人との出会いは一期一会。
 流れの忍をしていると特にそうだ。ところが近年、の心を捉えて離さぬ一人の男がいた。


 初めは、雇われた先の任務で合戦の検分に行った時に見かけた。蛮勇とも思える猪突猛進さを有り余る力量で補い、見事敵の大将を討ち取った、赤き若武者。その顔は鍛錬に励んだ己の力を存分に発揮できる戦が楽しくてしょうがないといった風であった。
 戦の後、興奮冷めやらぬといった若武者は「やりましたぞ! お館様ァ!」と喉を潰さん勢いの叫び声を響かせながら自軍の大将の許へ駆け寄って豪快に殴り飛ばされ、それでもまた嬉々として走り寄って拳を振り上げては、互いの顔の形が変わるのではないかというほどに全力でぶつかり合う。それを繰り返して、驚いたことに両者共に無傷なのである。
 腹心の部下だという情報を得ていた忍でさえもそのやり取りには顔を覆って肩を落としている始末。あまり近付けばその忍に始末されるのは明白だったから、南蛮渡来での数少ない私物の一つ、遠眼鏡でその様子を眺めていた。
 いつまで経っても終わりの見えないそれに、こそりと溜息を落として雇われ先に可もなく不可もない報告を入れて、そこでの任務は終了。雀の涙ばかりの賃金を受け取ってその国からは姿を晦ました。
 国境を越えるのは慣れたもの。の他にも同じような生業をしている者が使う抜け道はいくらでもある。野武士が出るだの妖が出るだの、そういった噂を流すのも同業者。そうして注意を向けさせた道とは別の抜け道を通って、はいさようなら。簡単なものだ。

 それから戦場へ出向く時には決まってその男の姿を探すようになっていた。
 破天荒な戦ぶりは御方からも敵方からも良く目立った。遠くから見ていてわかるのだ、同じ戦場に立つとより強く意識させられた。御方の時は頼もしく、敵方の時は万に一つも出くわしてしまわないよう。細心の注意を払い、遠すぎず近すぎない距離から若武者を気に留めていた。勝ち鬨の上がる中で殴り合うのを見ては安堵し、敗走する中で咆える声を聞いては戦き、勝敗の決した合戦後は赤揃えの姿を探した。
 同業の間に流れる男の噂も拾い集めた。戦場で遠目に見るだけの男に惚れたとでもいうのか。お笑い草だ。しかし、恋をする娘のようにはかの若武者に執着している。


 里から離れ、流れの忍をしている習いとして、は容貌や声音、髪型はこまめに変えるようにしている。どちらかといえば戦忍に近いの体は無駄な肉が付きにくく、元の顔立ちも相俟って男子に化けるのも容易かった。
 女子の姿で居たいと、ふと思った。その時はどこにも雇われていなかったし、何の任務も抱えておらず、それらが拍車をかけたのかもしれなかった。
 髪を伸ばし、貯め込んでいた金で贅沢な食事を取り、少し痩せているとはいえ、女らしい体つきにもなれた。旅装束を揃え、武家の娘を演じるための小間物も用意し、何着かの高価な衣も買い求めた。
 道中、職を求めて仕官に行くのだという風采のぱっとしない男を捕まえて、御家人の娘が一人旅をするのを案じた父が不安に思って娘に付けた護衛を務める従者に仕立て上げた。男はを忍と知らぬまま、武家の娘の護衛という仕事だけで飛びついてきた。もちろん、給金は泣く泣く呉れてやった。剣筋はよかったので、それだけが救いだった。

 そして二人が向かったのは、信濃は上田。城主は若くして甲斐の虎の後継者とも噂される――真田源次郎幸村。が気にかける男、その人である。




 それなりの身分の娘を演じるのは、にとって慣れたものである。
 が、従者を演じる男はそうではない。宿を取るのも一苦労だった。仕えて日も浅く、長旅に出るのは初めての者です故と何故かが頭を下げる羽目になった。男は恐縮し切って目を回しそうな有様だったのでそのまま宿に置いて、独り、近くの茶屋に案内してもらった。
 町人に化けていれば白湯でも煎じ茶でも飲めればいいのだが、今はそうもいかない。宿の者に導かれたのは、昨今公卿武家の間に流行っているという、茶屋というには格調高い処だった。目にしたことだけは幾度かある。できぬことはないと判じ、内心で悪態を吐きながらも案内の者ににこやかに礼を述べ、は茅葺の門をくぐった。
「ごめんくださいまし」
 玄関で声をかけても出てくる者はない。もう一度声をかけて、ようやく、結い髪もまだの子供がを出迎えた。本当にここは茶を飲ませるところなのかと猜疑が大きくなる。
「何用にございましょう?」
「お茶を一服、いただきたいのですけれども」
「申し訳ございませぬが、主人は女人に茶は出しませぬ。お引き取り願います」
 深々と頭を下げつつもきっぱりと言い切った子供。この姿でなければ喉を裂いてしまいたいという衝動を抑え込む。
「……そうとは知らず、ご無礼を。では、これにて失礼いたしまする」
 うっすらと笑みを湛えて子供を見下ろし、踵を返しかけた時だった。子供とは別の、男の声に呼び止められた。
「お待ちくだされ!」
 これ以上ここに居る必要はないが、引き留められたからには振り返らざるを得ず、――そして、息をするのも忘れた。
「こちらをご存じないならば旅のお方に相違なかろう。某が茶屋へ案内するでござる」
 僅かに頬を上気させながらを見据えて声をかけてきているのは、衣裳こそ質素ではあるものの、上田城々主であった。

 武家屋敷の一角、看板も出していない家へ入ると、下男が無言で出迎えに来た。これこれこういう訳なのだと真田幸村が説明し、畏まりましたと頷いたその男は奥へと消えた。
「どうぞ、上がってくだされ。ここは茶屋といってもあまり人の来ない処でございまする。旅の疲れを癒していただければ」
「あの……、詮無き事をお伺いいたしますが、何故ここまでしていただけるのでしょうか?」
「旅装束も解かずに茶屋をお探しなのであれば余程お疲れかと……」
 ささ、と勧められては仕方がなく、玄関を上がり、先導されるまま茶室へ入る。
「それと、これは某の事情でございますが、先程の茶人は甘味に疎いものでございまして」
 少しばかり目を伏せながら、照れたように真田幸村は言う。甘味に疎い。には何のことだかわからない。それはどういうことでございましょうと訊ねようとして、はっとした真田幸村がきりりとした面をに向けた。
「申し遅れました、某、真田源次郎と申しまする。これも何かの縁、どうぞ見知り置きを」
 あ、と思わず声を洩らしてから、は丁寧に頭を下げた。
「私は越後国より参りました、正成の娘、と申します。真田様はもしや、こちらの城主様のご血縁で?」
「う、うむ! 某は……! そうでござる! 幸村公からは、少々遠くなるが、血縁にござる!」
 敢えて素知らぬ顔をして問うてみればこの狼狽振り。これが戦場で目にする、あの紅蓮の鬼だとは到底思えぬ。呆れを押し隠してくすくすと微笑するに、真田幸村はますます顔を赤らめてうやむやと言葉にならぬことを言っていたが、下男が障子越しに声をかけてきたのを機に、情けない顔をしながらもしっかりと言い切った。
「某のことは源次郎とお呼び下され! 真田と呼ばれたのではむず痒くて敵わぬでござる」
「それでは、源次郎様と呼ばせていただきまする。私のこともどうぞ、、と」

