「某は花といえば桜だと思いまする」
「俺様はそんなこと考えたこともありませんね。ただ、木瓜の花は奇麗だと思いますよ、触ろうとすれば棘が刺さっちまうところも」
「お館様は何とお答えになろうか」
「旦那と同じじゃない?」
「そうか! そうだろうな!」


 花は梅。が紅梅の一枝を手折って一輪挿しにしていたところ、若き虎と彼の従者たる忍に偶然出会った。戦に出ない女の身、彼らの武勇は耳にしたことがあるだけだ。畏まって礼を取り、廊下の端に控えたところで若虎さまが梅花に目を止められた。よき香りでございますな、と。
 も武家の娘、故に戦に赴く武士が皆風雅を解せぬとは思ってはいないが、若くして武田の一番槍と称される兵がたった一枝の梅の香に柔らかく笑まれたことが驚きだった。だからつい、口が滑ってしまったのだった。わたくしは梅花も好きでございますが、一等好きなのは白水仙の一重にございます。
 忍から威嚇するような気を飛ばされたけれども、それを制したのは彼の主その人だった。そして、照れたように微笑まれながら先の言葉を口にしたのだ。


「そなたが折々の花を活けておられるのでござろうか」
「畏れながら。母に附いて京で花を習っておりましたゆえ、お声を掛けていただきましてございます。けして上手ではございませぬが、最上を心掛けておりまする」
「某も時折目を楽しませてもらっている。これからも精進を怠らぬよう、励まれよ」
「勿体なきお言葉を賜りまして」
「それでは失礼いたす」
「お引き留めいたしまして相済みませぬ」
「いや、そなたの気になさることではない。――行くぞ、佐助」
「はいよっと」


 二人の気配がすっかりなくなるまでは平伏したままだった。きちんとした目通りをせずに会話をしてしまったことを後で叱られるだろう。だが、若き虎の方に罪はない。花の香に誘われ常世へ迷い込んでしまったのだ。
 すっと立ち上がったの前、どこからか時期ではない桜の花弁が舞い踊って地に触れる前に消えた。









戻る

2009/04/15
不思議な感じで。
よしわたり



楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル