洗い物の手拭いを持って井戸へ向かっている途中で、佐助と出くわした。佐助、とが呼びかける前に、両手を合わせた佐助が片目をつぶる。
ちゃん! ちょうどよかった。お茶請け用意してくれねーかな?」
「え? ご賓客へのお茶請けならさっき上の方がお出ししたみたいだけど……」

 ちょうど今はお館様の客人、それもかなりの要人がいらしているところだ。夜は宴が開かれるとあって廚は目も回るほど忙しい。だって佐助に引き留められなかったらすぐにでも洗い物を済ませてきたいところだ。ところが佐助は少し視線をさまよわせて、歯切れ悪く答える。
「あー、うん。そっちのじゃなくて、俺様の同業者っていうかなんつーか」
 要領を得ないその答えに、は首を傾げる。がりがりと頭をかいた佐助がさっと辺りを見回して、背を屈めるとの耳許に口を寄せる。あまり他人には聞かれたくないことなんだろうな、と頷いては少し背伸びした。
「相手は上杉と、北条の忍なんだよ。大将達に暇を命じられたはいいものの、あいつら忍だからさ、勝手にウロウロさせるわけにはいかないっしょ? そんで俺様が見張りを兼ねて部屋に閉じ込めてるわけ。だけど、さすがに一刻も無言でいたら気まずいのなんの。部下にちょーっとの間だけ代わってもらって出てきたはいいけど、そのまま戻るのもねぇ……。どうしようと思ってたところにちゃんがいたからさ」
 へら、と笑った佐助を見て、はがくりと肩を落とした。きっとこのまま廚には戻れない。なんのかんのと言い訳を見つけて宴の席まで佐助に捕まったままだろう。

「ちょっと待ってて、この手拭い誰かに預けてくるから。それと、抜けさせてもらいますって言ってこないと」
「やー、悪いね。ちゃんってばやっさしー!」
 ぱん、と両手を叩いて喜んでみせる佐助に溜息をついて、はぼそりと呟いた。
「忍隊の隊長さまの言葉に逆らえる人なんているわけないじゃない。私なんか、」
 特に、と唇を尖らせて佐助を見上げる。にんまりと意地の悪い笑みを浮かべ、佐助はの頭を撫でた。
「逆らってくれてもいいけど? ただ、そうなると有無を言わさず連れてくけどね?」
 つう、と頬に手を滑らせて、の体をくるりと反転させる。
「はい、いってらっしゃい。俺様ここで待ってるから」
 軽く背中を押されて、仕方なしには廚へと戻っていったのだった。




「これはまた……」
 佐助に導かれた先の小部屋の障子を引いて、思わずは声を上げる。忍だというのに、佐助に負けず劣らずの派手な出で立ちをした男と女がいた。
「びっくりした? ――かすが、風魔の旦那、一服しなよ。薬なんか入ってないから」
 に向かって軽く笑いかけてから、佐助は部屋の中央の座卓へ二人を手招く。が、どちらもすぐに興味をなくしたように顔を逸らしてしまい、はどうしたものかと佐助を見る。あは、と苦笑いされた。

「……この猿飛が失礼をしたようで。申し訳ありません。私は武田のお屋敷で廚女の下々をしております、と申します。聞きましたところお二方とも忍であられるとか。警戒なさるのも当然でございましょう。無理にとは申しませんので、よろしければこちらをどうぞ。真田様が八つ時に好んでお召しになられております、団子でございます」
 廊下にて深々と礼をしてから、は微笑んで二人に話し掛ける。に向けられた警戒は解かれることはなかったけれど、静々と部屋に入って平盆から卓上に移した甘味を示して幸村の名を出せば、金の髪をした美しい女がひとつ瞬いてを見た。
 目鼻立ちの大層整った、目も眩むような美しき女忍は佐助を蔑むように一瞥すると、に向き直って、かすがだ、と名乗った。
「こいつが失礼なのはいつものことだから気にしてはいない。……忍にもてなしなど不要だ。私達は影、あってなきもの。謙信様や北条の、が甲斐の虎の客人だろうに」
 かすがぁ、との情けない声を耳にしながら、は小さく首を傾げた。
「彼の方々の身を影より守っておられる、忍の方をもてなさずに誰をもてなしましょう? お客様方とお館様は、真田様はじめ武田の将兵が厳重にお守りしておりますゆえ、常に主様の傍にある忍の方も偶には息を抜いてはいかがでございましょう。お三方がそう思し召されて、猿飛にこちらへ案内させたのではございませぬか? ――こちらは客の間にございます」
 の言葉にかすがは僅かに目を瞠り、兜を被ったままの男は微動だにしない。佐助だけがひゅう、と楽しげに唇に音を乗せる。
ちゃん、言うねぇ!」
 籠手を外した手で団子をぱくりとつまみながら、佐助は笑う。やっぱうまいよなここの団子、と言いつつ白湯を啜る忍の姿はにとってあまりに日常すぎて、忍とはこういうものなのだと思っていたのだが。ぱしん、とその右手を叩いてちょっと強めに睨みつけた。