 真田源次郎が手ずから茶を立て、に振る舞うということをしでかした。
 それにも驚いたのだが、それ以上に、団子だの饅頭だの、貧しい者は一生の内に口にすることがあるかないかといった甘味を真田源次郎は多量に食することに驚いた。など、そのようなもの食べたこともない。勧められても食べる気がせずに、やんわりと断った。
殿はどうして上田へ?」
 口の中のものを茶で流し込んでから、真田源次郎が問うてきた。多量にあった甘味は全部なくなっていた。
「噂を耳にいたしまして。我が国へよく訪れては各地の話をしていくという、加賀は前田の、お名前は忘れてしまいましたが、かのお方がおっしゃっていたそうでございます。上田は城主様が若くて多少無茶なところもあるけれども、兵も民も明るくていいところだと。それで訪れてみたくなったのでございます」
 嘘が半分、真が半分。越後に前田の風来坊と渾名される男が出入りしているのを利用し、上田の町並みや賑わいを物見遊山に来たことへの理由をつけた。
「前田殿がそのようなことを……。いつも唐突に現れては去っていく、嵐のような男でござる」
 私もそう聞き及んでおります、と二人して笑う。
「先程着いたばかりで、まだどこへも回れてはおりませぬが」
 ほうと苦笑いを浮かべたに、真田源次郎は目を瞠ると、さも名案を思いついたような表情をした。
殿! なれば某が上田をご案内いたしましょう!」
 真田幸村の思わぬ申し出に、が目を見開く。
「で、ですが、源次郎様はお城勤めなのでは」
「う、む……。滞在は何日のご予定でござろうか?」
「三日でございます。それ以上は父も許しを下さらず」
 あまり長く滞在する金はない。顔が知られるのも面倒だ。三日が頃合いだろう。むむ、と真田源次郎は悩みながら何かを数えるように指を折っている。
「三日……、三日ならば休みをもらえるやもしれませぬ。これから城へ行って訊いてまいります故、明日よりのご案内でもよろしゅうございますか?」
「……源次郎様のご厄介にならずとも、従者がおりまするので、」
 しかとを見据えて言う真田源次郎の真っ直ぐさに、はたじろぐ。忍故に、殺気を向けられる以外でこれほど真っ直ぐな視線を向けられたことはない。顔を逸らし、息苦しさをごまかす。
「某が、殿に上田を案内したいのでござる。……ご迷惑なれば、無理にとは言わぬが」
 真田源次郎は思っていた以上に強情だった。そして、駆け引きもより長じていた。押してだめなら引いてみろ。とっさには首を振る。
「迷惑などではございませぬ! では、源次郎様。――お願いしても?」
「もちろんでござる!」
 弱り切った笑みを薄くのせたに、はきはきと応じる真田源次郎。

 こうして、思わぬ形では真田幸村、否、真田源次郎と過ごすこととなったのだった。




 三日はあっという間に過ぎてしまった。
 城主なのだから当然であるが、真田源次郎は上田の地理に詳しい。あちらこちらと案内をするのも己が治める領地を見せようという魂胆は一切感じられず、ただ、この地が好きなのだという心が伝わってきた。堀之内におもしろいものなどありませぬと断言して、城からも武家屋敷からも遠ざかり、町人にまぎれて町を歩き話をし、飯も茶も安いが旨い店で作法を気にせずに食べる。
 若武者らしい感情の表し方は戦場で見るのと変わらない。それが平時であるためか、底抜けに明るく思われた。気が逸ってしまい、申し訳ござらぬと恥ずかしげも重みもなくその頭をに下げたのは何度あっただろう。初めこそ止めさせようとしたけれども、何度も繰り返されてはも苦笑いに受け入れるしかなかった。

 かと思えば、がこっそりと横目に見ていた小間物屋の笄に気付いて、少し席を立った後には慣れない様子でそれをに手渡して呉れた。女子と親しくなるのが苦手なのだと聞いていたのは誤りであったのだろう。細長く飾り気のないそれは、にとって一番の宝物になった。

 供をさせた男は相手が何者であるかを知らない。年下だとわかるや目を剥き、年の割にやたらと落ち着きがあり芯の通った真田源次郎に感心していたのが滑稽であった。


 の中で、整理がつかなくなっている。真田源次郎幸村とはどういう人物なのか。
 忍であるが多種多様の人を演じ分けるように、真田源次郎幸村も対する人によって己を演じ分けているのだろうか。笄を引き抜いて手に取ってみても、何もわからなかった。

