酸っぱい葡萄の食べ方



 ゾロはじっと自分の掌を見ていた。刀ばかり握ってきたゴツゴツした手だ。作っては潰しを繰り返したマメの所為ですっかり硬くなってしまった皮膚、人差し指の付け根に出来た剣ダコ、所々に浮かんでいる切り傷。決して細かい作業に向いているとは思えない、そんな手だ。
 その手を無意識に握ったり閉じたりする。そうすると、自然とゾロの口から溜息が漏れた。
 今から丁度六日前、その日から何故かゾロはサンジに近づく事が出来なくなった。正確には「近づけない」ではなく「近づきたくない」であるが。
 何故そうなったかはわからないが、サンジの傍へ行くと気分が悪くなるのだ。人間的に気に入らないとか、二人の関係が悪いとか。そういった次元の話ではなく。サンジの存在を視界の中へ入れた途端、皮膚の表面にピリピリとした静電気のような感覚が走り、次に耐えようのない不快感がどっと押し寄せてくる。前日まで何ともなかったはずが、唐突にそんな感覚を覚えるようになったのだ。
 そして、そう感じるのはサンジに対してだけである。他の仲間達に対してもそうなるのかと言えば、当然そんな風に感じる事もなく、傍に誰がいようと不快に思うことはない。むしろ、サンジに対してだけそう感じる方が不思議だった。サンジも同様に他の仲間からそんな風に思われることはなかった。
 つまりゾロとサンジ、二人の間のみにそういった奇怪な現象が起きていた。
 勿論、今もその状態は継続中だ。船医もお手上げ、博識のロビンも首を傾げたまま。しかし、原因だけははっきりしていた。
 当事者の一人であるサンジが、その原因に心当たりがあるというからだ。
 曰く、その現象は一週間続く。そして、一週間経てば、元に戻る。
 ゾロにしてみれば、なんじゃそりゃ、である。いずれ収まる現象だと言われたが、望んでそうなったわけではないのだ。どういう事なのか、きっちりと説明してもらいたい。
 だが、サンジはそうなった経緯についてだけは頑として口を閉ざしていた。ただ、一週間経てば治るから、とだけ繰り返す。
 非常に胡散臭い話だ。
 本来なら、本人の首根っこでも捕まえて、きっちり問いただしているところだが、何しろ近づく事が出来ないのだから、訊くに訊けない。近づく距離が縮まれば縮まるほど、具合も悪くなるから、尚更だ。状況が改善するのを、ただじっと待つ他なかった。
 仲間の話によれば、サンジはいつもと変わらないそうだ。むしろ、表面上なんの問題もなく過ごしている所為か、二人の喧嘩が減って良いぐらいに思っているのだろう。特に心配されることもなく、船内は至って平和だ。同じ室内にいるだけで気分が悪くなるとゾロが言った時は多少揉めはしたものの、それ以降は問題という問題は起こっていない。サンジの一週間経てば元に戻る、という言葉を全面的に信用しているのか、深刻な雰囲気にもならずにいる。
 そんなこんなで、サンジが食事を作り終えてからどこかへ姿を消すようになって六日経つ。ゾロがサンジの姿を見ていないのも六日。
 本当に元に戻るのだろうか。
 最近考えるのはその事ばかりだ。サンジへのあの不快感は日増しに酷くなる。不信感も募る。それが明日になれば綺麗さっぱりなくなるとは、現時点では到底思えない。
 けれども、元に戻ってもらわなくては困るというのが本音だ。持ち前のポジティブさで、後少し後少しと自分へ言い聞かせ、治ったら速攻であの野郎を一発ぶん殴って、でもってアレとコレと、口では言えないような事をしてやろうと考えているのだ。
 このおかしな事になった日からゾロはサンジに触れていない。触れるもなにも、近づけないのだから当然といえば当然であるが。
 つまりどういう事かといえば、自分達は六日間やっていないということだ。やっていない、というのは、そういう意味での「ヤっていない」だ。単純に言えばセックスをしていない、だ。
 ゾロがサンジとセックスするようになったのは、ここ最近だ。そして、アナルでのセックスに慣れ、互いに楽しめるようなったのもここ最近。それからは、三日と空けず、仲間達に隠れるようにして抱き合った。やってもやってもやり足りないような年頃に、この事態は非常に辛くもあり、苦行であった。
 思えばここ数日、あの男のことばかり考えている。考えているのは不埒な事ばかりではあるが、純粋にあの妙な感覚に囚われることなくサンジの顔を見たいとも思った。
 早く触りてぇな、と思う。
 手を握ったり開いたりすると、あの髪へ指を絡ませた事がひどく遠い昔の事のように思えた。



