■fine today■ −1− 俺の親父は刑事だ。 役職は警部。 部下からは慕われ、仕事は迅速に。 どんな事件も解決する。 勿論、上司からも一目置かれている。 まさに理想の刑事。 ―――とは、親父の言だ。 まるきり間違っているとは言わないが、過大評価も甚だしい。 俺に言わせれば、ただのはた迷惑な親父だ。 被害を被るのは常に俺なんだから。 「環(たまき)君、無事!?」 駆け寄ってくる貴子(たかこ)さんに、俺は手を振り、 「無事ですーっ」 ……なんとかね。 「はあ、もう。寿命が縮んだわよ」 服の汚れを払ってくれる貴子さんに感謝しつつ、俺は体力の限界を感じていた。 「貴子さん、俺……ちょっと休みます」 「本当に大丈夫? まったく、無茶するんだから」 「それは親父に言ってくださいよ……」 俺はげんなりして貴子さんを睨んだ。 「ごめんごめん。でも助かるわ、環君がいてくれると。格好良かったわよ〜さっきの」 「それはどうも」 そう言われては反論も出来ない。 俺にとっては命がけだったってのに。 それもこれも、全っ部親父が悪い。 毎回毎回、かり出される俺の身にもなれってんだ。 しかも手柄は全部親父のもんだし。 『どんな事件も解決する』が聞いて呆れるよ、ホントに。 そう俺が憤っていると、親父がへらへらとこっちにやってくる。 「いやあ、お疲れ、環。俺は鼻が高いよ」 うんうん、と、俺を見下ろしている親父の足を思い切り踏みつけると、親父は足を押さえてうずくまった。 あまりの痛さに声も出ないらしい。 「警部、大丈夫ですか?」 貴子さんが慌てて親父の背をさする。 そんなことしなくて良いのに。 「ああ、すまない。……環、ひどいじゃないか」 「どっちがだよ。俺は危うく死ぬところだったんだぞ!」 「大丈夫、環は頑丈だから。さすがは俺の息子だ」 「よく言うよ、体力無いくせに」 俺は、親父の仕事の手伝いをしている。 と言えば聞こえは良いが、実際は手伝いなんてもんじゃない。 親父に出来ないことが、俺に回ってきてるだけなんだ。 そもそも刑事の仕事を息子の俺に手伝わせる親父が、おかしいんだ。 しかも、俺の仕事の大半は力仕事だ。 今回だって、逃走した容疑者を取り押さえるように言われた。 結果、容疑者は取り押さえたが、俺はもう少しで死ぬところだった。 別に容疑者が刃物を振り回して抵抗したわけじゃない。 乱闘になったわけでもない。 逃走した容疑者は捕まると焦ったのだろう、赤信号なのに車道に飛び出したのだ。 それを助けるために俺も車道に飛び出し、容疑者を突き飛ばした。 が、勢いをなくした俺はそのまま車道に取り残され、前方からはトラックが走り込んできて。 あわや、というところで何とか避けたんだ。 ホントにヤバかった。 親父は俺を頑丈だと言うが、いくら頑丈でもトラックと喧嘩して勝てるわけない。 今までに何度、親父のせいで死にかけたことか。 ホントよく生きてるよなあ、俺……。 「じゃあ環君、私たちはこれで。いつもありがとう」 「あー、はい。どうも」 貴子さんと親父が容疑者を連れて行く。 俺は、何故か貴子さんには弱い。 親父もそれを見越して、俺が必要な時はいつも貴子さんを連れてくるんだ。 そんな親父に腹が立つ。 ……腹は立つが、貴子さんがいなかったらやる気も半減するからな。 でも貴子さんは親父の部下って立場をどう思ってるんだろう。 まあ嫌そうには見えないけどさ。 そんなことをぼんやりと考えながら、俺はのろのろと立ち上がった。 翌日の月曜日は最悪だった。 車を避けて地面を転がった時の衝撃が強かったらしく、身体中擦り傷だらけだったからだ。 はっきり言って休みたかったが、テストが近いのでそういうわけにもいかない。 気持ちよさそうに眠っている親父に腹を立てながら俺は家を出た。 「休日出勤ご苦労」 教室に入ってすぐに聞こえてきた声に、俺は脱力した。 「藤吾〜……」 恨みがましい目で、その声の主―――藤吾(とうご)を睨みつける。 「……貴子さんに聞いたんだ?」 「おう。環の勇姿をな」 「勇姿って……」 そんな立派なもんじゃない。 大げさにため息をつき、机に鞄を置く。 「ま、冗談はおいといて。……大変だったな、昨日」 「……まあね。折角の日曜だったのにさあ」 「警察の仕事に日曜も何もないからな……あ、そうだ、姉貴から伝言」 「え? 何?」 「“昨日は本当にお疲れさま。昨日の今日で学校に行くのは大変だろうけど頑張ってね。無理はしないようにね”……だってさ」 「貴子さんだけだよ、そんなふうにねぎらってくれるのは……」 深い感謝を込めて呟く。 「……俺だって心配してるぞ」 「解ってるよ。そうじゃなくて親父のこと言ってんの。軽口叩いてばっかで……」 「姉貴はそこらへんしっかりしてるからな。フォローは忘れないし」 そう。 貴子さんはよく気が付く人だ。 視野が広いというのか。 周りを気遣って、さりげなくフォローしたりしてくれる。 ……親父とはえらい違いだ。 それに、俺は藤吾も貴子さんと同じだと思っている。 人のことからかったりするけど、根は貴子さんと同じなのだ。 さすがは姉弟。 親父にも見習ってもらいたいよ。 藤吾―――二ノ宮藤吾(にのみや・とうご)は、中学の時からのつきあいだ。 中学では同じクラスになったことがない藤吾と俺が知り合ったきっかけは、親父と貴子さんだった。 俺は中1の時から親父の手伝いをしていて、中2になった時に貴子さんを部下だと言って紹介された。 以来、貴子さんとよく話をするようになり、同じ学校に弟がいることを知った。 藤吾とは気が合い、すぐに友達になった。 で、現在もこうやって仲良くやってるわけなんだけど。 藤吾といると余計な気を遣わなくて良いから楽なんだよな。 この2人に出会えたことだけは、親父に感謝だ。 「環、保健室行くぞ」 「へ?」 唐突に言われ、首を傾げると、藤吾は俺の腕を掴んだ。 「……ってえっ!」 途端に掴まれた場所がズキズキと痛みだし、声を上げてしまった。 「やっぱり、怪我してるんだな。ちゃんと手当てしたのかよ?」 そうだ、藤吾はこういうことに良く気が付くんだ。 制服を着てるから怪我の事なんて解らないはずなのに。 「姉貴の話から大体想像付いてたんだよ」 俺が言う前にそう言われ、ちょっと感心してしまう。 「で? 手当は?」 「……傷口洗って、消毒液つけた」 「それだけ?」 頷くと、藤吾はため息をついて俺を保健室へ連れて行こうとする。 俺は保健室に行きたくはなかったけど、こういう時の藤吾は何を言っても聞かない。 渋々、藤吾の後についていった。 −2− 「ったく、傷だらけじゃねえか。ちゃんと手当てくらいしとけよ」 乱暴に言いながら、でも手当てする手つきは優しい。 「……ごめん」 言いながら、俺は手際よく手当てをする藤吾の手を眺めていた。 保健室には、藤吾と俺の2人だけだ。 養護教諭が不在のため、藤吾が手当てをしてくれているのだ。 藤吾の手つきが慣れているのは、何度となく俺の手当てをしているからだ。 「環は何で親父さんの手伝いしてるんだ? しょっちゅうこんな怪我までして」 「……それ、何回も聞いたよ、今まで」 「そうだっけ?」 「そうだよ……まあいいけど」 ひとつため息をついて、俺は口を開く。 「泣くからだよ」 そう、泣くのだ。 俺が手伝いを断ると、親父は泣く。 怒るとかお小遣い無しだとか、そんなことを言われるのならまだいい。 でも親父は怒らない。 その代わり、思い切り泣く。 『お父さんを見捨てるんだ』とか何とか言って。 人目を憚ることなく、道のど真ん中でも平気で。 でも親父が平気でも、こっちは平気じゃない。 通りすがりの人たちの目には、好奇の目と非難の目が入り交じっているのだ。 俺が悪いんじゃないのに。 まるで駄々っ子で、どっちが親なんだか……。 「3年前から進歩ねーな、環も親父さんも」 3年前、正確には4年前親父の手伝いを初めて頼まれた時と今。 結局、変わらない理由で手伝いをしている。 “泣くから” 確かに藤吾の言うとおり、進歩ない。 でも駄目なんだ俺、親父に泣かれるの……。 軽い自己嫌悪に陥ってしまい、俺は慌てて頭を振った。 その拍子に傷が痛み出す。 「ああほら、動くな」 何か、藤吾って俺の保護者みたい……。 俺は自分の考えに苦笑してしまった。 「もうちょっとで終わるからな」 「ああ、ありが……」 「失礼しまーす、先生、突き指したんですけど―――あれ?」 藤吾にお礼を言いかけた時、保健室の扉が勢いよく開き、元気な声が飛び込んできた。 扉を後ろ手で閉めて部屋の中を見ている男子生徒。 先生を捜しているのだろう、視線を彷徨わせている。 「先生なら今、席を外してるよ」 俺がそう答えると、ちょっとがっかりしたように肩をすくめた。 「そうなんですか……って、あああっ!!」 「うわっ」 俺の顔を見るなり、驚いたように大声を上げる。 その迫力に俺は仰け反って間抜けな声を出してしまった。 「ふ、藤倉環(ふじくら・たまき)さんっ!? 本物!?」 「え? そ、そうだけど……」 その勢いに気圧されながら頷くと、目を輝かせる。 「やっぱり! あ、俺、1年の高野暁(たかの・あきら)っていいます、よろしくお願いしますっ」 「は、はあ……」 何で俺のこと知ってるんだ? 「終わったぞ、環」 騒いでいる俺たち―――正確には騒いでるのは高野だけなんだけど―――を気にすることなく俺の手当てをしていた藤吾はそう言うと高野のほうを見た。 