34. 窓


熱を冷ましたくて窓を開けた。
まだ彼女は眠りの世界を彷徨っている。
煙草を咥える。
吸いながら自嘲の笑みを浮かべて。
今という現実がある奇跡を感じている。
夢じゃない。
そんなあやふやな物じゃなくてずっと
リアルな日常を手に入れている。
腕の中に、沙矢がいる日常を。
本来なら、失っていてもおかしくはない彼女が
側にいるのは奇跡であって奇跡じゃない。
偶然じゃない必然で手に入れたのだ。
プライドが邪魔をして本音を言えない俺を
促し続けたのは他でもない沙矢。
お互いの想いが同じ場所にあることに気づいていたのにずっと気づかぬ振りをしていた。
時間の浪費といえばそれまでだ。
だが、それよりも長い日々があるのだ。
これからの二人の日々はあの長いようで短い日々よりも長い


フッ。
吹き込む夜風。
これ以上窓を開けていては寒いだけだ。
窓を閉め、カーテンも閉めて、愛しい彼女が眠るベッドに戻った。
彼女が来るまでは寂しくて仕方のなかった広さのべッド。寝室のほとんどを占めるほどの。
今は必要な広さ。
二人で眠るには広いけれど愛し合うには、充分の広さのスペース。
隣りに横たわり、華奢な背を抱き寄せた。


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