 ***



 サンジが市場の外れでその老婆に会ったのは、買い物を済ませ船へ帰る途中だった。市場の露店から遠く離れたその場所に、一人ポツンと座っている姿が妙に気になり立ち寄ってみたのだ。
 老婆の前には小さな木箱が一つだけ置いてあった。上から見ると中に葡萄が入っている。老婆はただじっと、その箱だけを見ていた。
「なぁ、ばあさん。その葡萄を売っているのか?」
 尋ねてみると、老婆は静かに首を振った。売っているのではないらしい。なら、此処で何をしているのだろう。サンジが不思議に思っていると、老婆が口を開いた。
「お前さん、この葡萄が欲しいのかい?」
「……え?」
「この葡萄が欲しいのかと、訊いたのだ」
「まぁ、くれるものなら」
 特に考えることもなくそう答えると、老婆はいとも簡単に「ならやろう」と言った。
「え?」
「なんだ、欲しくないのか?」
「いや、欲しくないわけじゃねぇが」
「何か問題でもあるのかい?」
「問題はねぇが……金がない。さっき買い物して、ほとんど使っちまった」
「金ならいらんよ」
「いらないって、じゃあタダでくれるのか?」
「ああ」
 しかし、その代わりに……と老婆は続けた。
「お前さんの葡萄を譲ってくれるならな」
「俺の葡萄?」
「そうじゃ、お前さんが欲しいと思っている葡萄じゃ」
「欲しい葡萄って……この葡萄の事か?」
「いいや、これはあたしの葡萄じゃ。お前さんの葡萄はこれじゃない」
 意味がわからない。自分が欲しい葡萄? 買い忘れた葡萄でもあっただろうか、そんな事をツラツラと考えていると、下ばかり向いていた老婆がようやく顔を上げた。
「お前さん、狐と葡萄の話は知っておるかい?」
「狐と、葡萄?」
「この葡萄はな、どうしも断ち切る事の出来ない想いとだけ交換出来る葡萄だ。欲しくて欲しくて、恋しくて恋しくてしょうがない葡萄の代わりに、この葡萄を食べるのさ。あれは酸っぱい葡萄だったと、諦める為にな」
 そうして、老婆は徐に箱の中の葡萄を手に取ると、それをサンジの前に差し出して見せた。葡萄からフワリと甘い香りが漂う。
「酸っぱい葡萄に、心当たりは?」
「いや……」
「もう少し、判り易く言おうか? 切ない、苦しい、断ち切りたい、そんな想いに心当たりはないのかえ?」
 サンジの顔が強張った。「なんで……」と呟くように言うと、謎掛けのような問答を繰り返す老婆は、全てを見透かしたように、意味ありげな顔でただただ笑うばかり。皺に埋もれた細い目を更に細くする。
「さっき、お前さんはこの葡萄が欲しいと言った。あたしはお前さんが欲しがっている葡萄となら、交換すると言った。つまりだ、欲しがっている葡萄というのは、お前さんの気持ちの一部だ。それをくれるなら、これをやろう」
「どういう意味……」
「お前さんは一言、自分の想う葡萄の名前を言えばいい。それで全て忘れられる」
「忘れる?」
「そう、たったそれだけでお前さんは苦しむ必要がなくなる」
 ―――さぁ、どうする?
 急激に眩暈を覚えた頭の隅で、老婆のその声だけが、やけに大きく響いた。