「お客様が召し上がってないのに先に食べないの」
「えー? だって、食べないって言うんだぜ? 勿体ないだろ」
 だから俺様が食べてやるの、とへらりと気の抜けた笑みを浮かべて、佐助はまた団子に手を伸ばす。こら、とが小さく嗜めれば、かすがが何とも言えない声音で佐助、と溜息交じりに吐き捨てた。ん、とかすがを見る佐助の口はもぐもぐと動いている。
「お前、忍の癖にどういう暮らしをしているんだ……」
 呆れた半眼をしたかすがに軽く肩を上下させて、そちらへ皿を押しやる。
「んー? いたって普通の暮らしだぜ。ほら、毒見してやったんだからかすがも食べな。旨いからさ」
 考えなしではなかったのか、とはそうっと佐助を横目で見る。悪戯じみて楽しげな、いつもの表情を浮かべていた。


 それから四半刻。あれやこれやとが話し掛けることで、かすがの方は少しは反応をくれるようになった。主には佐助に対する愚痴であったり文句であったが、問い掛けてみれば、仕えている主たる上杉謙信への賞賛と賛美をとても嬉しそうに話してくるのをみて、やはり佐助の同類かもしれない、とはこっそり思ったのだった。
 ただ、兜を目深に被った赤髪の男は、の目には生きているのか死んでいるのかも判らないくらい動く様子はなかった。話を振っても答える様子はなかったが、佐助もかすがも気にしている素振りを見せないから、それが常なのだろう。
 すっかり冷め切ってしまった湯を淹れ直しに、は一旦部屋を下がった。団子は既に三分の一が佐助によって食べられてしまったから、序でに他のお茶請けを取って来るためでもあった。

 廚は、戦場だった。
 気合いを入れるために深く呼吸をしてから、すみませんちょっとごめんなさい、と人の間を縫っていく。流し場で茶器を濯ぎ、竈に掛けてある鍋から湯をもらい、は軽く息を吐いた。意を決して、竈番の手の空いた隙を見計らうとすすっと近寄って耳打ちした。
「あの、猿飛様のご所望で、何か茶請けが欲しいのですけど……」
「もうすぐ宴だろ?」
 訝しむ男に申し訳ない、と頭を下げてが続ける。
「猿飛様は忍でございましょう? お客様にも同業の方がいるそうで、目を離せないからとのことで」
 なんといっても相手が伝説の忍らしいのです、とさも驚いたように言えば、彼はと同じように驚いてくれた。嘘は言ってないから、と胸中で謝りつつ、繰り返した。
「ですから、何かお願いできませんか?」
 うむむ、と眉間に皺寄せていた竈番は、灰だけになった竈を火箸でごそごそと掻き回した。出てきたのは、おやきが五つ。雑色の飯にも出せないような野菜くずなどを練った小麦の余りの皮で包んだもの。余程忙しい日だけ、廚番が仕事を全て終えてから分け合って食べる、ねぎらい飯のようなものだった。
「今日は大変だからってちょっと多めに作っといたんだ。まだ熱いから気をつけて持って行けよ。猿飛様にゃこんなもんで申し訳ないが、って言っといてくれ」
 にっと色のついた歯を見せた男に、ありがとうございます、とは笑い返す。藁に包まれたそれを大事に抱え、茶器の類は盆に載せて、足取りも軽く客間に戻って行った。


「お待たせいたしました」
 す、とが障子を開ければ、そこもまた戦場だった。
 鬼の形相をしたかすがが佐助に忍の道具を投げようとしており、それまで呼吸をしているのかさえ怪しかった風魔が一対の短刀を手に間に割って入り、ぎりぎりのところで事無きを得ている。また佐助が何かしでかしたのか、と半分泣きそうになりながら部屋に入って障子を閉めるとは平伏した。
「私のようなものが言える言葉ではありませぬが、どうかお二方、刃をお納めください。猿飛がまた失礼をいたしましたようで、申し開きもできませぬ。白湯を淹れ直しましたので、どうぞお召しになって落ち着きくださいませ。かすが様、風魔様」
 ぜいぜいと肩で息をするかすがはの声に多少冷静さを取り戻したのか、佐助を蹴り飛ばすと一番離れた場所に座った。きらめく金の髪をさらりと撫でつける美女の柳眉はきゅっと逆立てられている。
「かすがでいい。甲斐の虎も真田も、どうしてこいつを重用するんだ! 確かに腕はいいかもしれないが、それだけだ!」
「なんでそんなこと言うのさ、かすが。俺様、」
「佐助」
 転がったままかすがの方に顔を向けて、へらへらと言葉を続けようとした佐助を黙らせたのは、。にこりと微笑んで名を呼んだだけだが、佐助は途端に大人しくなる。ぱちぱちと瞬きをするかすがに、腕を組み無言で立っていながら、どこか疑問を浮かべているような雰囲気をしている風魔。
「風魔様も、どうぞお座りになってくださいませ。今、白湯を」
 何も起きなかった、という顔をして座卓に寄ると、は白湯を注いでかすがと風魔の前に置いた。自分の前にも置いて一口。忍はそう簡単に他者の出した飲食物を口にしないと先の佐助の行動で理解したので先に混ぜ物はないと示してみせた。佐助の前にはなし。
「団子は佐助がほとんど食べてしまいましたでしょう? ですから代わりに、といっても粗末なものですが……」

 懐中から包んだ藁を取り出して広げれば、おやきはまだ温かく湯気が立ち上っている。すん、と匂いを嗅ぐようにした風魔が座ったのに微笑みかけて、はそれを一つ手に取った。
「おやきと言いまして、私共、廚番がたまに食べるようなものですが。中は大根や菜っ葉の切れ端ですが、味付けはしてありますし、熱いうちですとおいしゅうございますよ」
 宴の準備で廚も忙しいものでして、とが謝りきらないうちに、起き上がってきた佐助がの手からおやきを取って食べた。
「うまっ! 寒い日にはコレ欠かせないよな。ねーちゃん、今日は余りそう?」
  もぎゅもぎゅごくん、とあっという間に食べてしまってにへらと笑う佐助に、はにっこりと微笑んだ。
「佐助の分はそれでお終い」
「え?」
「団子も食べて夜は宴でしょ。それ以上佐助にくれてやるもんなんかないの」
 ええっ、と悲しそうな表情をする佐助に騙されることもなく、残り四つのうち一つを半分に割って食べてみせる。かすがと風魔は警戒しているだろうから、と再び佐助の真似をしてみたのだが、その心配はなかったらしい。

「おいしい……」
「………………」
 小さくちぎって一口食べ、ぽつりと呟いたかすがと、齧りついて咀嚼するとほんの僅か口許を緩めた風魔と。
 そういえば団子が全てなくなっていた。佐助が食べきってしまったわけではないのかもしれない。きちんと食べてくれることに嬉しくなったは、にこにこと二人が食べるのを見つつ、白湯を飲む。横では佐助がまだ泣き言を洩らしての袖を引いていたが、見ざる聞かざるを貫いた。




「団子もおやきもおいしかった。ありがとう」
 茶器をことりと置いて、少し照れたように言うかすが。飲み掛けの白湯をこくりと流し込んで、かすがの言葉に同意するように風魔が肯首した。
「喜んでいただけて何よりでございます」
 二人の姿に、の表情も緩む。ほっこりと心が温かくなったのは、共に甘味を食しただけではないと思う。

 ふと、かすがに凝視されているのに気付いてはそちらを見た。かすがはなんともいえない、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「かすがさん、どうかしました?」
「これほどよくできた娘なのに、どうして佐助なんかが……。いや、器量良しだからこそか? 判らん……」
 呟かれた言葉に、思わず乾いた笑みが浮かんでしまった。佐助は横で勝手に照れている。照れる要素はどこにもなかったが。そんな佐助に呆れた溜息を落として、かすがが言う。
「佐助、お前薬を使っただろう」
「何言っちゃってんのかすがってば! 俺様がそんなことするわけないでしょーが!」
「どうかな」
「ええ!? ちゃん、そんなことないってかすがに言ってやってよ!」
「……え?」
 ぼうっとしていたら、なにやら喧しくしていた佐助に急に話を振られて、はぽかんと佐助を見上げた。ほら、と言われても困る。見たところかすがと佐助の言い争いのようで、風魔はどこ吹く風、といった様子でそれを眺めている。
「え、あの。かすがさん」
 渋々、はかすがに話を切り出した。
「なんだ」
「その、失礼でなければ、少しお体を触らせていただいてもよろしいでしょうか……? いえ、はしたない意味ではなく! かすがさんも風魔さんも、忍でいらっしゃるからかすごくしっかりとしたお体をしておいでなので、その、羨ましくて……。私など、背も低ければ肉付きも悪く。戦人ではないからでしょうか」
 困ったように自分の体を見下ろすに、今度はかすがと佐助が唖然とする。
「……は?」
ちゃん、何言ってんの?」
「す、すみません、聞き流してください!」
 かああと真っ赤になって俯き、ぎゅうと膝に置いた拳を握り込む。ふるふると佐助の体が震える。
「か、かわいい……」
「お前は阿呆か」
 真面目な顔をした佐助をべしりとはたき、かすがはさらりと横髪をかきあげる。ちらっと視線を上げたがその仕草を見て悩ましげに溜息をこぼしたのを見遣って渋面を解く。
「お前が私をどうこうできるとも思えないしな。忍の体が珍しいというなら触ればいい」
 ん、と腕を突き出したかすがに、は表情を明るくする。これまでよくできた下女でいたからか、少し恥ずかしくなって咳払いを一つ。
「そ、それでは失礼いたします」
 やわ、としていた。細く鍛えられているのに、女らしい体。思わず溜息が出た。
「ぎゃー! ちゃんなにしてんのー!」
「なななな、何を!」
 はぺいっと佐助に引きはがされ、鳥肌を立てているかすがが顔を青くしている。
「何をと言われましても、触らせていただいただけでございますが……」
「だからって抱きつかなくてもいいでしょー!」
「だからといって抱きつくな!」
 二人の声が重なってを責める。小さくなりかけたところで、とんとん、と肩を叩かれているのに気付く。そちらを向けば風魔がいた。ご丁寧に両手を広げて、子供に飛び込んでおいでといわんばかりの体勢で。
「風魔さん……。いざ、失礼します」
 遠慮なくは風魔に抱きつく。なんとも引き締まった筋肉に、細い腰回り。信玄とも幸村とも違う、忍の体は不思議だとはしみじみと思うのだった。風魔に抱きついたままで。背後で真っ青になっている佐助とかすがには全く気が付いていないようであった。




「おもしろくない」
 ぐい、と後ろ襟を引かれて帯に腕を回され、あっという間には佐助の膝の間に絡めとられていた。
「佐助?」
 振り仰いだ先の男は、軽く唇を突き出して面白くない、と呟いた。
「ねぇ、ちゃん。俺様は? 忍の中の忍、猿飛佐助だぜ?」
 どうやら佐助は、に体を触らせてやっていたかすがや風魔小太郎に対し、小さな嫉妬をしていたらしい。何言ってるの、とが佐助の脛当てをコンコンと叩く。硬い鋼の音。
「かすがさんや風魔さんに比べて、佐助はヨロイばかりじゃない。抱え込まれても痛いだけなの」
 呆れ交じりに言ったをまじまじと見、二人の様子を窺っているかすがと風魔、それぞれに挑発的な視線をくれてから、佐助の手がの顎を持ち上げた。の目に映る佐助の双眸は、この場に似つかわしくないほどに色を湛えていた。まずい、とが体を捻って逃げ出そうとするのを、手放してくれるはずもなく。
「でもさ、知ってるでしょ? 俺様の体、さ」
 低く甘い、掠れた声と共に下りてきた唇。んん、とが抵抗すればするだけ佐助は執拗に追いかけてくる。薄く開いた視界に見えた、好いた男の欲情した瞳。抗う気力をなくして瞼を落とし、きつく食いしばっていた唇から力を抜けば、ぬるりと差し込まれる熱い舌。押し返そうとすれば絡め取られ、逃げれば引き出され。どこか甘い味がふわりと広がって、奇妙な感覚がした。

