Open the newgate



 新しい扉を開く瞬間、人は恐れと期待を半々に抱いている。
 未知への恐れを感じながら、新たな始まりへの期待に震え、
 身体中が心臓になったみたいにどきどきして。
 思えば始まりの日から、私達は普通とは違ってた。
 他人からしてみれば、信じられないかもしれない。
 出会ったその日に、同じ夜を過ごし、朝を迎え
 体だけ繋がっていた日々を越えた。他人には理解しがたいだろうけれど。
「青、私も言ってなかったことがあるの」
 青の部屋の中、ソファの上で寄り添いながら、
 時計の音だけを聞いている。
 この間から同じ部屋で暮らし始めた私達。
 穏やか過ぎる時間の流れ。
 どうしようもなく大切な温もりが側にある。
「もう言ってしまえばいい。何もかも包み隠さず
 本心を晒すと誓い合ったんだから」
 先週の日曜日、真実、求め合って、愛し合って色々な物を見せ合った。
 隠していた本当の自分さえ、お互いにちゃんと見せれたの。
 あの日から、再び始まった二人はちょっとやそっとじゃ
 壊れない自信がある。
『二度と嘘はつかない。
少しくらい情けなくても自分の正直な気持ちを伝えるよ』
青のあの日の言葉が胸の奥から聞こえてきて、
不安なんて抑え込んでしまう。
普段から軽々しく言わない人だから、
余計重く私の胸に響いた。
きっとあれが彼にとってのありのままの気持ちなのだ。
手を握る力が強くなる。
相変わらず表情の読めないクールな青だけど、
心の奥にはとても情熱的なものを秘めてる人だって知った。
「あのね、私も初めて会った日、階段の上から貴方の姿を見つけてた」
「恥ずかしいんだけど、見惚れてそのまま足を踏み外して
落ちちゃったのよね」
 ずっと隠していたことだった。
 二度目の出会いで言おうと思ったけど言えなかった。
「本当は、惹かれてたの
 目が合ったあの時から」
「沙矢……」
 青の瞳が細くなる。
 強い力で抱きしめられた。
「もっと早く素直になれば良かったな」
 ぼそりと呟かれる言葉。
 それは小さな後悔。
 取り返しがついた後悔。
「恋に狂って溺れる自分を見たくなかった。
 どこまでも相手しか見えなくなるというのは、強さを手にすることでも
 あるけれど、弱さを抱え込むことにもなるから、
 怖かったんだ。俺の心の弱さが、お前を遠ざけていた」
 こんなにも近くにお前の心はあったのに。
 繊細すぎるのよ、青は。
 傷つくのが怖かったのよね。
 今なら、分かるわ。
 抱きしめる腕は痛いほどに力が込められている。
「ごめんな」
「もういいわ」
 幾度となく謝罪の言葉は聞いた。
 誤解して傷ついていた心を癒す言葉をあなたはくれたのよ。
 本心を話してはくれなかったから、勘違いしてただけ。
 恋人らしく言葉を重なることもなく、抱き合いながら
 心の距離を計っていた。
 抱かれる度寂しさと愛しさが降り積もった。

「惹かれたから、抱かれたいと思ったのよ。
 あなたが抱きたいと思ってくれたように。
 意識し過ぎてその事から目を逸らそうと、下らない事
 早口でいっぱい喋ってた。おかしいわよね」
 言葉の勢いは止まらない。
「必死だったの。  気持ちが暴走して、いけないことを考えてしまう
 自分に気づいて、あなたに気づかれないよう必死で」
言葉に詰まる。嗚咽がこみ上げていた。
 青の背中に、腕を回し、私も彼を抱きしめる。
 広い背は、微かに震えていて、彼の体温が伝わってくる。
「私も貴方も同罪ね。過ぎ去った時間はこれから
 埋め合わせれるの。まだまだ時間はいくらでもあるわ」
 するりと心から抜け出た言葉に自分でも驚く。
「ああ、そうだな。ゆっくり歩いていけばいい」
 一瞬、身体が離れ、また引き寄せられた。
 私の肩を青が掴む。
 深い口づけを交わす。
 涙が瞳から溢れる。
 初めて喜びから溢れた涙を流した。
 青の唇が涙を絡めとる。
 優しく啄ばんで、頬に口づけられて。
 瞳を閉じる。
 お互いに初めて会った時同じ想いを感じていたんだね。
 言葉に出来なくて躊躇っていた私と、一歩踏み出して、
 後悔して自分を責めたあなたと。
 青の首に腕を絡める。
 温かい。
 二度と離れてなどいたくはない。
 離れない。
 ここから歩き出せばいい。
 想いを確かめ合って、求め合った二人だから大丈夫。
「青……」
「沙矢」
 疑う前に心を開こう。
 真っ直ぐ見つめ合えば迷いなんて消せるはず。
 止まっていた時を動かして、ここからまた一緒に……。
 きつく抱きしめる腕の確かさを感じて、微笑んだ。

