ロロノア君の良い所



 ロロノア君の長所、ここが素晴らしい! と思うことを下の欄に書きましょう。

 このどこかふざけているとしか思えないタイトルが書かれている紙を前に、サンジは非常に複雑そうに、且つ嫌そうに、でもどこか真剣そうに悩んでいた。
 しかし、それもそろそろ限界に来ている。何しろここ数日、常にサンジの頭では一向に解決の糸口が見えないこの「ロロノア君の素晴らしいところ」とやらが大半を占め、その所為で脳みそがすっかり疲労しきっているのだ。既に、脳みその半分以上が考える事を放棄しつつある。
 そもそも、この紙に書かれたこのタイトル。これが、考えようという気持ちを萎えさせているような気がしてしょうがない。ロロノア君、ってのは何だ。ここが素晴らしい! って、わざわざそこを強調するような文字で書く意味はあるのか。
 まぁ、百歩譲ってその点は良いとしても、その横。そこに書かれているウソップ作のアヒルの絵。これは全く持って意味不明だった。なんでアヒルなんだろう。期限は一週間よ、とハートマーク付きで訴えることに何か意味があるのか。ていうか、このアヒルはメスか? ものすごく目つきが悪いように見えるのに、口調からして実はメスなのか? いや、もしかしてオカマか? アヒルでオカマか?
 なんて、どうでもいい悩みが尽きない。こんなことなら、まっさらな紙を渡してくれた方がマシだと思う。大体、何故自分がこんな事を考えて書かなければならないのか。
 そう、最もサンジが主張したいのはそこだった。どうして自分がこんな事を。
 しかしながら、これを考えた相手に対し弱い立場であることがわかっているだけにそれも強くも言えず、結局余計なストレスと悩みを背負っている。



 サンジがこんなことを考える羽目になったのには、数日前に起こしたゾロとの喧嘩が原因だ。喧嘩といっても、そこはそれ、日々の運動不足を解消するためのものであって、珍しいことでもなんでもなかったのだ。
 それが、ちょっとばかり、いやかなりエキサイトしてしまい―――結果、ウソップ工場が倒産。サンジの蹴りで、木っ端微塵。一瞬で跡形もなく崩壊したのだ。
 元工場跡地で泣き崩れるウソップを前に、然しものサンジも悪いと思ったのか、その後ウソップが無理難題と思われることを出しても、それを黙って受け取ったのだ。
 それがこの「ロロノア君の長所、ここが素晴らしい! と思うことを下の欄に書きましょう」だ。
 いつもなら船の一部を破壊するたびにルフィ、ゾロ、サンジ、主にこの三名は反省文及び誓約書を書かせられていた。
 ―――すいませんでした。僕はもう二度と船のものを壊したりしません。心から反省しています。これからは気をつけます。
 そんなことを書くのだ。
 けれども、書いても書いてもその成果は見られない。それを書いた数日後にまた壊しては反省文を書く。その繰り返しだ。だが、何もしないよりはマシと、また反省文を書く。
「それで俺は思いついたね。壊したことを反省するより、その壊すことになった原因。つまり、お前らの喧嘩を少しでも軽減させることがより抜本的な解決策になるってことに」
 そう提案したのは、今回被害者となった某工場の工場長だ。
「解決の第一歩は、自分を知り、相手を知る事だ。知ると言っても、相手の良い面だ。人ってのはどうしても相手の悪いところばかりに目がいってしまいがちになる。だから、良いと思うところをまずは認識することが必要だと思うんだ」



 かくして、サンジは「ロロノア君の長所、ここが素晴らしい! と思うことを下の欄に書きましょう」を考える必要性を迫られた。最初は不服そうであったが、最終的には了承するしかなかったのだ。
 無論、ウソップもそんなことで二人の喧嘩というか、日常化しているストレス解消行事がなくなるとは思っていない。重要なのは、これを書き終わるまで二人は接触禁止を言い渡しているところにある。
 つまりだ。サンジがこれを書き終わるまでの間、二人は大人しくなるということだ。サンジがこういった内容であれば期限ギリギリまで悩むのだろうことも、計算済みだった。
 実は、その計画の大半がナミの入れ知恵なのだが、それは横に置くとして。今のところ、その思惑通り事が進み、平和としか思えない日々が続いていた。平穏無事、といえないのは当の本人だけだろう。
 何しろ、考えれば考えるほど、ゾロの良い所とやらが思い浮かばず、悩む日々。いや、思い浮かぶには浮かぶが、それが書けないのだ。本当にどうしたものか。目つきの悪い(オカマ)アヒルが訴えている期限は明日だ。
 なのに、サンジが記入すべき欄は未だに真っ白なまま。適当に何か一つくらい書けても良さそうなのに、その適当が中々思うように書けないのだ。
 例えば、ゾロの長所といえば戦闘面。これに関して何か書いてみようとする。
 確かに、この面でのゾロの長所は遺憾なく発揮されている。その強さは勿論、冷静な戦況判断能力。いざという時、任せられる、信頼できる、フォローの必要性がないという点は、戦闘において重要で心強いものがある。
 だが、それを此処に書くのは非常に躊躇われる。というか、何となく悔しいので書きたくないのだ。
 だったら、別の面。戦闘以外で性格とか、そういう点ではどうだろうと考える。

 候補、其の一。
 口数が少なくて、無愛想。たまに口を開けばムカつくことばかり言う男ではあるが、野望に対してだけは本当に真っ直ぐで一途だ。努力を惜しまず、いつもピンと伸ばした背筋が実は好きで
「んなこと書けるかっ!」
 当然、却下。

 候補、其の二。
 キツイ口調でぶっきらぼうな態度をとるくせに、実はそれが本人なりの優しさだったり
「寒過ぎるわ!」
 これも、却下。

 候補、其の三。
 何か食べた時の頬袋、後ろから見た丸っこい後頭部
「いや……これは長所っていうより、可愛いとこだな」
 突っ込みどころがあるものの、とりあえず却下。

 候補、其の四。
 空前絶後の方向感覚と、時間にして僅か数秒で熟睡する寝技
「ある意味素晴らしいっちゃぁ素晴らしい点ではあるよな」
 しかしながら長所とはいえないだろう点を考慮すれば、当然却下。

 候補其の五。
 そういえば、アイツとのセックスは結構良いかもれない。大雑把そうに見えて結構丁寧だったり、しつこいところは難点であるが、エロいとこは俺好み
「って、俺は馬鹿かー!」

 最後のが、一番最悪かもしれない。二人がアレコレいちゃついている事が極秘であること以上に、何もかもが問題外な話だ。どうしてだろう。段々、考える方向性がずれていく。やはり、自分は疲れているんだろうか。目頭を押させて首を振る。
 つまり以上の事柄を踏まえて総合的な判断を言うと、サンジは書けないのではなく、書きたくないという結論に達するのだ。
「……風呂にでも入るか」
 気分転換をすれば、もう少しマシな考えが浮かぶかもしれない。そう考えて、サンジは心労で疲れた身体を引きずりバスルームに向かった。



 綺麗に水捌けされたバスルームに足を踏み入れると、まだ少し温かかった。少し前に誰かが入ったのだろうか。
 ふと、壁にある鏡に目がいく。そこに映る自分の顔、それを突っ立ったまま、暫くじっと見つめた。
 目の下にうっすらと出来てる隈は気のせいじゃないだろう。ここ数日で、確実に自分はやつれている。顔色もどこか青白い。顔に手をやり、顎のラインを確かめてみると、若干頬がこけているように見えた。これでは折角のイイ男が台無しだ。寝不足だということもあるが、それもあの問題が解決しない限りどうにもなりそうになかった。
「あのマリモの良い所ってどこだよ、おい」
 鏡の中の自分に問いかけてみた。
「あるわけねぇよな」
 あるにはあるが、書きたくない。
「白紙で出すってのはどうだ?」
 出したら出したで、また提出期限を延ばされるだけのような気がする。
「ったく……大体、なんで俺が……」
 そこまで言いかけて、ふいにサンジの中で何かが閃いた。ハッとして、鏡に映る自分の顔を見つめると、その顔が徐々に紅潮していく。

 ロロノア君の良い所。
 鏡。
 そこに映る自分。

 導き出された答えは単純にして明快。
「そうだよ……そうだよな……それがあったじゃねぇか!」
 突如、閃いたその答えにサンジは思わずガッツポーズをして叫んだ。ロロノア君のここが素晴らしいと思うこと。どうしてこれに気がつかなかったのか、こんな簡単な答えに。一番納得のいく素晴らしい答えがあるじゃないか。これだ、これしかない。
 サンジは問題の答えを書くべく、バスルームを飛び出していった。



 翌日、件の用紙をサンジはロロノア君本人に直接手渡した。サンジ自身、大変満足いく答えなだけに、それを渡す時も満面の笑顔だ。
「我ながら、素晴らしい答えだと思うぜ。これ以上の答えはないな。何しろ俺の人生の中で、これ程悩むことはないだろうってくらい悩んだからなぁ、長く苦しい一週間だったぜ。あ、そうそう、そういえば、お前にも聞きてぇんだが、そこに書いてあるアヒルの絵。そいつメスだと思うか? 俺はオカマだと睨んでるんだけどよ、お前はどっちだと思う?」
 しかし、そんなサンジを他所にロロノア君は渡された用紙を見て、溜息を一つ落とした。
 ロロノア君の長所、ここが素晴らしい! と思うことを下の欄に書きましょう、のその下。そこにはこう書かれていた。

 男前なこの俺に惚れている所

「確かに、アホでアホでどうしようもないアホなお前に付き合ってやってる俺は偉いよな」
 実に率直な感想だった。
 ちなみに、この後の二人であるが、お約束のようにロロノア君の一言で切れたサンジが一週間分溜め込んだ鬱憤を晴らすが如く暴れ、傍にあったウソップ工場二号店がまたもやその被害に遭うことになる。
 ついでに、工場二号店を死守しようと果敢にも二人を止めようとしたウソップ君もまたその被害に遭い、尚且つ、サンジが書いたその解答を見てしまって知りたくも無かった事実を知る。それにより、今後一切この二人に関わるのは良そうと、ウソップ君が固く心に誓ったということを此処に追記しておこうと思う。



2006/11/11掲載
※「ロロ誕2006」様へ送呈、お祝いカード

contents






テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル