粋な心意気



 ズビィィィ、と豪快な音を立ててゾロは鼻をかんでいた。
 なんとなく鼻の奥がむずむずして、洗面台に置いてあったティッシュで鼻をかんだのだ。しかし、少し強くかみすぎたらしい。鼻の奥がちーんと痛んで、涙目になった。
 鼻血でも出たんだろうか。ふとそう思い、鼻をかんだ後のティッシュを広げて鼻血が出てないか見てみた。
 その時、ゾロの足元からヘェーという、感心したような声がした。
「それが粋な鼻のかみ方なんだな」
 声の主は言わずと知れた、小さな船医こと、トニートニー・チョッパーである。

 実は先日、ある島で滞在していた時のこと。
 いつものようにただ黙々と酒を飲んでいたゾロに、島の人が
「お? 兄ちゃん、粋だねぇ!」
 と声を掛けてきたのだ。
 並々と注がれた強めの酒を、顔色一つ変えずに飲んでいた様がそう見えたのか、とにかく粋だね、なんて褒め言葉らしきものを貰ったのだ。
 すると、たまたま、その場に居合わせたチョッパーがそれを聞いて
「ゾロ、カッコイイなぁ! 俺も言われてみたい」
 などと言ったのか、事の発端である。

 それからというもの、チョッパーは事あるごとにゾロの行動をチェックして真似をするようになった。
 これが粋な寝方か、から始まり、食べ方、座り方、歩き方、歯の磨き方、顔の洗い方、風呂の入り方やトイレまで。
 とにかく、朝から晩までだ。彼の目には、ゾロの行動全てが粋に見えるらしい。
 そして、今もまた然り。
 俺もやってみると言って、ゾロ同様、ズビィィィと音を立てて鼻をかみ、かんだ後のティッシュを広げて見ている。
「……」
 何をどう言ってやればいいものやら。その心意気は素晴らしいが、粋というものを完全に誤解していることだけは確かだ。
 今日もチョッパーから尊敬の眼差しを向けられるゾロは、非常に複雑そうな表情を浮かべ言葉を濁す。お揃いの腹巻をする日も近いのかもしれない。



2006/06/27掲載
※「ワンピ好きさんへの100のお題」より

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