十二月二十四日、世にいうところのクリスマスイブである。そこそこ晴れていた夕焼け空は、先日冬至を過ぎたばかりのために、あっという間に暮れの色にのまれて消えた。低めの位置にひとつ輝くは宵の明星、――金星。
 風はさほど強くないが日が落ちたことで、気温はするすると下降していく。暖かな黒いロングのダウンコートの前をかき合せ、オリーブグリーンのストールを巻きなおして、女がコツコツとヒールを鳴らして歩いている。その手には軽そうに見えるが大きめの箱の入った紙袋。フランス語の店名が印字されたシンプルなデザインのもの。小さく震えた携帯電話に気づいて、彼女はバッグからそれを取り出す。サブディスプレイにさっと目をやってからカチ、と通話ボタンを押した。
「もしもし? 今歩いて行ってるところ。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、何回掛けても通じなかったじゃん! 遅くなるなら迎えに行くよって言ったでしょ!」
 電話越しに聞こえるのは青年の怒ったような困ったような声。小さく苦笑して彼女は答える。
「ごめん、今日はかなり忙しかったからね。もうすぐ着くよ」
「……ホントに?」
「うん、あと五分もしないうちに着くから。心配掛けてごめん。結局何人?」
「五人」
「誰と誰?」
「伊達と毛利の旦那」
「あらまあ珍しい組み合わせ。一番こういうのに縁がなさそうな二人だねえ」
「まー、いろいろ事情がね……。じゃ、ホントに迎えいらないの?」
「大丈夫。あと少しで着くよ。一旦切るね」
「判った。なんかあったらすぐ電話してよ? 俺様心配で心配で」
「はいはい。じゃあ後でね」
「……ん、待ってる」
 ふ、と口許を緩ませて女は通話を終える。パチンと携帯を閉じて目を上げればそこには一棟のマンション。さらに笑みを深めて彼女はそのマンションへと入って行った。

 ピンポン、チャイムが鳴り終わる前にガチャガチャと慌しい音がして、玄関のドアが開いた。飛び出してきたのは明るい茶色の髪をはねさせた男の子。
殿! お疲れでござる! ささ、早く中へ!」
「ただいま、真田君。そんなに慌てなくても」
「む、う、お、かえりでござる」
 少し落ち着いて、との、の言葉に頷いた彼は数度深呼吸をすると、にこり、笑った。つられても笑顔になる。
「佐助が一日そわそわして、人が訪れるたびに機嫌が悪くなっていくのは迷惑極まりなかったのだ。それが今日のケーキでござろうか」
「ごめんね、明日休みもらうかわりに今日ロングで入ってたから。そう、ウチのクリスマスケーキ。普通のショートケーキじゃないところがポイント! でも、開けてからのお楽しみだからね」
「うう、殿も意地悪でござる……」
「だって真田君開けたら絶対つまみ食いしちゃうでしょ?」
「むう……」
「だから、ご飯の後でね」
 玄関で靴も脱がずに幸村と話をしていたに、イライラしたような声が飛んでくる。
「ちょっとちゃん! 旦那も! いつまでもそんなところで話してないでさっさと中入る! 旦那はケーキ預かってきて。ちゃんは手洗い」
 母親のようなことを言うなあ、と二人で顔を見合せて苦笑し、は紙袋を幸村に手渡す。彼はぱあっと輝くような笑顔をしてから大事そうにそれを抱えてダイニングに向かった。それを見送ってはブーツを脱ぎ、お邪魔します、と呟く。コートとストールをハンガーにかけて他の客人と同じように姿見の横に引っかける。洗面所で手洗いうがいをしてからリビングダイニングのドアを開けた。暖かな空気に、ほう、と息を吐く。
「おかえり、ちゃん。もー、旦那と玄関でずっと話をしないの。風邪ひいちゃうでしょー、ここのところ寒いんだから。料理はできてるけど、まだ少し早いよね? それともお腹空いた?」
 ぱたぱたと寄ってきて人目も憚らずにを抱きしめたのは、赤茶の髪をヘアバンドで止めて後ろに流した青年。の恋人にして幸村の保護者代理、猿飛佐助だった。先ほどの電話といい玄関先の二人への忠告へといい、少しばかりに対して執着が強い部分がある。それもこれも佐助がにベタ惚れなことに起因しているのだが。