「手出せ、手当てするから」 「え?」 高野が首を傾げる。 何だ、聞いてないようでもちゃんと聞いてたんだ、藤吾。 俺は座っていた椅子から立ち上がり、高野をそこへ座らせた。 「あ、ありがとうございます。あの……すみません」 前半は俺に、後半は藤吾に向かってそう言った。 藤吾は無言で高野の指に湿布を貼る。 俺はそれを眺めながら、高野に尋ねる。 「何で俺のこと知ってんの?」 「そりゃあ俺、藤倉先輩のファンですから」 「……ファン……?」 何だ、それ? 高野のあっさりと、でもはっきりした言葉に、俺は面食らった。 「先輩のお父さんって刑事ですよね。で、先輩はその手伝いをしてるんですよね」 「…………」 「へえ、良く知ってるな」 藤吾は何でもないように言うけど、俺の頭の中は疑問でいっぱいだった。 親父の手伝いをしてるなんて、この学校じゃ藤吾しか知らないはずなのに。 「はい、それに俺、昨日見たんです」 藤吾の言葉に頷くと、高野は笑顔でそう言った。 「昨日って……」 まさか。 「はい! すごく格好良かったです、人を庇って間一髪で車を避けたところ。俺なんて、見てるだけだったのに、先輩はすごいです!」 あああ……。 あれを見られてたなんて。 よりにもよって同じ学校の後輩に。 頭を抱えたくなった。 すごいって言ってもらっておいて悪いけど、あの場合、俺が助ける以外どうしようもなかったんだ。 悪いのは逃げた奴だけど、俺が追っかけたせいで車道に飛び出したんだ。 「環」 それに、その時に一番近くにいたのは俺だし……。 「環!」 「えっ、何!?」 「もう授業始まるぞ」 「あ、ああ」 考え込んでいて、授業が始まる時間だということに気づかず、藤吾の声も聞こえていなかったようだ。 「じゃ、行くか」 保健室から出ようと歩きかけて、ふと後ろを振り返った。 椅子に座ったまま、まだ嬉しそうに俺を見ている高野を見て、その指先に目を遣る。 藤吾が貼った湿布が痛々しい。 「……指、大丈夫か?」 「え……あ、は、はいっ」 一瞬きょとんとした顔をした後、顔を真っ赤にして慌てて湿布が貼ってある手を振った。 大丈夫だというふうに。 それを見て、俺は安心して高野に笑いかけた。 高野はそれにますます顔を赤くする。 「あ、あの、ありがとうございました! ……じゃ、じゃあまた」 保健室を出る直前で高野がそう言う。 「じゃあな」 俺と藤吾はそれに軽く答えて教室へ戻った。 「やっぱ、環は親父さんの息子だよなあ」 「はあ? 何それ?」 教室へ戻るなり、藤吾が俺に話しかける。 その内容に俺は眉を寄せた。 親父の息子って……当たり前なんだけど。 ……ってそうじゃないか、この場合、性格とかのことを言ってるんだろうな。 それはそれで納得できないんだけど。 「怒んなよ。愛想が良いところなんてそっくりだと思っただけだって」 「愛想?」 「さっきの1年のことだよ。いきなりファンだとか言われて面食らってたかと思ったら、指の心配はするし笑いかけたりするし」 「ああ、何だそのこと」 ようやく合点がいって、俺は安堵した。 親父みたいなお調子者だと言ってるのかと思った。 「だって人事じゃないだろ? 俺、しょっちゅう怪我してるから」 怪我の理由は違うと思うけど。 でも痛いことに変わりはない。 「でも藤吾だって手当てしてただろ?」 「そりゃ怪我してるの放っとくわけにはいかねえだろ」 「そうだけど……」 「……まあ、さっきの1年の態度は別にお前のことからかってたようには見えなかったけどな」 そうか、藤吾はそのことを心配してたんだ。 何でもないように言ったりしても、俺のこと心配してくれてる。 ……やっぱり保護者みたいだ、藤吾って。 でも俺もそれに思い切り甘えてしまってる気がする。 居心地が良いから。 −3− 1日の授業が終わり、俺は帰ろうとしていた。 いつもは藤吾と一緒に帰るけど、今日は委員会があるので先に帰ることにした。 藤吾は美化委員をやっているのだ。 今日は、掃除点検の日らしい。 委員会に行く藤吾を見送って、校舎を出る。 ……と、校門の傍に立っている高野を見つけた。 近づくと、高野は笑顔で俺の方に駆け寄ってきた。 「藤倉先輩、ちょっと話がしたくて。……付き合ってくれませんか?」 俺はしばらく考え、頷いた。 今日は特に用事もないし、早く帰ってもすることもない。 「ありがとうございます、じゃあ行きましょう!」 飛び跳ねそうな勢いで、俺の腕を引くと早足で歩き出す。 「わっ、そんな引っ張らなくても付いてくって!」 俺は高野の歩調に合わせて早足で歩いた。 向かった先は学校からは少し離れた、喫茶店だった。 一番奥の窓際の席に座ると、コーヒーを注文する。 高野は水を一杯飲むと、徐に頭を下げた。 「すみません、先輩!」 「え?」 意味が解らず、問い返す。 「俺、自分のことばっかりで……先輩も怪我してるのにペラペラ喋ってて……それなのに俺の怪我の心配までしてくれて。……あの、大丈夫ですか?」 俺は思わず吹き出してしまった。 「ど、どうしたんですか? 変なこと言いました?」 狼狽する高野を見て、更に笑ってしまう。 ……だって、そんなことで謝るなんて思ってもみなかった。 「そんなの、俺は気にしてないから。高野も気にすんな。な?」 「で、でも……」 「ほら、大丈夫だから。藤吾に手当てしてもらったしさ」 制服の袖を捲って見せると、手当てされた傷を見て高野は眉を寄せた。 「……本当に大丈夫なんですか? たくさん怪我してますけど……」 あちこち擦れてるから、怪我の数が多いのはしょうがない。 傷は……まあ少しは痛むけど、今朝ほどじゃなかった。 「大丈夫大丈夫。藤吾って手当て上手いから」 「藤吾って、俺の手当てしてくれた人ですか? ……確かに、上手かったですけど」 「だろ? はい、もうこれでその話は終わり」 俺がそう言った直後、注文したコーヒーが運ばれてきた。 高野はまだ納得してないような顔をしていたが、俺がコーヒーを飲むのを見ると高野もカップを手に取った。 高野がコーヒーを飲むのを見ながら、話ってこれのことだったのかと思う。 何もそのくらいのことでわざわざ謝りに来る必要なんてないのに。 律儀というか心配性というか……。 ……でも結構面白い奴かも。 「あの……先輩」 しばらくして、高野がカップを置いて思い詰めたように口を開いた。 「え? 何?」 「その……」 言い難そうに、俯く。 しばらくそのままだったが、やがて、思い切ったように顔を上げた。 「昨日の、女の人……先輩の、恋人……ですか?」 切れ切れに、小さい声で呟く。 「昨日の女の人……?」 俺は何のことか良く解らず訊き返した。 「その……先輩が車を避けた後に先輩に駆け寄って行った女の人、なんですけど……」 ようやく俺は思い当たった。 「ああ、貴子さんのこと」 「貴子さん……?」 俺が言うと、高野はその名前を反復する。 「貴子さんは、俺の恋人なんかじゃないよ」 「え……でもっ、すごく心配そうにしてましたよ」 「上司の息子で弟の友達なんだから心配くらいするよ」 「上司の息子? 弟の友達……」 「そ。貴子さん刑事なの。親父の部下。で、俺と高野の怪我を手当てした藤吾の姉なんだ」 「そ、そうなんですか……?」 高野は安堵したように、椅子に深く座り込んだ。 硬かった表情も、柔らかくなっていた。 「じゃ、じゃあ、恋人とかいないんですか?」 「いないよ」 何でそんなことを訊くのかと思いつつ、俺も疑問を口にすることにした。 「……あのさ、何で高野は俺が親父の仕事を手伝ってることを知ってたんだ?」 「あ、それは……あの」 今度は顔を真っ赤にして俯く。 ……百面相みたいだ。 やっぱり面白い。 「ごめんなさいっ!」 「は?」 顔を上げたと思ったら、いきなり頭を下げられた。 「あの、俺、先輩のファンだって言いましたけど、あれ違うんです」 俺があっけにとられている間に、高野は話し出した。 「俺、まだ中学生だった頃に1度先輩に会ってるんです」 え? 俺に会った……? 俺は高野のこと、知らないんだけど……? 「覚えてませんか? 1年くらい前のことです。俺の家の近所で……この喫茶店を南に少し行ったところなんですけど……盗難事件があったんです。その現場に先輩が来たんですよ」 「盗難事件……」 記憶を辿る。 一年前……そうだ、盗難事件があって俺も現場に行ったことがあったような気がする。 「……多分、行ったと思う」 「その時ですよ、先輩に初めて会ったのは」 「……でも俺、あの時は特に何もしてなかったと思うけど」 「俺も最初は何で刑事さんに混じって高校生がいるのかと思いました。実際、被害にあった人に事情を聞いたりして現場検証も終えて刑事さんが帰る頃になっても先輩は何もしてませんでしたから」 そう、そうだった。 俺も、何で親父についてこいと言われたのか解らなかった、その時までは。 でも俺の仕事は、刑事が引き上げてからだったんだ。 「被害にあったのって、ひとり暮らししてるお婆さんで、部屋とか玄関とか荒らされてて……それをひとりで片づけるの大変だと思って、俺手伝おうとしたんです。でも、その前に先輩が……」 刑事たちが引き上げてひとり残されたお婆さんを見て、俺は一緒に部屋を片づけたんだ。 お婆さんは被害にあって混乱していたし、ガラスの破片とか危ないものもあったから。 「俺、すごく感動しました。刑事さんたちが帰った後にひとりでお婆さんと片づけて……お婆さんを励ましたりもしてました。