月末の目が回るような忙しさを乗り切った月初め。
 早めの帰宅に夕食を終え、ゆっくりと風呂につかって、は部屋に戻っていた。たっぷりとミルクと砂糖を入れた紅茶の、温かいマグカップを両手で包んで、ふうわりと漂う甘い香りにほっと息をつく。溜まっていた一日の疲れがすうっと溶けていくようだった。
「どしたの、いいことあった?」
 くすくすと笑う声に瞬いて、は薄く苦笑を浮かべた。
「ないよ。お風呂上がりにこうやってるとほっとするなあって思って」
 ふうん、と気のない返事をした佐助が自分の頭を指差して軽く肩を上下させた。
「ほっとするのはいいけど、髪の毛乾かしなよ。寒くなってきてんだからほったらかしにしとくと風邪ひいちまう」
「うん、これ飲んだらちゃんと乾かすから大丈夫」
「そー言って、この間はそのまま寝てたみたいだけど?」
 右から左に聞き流しかけた言葉を慌てて引き戻して佐助を見る。マグを傾けるのが一拍遅れていたらむせていたかもしれない。
「な、なんで知ってるの……?」
「忍のやることさ、何でもありだよ。――ってね」
 きり、と真面目そうな顔をして言ってから、佐助はゆるく笑う。
「はぐらかさないでよ」
 ちょっとむっとして言えば、苦笑が返ってくる。
「はぐらかしてるつもりはないんだけど。ま、お疲れさん。ゆっくりお休み」
 佐助の言葉が温かく聞こえる。ふわ、と出てきたあくびをかみ砕いて、残り少なかったマグの中身を飲み干した。


 こうして二人、眠る前のひと時を穏やかに過ごすのが日課になってきた。
 と佐助の関係は、家族でもない、恋人でもない、そして友人でもない。ルームシェアをしている知人、というのが一番近いだろうか。未だにお互いに知らないことだらけで、時々驚くことがある。
 それでも最近は、佐助の方からほんの少しずつ歩み寄ってきてくれている、ような気がしている。素性を無理に聞き出すつもりはないから、会話の途中でちょっと気になることがあったら、それとなく訊ねてみるだけ。そうすると佐助は一瞬、迷うような考えるような表情をして、穏やかに微笑んで話してくれることもあるし、へらりとはぐらかすこともある。
 だから、も佐助に応えようと思った。できるだけ干渉を避けるためにきっぱりと引いていたラインを、ゆっくりと取り払っていっているつもりだ。最初こそいきなりの出会いだったけれど、急に近付いたり遠ざかったり、そういう関係ではないと思うから、このくらいがちょうどいい。




 いつかは終わるにしても、しばらくはこの居心地の良さが続けばいいと、願う。
 佐助もそう思っているのだろうか。ちらりと考えて、は小さく首を振った。









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2009/11/05
いい加減デネブから次に話を進めるつもりが、時間が空きすぎて閑話がないと繋がらないという。
すごく短くなってしまいました……。悔しいです。
よしわたり



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