 恋人となった彼の腕の中は温かくて、
 眩暈がする程幸せだった。



 初めて身体を重ねたあの日、俺は本気になりそうな
 自分を押さえ込む一心で冷たい素振りをした。
 彼女に気づかれないよう、知られないように、
 わざと傷つけて遠ざけて。
 他に利口なやり方はいくらでもあったんじゃないかと
 思うが、すべては過去。想うのは詮無いことだ。
 愚かな俺が遠ざかっても、彼女は一定の距離を保ったままで
 その場所にいた。つかず離れず何も言わず。
 一途な強さ。見かけからじゃ想像できない。
 俺のせいで強くならざるを得なかったのだ
 初対面の彼女は、あどけない少女で、
 儚さで壊れてしまいそうだったから。
 眩しさに目を逸らそうとしたけれど、無駄だった。
 こうして今も側にいられるのは、彼女のおかげだ。
 こんな弱い俺なんかを耐えて待ち続けてくれた。
 ありったけの想いを言葉にできたら、簡単なのだ。
 できないから、ゆっくり伝えていこうと思う。
 俺らしいやり方で。
 側にいてくれてありがとう、沙矢。

 抱き合う時間はとても尊い。
 素顔の自分を見せあう姿は、人間らしくとても美しいと思う。
 自然なコミュニケーションを何故恥らう必要がある?
 肌に触れて、身体をぶつけ合えばいいのさ。
 他に誰もいない二人だけの世界で。
 太古の昔から人間も動物も本能の部分で知っていることを
 ただ繰り返しているだけだ。

「あぁ……っ……せい」
 途切れ途切れの声で、沙矢は喘ぐ。
 細く長い指が身体の上を彷徨っていた。
 足を絡ませ、幾度となく、深い場所で繋がり合う。
 濡れそぼった身体は激しい行為を物語っている。
「沙矢、好きだ。二度と離してなどやるものか」
 強い口調で告げる。
 背中を抱き、律動をしながら。
「二度と離さないで。私も貴方を愛してる」
 淡い声が、静寂の中に木霊する。
 口づけを重ね、熱を絡ませた。
 舌先だけの触れ合い。
 沙矢の弾力のある胸の膨らみを静かに、時にリズミカルに
揉みしだき、彼女の中で己を動かしていた。
 昇りつめた意識はどこまでいくのだろう。
 響く甘い声、漏れる吐息
 軋むベッドの音。
 ベッドサイドランプはつけたままに濃厚なダンスを踊る。
 隠すものなど何もありはしないのだ。
 沙矢と俺の肌を微かな照明が照らす。
 絡む二人の身体が、黒いカーテンに映っていた。
 沙矢の背が跳ね、胸が揺れて宙に浮く。
 舌を縺れ合わせ、口づけ合う。
 うっすらと唾液の糸が引いていた。
 繋がった部分が奥深くで擦れる度、どちらからとも知れず
 狂おしい声が上がった。
「あぁ……」
 胸の頂を舌先で舐めた後口に含んだ。
「やぁ……ん」
 吸い上げては離す。
 右の胸から左の胸へと交互に愛撫する。
 頂点にそびえるそれは幾度となく俺の視界に飛びこみ存在を主張するのだ。
 硬く尖り薄紅に色づいた花弁。
 他の部分とは色が違うのはその場所と、もう一つ。
 彼を導く彼女の入り口の部分。
 女の証ともいうべき秘所は男の証を迎え入れる。
 その場所を介して二人は繋がり、一つになることができるのだ。
「……ああ……っん」
 喘ぐ声を口づけで塞ぐ。  同じ想いを感じていたのを知った今は、どんなことがあっても
 駄目にならないという自信がある。根拠がないと言えばそれまでだが。
 壊れてもおかしいはずの関係だったのに、ずっと続いてるんだもの
 壊れることがあるとしたらどっちかが死んだ時だ。
 俺か沙矢の時間が止まった瞬間に、二人の時間も止まるだろう。
 沙矢の中にいると包み込まれている安心感がある。
 男だから、女に包んで欲しいという願望がどこかにあったんだろうな。
 温かくて、神経が溶ける。
 何度も貪り、貫いて己を埋める。
 側にいることを実感できる愛しい瞬間。
 内部を掻き回し、一気に奥底を貫く。
 想いを確かめ合ってからは、時折避妊具をつけずに抱いていた。
 沙矢だけに、避妊を任せるのはフェアじゃないけれど、
 それでいいと彼女は言う。だから、時には直に抱いて欲しいと希う。
「あ……はあ……んっ……あぁっ」
 高い嬌声を上げ、背筋に爪を立ててくる沙矢。
 彼女を抱え、もう一度最奥を突いた。
 蕩けた表情に変わる。
 細い身体をそっと抱きしめて、啄ばむ口づけを落す。
 肌に点々と散らした赤い痕が、鮮やかだった。