「お前、私は明朝ここを発つ。どうする?」
 は笄を手すさびに回しながら、隣室の男に問うた。
「上田はいいところだ。俺はここで仕官したい。せっかく、源次郎とも顔見知りになれたんだ」
 興奮したような男の声にくすくすと笑う。それを士気が上がっていることに受け取ったのか、男も照れたように笑った。
「あれは、真田源次郎幸村。上田の城主だぞ」
 我が耳にも凍るような声だった。え、と男が困惑しているのが目に見えるようだ。
「お前は城主と親しくなってどうするつもりなんだ? 城主と茶を飲んだ仲だから兵にしてくれ、とでも言うつもりか? そんな手、忍も使わないよ」
「源次郎、さ、まが、幸村公……? お前、知ってたのか?」
「武家の娘がそれも知らずにいてどうする。黙っていてくれと言われたから黙っていたまで。元を辿ればお前が宿でくたばったりなどしなければよかったのに」
 責任を男になすりつけるような言い方をする。
「お前が無理難題を言いつけるからだろう! こっちはご大層な身分なんてクソくらえと思ってんだ!」
 かっとなって返す男のせいで、感情がざらついていく。
「真田源次郎幸村は、お前の嫌いなそのご大層な身分の一人じゃないか」
「それは……! お前はどうなんだ! 贈り物までしてもらって帰れるのか?」
 厭味たらしく鼻で笑う男。の手から笄がぽとりと落ちた。
「莫迦らしい! 城主様のお戯れだよ!」
 己が叫んだ言葉に、は身を切られるような思いをした。
「あいつは遊ぶような男じゃない!」
「黙れ!」
 それから、二人の間に言葉はなく。男が眠り、他の泊り客が眠っても、はじっと敷布団に落ちた笄を触れずに見つめていた。
 夜はひどく長かった。




 明くる日、朝一番で宿を出ると門前に人が立っていた。市女笠を深めに被り、染物の垂れ衣越しにその男を一瞥し、――素通りしようとした。
、さん?」
 が、男はさりげなくの進路を塞ぐ形でにこにこと声をかけてきた。供の男とやんわりと距離を空けられて、は舌打ちする思いで笑顔を取り繕った。
「ええ、とは私のことですが。何用です」
「アンタを呼んでるお人がいる。来てくれるな」
 あくまで態度は柔らかく、だが有無は言わさぬというわけか。垂れ衣を上げ、従者を振り返って今出たばかりの宿を示した。
「お前はここで待たせてもらいなさい」
「悪いね」
「いいえ。源次郎様のお言い付けでしょう?」
 何にも隔たれずに見上げた男の顔には幾度か見覚えがあった。それも、上田ではない場所で。真田源次郎幸村の忍、猿飛佐助。
 口笛を吹くと、にんまり笑った猿飛佐助は仰々しく礼をした。
「話が早い。では、殿。我が主の許へご案内いたします」
「お願いいたしまする」
 小さく頭を下げたがきゅうと握った懸け守りの中には、昨日もらった笄が入っていた。


 上田に来た初日、真田幸村に案内された屋敷。猿飛佐助は、客間へ入れとに無言で訴えてきた。諾と頷く。猿飛佐助が姿を消す。
「……失礼いたします」
 できるだけ音を立てないように障子を引けば、上座に真田源次郎幸村が、じっと座しての到着を待っていた。客人は。対面に腰を下ろして深く深く頭を垂れた。
「お呼びたてのご用件をお伺いしてもよろしゅうございましょうか、――真田源次郎、幸村様」

「気付いておられたのですか」
 悲しげな声に、相手から見えないよう懸け守りをぎゅうと握りしめて答える。
「初めから、存じ上げておりました」
 の口から出た声は、驚くほどに弱々しく細かった。
「それでも、某を源次郎と呼び、共に過ごしてくださった」
「真田様がそれを望まれておいでだと、私にもわかりましたし、……私も、身分違いも甚だしゅうも、それを望んでおりました」
「……殿。面を上げてはくださらぬか」
 切なる願いを込めた声音にゆるゆると視線を上げれば、向かいに座る男の袴、袖、腰刀、胸紐が目に入る。ひとつ息を吸って、懸け守りから手を離せないままにその顔を見た。

 ふ、と口許を緩めている真田源次郎の表情はがこの三日で一度も目にしたことがないものだった。
 真田幸村の、顔。知らず、こくりとの喉が鳴る。
「某が、何も調べずにいたとでも?」
「どういう……」
「忍を使った。越後国に正成という御家人は見当たらぬ。もちろん、という娘も。……という名に聞き覚えがある、という者がいてな、その者が言うには変装の巧い流れの忍だと」
 広い客間に手の届く近さで男女が二人。ひとつ膝を繰った真田源次郎幸村は戦の気に当てられて歓喜を覚えている若武者であり、女の前で赤くなるような男には到底見えぬ。
「某を亡き者にしようと近付いたのでござろう? さて、どうする?」
 目の前の男にばかり気を取られていたが、はっと気を巡らせれば天井裏、客間の外、屋内外を問わず何人も控えているようだった。

 だが、真田幸村の言葉にはくすくすと笑う。訝しむ真田幸村は、――の心を捉えて離さぬ強く熱い眼差しをした、戦場で恐れられる紅蓮の鬼だった。
「私は今、どこからも誰からも任務を受けておりませぬし、貴方様のお命を狙ってもおりませぬ。偶然にして貴方様と出会い、話をし、楽しい時を過ごさせていただいただけの女でございまする。忍であることは真でございますから否定はいたしませぬ。これから私が余所へ雇われて厄介だとお思いになられるのでしたらどうぞご自由に処分なさいませ」
 これはの本心からの言葉だった。戦場で見る真田幸村とは違った、真田源次郎という若き男のありのままの姿をたくさん見た。勿体ないことに、笄を贈られもした。当人にそのつもりはなくとも、にとってこの懸け守りの中の笄は宝物である。
 忍として惨めに死するくらいなら、ただの女として真田源次郎と過ごした時を忘れぬままに今、死ねる方がいい。


 はあと溜息を落とした真田幸村はがしがしと頭をかいてから視線を外す。再び向けられたそれは、真田源次郎のものだった。
「……なれば、某の腰元とならぬか?」
 ほんのりと頬を赤らめて、目許を緩める真田源次郎幸村が思わぬことを提案した。
「何、を」
 は数度瞬いてから口を開いた。
殿が忍だと知らされた時、すぐには信じられなかったのでござる。控えめながらもしっかりとした意見をお持ちになり、某の話に呆れることも飽きることもなく柔らかに微笑んでくださり、高級な衣を着て簪を挿していてなお素朴な笄に目を留める感性。良家の女子に違いない、かような女子が忍であるはずがない。そう思ったのでござるが」
 宙へ夢見るように語っていた真田源次郎幸村が一度言葉を切って、に視線を戻す。
「が、」
 聞きたくないが、聞かねばならないだろう。
「某は女子が苦手であるのだが、殿は女子特有の匂いというか、雰囲気が全くなかったのでござる。故に親しくなれた。忍であるというのも信じた」
 真田幸村の言葉はどんな刃物より深く、鋭くの心を突き刺した。懸け守りを握っていた手は力なく膝に落ちる。
「わ、私、これでも女らしくなったはず……」
 それだけ言うとは呆然と肩を落とす。
「全くそうとは思えぬでござる!」
 満面の笑みで言い切った真田源次郎幸村。返答は、あるはずもない。




 上田城の自室で幸村は機嫌よく、佐助を呼ばう。はいよっと、との一声で現れた己の忍に緩む顔を隠しもせずに向けた。
「お前も多少は楽になっただろう」
 はぁと呆れぎみに肩を落とす忍が首を二、三度振って眉間にしわを寄せた。
「あのねえ、こういうのは旦那の一存で決めていいことじゃないの。……ま、楽になったことは否定しないけどさ」
「身の回りのことはが全てしてくれている。お前にはこれまで以上に戦忍としての働きを期待しているぞ。まずは団子を買ってきてくれ」
「それこそあの女にやらせろよな!」
は俺の腰元だ。傍におらぬわけにはいかんだろう」
 わあっと喚く忍の不平不満などどこ吹く風。
「俺様とばっちりじゃねー!?」

 軽い足音が近づいてきて、幸村はぴんと背を伸ばし、忍はげえと顔をしかめる。
「源次郎様、お茶が入りました。ご休憩なさってくださいまし」
 それは忍を辞めて、幸村の腰元になったの声。にわかに幸村の声が弾む。
、すまぬな。そうしよう」


「……佐助、出ていけ」
「へーい……」
 視線だけで交わされた会話を、追記しておく。









2010/05/20
怜奈さま、お誕生日おめでとうございます。
残念クオリティでまことに申し訳ない……! ですがこれ以上キャッキャウフフはできそうにないので諦めます。佐助が不憫なのはデフォです。
父の名にお借りしたのは鎌倉末期の武将、楠木正成。昔に読んだ物語で潔く散っていった記憶があって私の中ではいつまでもヒーローの武将です。
よしわたり



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