 ***



 ある森の中を一匹の狐が歩いていました。
 狐はとても喉が渇いていました。
 喉の渇きを癒すものはないかと探していると、高い木の枝にぶら下がっている葡萄を見つけました。
 葡萄はとても美味しそうに見えました。
 狐は大喜びで葡萄へ向かって飛び上がります。しかし、あと少しのところで届きません。
 もう一度、葡萄に向かって跳び上がりました。やはり届きません。
 何度も何度も飛び上がりましたが、どうしても葡萄を取る事はできませんでした。
 諦めた狐は元来た道を帰っていきました。
 そして、ポツリと呟きます。

 あの葡萄はきっと……



 ***



 サンジが持ち帰った葡萄は、その日のうちに仲間達の胃袋へ綺麗に収まった。しかし、サンジだけはその葡萄を食べる気になれなかった。葡萄の皮だけが残った皿を片付けながら、昼間会った不思議な老婆を思い出した。
 あの後、老婆はあの場から煙のように消えてしまった。驚いて、辺りを見渡したが人影一つ見当たらず、ただ箱の中にポツンと葡萄が残っているだけだった。
 何かに化かされたんだろうか。そんな白昼夢のような出来事が現実のものだとわかったのは、翌日だった。老婆が言っていた言葉の意味を知ったのも。
「テメェに近づくと、吐き気がする」
 ゾロがサンジへ向けて吐いたその言葉は、思った以上にサンジを打ちのめした。本当の意味で、諦めるという事がどういうことなのか、頭ではなく、心でわかった。
 サンジがゾロと身体だけの関係を持ったのは、随分と前の話だ。グランドラインに入った頃だろうか。その辺りから、続いている。だが、その関係にサンジが心を引き摺られるようになったのは、つい最近だ。
 勿論、初めは遊びのつもりだった。それなのに、いつの間にか嵌まり込み、ヤバイなと思った時には既に遅く、後戻りなど出来ない状態になっていた。
 それでも、諦めようと思ったのだ。諦めるしかない、と。ゾロが自分と同じ気持ちを抱くことなど、到底考えられない。諦める以外ないのだと、自分へ何度も言い聞かせた。なのに、誘われれば頷いて、その度に自分を誤魔化した。これは割り切った関係だと、心に蓋をして。
「あの葡萄は、きっと酸っぱいに違いない……か……」
 老婆が話した、狐と葡萄の話を思い出す。
 自分はあの狐と同じかもしれない。欲しくて欲しくて、でも手を伸ばしても届かないから、強がる振りをするしかなかった。例えどう思われようとも、何でもない振りを。
 だからだろう。あの老婆の言葉に、ゾロが自分へ向けて放つ言葉に、簡単にグラついた。
 無くなるものなら無くしたい、消えるものなら消したいと願っていたはずなのに、いざ、そうなると言われると、足が竦んだ。怖くてしょうがなかった。結局、どうしたいのか、自分自身でもわからなくなる。
 困惑したサンジへ老婆は言った。

「一週間の期限をやろう。その間に考えるといい。どうしたいのか、どうすればいいのか」
「一週間……」
「ついでに、その切欠も与えてやろう。本当に葡萄へ手が届かないのか、伸ばせば届くのか。よく、考えるといい」

 あれから六日経った。その間に、二人の距離はどんどん広がった。見えない力がそうさせるように。もう簡単に、手など伸ばせない距離まで。
 いずれこの気持ちもこんな風に見えない力によって奪われるのだろうか。風化して、消えるように。諦めると頷けば、あの老婆が綺麗に消してくれるのだろうか。
「結局、あのばあさんって何者だったんだろうな……」
 乾いた笑いが浮かぶ。あれから、何度かサンジは市場へ足を運んだが、あの老婆の姿を見つけることは出来なかった。老婆も答えも見つけられないままに時は過ぎる。期限の一週間まで後少しだ。
 ふと、ゾロに会いてぇなと思った。
 こんな事になってから、ずっと顔を見ていない。見知っているはずの凶悪顔がどうしようもなく懐かしい。会いたい。強くそう思った。
 多分それが、自分の答えなんだろうけど。



 ***



 ゾロが目を覚ますと、辺りは既に暗かった。夕食後、甲板の芝生の上にゴロリと横になって、そのまま寝入ってしまったらしい。
 立ち上がって、身体に付いた草を払い落とすと、まだ風呂に入っていなかった事を思い出し、そのまま上の大浴場へ向かうことにした。
 シャワーを浴びながら、ふと耳の後ろがやけにザラザラしているのに気がついた。触ってみると、血の塊が付いていた。
 思い出したのは、昼間に遭った海賊の襲撃。
 相手の海賊船はそれなりに大きく、人数もそれなりにいたが、問題なく撃退できる程度の相手だった。いつものように、ルフィとゾロとサンジ、それにロビンとフランキーを加えた連携で問題なく撃退した。
 だが、その乱闘の中、ゾロはあと一歩でサンジを斬りそうになった。
 一瞬、背筋がザワリとして、振り向き様に刀を薙ぎ払ったのだ。刀はサンジのシャツ一枚を切り裂いた。咄嗟にサンジが避けたのだろう。でなければ、確実に自分はサンジを斬っていた。
 その事実は、どうしようもないほどゾロを沈ませた。
 あの時、サンジが自分へ向けた顔。久しぶりに見たというのに、あの大きく開かれた目に自分はどう映っていたのか。
 確かに、ここ数日ゾロはサンジの気配に敏感になっていた。だが、あの程度の事で戦闘中に相手の気配を読み間違えるとは。
 やはり、待つだけでは駄目だと思った。仲間に協力してもらい、何としてでも原因を知ってるであろうあのアホを、きっちり問い詰めなければ。昨日までは、内心で溜息を吐きながらも一週間の辛抱だと思っていたが、此処までくると本当に元に戻れるのか怪しくなる。悪化した上、やっぱり駄目でしたなどと冗談ではない。
 股間にぶら下がっている息子も無駄にいきり立っている。本来なら、こんな戦闘があった日は、あれに突っ込んでアレやコレやをしていたはずなのに。
 シャワーを止め、ザブンと勢いをつけて湯に入る。
 明日と言わず、今日の内に何をしてでも本当の事を吐かせてやる。
 まだ、サンジへ近づくとあの妙な感覚に襲われるが、この際そんな事に構っていられない。心頭滅却すれば、何とでもなるはずだ。
 その時、扉の向こうでコトリを物音がした。
 驚いて音のした方を見ると、いつの間にかゾロの目の前に小さな子供が立っていた。
 突然現れた子供は、ニコニコと邪気のない顔でゾロを見下ろしている。
「おい、ガキ……どっから入った」
「えっと、夜分遅くに悪いなぁと思ったのですが、ロロノアさんがお一人になるのは今しかないと思いまして。あ、どうも、お久しぶりです。ロロノアさん」
 子供がペコリと頭を下げた。
「……誰だ?」
「あの、お忘れかもしれませんが、以前あなたに助けて頂いた狐です」
 すると、ポワンと白い煙が立ち上りいつの間にか子供が狐の姿になっていた。
「その節は有難うございました。もしあの時ロロノアさんに助けていただかなければ、多分私は死んでいたと思います」
「助けた?」
「ええ、罠にかかった狐を助けた覚えはありませんか?」
 言われて思い出したのは、前に立ち寄った島での事。いつものように町へ行こうとして何故か森へ辿り着き、ぐるぐると抜け出せずに歩いていたら単純な罠にかかった狐がいたのだ。その時、ゾロは丁度腹が減っていて、折角だからこいつを食おうと思って罠を外したのだ。
 しかし、その狐はあまりにも痩せ細っていて、食べる気がしなくなったのだ。で、仕方がなく、そのまま狐を逃がしてやった。確かにそんな事があった。
「思い出して頂けましたか?」
「……ああ」
 まさか、食べるつもりだったとは言えず。曖昧に頷いておいた。
「それで、本日はあの時のお礼をしに参りました」
「お礼?」
「はい、色々準備をしていてすっかり遅くなってしまったのですが」
 すると、子供の姿に戻った狐はゴソゴソと背後から何かを取り出すと、両手に一房の葡萄をのせて差し出した。