 彼の熱い吐息が肌を掠めた。
 腕枕をしてくれて、抱き込まれていることに
 気づくとやはり例えようもない喜びを感じる。
 力強く私の身体を抱きしめていて、放す気配などないのだ。
 愛し合ったあと相手を抱きしめて眠るくせも好き。
 簡単で確かな愛情表現。
 いつも伝えてくれていた青。
 言葉が足りない青にとっての想いを伝える術。
 情熱を冷まそうと煙草に手を伸ばしていた不器用な人。
 煙草を吸い部屋を出る姿を見送ることはないのだと
 思うとひたすら涙が流れた。
 ずっと隣で見つめることができるんだもの。眠ったふりをする歯がゆさは味合わなくていい。
 広い背中を見送るんじゃなくて、隣にいるの。
 眠る彼に口づけて、瞳を閉じた。
 気だるい体が眠りを欲している。
 まだ朝は来ない。
 この腕に包まれて、私も眠ろう。


 穏やかな顔で眠っている沙矢の髪を梳いてやる。
 夜の香りを纏ったままの彼女はひどく色っぽかった。
 8つ離れている彼女に幼さを感じることもあるけれど、時折年上のように
 感じることがある。寧ろ、俺の方がガキみたいで情けなかったりするのだ。
 俺に包容力を求めていた彼女の方に、癒されていて。
 これからもこんな風に続いて行くのだろうな。
「シャワー浴びに行こうか」
 沙矢の耳元で小さく囁く。
 きっと彼女はその一言で目覚める。
「う……ん」
 沙矢は微かに身じろぎしながら頷いた。
 柔らかい身体を抱きあげて、ベッドを抜け出る。
 カーテンの隙間から零れる朝の光が、二人を照らしていた。



 はらはらするような不安もない日々が続く。
 あの頃はこんな時が訪れるとは夢にも思わなかった。
 激しさと優しさが溢れている日々。
 誰にも真似できない私達だけの毎日。
 家へ辿り着くのが、私は待ち遠しくてたまらない。
 勿論、仕事中は彼の事も忘れているけれど、
 帰宅する時間が近づくと共に、内心そわそわし始める。
 帰ってもまだ、あの人はいないことは分かっていても、
 暫く待っていると、帰ってくるのだ。
 前は、待つ人も待ってくれる人もいなかった。
 寂しさが霧散した"今"がとても愛しい。

