オカマ道



「やぁねぇー、ウソップさんったら。面白いわ、ホホホホホ」
「何をおっしゃってるの。ルフィさんこそ、お上手よ。ウフフフフ」
「ふ、二人ともお上手だ……わ?」
「もう、チョッパーさんったら! もっとこう、自然な感じで? そうそうそんな風に微笑むのよ」
「こ、こう……かしら?」
「そうそう、とってもお上手よ」
「ふふふふふ」
「オホホホホ」
「フフフフフ」

「……ってお前ら! さっきから何気色悪いことしてんだ!」

 と、怒鳴ったのはサンジだ。
 まぁ、当然だ。
 何しろさっきから三人……ルフィ、ウソップ、チョッパーが、何やら怪しげなおネェ言葉を使って喋っているからだ。しかも、腰をくねらせながら喋る姿は見ているだけでもかなり寒い。精神衛生上も大変よろしくなかった。
 だから、見るに見かねたサンジが怒鳴ったわけだが、三人はそれを止めるどころか「いやぁーん」とか「怒らないでぇー」とか、更にサンジの神経を逆撫でするようなマネをする。
 そんな三人を問答無用でサンジが蹴り上げたのは言うまでもなく。

「反省したか?」
「「「すみませんでしたぁ……」」」

 五分後。三人は仲良くサンジの前で正座することになった。
 しかし、三人がそんな馬鹿なことをしているのには、一応それなりの理由があったのだ。暇だったからオカマごっこしようとか、そういうことではなく。本当に馬鹿らしい理由なのだが、ルフィ辺りにとっては死活問題的な理由だった。
 実は、数時間前に船はある島へと到着したのだが、その島というのが男子禁制という制約がある島だったのだ。
 試しに、ナミとロビンが先に行って調べたところ、本当に男はその島へ入ってはいけないらしい。宗教上の理由らしいが、ともかく男達はログが溜まる間、ずっと船に残らなければならないのだ。
 それが、ルフィ達の奇行とも言うべき事の発端だ。

「それで、オカマの真似して島へ上陸しようと思ったわけか……」
「オカマじゃないぞ、女だ」
「そうそう」
「どっちにしろ、アホだろテメェら」
「だってよぉー、折角島に着いたのに男は入っちゃ駄目だとかいうんだぜ。ナミとロビンばっかり、ズリィよ」
「そうだ、そうだ!」
「俺達も島に行ってみたいぞ。買い物だってしたいんだ」
「冒険したいよなー!」
「なー!」
 三人は揃ってブーイングだ。
 入っては駄目と言われれば、入りたくなるのが船長の常。しかし、ログも溜まらぬ内にそんなことをして港から追い出されたら非常に困るのだ。なので、肉を食わせて思い留まらせていたのだが、それもそろそろ限界らしい。
 時計に目をやると、島へ着いてから5時間近くは経っていた。ログは半日程で溜まるという話だからもう大丈夫かもしれないが、しかし、今更問題を起こされても面倒くさいことに変わりはない。
「まぁ、おめぇらの気持ちはわからなくもないけどな」
「だろ?」
「ハーレムみてぇなあの島に行ったら、そらもう楽しいだろうさ。360度どこみてもレディばっかりなんて目の保養にもなるし、心と身体のリフレッシュにもなるし、ナンパし放題だろうし、考えただけで涎が出そうになるがな」
「「「……」」」
 しかし、そんなサンジの見解については、三人は黙す。
「けどな、どう考えても、おめぇらが女装するなんて無理があるだろ。百歩譲っても女にゃ見えねぇよ。だから、やめとけ。もう少し我慢しとけ」
「なんでだよ!」
「大体、そのオカマな喋り方はともかく、服はどうすんだ。服は。そのまんまなら、即効でバレるだろうが」
「だから、ナミのを貸して貰うんだ」
「ああ?! てめっ、ナミさんから借りる気か! そんなのは却下だ、却下」
「なら、ロビンの」
「どっちも駄目だ! 俺が許さん!」
「じゃ、どっから借りればいいんだよ」
「知るかっ、そこら辺の布でも腰に巻いてスカートみてぇにすりゃぁいいだろ! じゃなくて、だからそういうことは止めろって言ってんだろが。第一、ウソップの鼻はどうすんだ。見ただけでバレるだろうが」
「は、鼻は関係ねぇだろ!」
「あと、チョッパーみてぇな体毛の濃いタヌキ女だっていねぇよ」
「俺はトナカイだ!」
「クソゴムみてぇな伸びる女ってのもおかしいだろ」
「サンジだって、女にそんな髭ないぞ」
「そうだそうだ、眉毛も変だ」
「俺は女装なんかしねぇんだよ! つうか、眉毛は関係ねぇ!」
 などとめちゃくちゃな事を言いながら騒いでいる男達だが、そこから少し離れた場所で、先程島から戻ってきた女性二人が自分達に関わる恐ろしい計画練っていることなど、知らずにいた。
 女性達の密談の内容は、二人の前に置かれている小さな実についてだ。
「つまり、これを食べさせれば一時的に身体が女になるってことなのね」
「ええ、どうしても島へ上陸したいっていう男性の為に使うらしいわ。非常用ね」
「なるほどねぇ……」
「悪魔の実の親戚みたいなものかしら。詳しいことは成分を分析してみないとわからないけど」
 そして、どうする? と一応尋ねたロビンであったが、にやりと笑うナミの答えはもう決まっているらしい。
「こんな面白そうなの、使わない手はないじゃない」
 誰に食べさせようかしら、とさっきからナミの顔は非常にイキイキしていた。
「船長さんが一番島に上陸したがっていたから、食べさせてあげたら?」
「あたし的には、一番意外性のありそうな……ほら、あそこで寝ている緑のヤツに食べさせてみたいのよね」
「意外性なら、船医さんも面白そうよ」
「あ、それも楽しそう」
 一体、二人はその実を誰に食べさせるつもりなのか。

 ―――男の道を逸れるとも、女の道を逸れるとも、踏み外せぬは人の道。

 そんな一説も、今の魔女達には通じないだろう。それを食べさせられるであろう人物の迷惑など省みず、楽しそうだから、という理由だけで道を外す気満々なのだから。
 こうして、魔女達の密談は夜まで続くのだった。
 果たして、その結果はいかに。



2006/07/12掲載
※「ワンピ好きさんへの100のお題」より

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