「佐助の髪は不思議ね」
「おかしな色してるだろ」
「ううん、きれいよ。あかがねの色ね」
さらり、さらり、髪を梳く音がよく通る。よく耳を傾ければ灯芯の燃ゆるも聞こえる、静かな夜だった。
「そう見えるのは昼日中に外を出歩く時だけだ。それも何にも化けずにさ」
「戦に出る時はそのままよ」
「見たことないくせに」
「そうね」
「見なくていいよ」
「どうして」
「見るもんじゃないから」
「そう?」
「そう」
くすくすと笑う男と女の声が一対。男は女が崩した膝の上に頭を預け、ゆるゆると髪を梳られるのを気持ちよさそうに受け入れている。一頻り笑うと、伏せていた瞼を押し開けて彼を見下ろしていた女の涙袋に指を伸ばした。俺様は。薄い唇が弧を描く。
「の目の色、好きだぜ。くろがねの」
「薄気味悪いって言わないのね」
「お互い様だろ。いいんじゃないの、この身に相応だ」
「――、」
が言葉を口にする前に佐助はの肌を辿っていた指を唇に当てる。シィ、吐息で先を封じ、柔らかさを楽しむように指の腹を幾度か往復させた。
「俺様もも、今は人がいい」
切望するような声音で佐助は呟いた。ひとつ、の瞬く間にしゅるりと小袖の帯を抜き取って笑う。佐助。衿をかき寄せながらが咎める。
つと眉根を寄せたに対して酷く愉しげな佐助は音もなく身体を起こすと、鼻先が触れあわんかまで顔を近づけて囁く。その瞳には情欲の色が隠されもせずに灯っていた。
「くろがねのまなこのひめ、御身給う」
衣の上から背筋をなぞる指の動きも艶めかしく、もう一方は押さえられた衿を抜こうとの手に重ねられていた。佐助が触れることでのなかにさわりと快楽が粟立つ。そうと覚られぬよう努めて平静を装うだったが、佐助は喉を鳴らして己の上唇をゆっくりと舐め上げた。
は、と思わず洩れたの吐息に、佐助の笑みが深まった。
背を辿り、腰まで下りていた腕をゆるりと持ち上げて何もない空を指弾する。一拍遅れて室内をほのあかく染めていた灯火が消えて、獣のように細まった瞳が二対、闇の底に浮かび上がった。密やかな衣擦れの音と共にがくすりと笑う。
佐助。その声は甘く濡れていた。
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2009/05/15
2009/12/01 訂正
これ以上は無理。まだ恥ずかしさを捨てきれない。いつか続きを書きたいです。
よしわたり