 この幸せに波乱をもたらす人が、現れることなんて気づきもせず
 今日の日を終え、帰ろうとしていた私だったが、
 階段に降りようとしたその瞬間。
「水無月さん」
「……部長?」
 上司に声を掛けられた。
 悪い噂しか聞かない人。直接関わりはないはずなのに
 どうして私に声をかけてきたのか。
「家まで送ろうか?」
 首を傾げた。
 一上司が一社員に何言ってるんだろうか。
「いえ。悪いですから」
 振り切り、駆け出すと、
「気にしなくて良い。私が送っていきたいだけなんだから」
 肩を捕まれた。
「結構です」
 些か、きつい口調になっていたかもしれない。
 上司相手に不味い気がしたけど、迷惑な物は迷惑だった。
 私が帰る家は私だけの家じゃない。
 危険な香りを身に纏う彼は、どこか青に似ている。
 否、昔の私の知らない青に似てるのかな。
 ……全然違うわ。
 きつい香水の匂いが絡みついてくる。
 つけすぎか、そういう匂いの物なのだとは思うけど  会社につけてくるには不相応だ。
 青はいつもTPOを考えているけど、彼の辞書にはないのだろうか。
 どうしても彼と比べてしまうが、青に失礼かもしれない。
 早く家に帰りたい。
 夢中で駆け出した。
 定時にやって来るバスに飛び乗り、座席に座る。
 青、会いたい。
 なんでこんな些細なことで、不安になるの。
 あの上司の考えていることが分からなくて怖い。
 単なる杞憂だと信じているしかない。
 得体の知れない危機感が心を蝕んでいた。

 マンションに帰り、ダイニングキッチンに向かう。
 椅子に、肘をついた格好で座り込む。
 夕闇が夜闇に変わろうとしていた。
「ご飯作らなきゃ」
 もうすぐ青が帰ってくるはずだ。
「……そういえば昨日、青が作ってくれたカレーが残ってたんだっけ」
 彼は、口では言えない優しさを態度で示してくれる。
 時に強引なほどの優しさで包み込むあの人はとても不器用だ。
 クールな外見とは裏腹な純粋さにいつも翻弄される。
「今日はそんなに遅くならないって言ってたわよね」
 帰宅が遅い日は先に夕食を食べていいからと  口癖のように彼は言っている。
 そして、先に寝るなよと釘を刺すのを忘れない。
 寂しがり屋な青も好きだ。
 大人しく待ってよう。
 壁の時計を見ると、7時を指していた。
 あと一時間くらいかな。
 冷たいテーブルの上に顔を伏せた。
 青……。
 ずっと一人でいたのに、急に二人になっただけで、
 一人がとても怖い。寂しい。
 贅沢な感情だ。分かっている。
 もう離れられないのだから仕方ない。
「ふぁ……」
 欠伸が出てしまった。
 ふいに襲われた睡魔。
 昨日は彼が中々眠らせてくれなくて少しばかり寝不足だ。
 彼は、休みの前の日とか休みの日しか抱き合わない約束を初めて破った。
 私も求めてくれるのが嬉しかったから、抗わなかったんだけど、
 5時間睡眠はさすがに、辛いかも。
 無我夢中で愛し合っていたから。
 思いだしていると一人百面相のように真っ赤になった。
 彼は全然平気みたいだったのが、不思議だ。
 瞼が重い。
 何度か目を擦っても眠気をごまかせない。
 ……疲れた。
 虚ろになる視界の中、テーブルの上に、腕を投げ出した。