「こちらがお礼の葡萄です。但しこの葡萄、見た目は普通の葡萄に見えますが、実はこれ。今、ロロノアさんの周りで起きている不思議な出来事を元に戻す葡萄なのです。だからこれを食べれば、全て元通りになります。で、ここからが大事なんですが、この葡萄を食べたらロロノアさんはすぐにコックの兄さんの所へ行って下さい。多分、キッチンにいると思いますので、そこへ行って下さい。これが今回の恩返しのメインイベントなので。だから、まずはコックの兄さんに会っていただかないと。そうすればきっと良い事が起こりますよ!」
 しかし、さあどうぞ! と一人盛り上がる狐を尻目に、ゾロの方は静まる一方。
「あれ? ……ロロノアさん?」
「……お前が元凶か」
 地を這うようなその声に狐がビクリとなった。
 なんだろう。なにやらゾロの背後に恐ろしい気配を感じるのは気のせいだろうか。
「いやあのっ、悪いなあとは思ったんですよ。ほら人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られてナントカと言いますし、でもどうしてもお礼がしたくて。それでその、二人が苦難を乗り越えて結ばれればすごく盛り上がるかなあと思って、その……余計な事とは思ったのですが」
「……どういう意味だ、そりゃ」
「どういう意味っていいますか……えっと……触れあう事の出来ない時間が二人の愛を育てる? みたいな感動的且つ壮大な恩返しをしたくて。えっとその……実はですね……此処だけの話、私、縁結びの神様でして。まだ半人前なんですがね。でもって、折角なのでロロノアさんにドラマちっくに結ばれていただこうかと」
「……だから、それはどういう意味だと聞いたんだ」
「それはどういう……?」
「誰が結ばれるって?」
「誰って、そりゃロロノアさんが」
「誰と」
「誰とって、それは……」
「それは?」
「えっと……ああ! そうでした、忘れていました。こちらもお渡ししないと」
 再度、狐はクルリと後ろを向くとゴソゴソと背後から何かを取り出した。けれども、取り出したのはまたしても葡萄。但し、今度は二つ。
「はい、実はこれもただの葡萄ではありません。今回のイベントに欠かせないアイテムと申しましょうか。簡単に説明しますと、右と左どちらか一つを選んで貰ってそれを食べるとですね、なんとまあ、その場がものすごく盛り上がっちゃうんですねぇ。右と左と何がどう違うのか、説明するのはちょっと難しいんですが、此処だけの話、どちらもぶっちゃけエロい事になっちゃうので、問題はないかと。ええ。今回、特別にオプションでこちらもお付けしちゃいます。勿論、初めにお渡しした葡萄も食べる事をお忘れなく。きっとコックの兄さんも喜びますよ。ほら、今回の件であちらの兄さんにも色々と辛い思いさせちゃいましたから。なんていいますか、もっとこう……自分の気持ちにもっと素直になって欲しいなぁと思ったんですが、健気というか、なんというか。とにかく今回は騙すみたいな事しちゃったので、後でロロノアさんの方から謝っておいて下さい。それで今宵は思う存分二人で楽しんで……って、あれ?」
 突如、ゾロがザバリと湯船に立ち上がった。
 立ち上がった途端、丁度目にしてしまった股間に狐がヒィと悲鳴を上げた。
「寄こせ」
「へ?」
「くれるんだろ、それ」
「あ、はい、それは勿論! えっと……ど、どちらをご所望で?」
「全部だ」
「え?」
「だから、全部寄こせ」
「ちょっ、ロロノアさん?」
 さてさて、この話の続きはどうなることやら。
 勿論、この後、ゾロは(真っ裸で)キッチンへと突入していった。そして、その後姿を見送った狐は深い深い溜息を零したとか。
「夫婦喧嘩は狐も食わねぇってのは本当だな」
 そんな呟きを残して、ドロンと煙のように消えたとか。
 後に残ったのは、一房の葡萄。それとキッチンの向こうから聞こえる―――甘い睦言ならぬ、怒声というお決まりの展開。
 何はともあれ、狐の恩返しは思わぬ困難と幸せを二人に運んだのだった。



2007/11/18発行
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