のバレンタイン、二人でお祝いしなきゃ勿体無いじゃない。
砌一人でチョコ食べるの何かずるいし。ホワイトデーも勿論ね」
「分かったよ」
「二度もお前を食べることになるな」
「責任は取ってくれるんでしょ?」
何の責任だよ、一体。
「あはは、私も砌、食べちゃお」
あんぐりと口を開けて明梨はチョコレートを頬張る。
「俺も」
シーツに包まったまま、肩を触れ合って食べるチョコレート。
去年もらった時よりも何か重い。
「明梨、・・・・ありがとな」
「えへへ、喜んでもらえて嬉しい」
笑み崩れた明梨の頭を引き寄せた。
夕陽が窓から差し込んでいる。
「私さ、この前18歳になった時、2年間同じ人の隣にいれたんだって思った」
「嬉しかったんだ」
あまりの愛しさに明梨の頭を引き寄せた。
「俺も嬉しい。今から思えば出会い最悪だったのによく付き合いだしたよなって」
「私、砌の名前読めなかったんだよね、挙句の果てには変な名前って言っちゃって」
クスクスと笑う声。
懐かしくて仕方がない。もうすぐ出会ってから3年経つのか。
俺が明梨を好きになって3年だ。
「そんなこともあったよな。漢字勉強しろよって何度言ったか分からない」
「えへへ・・・・まあ済んだことよ」
「大学行っても大人になっても一緒にいるって約束したもんな、俺達」
「うん」
「大人になるにはまだ足りない物が多いけど、一緒だったら大丈夫だな」
「オッケーv」
手を上に掲げてVサインをする明梨。
やはり全てを知ってるつもりでもまだまだ彼女のことは掴めない。
俺は肩を掴み、口づけを重ねた。
「・・・・・・・ん・・」
互いの唇の熱さで、眩暈がしそうだ。
瞳を閉じて抱きしめ合う。
触れ合った唇を離すのが惜しくて、互いが息を吐き出すまでそのままだった。
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