悪巧み



 キャプテンはとてもご機嫌だった。
 何故なら、さっき倉庫でとてもイイモノを見つけたからだ。
 そいつは樽の影に隠れていたヤツで、意外にすばしっこく、ルフィが捕まえようとすると狭い隙間へ隠れるようにして逃げ回った。
 でも、追いかけっこが得意なキャプテンは、そいつを倉庫の隅に追い詰めると、ワッと飛び掛るようにして捕まえた。両手でギュッと握り締めたら、手の中で小さく鳴く。
 なんだかものすごい宝を発見した気分になって、早く誰かに見せて自慢しようと思った。



 そいつを手に持ったままルフィが甲板へ出ると、すぐ近くにウソップの姿を発見した。
「おい、ウソップ! 見てみろよ!」
「待て。今、俺に話しかけるな。重要な実験をしてる最中だ」
 重要な実験というのは、怪しげな液体の入ったフラスコの事だろうか。
 その中身がなんなのか、ルフィは当然わかるはずもなく、けれども面白そうなので、じっとそれを見ていたら、ウソップに手でシッシッと追い払うような仕草をされてしまった。邪魔、らしい。
(なんだよ、折角見せてやろうと思ったのに)
 ムーと唇を突き出して、頬を膨らます。さっきまでの楽しいワクワク気分が台無しだ。
 もう、見せてやんねーと、キャプテンは不貞腐れ気味に横を向いた。
 すると、今度はパラソルの下にサンジとナミの姿を発見した。二人で楽しそうに話をしている。
 パタパタと走る音も慌しく、ルフィは二人の元へ駆け寄っていった。



「おーい! サンジ、ナミ!」
「なんだ、クソゴム。俺とナミさんの甘い時間を邪魔するな」
 やって来たルフィを見て、サンジがあからさまに嫌そうな顔したが、根が図太いキャプテンはそんなことなどおかまいなしだ。
「あのな、さっき倉庫に行ったら」
「倉庫だぁ? てめぇ、倉庫に何しに行ったんだよ」
「いや、なんか腹減ったなぁ〜と思ってよ。そんで何か落ちてねぇかなぁ〜って探してたんだ」
「ふーん……それで? 何か落ちてたのか?」
「おう、肉が落ちてたぜ!」
「ほほう、肉が落ちてたのか」
「ああ、いっぱい落ちてたぞ」
「一応聞いてやるが、その肉どうした?」
「そりゃお前、落ちてたんだ。食べるに決まってんだろ、馬鹿だなぁ〜お前。それより」
「そうか、食ったのか……」
「ああ、ちょっと硬かったけど、旨かったぞ。それでな、そこで」
「おいルフィ、いいことを教えてやる」
「なんだよ、そんなことより、俺は見せたいモンが」
 言いかけて、ハッとした。サンジの背後に黒いオーラが見える。
「そりゃ落ちてるんじゃねぇ、置いてんだ! こんの腐れクソゴムが! また、盗み食いしやがって!」
 そして、キャプテンは思いっきり蹴られた。そりゃもう、ボコボコに蹴られた。容赦なく蹴られた。
 危うく、手の中にいるそいつを落としそうになったが、なんとか無事だった。今も、ルフィの手の中で元気な声を上げている。
 本当はこれを見せて喜ばせようと思っていたのだが、もう一度あそこへ近づくのは危険だ。喜ばせるどころか、逆に怒られる。ボコられる。それはわかる。
 ということで、違うヤツに見せるとしよう。
 もうあいつらには見せてやらねーと、キャプテンは蹴られたことをちょっぴり根に持った。



 見せる相手はすぐに見つかった。逃げ込んだ男部屋にいたのだ。
「なぁ、チョッパー! これ見ろよ!」
「ん?」
 首を傾げるチョッパーの前に、ルフィは手で握ってるそいつを突き出して見せた。ルフィの手の隙間から小さな頭を出して、チューチューと鳴くそれ。
 小さなネズミだ。
「うわぁ、どこで見つけたんだ?」
「さっき、倉庫で見つけたんだ! すっげーだろ? めちゃくちゃすばしっこいヤツでよー、捕まえるの大変だったんだぜ!」
「へぇ」
 すると、チョッパーに向かって、ネズミがまたチューチューと鳴いた。チョッパーもそれに対して何度か頷く。
「なんか、この間停泊していた港で、間違えてこの船に入ってしまったんだって」
「へぇ〜」
 そして二人、いや二匹はしばし会話をした―――らしい。当然ルフィはわからない。チューチューとか、ウンウンとか。全然わからない。
 んんん? と首を捻ってると、チョッパーがネズミの頭をよしよしと撫でた。
「大丈夫だ。次の島に着いたら、ちゃんと下ろしてやるからな」
 いつのまにか、そんな約束を取り交わしたらしく、ネズミはチューチューと嬉しそうに鳴いていた。
「ルフィ、そういうことだから、あんまり苛めるなよ」
「ん?」
「あっ、もしかして、食うつもりだったのか? 駄目だぞ! 絶対に食べちゃ駄目だからな!」



 キャプテンはとてもつまらなかった。
 折角、折角イイモノが手に入ったのに。自慢しようと思ったのに。
 話しかけるなと言われ、ボコボコに蹴られ、追い掛け回され、挙句、苛めるなと言われた。食べても駄目だと言われた。
 あーあ、食えないんじゃ、しょうがないかと、手の中のネズミを見た。ちょっぴり惜しいなと、まだ思ってる。
 でもまぁ、しょがねぇーやと諦めた。でも、やっぱり少し諦めきれないので、もう少し手に持っていようと思った。追いかけて、やっと捕まえた小さな食料……じゃなくて、お宝だ。
 とりあえず、指定席の羊の頭の上へ連れて行くことにした。
 だがそこで、船首の壁に凭れて眠っている人間を見つけた。
 ゾロだ。
 そっと、足音を立てずに、静かに近づいてみた。ぐっすりと熟睡していて、ルフィが顔を近づけても、ゾロは起きる様子を見せないでいる。
 ルフィは、寝ているゾロの腹巻を引っ張ると、そこへネズミを入れてみた。ネズミはモゾモゾと腹巻の中で動き回ると、ぴょこんと腹巻から顔を出し、ルフィに向かってチューと鳴いた。
「シィィィィィ!」
 慌ててネズミを押さえると、ゾロの方を見た。よかった、まだ寝ている。
(よし、今度は出てこないように……)
 ルフィは、一度ネズミを腹巻の中から取り出すと、今度はその下、ズボンの中へ突っ込んでみた。ネズミはゴソゴソと黒い布の中、もといゾロのズボンの中を元気に駆け回っている。
 それを見て、キャプテンはニシシと笑った。見つけた宝はちゃんと大事な所へ隠しておくに限る。この場合の、大事な所というのはそういう意味での大事な所なのか、という突っ込みはこの際なしだ。
 しかし、そんなキャプテンの様子を、ゾロはとっくに目を覚まして見ていたわけで。この後、キャプテンがどうなったかは、押して計るべし。



2004/05/25掲載
※「ワンピ好きさんへの100のお題」より

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