 帰宅すると、ダイニングキッチンのテーブルの上に  突っ伏して沙矢が眠りこけていた。
 すやすやと眠る彼女はちっとも起きる気配がない。
「……何こんな所で」
 苛々と舌打ちしつつ、抱き上げようと腰を屈めた。
「青…………」
 ふと呟かれた自分の名にどきりとする。
 あまりにも無邪気な寝顔だった。
 反則だろ。
 理性の抑制が利かなくなる。
「疲れてるのか」
 思い当たる節があるし、今日のところは我慢してやるか。
 ふわりと抱き上げ、寝室に運ぶ。
「夕食も取らずに寝るなよ」
 ぽつり。
 これから一人で食事をする羽目になったことに対する  恨みがましい呟き。
 ちょっと前までは一人が普通だったのに、不思議なものだ。
 ベッドに横たえさせてシーツをかける。
「……沙矢?」  立ち去ろうとした俺の腕を沙矢が掴んでいた。
 大人しく寝ろよ。
「青……何処にも行かないで」
「……側にいて」
「分かった」
 くすと笑い、頬に口づけを落とす。
 甘えてくる沙矢を見ていると、穏やかな気持ちが満ちてゆく。
 自らも隣に横たわると、髪を撫でてやる。
 肩に身体を預けて来た彼女を抱き寄せ、
「お休み」
 耳元で囁いて、部屋を後にする。
 分かったと言いつつ側を離れるが、許せ。
 すぐに戻ってくるからな。
 今日の彼女は、どうしてこんなに甘えてくるんだ。
 愛し合う時間にさえ、あんなに甘えてこないから違和感を感じた。
 何か不安に思うことがあるのかもしれない。
 妙な事が起きなければいいがな。
 甘えられるのは嬉しいが、そういう時だけ甘えられるのも切ない。
 もっとたくさん二人の時間を作っていければ。
 寝室の扉を閉じ、一人、ダイニングキッチンに向かった。
 冷蔵庫からカレーの鍋を取り出し、ガスにかける。
 にんにくの匂いが鼻につく。
「明日もカレーになりそうだ」
 鍋に残った大量のカレーに苦笑いが漏れた。
 アレンジでもしなければ飽きてしまうだろう。
 
 翌朝。
「おはよう」
 隣りから聞こえる独特の低音。
「あ…………おはよう」
 瞬きして、視線を彷徨わせる。
 あれから寝ちゃったんだ。
 青がベッドまで運んでくれたのね。
 恥ずかしい。
「昨日、何かあったのか?」
 そろり、と顔を上げれば穏やかな眼差しの青が、こちらを見つめている。
腕枕をしてくれていた。
「特に変わったことはないわよ」
大した事じゃないし、嘘にはならないわよね。
隠し事をするだなんて良心が咎めるけれど、
 些細なことで彼を煩わせたくはなかった。
「本当か?」
「疑い深い癖直したほうがいいわ」
「何もないなら良いんだけどな」
 青はじっと顔を覗き込んできた。
 そんな至近距離で見つめられると不整脈を起こしそう。
 それ位彼の眼差しは魔力を持っているのだ。
「青」
 息を飲みこむ。
「何だ?」
「もしも私が危険に晒されたら助けに来てくれる?」
 こんな風に言うのが精一杯。意気地のない自分が嫌になる。
「ああ。その場の状況を見てお前に非があるか確認するがな」
「え」
「その上でお仕置きを考えよう」
「なんでお仕置き?」
 きょとんと首をかしげる。
「心配するな。もしお前が誰かのせいでそんな目に合ってたなら」
 一旦言葉を切った彼は表情までもがらりと変えた。
 穏やかな表情が豹変して恐ろしい笑顔になる。
「そいつを半殺しにしてやるから。半で終らないかもしれないがな」
 喉の奥で笑う声にぞくっとした。あまりにも鬼気迫る表情だ。
 彼を怒らせるのは得策ではないかもしれない。
「犯罪よ」
「バレないようにすればいいのさ」
口の端を釣り上げて笑う顔は、何とも魅惑的で、どくんと心臓が鳴った。
 私が気をつけなければいけない。
 しっかりしてればいいだけのことだ。
「……青」
 彼を見つめる。
 射抜かれてしまいそうな鋭い眼差し。
 ベッドの上で、見つめ合ってくすくすと笑った。
 さらりと髪を梳く腕にもたれる。
「沙矢」
 青は小さく笑い、私の髪をかき混ぜた。
「今日、お休みね」
「そうだな。思いっきり愛し合える」
 ストレートな彼の言葉にどぎまぎしてしまう。
 首筋まで熱を持っていた。
 耳朶をきつく噛まれ、心臓が跳ね上がる。
 愛し合う時の中で昨日のことなんてすぐに忘れられるはずだ。
 サイドボードの上にある目覚まし時計のスイッチを止めて瞳を閉じた。



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