 息苦しくなってきたがいつもするように、佐助の胸をとん、と弱々しく叩く。ちう、と名残惜しげにひとつ唇を食んで、佐助はちろりと舌を出したまま、ほうっと気の抜けたの下唇との間に透明の糸を繋いで離れていく。目を細め、ぺろりとそれを舐め取る仕草はまさに、色に耽る夜の姿。
 愛おしげにの頭を撫で、指の背を頬に滑らせ、ふらりと傾きかけたの体を支えて、にんまりと笑んでくる佐助に、は危うく何もかもを忘れてその体に身を預けようとした。のだが。


 す、と立ち上がり縁側の障子を睨むかすがと風魔。げ、と一瞬で青褪めた佐助の表情。
 すぱーん、と勢いよく両手で開かれた障子。
「佐助ェ! どれだけ呼んでも来ぬとは! どういう、こと、だ……」
 そこに立っていたのは他でもない佐助の主、真田幸村その人であった。佐助に抱かれたを見、その蕩けた表情を目にして、赤装束と同じくらいに赤面すると、ぱくぱくと口を開閉した。
「……破廉恥で、ござ、る」
 顔を逸らし俯いて、小さく絞り出された幸村の声に、はっと正気に戻ったは、目の前の佐助の顔を力いっぱい平手打ちした。
「さ、さ、さす、け、のッ、莫迦ーーーッ!!!」

 ぐはっ、と佐助がよろけた隙を見計らって、かすがが跳ぶ。佐助を蹴り上げて宙に浮かせたまま回転蹴りを繰り出し、障子を突き破って庭へと降り立つと、続けざまに印を組む。
「闇消!」
 音も気配もなく傍に現れていた風魔に部屋の奥へと押しやられていたは、それを遠くから呆然と眺めているしかできない。風の吹く音が耳許でしたと思った時には、風魔がかすがの技に捉えられていた佐助を風のように軽やかに上空高く舞い上がらせ、地に蹴り落としていた。風魔は何事もなかったかのように悠然と腕を組み、縁に直立している。
「やりすぎ、でしょーが……」
 地面に這いつくばって顔だけを持ち上げ、瀕死の体で呟いた佐助の前には、仁王立ちの幸村。
「旦那……?」
 恐る恐る掛けられた佐助の声に応えたのは、いつの間に手にしたのか二槍の刃に燃え盛る赤き炎だった。ゆるうり、円を描くように二本の槍を回しながら、すう、と幸村が息を吸うた。
「――燃えよ、我が魂!」


「嘘だろーッ!?」
「我が炎、消えること無し!」
 佐助の断末魔と、幸村の咆哮が館にこだました。この様子では甲斐信濃一円にまで轟いたかもしれない。

 耳を塞ぎ目を閉じ、私は何も見なかった私は何も見なかった、とうわ言のように繰り返すが落ち着きを取り戻すまで、かすがと風魔がわたわたと付いて回っていたという。――真田忍隊の報告による。




 その後、重傷を負った佐助が病床にて述懐したところによると、にかすが、風魔に幸村の頭上の中空に、訳の判らない文字が浮かんでいたという。キラキラと輝いていたそれが何を意味するのか、残念ながら佐助は知ることがなかったのであった。









戻る

2010/07/15
一年は放置していたリアルに見た夢の話。見たのはかすがに抱きつくのと風魔に抱きつくのと、佐助がさめざめ泣いているのでしたが、大幅に脚色を加えて。
忍の腰とケツは正義。かすがのおっぱいも。
よしわたり



Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!