……俺、あの時も結局手伝いに行けなかった……最初は行くつもりだったのに」 高野は辛そうな顔をして拳を握りしめた。 「どうして手伝わなかったんだろうってずっと後悔して……でもあの時の先輩が忘れられなくて。その時からずっと……俺の憧れだったんです」 「あ、憧れって……俺はあの時、親父に頼まれてついていっただけで」 「知ってます。刑事さんが……先輩のお父さんが手伝うように言ってたの聞こえてましたから。それでも実際に行動できるっていうのはすごいと思います」 う……。 何か、この場にいるのが嫌になってきた……。 そんな真顔で憧れとかすごいとか言われると……。 「俺、先輩と同じ高校行きたくて……合格して、学校で先輩を見かけた時は嬉しかったです。先輩、全然変わってなくて。その時一緒にいた人が先輩のことを呼んだから名前も解りましたし」 ……高野はどうして臆面もなくこんなことが言えるんだろう? 「でもずっと話しかける機会と勇気がなかったんです。そんな時に、昨日のことがあって。格好良いなって思ったのと同時に、あの女の人に嫉妬しちゃいました」 「し……」 「俺ずっと、先輩に憧れてたんだと……そう思ってたのに、昨日のことで憧れだけじゃないってことに気づいたんです」 口を挟む暇がない。 何か言おうとしてもその前に高野が話し出してしまう。 「今朝は本当にびっくりしました、突き指してラッキーだったと思ったくらいで。それで舞い上がっちゃったんです。……でも偶然とはいえ話すことが出来て、確信しました」 そこまで言ってようやく高野が話を止めた。 そして俺の目をまっすぐ見て。 「俺、先輩のこと、好きなんです。好きだって、そう確信しました」 「……?」 俺は固まった。 高野の言うことが良く解らなかったせいもある。 でも高野の口調があまりにも真剣で、声を出せなかった。 「先輩、俺と付き合ってくれませんか?」 「……はあ? 今、なんつった……?」 その後の、さらりと言った言葉に、俺の緊張が僅かに解け、間抜けな声で返す。 でもやっぱり高野の言っていることの意味を理解していたわけではなく……。 「俺、先輩が好きです。憧れとか先輩としてとかじゃなくて、恋愛感情の好きって意味で。俺と、付き合ってください」 高野がもう一度繰り返して言うのにも、俺は反応できなかった。 今度は理解できなかったわけじゃない。 理解は出来るが……。 そんな俺の困惑を感じ取ったのか、 「あのっ、返事今じゃなくても良いですから。いきなりこんなこと言って困らせてしまってすみません」 申し訳なさそうに、でも何処か哀しそうに、高野は謝罪した。 「……今日は帰ります。でも俺、本気ですから! 考えといてくださいね」 そう言って立ち上がると、足早に喫茶店を出て行く。 俺は、呆然とその場に固まったまましばらく動けなかった。 −4− 喫茶店からどうやって家に帰り着いたのか。 とにかく俺の頭の中では、高野に言われたことがぐるぐると回っていた。 マンションの自分の部屋に入ると、ベッドに仰向けに寝転ぶ。 『俺、先輩が好きです』 『俺と、付き合ってください』 「うーん……」 好きっていうのは、先輩として好き――― なわけじゃないよな。 はっきり恋愛感情だって言ってたし。 「恋愛感情……」 恋愛感情。 ……って何だ? それって男女間で持つものだろ……? というか俺、恋愛感情そのものが良く解らないんだよな。 一言で言えば、“好き”ってことだろうけど、それって友達とか家族とかに対する“好き”とどう違うんだろう……? ……解らない。 「うーん……」 さっきからため息とも唸り声ともつかない声しか出てこない。 だって解らないんだ。 高野の好きが恋愛感情だということは理解できても、それが何なのか良く解らないし、第一、それ以前に俺も高野も男だし。 男女の恋愛も良く解っていない俺に男同士の恋愛を理解できるわけない……。 「あー、もうやめっ」 元々、俺は物事を考えるのはあまり得意じゃない。 高野に返事をしないといけないけど、解らないものは解らない。 解らないものは断るしかない。 ……なるようになれだ。 俺は早々に考えることを放棄した。 「うん……?」 ぼうっとした頭で俺は身を起こした。 目を開けてすぐに目に入ったのは、壁時計だった。 午後9時。 「しまった……寝ちゃったか」 まだ半分寝ぼけながら、ベッドから降りる。 「夕飯作らないと……」 食事は親父と俺が交代で作っている。 料理は正直言って好きじゃないけど、母親がいないんだからしょうがない。 「親父、再婚する気ないかな……」 あの親父と結婚してくれる女性がいるかどうかは疑問だけど。 そんなことを考えながら、のろのろとキッチンへ向かう。 途中、親父の部屋を覗いてみたけど、いなかった。 キッチンにもリビングにも。 玄関にも行ってみたけど、親父の靴はなかった。 まだ帰ってきていないようだ。 「どこほっつき歩いてんだか……」 今日は遅くなるとは言っていなかった。 ……それとも、急な事件でもあったのかな? まあ、そのうち帰ってくるだろうと結論づけて、俺は夕食を作った。 夕食といっても、こんな時間じゃきっちり作る気が起こらなくて冷蔵庫にある残り物と冷凍物だけど。 それをひとりで食べた。 その間、親父は帰ってこなかった。 食器を洗って片づけていると、玄関のインターホンが鳴った。 「親父?」 と思ったが、親父なら鍵を使って入ってくるだろう。 俺は食器を置き、玄関へ急いだ。 その間にも、数回インターホンが鳴った。 「はいはい、ちょっと待ってってば」 鍵を開けて、ドアを開ける。 「うわっ!?」 途端、ドアの外にいた誰かが倒れ込んできた。 俺はそれに巻き込まれ、廊下の床に倒れ込んだ。 「痛っ」 打ち付けた背中と、倒れ込んできた誰かの重み、それから昨日の怪我。 ほぼ全身に痛みが走って俺は呻いた。 「環ぃ〜」 俺の耳元で、聞き慣れた声。 「……親父」 倒れ込んできたのは親父だった。 しかも酒臭い。 「環君、大丈夫?」 「え……あれ、貴子さん?」 もうひとつ聞き慣れた声がして、視線を向けると貴子さんがそこに立っていた。 「ごめん、環君」 「はあ……で、何ですか、これ」 まだ俺にへばりついている親父を見て聞く。 「見ての通り、酔っ払い」 貴子さんは苦笑を浮かべている。 「酒弱いのに、こんなになるまで飲むなよな……」 呆れながら、痛む身体を押して親父を押し退ける。 親父はぐったりして、意味をなさない言葉を呟いていた。 「親父、部屋に運んできます」 「私も手伝うわ」 「いいですよ、大変だし」 「大丈夫よ、ここまで私ひとりで連れてきたんだから」 「でも……」 「環君、怪我してるんだから遠慮しないの」 「はあ……すみません。じゃあ、お願いします」 そう言われると俺は頷くしかない。 実際、すごく痛いんだ。 藤吾に手当てしてもらったから大して痛くはなかったのに、親父のせいで痛みが戻ってきたどころか悪化してしまった。 面倒見切れないよ、ホントに。 ……とか言っても結局は親父のこと見捨てられないんだけどさ。 普段はあんなだけど、一応は父親として認めてるんだから。 ちゃんと肉親の情ってのもあるし。 俺をひとりでここまで育ててくれたの、親父だしな。 ……でも、こういう時はやっぱり母親がいたら、と思ってしまう。 「……親父、再婚しないのかな……」 さっきも思ったことを、口に出す。 「えっ……!?」 と、貴子さんが驚いたように俺を見た。 「え……?」 俺はどうして貴子さんがそんなに驚くのか解らなくて、聞き返してしまう。 「あ……ううん、何でもないの」 「そうなんですか?」 「ええ、ただ……」 「ただ?」 「環君はお母さん欲しいのかなって」 「欲しいって言うか……まあ、親父が再婚するって言っても反対はしませんけど」 むしろ大歓迎だ。 貴子さんを見ると、黙って考え込むようにしている。 「貴子さん……?」 「あ、ううん。さ、早く運んじゃいましょ」 そう言った貴子さんはいつもの貴子さんだった。 ……気のせいかな? 何か様子が変だったけど……。 親父を部屋に運んで、俺は水を持ってきた。 それを貴子さんが親父に飲ませる。 親父はかなり泥酔していて、飲ませるのに苦労していた。 貴子さんは嫌な顔を見せることなく、少しずつ飲ませていく。 ……? 何か、違和感を覚えた。 それが何なのかは解らなかったけど。 「眠ったみたい」 貴子さんが空になったコップを持って立ち上がった。 「明日は非番だし、このまま寝かせときましょ」 「あ、はい」 違和感を拭いきれないまま、俺は頷く。 それから、2人でキッチンへ行った。 「貴子さんは、飲んだんですか」 向かい合わせに椅子に座って、貴子さんに訊く。 「ちょっとだけね」 だったら水が欲しいかな。 「貴子さんも水いります?」 「ええ」 俺は立ち上がって、コップに水を注ぎ貴子さんに手渡す。 「ありがと」 一口飲んで、貴子さんはコップを置いた。 「まったくもう、いくら明日が非番だからって飲み過ぎよね」 「そうですね」 「ま、私も止められなかったんだけど」 「親父、人の言うことなんて聞いてるんだか聞いてないんだか解らないから」 俺がそう言うと、貴子さんはおかしそうに笑う。 「ホント、そうよね」 コップを再び持ち、今度は飲み干した。 「さて、そろそろ帰るわね。警部によろしく言っといてくれる?」 「もちろん。ちゃんとお詫びに行かせますから」 冗談混じりにそんな話をしながら、貴子さんを送り出す。 「俺、送っていきますよ」 「あ、いいのいいの。大丈夫だから」 もう少しで日付が変わる時間になっていた。 ひとりじゃ危ないと思って送っていこうとしたけど、貴子さんはやんわり俺の申し出を断った。 「こう見えても刑事だから。大丈夫」 「……じゃあ、気をつけて。親父のこと、すみませんでした」 「気にしない気にしない。上司の世話も部下の務めよ」 ……部下の世話をするのが上司なんじゃないんだろうか……? 貴子さんの言葉を聞いてそう思う。 ……でも貴子さんと親父なら立場が逆でも不思議じゃないかもしれない。 「じゃ、環君。お休み」 貴子さんがドアを開きながらそう言う。 「お休みなさい」 軽く手を挙げると、貴子さんが手を振る。 そして、ドアが閉められ、貴子さんの足音が遠ざかっていった。 俺は、しばらく閉じられたドアを見つめていた。 −5− 翌朝、俺はまだ酔いつぶれて眠っている親父を置いて早々に家を出た。 今朝は親父が朝食を作る筈だったけど、無理に起こしても二日酔いで何も出来ないだろうから簡単な朝食を作っておいた。 起きて、大丈夫そうだったら食べるだろう。 いつもより少し早い通学路には、あまり人はいなかった。 でも、残念なことに、朝日は雲に覆われて見えない。 「あーあ……晴れてたらすっきりすると思ったのになあ……」 昨夜から、何かもやもやした気持ちが頭の中でぐるぐる回っていて落ち着かなかった。 早く出て、朝日のまぶしさの中を歩けば少しは気が晴れると思ったのに。 そう思いながら学校への道を歩いていく。 やがて、校門が見えてきた。 「あれは……」 俺とは反対方向から校門へ向かってくる見知った生徒。 高野だった。 高野も俺に気付いたらしく、ぶんぶんと大きく手を振っている。 手を振り返すと、校門を素通りして俺の所へ走ってきた。 「お、お早うございますっ」 走ったせいで、思い切り息を切らしている。 「おはよ。ここまで走ってこなくても校門で待ってれば良かったのに」 俺は絶対に校門に行ったんだから。 「だって、折角先輩に会えたんですから、ちょっとくらい一緒に登校したいじゃないですか」 高野の言葉に俺は思わず笑ってしまう。 ちょっとって……。 ちらっと視線を校門に投げかけると、本当にちょっとの距離しかない。 やっぱ、面白いよなあ、高野って。 一緒にいると、退屈しないし、楽しい。 高野と並んで歩き出しながら、俺はまだ笑っていた。 高野はそれを不思議そうに見ていたが、やがてつられたように笑った。 「先輩、怪我は大丈夫ですか?」 校門から校舎内へ入ったところで、高野がそう言った。 「大丈夫。高野こそ、突き指は?」 昨夜、悪化しかけたことは黙っておこう。 「あ、はい。もう大分良いです。一応、湿布はまだ貼ってますけど」 そう言って、俺に指を見せる。 「でもこれ、昨夜貼り直してそのままなんですよ。だから、保健室で湿布もらおうと思って」 「俺、貼ろうか? 藤吾みたいに上手くないけど、自分でするよりましだろ?」 「えっ? い、良いんですか?」 「良いよ」 俺は、教室へは行かず、直接保健室へ高野を連れて行った。 昨日の朝、藤吾と高野と俺の3人がいた保健室に、今日は高野と2人でいた。 違うのは、高野に湿布を貼っているのが藤吾じゃなくて俺だってことだ。 俺は高野と向かい合って、指に湿布を貼ってやる。 ……貼ってやる、というのがおこがましいほど、俺の手つきは不器用だったけど。 でも高野は嬉しそうだった。 だから俺は満足することにして、湿布を貼り終えた。 「ありがとうございます、先輩。……すみません、こんなことしてもらって……」 何か、会うたびに高野は俺に謝っているような気がする。 そして、そんな高野を見ていたら、不意に昨日のことが思い出された。 高野の、告白。 それに対する、俺の答え。 「……先輩?」 黙り込んだ俺に、心配そうな高野の声が聞こえてきた。 「あの、さ。昨日の返事なんだけど」 俺がそう言うと、高野は黙って立ち止まり、俺の顔を見る。 「……はい」 緊張した声。 俺は、息を吸い込んで、一気に言った。 「俺、高野と付き合えない。ごめん」 どう言おうとか。 傷つけないようにとか。 そんなことを考えて、でも結局はきちんと考えていた訳じゃなくて。 そして、実際に高野に言った言葉は、当たり前の断りのもので。 その言葉で高野がどう思うかって、それは言った後に気付く。 ちょっと言い方がきつかったかも……そう、思ってしまった。 「……俺のこと嫌いですか?」 「な、何言ってんだよ、そんなわけないじゃん」 高野の表情が痛くて、俺は慌てて否定した。 嫌いじゃないよ。 好きか嫌いかって聞かれれば、好きだと思うし。 でもそれは、後輩としてで。 昨日知り合ったばかりだけど、俺は高野のこと、可愛い後輩だと思ってるから。 でも、それだけなんだ。 「じゃあ、俺が男だからですか? それとも年下だから……?」 明るく元気な様子が消え、俯いて肩を落としながら、それでも懸命に言葉を継ぐ。 「そうじゃないよ。そうじゃなくて……」 男に……高野に好きだって言われても、嫌悪感は感じなかった。 年下だからなんてのも関係ない。 問題は、俺が恋愛感情ってものをよく解っていないこと。 だから。 俺がそう言うと、高野は顔を上げた。 その表情は、どこか安堵したような様子だった。 「……だったら、試しに付き合ってみませんか?」 「はあ……?」 「俺、本当に先輩のこと好きなんです。先輩が俺を振る理由がそれなら、まだ可能性はありますよね」 「高野……?」 「だから、俺と付き合ってください。恋愛感情が解らないなら、これから知れば良いんですよ。ね?」 「ええと……」 つまり……? つまり、こういうことか? 高野のことを嫌いじゃないのに恋愛感情が解らないから振るのは納得いかない。 だったら付き合ってみてから考えろと。 ……端折りすぎかもしれないが……要するに結論は、俺に高野と付き合えと。 ……でも、それで良いんだろうか……? 確かに俺は恋愛感情が良く解らないし、それを知りたいって気持ちもないわけじゃないけど。 それで付き合うっていうのも変じゃないか? そりゃ、高野の言っていることが解らないってこともないけど……。 「先輩、良いですか?」 「え……あ、うん……」 「本当ですか!?」 「ああ、うん……まあ……」 歯切れが悪い。 自分でも何で頷いたのか解ってない。 「嬉しいですっ、ありがとうございます!」 途端に、高野の表情が明るくなった。 ……というよりは、明るすぎだろう……。 さっきの肩を落とした高野のかけらもない。 でも……。 俺は、そんな高野の笑顔とか明るい表情が、一番好きだから。 高野が落ち込んでいるのは、見たくない。 だから、……まあ、良いか。 俺は単純に、そう結論を出してしまったのだった。 「それじゃあ先輩、俺教室に行きますね。帰り一緒に帰りましょう!」 「……ああ」 俺が生返事をすると、それに気付いているのかいないのか、高野は立ち上がって俺の顔を見る。 そして、嬉しそうに笑うと、腰を屈めて俺に近づいた。 え……? そう思った次の瞬間、保健室のドアが開いた。 高野は俺から離れ、ドアのほうへ歩いていく。 保健室の入り口の所に立っていた藤吾に軽く頭を下げると、そのまま保健室を出ていった。 「藤吾」 高野を見送ると、ドアを閉じて藤吾が俺の前に座った。 「あの1年と一緒だったのか」 「ああ。……藤吾は何でここに?」 「靴箱にお前の靴があるのに教室にいないから、多分ここにいるだろうと思ってな。怪我の具合、見せてみろよ」 俺は袖を捲って腕を出した。 昨日の朝、手当てしてもらってからは何もしていないから、藤吾の言ったことはありがたかった。 「でもあの1年もいるとは思わなかったけどな」 傷の様子を見ながら、藤吾は言う。 「ああ、偶然会ったんだよ、校門のとこで。で、突き指がちょっと心配だったからさ」 「そっか……何かあったのか?」 鋭い。 「……何か、高野と付き合うことになった……みたい」 隠せるはずもなく、というか元より隠すつもりはなかったので、俺は正直に答えた。 「はあ? 何だ、それ……」 藤吾が驚くのも無理はないと思う。 俺だって驚いてる。 まあ、俺の場合は驚いてると言うよりは放心、というか呆然というか、なんだけど。 「……まあ、環が納得してるなら俺は何も言えないけど……学校であんなことすんのやめろよ」 「あんなこと……?」 藤吾があっさり話を受け入れてくれた安心感よりも、疑問のほうが大きい。 あんなこと……って、何だ? 「……キスしてただろ」 「キ……? 誰が?」 「お前が」 「……誰と?」 「あの1年と」 「嘘言うなよ」 「嘘じゃねえよ」 鳩が豆鉄砲を食らったような顔を、今まさに俺はしていると思う。 だって……キス? 「そんなの知らな……あっ」 ……もしかして、さっきの……。 高野が腰を屈めて近づいた時に、何かが触れたような気がしたけど……。 あれが、キス……だったんだろうか? 「……あのさ」 俺がさっきのことを思い出していると、不意に藤吾が呟いた。 「お前、ホントにそれで良いのか?」 「良いって、何が?」 「本気であの1年と付き合うつもりか?」 「本気でって……」 試しに付き合うのは、本気じゃない。 「だからな……あの1年と付き合っても良いのかって言ってんだよ」 「……まあ、うん……」 成り行きと勢いと、押し切られたのと。 そして自分の良く解らない感情と。 頭の中がぐちゃぐちゃだった。 「環……お前、自覚ねえのか?」 「自覚って?」 「ほんっとに気付いてねえの?」 「だから、何を?」 「…………」 何なんだよ、一体……。 今日の藤吾はどこかおかしい。 「何言ってんのか解らないよ」 「……自分で気付くまで待てよ。俺が言ったら意味ねえしな……」 そう言って、藤吾は黙り込んだ。 もう何も言う気はない。 そういうことだ。 黙って俺の怪我を看ている藤吾の手を見下ろした。 困惑して、頭の中を整理できなかった。 俺は、藤吾の言ったことも自分の気持ちも、何もかも解っていなかったんだ。 −6− 高野と付き合いだして数日。 初めは、付き合うってどんなのなんだろうと戸惑っていたけど、特に何も変わらなかった。 相変わらず、高野は先輩先輩と元気に話しかけてくる。 周りから見れば、仲の良い先輩後輩に見えるだろう。 あの日のキスのことも、俺は高野に何も聞かなかったし、高野も何も言わなかった。 藤吾も何も言わない。 本当に、いつもの日常だった。 俺は、そのことにどこか安堵していた。 違うことと言えば、高野と一緒に帰るようになったことくらいだろうか。 でも、高野がいるのが当たり前みたいにはなってきていた。 その日も、高野と一緒に帰っていた。 帰るといっても、俺と高野の家は正反対の場所にあるから、一緒に帰るというよりは、友達と放課後に遊んで帰るような感じだった。 でも、今日は、いつもと違っていた。 高野が、俺の家に行きたいと言ったのだ。 俺はそれを承諾して、今、家に向かっているところだった。 隣を歩いている高野を見れば、本当に嬉しそうだ。 何というか、高野のことを放っておけない自分がいる。 でも、それが恋愛感情じゃないとは思うけど。 あんまり変わらないものだから、それについて考えなくなっている気もする。 そう思うと、高野に対して少し罪悪感を感じたりもしていた。 「お邪魔します!」 マンションの部屋に着くと、高野はそう言って部屋に上がった。 飲み物を用意して、リビングに並んで座る。 コップを手にする高野の指をふと見た。 もう、すっかり突き指は治ったようだ。 「あ、もう大丈夫なんですよ。明日から部活も出ようと思ってますから」 俺の視線に気付き、高野が笑って告げる。 「部活?」 「俺、バレー部なんです。朝練の時に突き指しちゃって」 俺は、今更ながら高野のことを何も知らなかったことに気付いた。 バレー部だってことも、突き指の理由も。 高野は俺のことを知っているのに、俺は何も知らない。 聞こうともしなかった。 好きだと告白されても、考えるのが嫌で……理解できないことを考えるのが億劫で。 ……もしかしたら俺は、高野の告白を真剣に受け止めていなかったのかもしれない。 「でも、部活出てたら先輩と一緒に帰れないんですよね。それはちょっと残念かな」 「高野……」 無邪気に、でも寂しそうに笑う高野に、俺は言葉を失う。 ……本気、なんだ。 俺には良く解らない感情だけど、でも―――。 高野が、真剣だということはすごく伝わってきて。 こんな曖昧な状況でいることが、高野に悪い気がする。 でも俺の答えは出ていない。 好きだけど、それは例えば……そう、親父に対する気持ちに似ているような気がする。 何となく、放っておけない。 いつも高野を見るたびに思う、そんな気持ちが。 親父とは全然違うのに、何故か、そう思ってしまう。 親父は俺の親のくせに本当に子供みたいで危なっかしくて。 でも、高野は――― ……高野は、何なんだろう――― 「先輩、俺……」 気がついたら、高野が俺のすぐ近くにいた。 俺はそれをじっと見ているだけだった。 思い詰めたような高野の表情から目を離せなかった。 だんだんと近づいてきて、触れるか触れないかという時。 「環ー」 間の抜けた声が響き渡って、リビングのドアが勢いよく開かれた。 高野はすぐに離れる。 勿論、俺も。 「お、お帰り」 そう言ってから、俺はいつもより早い親父の帰りに首を傾げた。 「親父、仕事は?」 「今日は早番。それと……ちょっと環に話したいことが」 「話したいこと? 何?」 「あー、でも、お客さんもいることだし、また今度でいいよ」 親父の視線が高野に向けられる。 それから後ろを向き、 「……というわけなんだ」 と声をかける。 誰かいるのかなと、ドアの向こうを見遣ると、貴子さんが立っていた。 「貴子さん?」 「こんにちは、環君」 にっこりと笑って、リビングに入ってくる。 俺はそれを妙な心境で見ていた。 話って、貴子さんに関係あること……? だから、貴子さんを連れてきた? 話って、……。 「友達?」 親父が訊くのに、考え事をしていた俺は反応が少し遅れる。 そして慌てて頷いた。 「ああ、後輩で……」 「違います」 「……え?」 俺の言葉を遮って、突然高野が言った。 俺は、高野の行動が解らなかった。 「友達じゃなくて、恋人です」 「た、高野っ?」 俺は目を剥いた。 何て事を言うんだよ。 親父の前で。 そりゃ、まるきり嘘ってわけじゃないけど。 でも。 「そうなのか? それは勘違いして悪かったね」 親父は驚いた様子もなく、軽くそう答えている。 ……そうだった、親父はそういう人だった。 眩暈を覚えながら、そのことを思い出す。 俺は親父と高野を交互に見遣りながら、何を言うべきか考えていた。 高野が何故、恋人だなどと言ったのか。 解らなかった。 それでも、何か言おうと口を開きかけた時、 「あら、そうなの?」 貴子さんの声が、耳に入ってきた。 「あ……」 そうだった、貴子さんがいるんだ。 高野は貴子さんの目の前で。 「違うっ。高野はただの後輩でっ」 そう思ったら、叫んでいた。 誤解されたくなかった、貴子さんに。 どうしてかわからないけど。 でも、誤解されたくなかったんだ。 「そ、そう……」 俺の剣幕に驚いた様子で、貴子さんはそう呟く。 今俺がどんな顔をしているのか自分では解らないけど、そんなの関係なかった。 高野の呟きを聞くまでは。 「……やっぱり……先輩は……」 「え?」 その先は、小さすぎて聞こえなかった。 でも高野の傷ついた表情を見て、俺は自分の言ったことを後悔した。 思い切り、否定してしまった。 一応、付き合っているのに。 それなのに。 「……俺、もう帰りますね。お邪魔しました……」 力無く、それでも立ち上がると、高野は逃げるように部屋から出て行ってしまう。 「高野……」 俺はその場でそれを見送るだけで。 遠ざかっていく足音を聞いているだけだった。 「追いかけなくて良いの、環君?」 貴子さんの声に、俺は我に返った。 「あ、でも……」 追いかけて、何と言えば良いんだろう? 追いかけても、俺は何も言えない。 高野を傷つけたことが解っていても。 「考えてる場合じゃないでしょ? 環君。追いかけよう、ね?」 貴子さんにそういうふうに言われると弱かった。 逡巡する俺を、貴子さんが促す。 「さ、行ってらっしゃい」 「……はい」 俺は家を出た。 貴子さんに言われたから、ただそれだけにしては、俺は慌てていた。 家を出る前は逡巡していたのに、いざ外に出てしまうと、俺は走り出していた。 今から走れば追いつけるかもしれない。 そう思って。 でも……。 学校。 高野と2人で行った喫茶店。 高野の話と自分の記憶をたぐりよせて、高野の家も探す。 1年ほど前、親父の仕事の手伝いをした日に、行った場所。 その近くに高野の家があるはずだから。 高野の話を思い出しながら、ようやく見つけた高野の家だったけど、留守だった。 「どこに……」 ここまで、高野を見つけることは出来なかった。 そのことに苛立ちながら、俺は来た道を戻る。 学校の前に着く。 ここで一旦休むことにして、壁に背を預ける。 高野。 あんな高野、初めてだった。 俺が、そうさせた……。 どれくらいそうしていただろうか。 もう高野は家に帰っているかもしれない。 もう一度、行ってみようか……。 そんなことを考えていると、ふと傍に誰かの気配を感じた。 「環? 何やってんだ、こんなとこで。帰ったんじゃなかったのか?」 「藤吾……」 声に振り返ると、そこには藤吾がいた。 心配そうに、俺を見て。 「何か、あったのか?」 「藤吾、俺……」 ここで、藤吾に会えたことで俺はほっとしていた。 縋るように、俺は呟く。 藤吾に、頼ってしまう。 俺、本当は……。 自分で思っているよりずっと、弱い……。 だから、藤吾に甘えてしまうんだ。 藤吾は俺を甘やかしたりはしないけど、ちゃんと話を聞いてくれるから。 俺は、安心できる。 藤吾の存在が俺にとってどんなに大きいか、改めて思い知った。 −7− 「それで? 何があったんだ?」 藤吾の部屋に着いて、すぐにそう問われた。 俺は、隠すことなく全て話した。 高野が家に来たこと。 親父と貴子さんが話があると言ってきたこと。 高野が親父と貴子さんに、俺の恋人だと言ったこと。 貴子さんに聞き返され、思わずただの後輩だと言ってしまったこと……。 動けずにいた俺に貴子さんが追いかけなくても良いのかと言ってくれて、高野を追いかけた。 そして、慌てて探し回ったことを……。 「俺、高野のこと、傷つけた……」 藤吾は黙って聞いてくれていた。 「あんなにきっぱり否定しなくても良かったのに……」 「環」 不意に、藤吾が呟く。 俺は藤吾を見遣った。 「お前は何で、親父さんに訊かれた時は何も答えなかったのに、姉貴にはきっぱり否定したんだ?」 「何でって……誤解されたくないし……」 「何で、誤解されたくないんだ?」 