「ただいま、佐助。ご飯ありがとうね。……ちょっと、クリスマスツリーなんかどこから手に入れてきたの? 電飾までつけて」
 さりげなく彼の腕を払い、はリビングの隅に飾られたどう見ても生のモミの木――鉢に植わっている――に目を見開いた。あーそれね、と答えようとした佐助よりも先に、テレビの前に居座っていた青年がひらりと片手を挙げた。
「 Hey, Merry Christmas, 。俺が持ってきたんだ、いいだろ?」
 黒みがかった茶髪に右目の眼帯、切れ長の隻眼は悪戯気に細められて薄い唇は弧を描いている。尊大に思われる口調も彼には似合う。
「伊達君が? あのさあ、思うに一番今日ここにいちゃいけない人が何してるの?」
 佐助を取り払うことができず、背後から首に腕を組まれたまま、呆れたようには隻眼の青年、伊達政宗を見下ろす。チ、と舌打ちして顔を逸らせた彼に代わって、ヒーターの傍にクッションを持ってきて読書をしていたもう一人の客人が顔を上げた。
「こやつは女から逃げておるのだ。ここならば場所も割れておらぬとてな。精々日頃の行いを悔いるがよいわ」
 ヒヤリとするほどの冷たい視線を遣した青年は、幸村とも政宗とも違う色合いの枯茶の髪、あまり感情を表に出さない端整な顔立ちをしている。ぎり、と政宗の隻眼が彼を捉える。急に凍りついた雰囲気に、あわわ、と助け船を出そうと幸村が口を挟む。
「毛利殿、そこまで言うことはないのでは……。政宗殿とて充分に己の不義を判っておられるからこそツリーに缶ビール一ケース、大量の菓子を持ってきたのでござる。なんとも身勝手ではあるが、菓子に免じて許してやってはくれぬだろうか」
「テメエ真田幸村! 褒めるかけなすかどっちかにしやがれ! 菓子だけありゃいいのかよ!」
「真田よ、考えなしに口を開くなと言われたことはないか」
「なぜ俺が責められるのだ……? 毛利殿もプレゼントだと持ってきたクッションに自分で座っておられるではござらぬか」
「我はよいのだ。先だって猿飛に連絡はしておいたのでな。これとて家主の了承は得ておる。知らぬが悪いわ」
「 Shut up! 好き勝手言い合ってんじゃねぇ! 毛利元就、真田幸村、ここにいる時点でテメエらだって同類だぜ」
 不穏な気配が漂い始めた三人を無視して、はくるりと佐助に向き直る。
「かすが、上杉先生とパーティに行くんだって。すまない、って新潟の地酒くれたよ。それで、こういうのに一番乗り気な二人は?」
「あー、風来坊からはメールが来てる。鬼の旦那はさっさと帰省。四国のツレと騒ぐんだって。ま、理由はそこの二人と一緒なんだけどねー。ちなみに風来坊、画像添付してきたから見る? すっげーところに行ってるぜ」
 バッグからごそごそと一升瓶を取り出したに苦笑して、酒を受け取った佐助はくつくつと笑い含みにくるりと宙で指を回した。興味津々、と瞬いたが問う。
「どこ?」
「フィンランド。サンタクロースを探しに行ったらしい」
「フィンランド!? あはは、前田君アクティブだねえ! メール見せて見せて」
「英語も碌にできないくせに、観光客としては異様なほど現地の人間に溶け込んでてさ。風来坊世界進出! ってな」
「すごいねえ、でもお正月はどうするのかな」
「正月は親戚夫婦のトコに帰るみたい」
「じゃあなに、ホントにクリスマスだけ?」
「そ。行動力がハンパないのが風来坊たる所以だねー」
 PCにメール来てるから、と佐助の部屋に向かう二人。残った三人はといえば、ぐちぐちと嫌味を言い合っている。結局事態が収拾したのはメールに返信したがリビングに戻ってきて険悪になった状況に溜息を吐き、佐助がなんとかそれぞれを宥めて力作の料理をテーブルに並べてからだった。



 リビングの大きめのテーブルには料理が山と盛られている。メインは大量のエビとササミのフライ、それにローストビーフ。どちらも見栄えよくサラダ菜が敷かれ、ローストビーフにはクレソンとキャロットグラッセも添えられている。グリーンサラダ、マカロニサラダ、レーズンと生クリームを和えたパンプキンサラダ。洋風の料理の中、ポツンと浮いているのはタマネギとニンジンの千切りを山のように載せたアジの南蛮漬け。ホウレンソウを練り込んだグリーンのフェットチーネにはクリームソースがかかって生パセリが散らしてある。細めの0.5mmのパスタには具だくさんのミートソースがたっぷりとかけられて、こちらもパセリに粉チーズ。そして、エビとホタテ、アサリにカキがこれでもかと入った具だくさんのクラムチャウダーがスープ皿に溢れんばかりに注がれてそれぞれの前に置かれている。