「それは……」 何でだろう……? 「お前は何で、高野のことを慌てて追いかけたんだ?」 「それは、俺が傷つけたから……」 「それだけか? 傷つけたから追いかけただけなのか? 校門の前での環の様子はそんなもんじゃなかったぞ」 「と、藤吾……?」 常とは違う藤吾の様子に、俺は戸惑った。 校門前では確かに、半ば途方に暮れていたけど……。 「環。もう答えは出てるだろ? お前が自覚していないだけで」 「何だよ、それ……全然解らない」 「逃げるな。逃げるなよ、環」 逃げる……? ……ああ、そうか。 確かに逃げているのかもしれない。 高野の気持ちからも藤吾からも。 自分の気持ちにさえ。 解らない、それを免罪符にして、逃げているだけ。 さっきから自分でもそう思っていたことだ。 それを、他の人から……藤吾の口から聞くと、ああやっぱり、と思うんだ。 思ったんだ。 はっきりと。 解らないだけじゃ、何も解決しない。 自分の気持ちと向き合わなければ。 藤吾は自覚していないだけだと言った。 だったら、俺は。 逃げずに向き合えば、答えが出ると、自覚するというなら。 「……解った、藤吾。考えてみるよ、ちゃんと……」 逃げずに。 藤吾は、僅かに表情を緩めて俺を見ていた。 でもひとつ、問題がある。 それは高野のことをどうするかということだ。 傷つけたことを謝りたくても、まだ俺は自分と向き合えていない。 だったら謝っても、高野には届かないんじゃないかという気がする。 でも今のまま、高野を傷つけたまま放っておくことはもっと出来ない。 どうすれば良い? そんな俺に答えを示してくれたのは、やっぱり藤吾だった。 『今の環の気持ちをぶつければ良いんじゃないか? 答えは出ていなくても、言えることを言えば良いんだ。後は高野とお前次第』 藤吾はすごい。 どうしてそんなことを言えるんだろう。 俺に、藤吾の半分でも――……いや、俺は俺だよな。 藤吾は藤吾。 今俺に出来ることは、高野に会うこと。 それなのだから。 「しまった……」 俺はいつも着く時間に校門前にいた。 高野を待つためだ。 でも、どれだけ待っても来ない。 どうしようかと思っているところに、思い出したんだ。 高野は昨日、『明日から部活に出る』と、そう言っていた。 ということは、高野は既に学校に来ているということで……。 いくら待っても、校門には現れない。 「……放課後まで待つか……」 ……いや、放課後も部活はあるだろうから……。 昼休みに高野の教室へ行こうと決める。 「あ、駄目だ……」 俺は高野のクラスを知らない。 高野は言わなかったし、俺も聞かなかったからだ。 今頃、聞いておけば良かったと後悔したが、もう遅い。 ……仕方がない。 1年のクラスの階に行って、聞いて回ろう。 昼休み、俺は朝考えたとおり、高野のクラスを探した。 それはすぐに見つかり、高野の教室の前に立つ。 近くにいた生徒に、高野を呼んでくれるよう頼んだ。 教室の中をちらっと覗くと、高野がこちらを向いた。 一瞬、驚いたような顔になって、すぐに立ち上がる。 「せ、先輩……? 何で……」 足早に、俺の前にやって来る。 俺が何故、ここまで来たのか解らないみたいだった。 そんな高野を、俺は屋上に連れて行った。 「昨日は、ごめん」 まずは謝る。 それから俺の今の気持ちを。 答えは出ていなくても、今の時点の俺の気持ちを話した。 高野は俺の顔は見ずに、それでも話は聞いているようだった。 「傷つけてごめん。俺、貴子さんに誤解されると思って、それだけであんなこと言ったんだ」 全て言い終わると、俺には高野が何かを言ってくれるのを待つことしかできない。 黙って、高野を見ていると。 いくらか後、高野は俺の顔を見返した。 「……本当は解ってました、俺。先輩の気持ち。昨日はそれを再確認させられたっていうか……それで逃げるように帰ってしまって。俺の方こそ、すみませんでした」 「高野が謝ることは……」 「いいえ。俺が悪いんですよ。先輩の気持ち、知ってたのに……先輩の気持ちが別の人に向いていても絶対こっちを向かせてみせるって……思っちゃったんですよ、ね……だから恋人だなんて言ってしまって。先輩が否定するのも当然ですよね」 「高野……」 「でもそれでも、俺は先輩を諦められませんから」 会話をしている間、俺は高野の言葉に首を傾げてしまう部分があった。 高野は、俺の気持ちが別の人に向いていても、と言わなかったか? 俺の気持ちって……。 藤吾も高野も、俺の気持ちが解っているのだと言う。 当の俺が解らないのに、何故、解ってしまうのだろう……? 俺は考える。 俺の昨日の行動。 藤吾との会話。 そして今、高野が言ったこと。 俺が貴子さんに対してあんなにきっぱりと否定してしまったのは、誤解されたくなかったからで。 それは、つまり――― つまり俺は、貴子さんのことが――? だったら……高野が恋人だと言ったのは……親父に対して言ったのではなく……。 貴子さんに、言った……のか……? 何故? それは、俺の気持ちが貴子さんに向いているのが解っていたからで……。 「俺……」 今頃、気付くなんて。 「俺は」 貴子さんが、好きなのか――― 「先輩、ようやく気付いたんですね。……俺としてはちょっと複雑ですけど」 俺が自覚する前から、藤吾も高野も解っていた。 それは、俺を見ていたから……? 俺が遠慮がちにそう言うと、高野は頷いた。 「そうです。あの時、先輩は貴子さんは恋人じゃないって言ってましたけど、でも貴子さんと話している時の先輩は、遠くから見ていただけでもすごく楽しそうで」 そうだったっけ? 俺はあの時、疲れていて良く覚えていないけど。 高野から見れば、楽しそうだった……? でも、それだけで俺の気持ちが解るなんて。 それだけ高野は俺を見ていてくれた……? 俺は……。 何だか、胸の奥が熱かった。 俺も高野も、何も話さない時間が過ぎる。 沈黙を破ったのは高野だった。 「先輩、お願いがあります」 「お願い?」 何かを決心したように、真剣に、強い瞳で、俺を見る。 「はい。今度……今度、お父さんの仕事の手伝いをする時、俺も連れて行ってください」 「なっ!?」 「お願いします」 お願いしますって……。 そんなの、簡単にOK出来る筈がない。 「駄目だ……そんなこと、絶対に」 俺は、いつになく強い口調で言った。 「先輩」 「何て言われても、駄目なものは……」 「先輩!」 高野が俺に対して声を荒らげるのなんて、初めてかもしれない。 つまり、それだけ、本気だということ。 「高野……」 「俺、譲れませんから。絶対に、行きますから。だから、ちゃんと連絡してください、お願いしますっ」 そう言った時の高野の目は、絶対に引かないという強い意志を示していた。 −8− 「駄目」 珍しく硬い表情をして、親父ははっきり断りの言葉を言った。 そう言うと思ったよ。 俺だって本当は嫌なんだから。 でも―― 「俺だって親父の手伝いやってるんだし、良いだろ?」 「駄目だって。環は俺の息子なんだから別に良いけど、高野君は違うんだから」 ……ちょっと待て。 何か今、聞き捨てならないことを言われたような……。 「余所様の息子さんにそんなことさせられないよ」 哀しいほど正論だけど。 「親父……自分の息子でも、させたら駄目だと思うんだけど」 それに、余所様の息子だとか自分の息子だとか言う以前の問題だと思う。 確かに俺は、どうしても断れなくて手伝ったりしてる。 でも本来、刑事の仕事を高校生の息子に手伝わせるのはおかしい。 それなのに。 「別に俺は構わない」 親父のその言い様に、溜息をつく。 俺が構うんだよ……。 そんなやりとりを続けながら、思う。 どうしようか……。 次に親父の手伝いをする時に、高野も連れて行く。 親父にそれを承諾させるためには、どうしたら……。 自分自身、高野を連れて行きたくないのに、親父を説得できるわけないよな……。 大体、高野は何で急にあんなことを言ったんだろう? あの会話の流れで、どうして……。 そう思いながらも、高野の願いを叶えてやりたいという気持ちもある。 だからこうして、親父と話をしているのだけど……。 「頼むよ、親父。高野、連れて行っても良いだろ!?」 俺にはこう言うことしかできなくて。 説得できるだけの材料は何もなくて。 ただ単に、「連れて行きたい」と訴えるだけで……。 「……解った、良いよ」 「だから、連れて行っても……って、え……?」 硬い表情のままで呟かれたせいで一瞬聞き逃したけど、有り得ないことを言われたような……。 今、何て言った……? 「良いって」 ……嘘。 最初は渋っていたのに、まさか、あっさり考えを変えてくれるとは思わなかった。 でも、何で? 疑問の視線を向けると、親父は曖昧に微笑む。 「そんなに必死になって環にお願いなんてされたの初めてだから、まあ良いかって」 ……それで良いんだろうか……? 俺は、助かったけど。 でも……確かに、自分から何かを頼んだことなんてなかったな。 いつも俺が親父の我が侭を聞いていた方だったから。 「ただし、ばれないようにな。高校生に仕事を手伝わせたなんて上に知られたら、俺の首が飛ぶ」 「……解ってるよ」 今だって、十分危ない。 俺が手伝ってることも秘密なんだから。 俺が、他の刑事がいるところで親父を手伝ったのはただ1度だけ。 そう、あの1年前の盗難事件……あの時だけだった。 あの時は、荒らされた部屋の片づけを手伝うことだったから。 ……思えば、よく今までばれなかったものだ。 幸運だったのか、不運だったのか……。 ……でも、なんだかんだ言って、これで良かったのかもしれない。 そう思ってしまう自分が不思議だった。 「本当に良いんですかっ? ありがとうございます……っ」 俺が、親父の返事を伝えると、高野は飛び上がらんばかりに喜んだ。 満面の笑みで。 「先輩、ありがとうございました」 「……俺?」 高野が俺に御礼を言ったのに、驚いた。 「だって先輩が、お父さんに頼んでくれたんですよね? 俺のために……」 「…………」 高野のために―― その通りなのだが、何となく気恥ずかしかった。 でも、何だか久しぶりに高野の明るい表情を見られたような気がして、俺は嬉しかった。 高野が嬉しいと、俺も嬉しい――? 自分の気持ちが解らなくて、俺は喜ぶ高野の顔をじっと見つめていた。 あれから1週間。 特に事件もなく、日々は過ぎていった。 俺と高野の関係も曖昧なまま。 だって俺は―― 貴子さんが好きだと自覚した以上、高野と試しにでも付き合うということに一層、罪悪感を感じてしまうのだ。 俺、どうしたら良いんだろう……。 さすがに貴子さんの弟の藤吾には相談できなかった。 藤吾が俺の気持ちを知っていたとしても、俺が自覚したことを解っているとしても、できないと思うのだ。 親友と姉の間に立たせることなんてできなかった。 自分の気持ちを持て余す。 本当に、どうしたら良いのか解らない……。 貴子さんに告白することなど考えられなかった。 高野とのことを曖昧なままにしておくのも気が引けた。 この1週間、俺はいつまでも答えの出せない状態で、考え続けることしかできなかった。 そんな時だった。 俺と親父が、貴子さんの家に招かれたのは……。 そこは来慣れた場所のはずだった。 何度も何度も、遊びに来た場所。 でも……何かが違うような、そんな気がした。 違和感、とでも言うのだろうか。 目の前に親父と貴子さんが並んで座っていて。 俺の隣には藤吾がいて。 さっきから、重苦しい空気が流れている。 「……環君、急にごめんね。この前、環君の家に行った時に言おうと思っていたことを、今、言おうと思ってるの」 この前――高野が家に来た時のことだ。 親父がちょっと話があると、そう言っていた。 それきりだったことを、今、言おうとしているのだ。 「環、藤吾君。これは二ノ宮君のご両親にはもう言ったんだけど――」 親父がそこまで言うと、貴子さんが自分が話すからと言ってそれを制する。 そして、真剣な表情で、でも少し言いにくそうに、話し出す。 「あのね、私――環君のお父さんと、結婚、しようと思ってるの」 「け、……」 けっこん……? 「その……ずっと前から、付き合っていたんだ。再婚も考えていて……でも、環がどう思ってるか解らなかったから黙っていた」 俺は、呆然と目の前に座る2人を交互に見ていた。 「そんな時に、二ノ宮君が、環が再婚は反対しないと……そう、言っていたって。だから、環にきちんと言おうと思ったんだ」 「再婚……」 確かにそう言った。 再婚に関して反対はしないと。 それに、むしろ早く再婚してくれないかなと思っていたくらいだった。 でも……でも、それが、その相手が、貴子さんだなんて―― 「――姉貴」 不意に、隣の藤吾が口を挟んだ。 俺は、驚いて藤吾の顔を見遣る。 まさかとは思うけど……言ったりしない、よな? 俺の気持ち……。 「おめでとう」 そんなふうに思っていた俺の耳に聞こえてきたのは、祝福の言葉だった。 「藤吾……」 安堵と、少しの不安を抱えながら、藤吾の名を呼ぶ。 藤吾は、俺を安心させるように僅かに笑うと、俺の頭をぽんぽんと優しく叩いた。 「…………」 複雑な気分だった。 ショックも受けた。 自覚したと思ったら、失恋した。 そんな思いが、頭の中を駆けめぐる。 でも今、俺が言えることは。 言わなければならない言葉は。 「……おめでとう、親父、貴子さん――……」 何で、こんなこと言っているんだろう、俺。 何で、こんなこと言わなければならないんだろう―― でも……どうしてだろう。 確かに哀しくはあったし、衝撃を受けた。 それなのに、どうして……。 もっと震えたりするかと思っていたのに……「おめでとう」の一言を、平静に言えたんだろう。 それを言うことに躊躇いはあったけど、言った後で後悔はしなかった。 貴子さんが俺の義母になるのは変な気分だけど、嫌ではなかった。 どんなにショックを受けても、失恋したと思っても。 それでも、何故か、親父の再婚を受け入れている。 親父と、自分が好きな相手との結婚を、受け入れることが出来ていた。 それは、何故……? まだぎこちなさは残るものの、先程までの重苦しい空気は消えていた。 親父も貴子さんも、俺の言葉を聞いて、安心したようだった。 ふと、俺は貴子さんに訊いてみたくなった。 「……貴子さん。貴子さんは、親父のどこが良いんですか?」 それは、嫉妬とか、親父とのことを認めないとか、そういう思いで出た言葉ではなく。 ただ、純粋にそう思ったのだ。 「そうねえ……」 しばらく考えて、貴子さんは口を開いた。 「放っておけないっていうのが1番かな。危なっかしくて、どっちが上司なんだか解らないし」 その言葉に、咎めるように親父が貴子さんを見る。 貴子さんは、笑顔でそれを返し、言葉を続ける。 「でもね、何だか安心できるのよ、一緒にいると。楽しいことも辛いことも、この人とだったら大丈夫って思えるの。……この人が嬉しいなら私も嬉しいのよ」 貴子さんの言葉はまっすぐで、迷いがない。 そう言い切れる貴子さんが、少し羨ましかった。 それに……貴子さんが今言った言葉は、俺にも当てはまるのかもしれない。 この前、確かに思ったから。 “高野が嬉しいと、俺も嬉しい――?” 今なら、疑問ではなく、確信だと思える。 高野が嬉しいなら、俺も嬉しいのだと。 それがどういうことなのか良く解らないけど。 貴子さんの親父に対する想いとは違うだろうけど。 俺の高野に対する想いは、もしかして―― 俺の中で、何かが、少しずつ変わり始めているような、理解していっているような、そんな気がした。 「まあ、息子が2人出来たと思わないでもないんだけどね」 貴子さんが笑いながら言うのに、場が和む。 「環」 藤吾が俺を呼ぶのに、何かと思ってそちらを見ると。 「改めてよろしくな? 俺の甥っ子になるんだもんな、環は」 「――え」 からかうように手を差し出す藤吾に戸惑う。 「俺の姉の、息子なんだから、俺にとっては甥だろ?」 「ええっ?」 ってことは、藤吾は俺の叔父さんになるのか? クラスメイトで親友の藤吾が、俺の叔父!? ……いや、良い相談相手だとか保護者みたいだとか思ったりする時はあるけど……それとこれとは話が別だと思う。 「うっそ、そこまで考えてなかった! 親父、貴子さん、結婚取りやめてくれ!」 「それは無理」 間髪入れずに、親父と貴子さんが同時に答える。 藤吾は憮然とした顔で俺を見ていた。 「……冗談です」 半分は。 俺は心の中ではそう思いながら、言った。 でも、最近、何かと悩むことや考えることがありすぎて。 だから、今のような時間は、とても温かくて、心地良かった。 こんな家族なら、きっと楽しいだろうと、そう思えた。 でも、その時間は、1本の電話によって破られたのだった。 −9− 「高野君は、まだ!?」 「さっき電話しました。容疑者の特徴だけ話して、来る途中で見つけたら連絡するようにって」 「……そう。じゃあ、私たちも分散しましょ」 「あ、俺、ひとりで大丈夫ですよ。貴子さんは親父と行ってください」 「え、ええ……じゃあ、後で」 貴子さんが行ってしまうのを確認して、俺はほっと息をつく。 「何だかなあ……」 慌ただしい。 先程、貴子さんの携帯にかかって来た電話。 盗難事件が起きて、その犯人と思われる人物が、この辺りに逃げて行ったという目撃証言があった。 その人物を捕まえろ、と。 そして、その人物の特徴を述べて電話は切れた。 応援が遅れるそうなので、それまでなら俺も手伝えるからと、こうやって外に出たのだ。 で、ひとつ迷ったことがあった。 高野に連絡するかしないか。 連れて行くと言ったし、親父もそれを許してくれた。 でも……あまり高野に関わって欲しくないと思う。 危ないから……。 結局、散々迷った末、俺は高野に電話して伝えた。 俺はここで容疑者が通らないか見ながら、高野が来るのを待っている。 途中で容疑者を見つけたら電話するようにとは言ったものの、本心では見つけないようにと思っていた。 「……遅いな」 実際は電話してからたいして時間は経っていなかったけど、もう何時間も待っているような気になる。 時計と、周囲とを交互に見る。 高野も容疑者も、まだ現れない。 待ちながら、俺は高野の言っていたことを思い出す。 盗難事件―― 高野と俺が初めて会ったのも、盗難事件の時だった。 まあ、俺は、高野に気付いていなかったんだけど。 今回――高野が一緒の事件も盗難事件だとは。 1年前とは全然違う“手伝い”でも、元はどちらとも盗難事件だということが変な感じだった。 長身で髪は茶色。サングラスを掛けた20代後半くらいの痩せた男で、グレーのスーツを着ている。 それが、容疑者の特徴だった。 今の俺は、高野でも容疑者でもどちらでもいい、とにかくどちらかにここに来て欲しかった。 とにかく、高野に容疑者を見つけて欲しくない、それだけだった。 ……自分が高野を呼んだくせに―― しばらく経った頃。 ふと視線を右端の方へ向けると、高野が走ってくるのが見えた。 「た……」 呼びかけようとして、気付く。 高野の前方に、グレーのスーツを着た男の姿が何かに追われるように急いで走っていることに。 もしかして、容疑者……? で、高野はそれを追いかけている? ……何で? 連絡するように言ったのに! 目の前で、起こって欲しくなかったことが、起こっている。 高野と容疑者の距離が少しずつ縮まっていく。 それを遠巻きに見ている人々。 ……そして自分。 「た、かの……!」 小さく叫んでも、声が届く距離ではない。 行こうと思うのに、何故か動けなかった。 高野と容疑者を見ているだけだった。 高野が、とうとう追いつく。 容疑者を追いつめる。 そして―― 「高野っ!」 俺は、慌てて高野に駆け寄った。 「何やってんだよ、連絡するんじゃなかったのか!?」 「すみません、先輩。……でも」 「と、とにかく怪我がなくて良かった」 衣服は汚れているものの、特に目立った傷などはなかったため、俺は安堵した。 高野が容疑者を取り押さえてから、しばらくの時間が経っていた。 最初、容疑者は抵抗していたが、高野が必死で押さえていたため、すぐに大人しくなった。 俺は、それまで、この前の俺のように車道に飛び出したりしたらとか、容疑者が刃物を持ってたりしたら、とか、そんなことを考えながら高野のことを見ていた。 高野が俺に気付き、遠くから身振り手振りで親父に連絡しなくて良いのかと、俺に伝えてきた。 それまで黙って見ているだけだった俺は、ようやくポケットから携帯を出して親父に連絡を取った。 そして、すぐに親父と貴子さんが来て、容疑者は連行された。 俺はその間、高野の近くに行くことが出来なくて、今、ようやくここまで来られたんだ。 「あんまり……心配させるなよ。頼むから……」 「先輩……俺……」 「うん?」 「先輩に告白して、試しでだけど付き合って……その日はつい嬉しくていきなりキスしたりして」 「あ、ああ……」 「でも自分から言っておきながら、どうしたら良いか解らなくて、結局、いつも通りに振る舞うことしかできなかったんです。……これじゃあ駄目だって思って、思い切って先輩の家に行ったのは良かったんですけど……」 「あ……、その、あれは悪かった、ごめんな」 「いいえ、良いんです。それよりも……俺、あれから考えて……決めたんです」 「…………」 「先輩に、今度手伝いをする時は俺も連れて行って欲しいって言ったのは、俺自身が変わらないといけないと思ったからなんです。先輩を見てて思ったことを、思ってるだけじゃなくて実行できれば、変われるんじゃないかって……」 そういえば、高野は言っていた。 1年前もこの間の時も、見てるだけで何もしなかったと。 だから? だから、今度は見てるだけじゃなくて、自分で動きたかった……? 「でも駄目ですね。上手くいかない……」 「そ……ない……」 「え……?」 「そんなことないよ。高野は頑張ったよ、頑張ったから……」 俺は、高野の肩に頭を乗せて、呟いた。 俺だって、同じ気持ちなんだ。 さっき、俺は何も出来なかったから。 見ているだけだったから。 あの時の高野と同じ思いを、俺はしたんだ。 だから良く解る。 何も出来ないってことが、どんなに辛いかということが。 でもそれでも、高野は自分の力で頑張ったじゃないか。 俺は訴えるようにして、それを言葉にする。 「先輩……」 高野のこと、放っておけないと思ったのは。 親父みたいに子供みたいだからとか危なっかしいとか、そういうことじゃなくて。 一生懸命で、ひたむきで。 俺のこと、好きだって言ってくれて。 そんな高野を、見ていたいと思って。 放っておけないのは――ただ、俺が高野をずっと見ていたい、それだけだから。 放っておけないというよりも、目を離したくない。 そういうこと、なんだ―― ……でも、今回みたいにひとりで無茶やるなんて、やっぱり少し危なっかしいかもな。 そう思ったら、笑いがこみ上げてきた。 「先輩?」 高野の声が、訝しげになる。 俺……。 俺は、高野のこと……。 それが恋愛感情かどうかなんて解らないけど。 でも、思う。 恋愛感情が何なのかなんて、考える必要なんてなかったんじゃないかって。 考えて答えが出なくても良いんじゃないかって思う。 そんなもの考えなくても、俺は、別の答えを見つけられたんだから……。 「先輩……?」 ますます困惑したような声で、高野が俺を呼んだ。 当然だ。 自分でも自分の行動に驚いていた。 俺は、気付いたら高野を抱きしめていたんだから。 「俺、恋愛感情が何なのか、未だに解らないんだ。貴子さんのこと好きだったのも、恋愛感情なのかどうか良く解らない……でも好きは好きだった。誰かがそれが恋愛感情なんだって言えばそうなのかもしれない。そんな曖昧なものだけど――俺は今、高野のことずっと見ていたいと思ってる。一緒にいると楽しいし。そういうのじゃ駄目か? これは恋愛感情って言わないのか?」 貴子さんと親父を祝福できたことを後悔しなかったのは、きっとこういうことだったんだろう。 俺の中での高野の存在が、貴子さんを上回ってしまったんだ。 「せ、んぱい……」 抱きしめているから、高野が今どんな表情をしているのか解らない。 でもその声から、驚きだけではないことを知る。 「俺は、高野のこと、好きだよ――」 俺の精一杯の気持ち。 恋愛なんてしたことがないから全然解らない今の俺の、精一杯の真実。 考えて考えて、結局出なかった答え。 でも、高野が好きだと言う気持ちは、どんなものであれ真実。 少なくとも、友達や後輩に対しての“好き”とは異なった想い。 ……そして、貴子さんに対する想いとも、どこか違うような気がする。 それが、俺が今出せる精一杯。 「先輩、先輩……」 高野の腕が、俺の背中に回って、抱きしめ返してくれる。 こんな風に触れたのは、初めてだった。 「十分です、俺……先輩のその気持ち、すごく嬉しいです」 高野の高揚した声が、俺の耳元で聞こえた。 高揚しつつも、いつもとさほど変わらない高野の声に、どうしようもなく安心感を覚える。 抱きしめ、抱きしめられながら、俺はそっと目を閉じた。
End.
『fine today』 あとがき ここまで読んでくださってありがとうございます。 ようやく終わりました、って感じです。 何せ、最初の方は話がなかなか進まないし。 それから、最初は高野君以外の登場人物を家族にしちゃうつもりはなかったんですよ。 環の親父さんと貴子さんが結婚するのももちろん予定にはなかったし。 でも何故か途中で、こうしようと思ってしまうとどうしてもそうしたくなるもんです(苦笑) 4話はそのために書きました。 それから、終わり頃になって気付いたんですが、高野君と貴子さん、名前の読み方がちょっと似てますよね。 たまに「高野」と打ったつもりで「貴子」と打ってしまっていたことがあって、何でだろうと思っていたのですが、読み方が似てたからだったんだ、とようやく気付きました(笑) 反省点は環と高野君2人のシーンをあまり書けなかったこと。 それにしても、恋愛って難しいですよね(もちろんそれ以外のこともですが) 環の答えは、誰かの心に響いてくれるでしょうか。 もしそうなら、とても嬉しいです。 キャラについて ・藤倉環(ふじくら・たまき) 主人公です。うーん、主人公なのに、いまいち性格が掴めない気がします。 親父さんにだけ厳しい(でも本当は甘い) 動かしやすいようで、一番動かし難かったです。 思うように動いてくれなくて焦りました。 でもそんなところが良いのかもしれません(私は大変だったけど) ・高野暁(たかの・あきら) 高野君も、ちょっと動かし難いキャラでした。 でも環よりも性格がはっきりしている分、書きやすいと言えば書きやすかったかも。 いつまでもその一生懸命さとひたむきさを大切にしていってほしいです。 残念だったのは、環のことが最後まで「(藤倉)先輩」呼びだったこと。 「環先輩」とか呼ばせたかったなあ。 ・二ノ宮藤吾(にのみや・とうご) この話で私が一番好きなキャラ(笑) 書いてて一番楽しかったです。 環のことを友人として保護者(?)として、大切にしているんです。 ある意味、この話の中で一番大人なんじゃないかな、と思います。 最終話で藤吾が出せなかったので、ちょっと寂しいです。 ・二ノ宮貴子(にのみや・たかこ) 貴子さんは、書くの楽しかったです〜(でも一番は藤吾v) しっかり者で面倒見が良いので環の親父さんともうまくやっていけることでしょう♪ 環の良いお母さんに……はちょっとムリかな……。 藤吾も加えて3人姉弟ってとこでしょうか?(親父さんの立場は……) ・環の親父さん(……何、この紹介の仕方……/汗) 最終話書き終えてから気付いたんですが、親父さん、名前が出てこない! そういうわけなので、すみませんが、名前はなし、ということで(おい) でもおかしいなあ〜貴子さんに名前を呼ばせる予定にしていたのに、終わってみれば名前なし……。 親父さん、ごめんなさい……。 おつき合いくださり、ありがとうございました。 この話のなかで、何かひとつでも読んでくださった方の心に残るシーンがあったら、嬉しいです。
2003/2/14 立花真幸 拝
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