 量がありながら彩りもよく、肉に魚介、野菜とバランスもいい。普段よりも手の込んだそれらは、佐助と政宗の手によるものだった。意外、と驚いたのは。もちろん、政宗について。
「はーい、旦那つまみ食いしないよーに。毛利の旦那は食事の時くらい本閉じて。独眼竜はいい加減テレビから離れないと視力落ちるよ。ちゃん、いきなり日本酒はダメ。目の前にビール置いてあるでしょ」
 次々に突っ込みを入れる苦労症の佐助。協調性というものを求めてはいけない、と判っていても身に染み込んだ世話焼きの性が彼を動かす。
「私のお酒があ」
「 OK, I see. 」
「猿飛風情が」
「毛利の旦那さ、手伝いもしないで座ってただけだよねー? 人の家で。嫌なら帰ってくれてかまわないから。むしろ帰って」
「……ふん」
「佐助! まだか!」
「はいはい、旦那フォークとナイフ逆ね。ではどうぞ」
「いただきます!」
 吼えるように叫んだ幸村に続いて、四人は乾杯、とビールのグラスを触れ合せた。

「あー、仕事の後はビールがおいしいねえ」
 ぐうっと一息にグラスを空けたが幸せそうに言い放つ。わずかに眉尻を下げてビールを注ぎ足しながら佐助が笑う。
「ちょっとちょっと、若い子にあるまじき発言しないでよ」
「今日はホント忙しくって」
「お疲れ様。俺様の手料理で疲れ癒しちゃってー」
 元就の白い目もものともせずに佐助はに料理を取り分ける。いつものこと、とが元就に謝り、佐助から皿を受け取る。
「佐助ッ、うまいぞ!」
「 Be quiet! 真田幸村ァ!」
「お褒めにあずかり光栄至極、ってね。あーもう旦那口に一杯入れたまま喋らないで。行儀悪いから」
「政宗殿ももっと食べられよ、ほら」
「 Are you fool!? シチューにローストビーフ入れんじゃねえ!」
 からからと笑う幸村に悪意はない。悪意がない分酷いといえば酷い。すまぬ、と言いながらも政宗の皿にポイポイと適当に料理を盛る。見る間にカラフルな山が政宗の前に出来上がり、料理担当の二人はがくりと肩を落とした。
「うわー……、俺様泣きそう」
「 Oh my ……, just kidding, don’t you? 」
「ふん、騒々しい」
「毛利君、毛利君。そこのビール取って」
「そこにあろうが」
「これ、空。飲んじゃった」
 えへへ、と空き缶を振ったに眉をひそめて、元就は傍にあったビールを開けて渡す。
「少しは控えよ。前回の二の舞になりたくなければな」
 ありがと、と頬を緩めたが思い出したように手を打った。
「そうそう、前回といえば! 写真できあがってるんだよ、仮装大賞の」
「仮装大賞ってなにさ、ちゃん。ハロウィンでしょー」
 はい、とタルタルソースをに取ってやりながら佐助が突っ込む。その言葉に政宗も反応して、にい、と笑んだ。
「 Really? 楽しかったな、アレ」
「よく言うよ伊達の旦那。最後の最後まで乗り気じゃなかったくせに」
「 Ah, What was it? 」
「しらばっくれないでよ、もー」
「はいはーい、二人とも喧嘩しない! 真田君、食べてるところ悪いんだけど私のバッグ取ってくれる?」
「ひょうひ!」
「旦那はもの食べながら喋らないの!」
「目も当てられぬな」
 佐助の注意も元就の嘲りも気にすることなく、幸村はのバッグを持ってくる。ありがとう口からエビのシッポが出てるよ、と笑ってがバッグを開ける。一升瓶が出てきたりデジカメが出てきたり、中々にブラックホールなバッグから出てきたのは二冊のアルバム。見開きに写真が四枚入れられる、小さめのサイズのものだった。
「じゃーん。一人ずつ撮ったでしょ、最初に。欲しかったらあげるけど」
 言いながらが一冊を正面の元就に渡す。隣の政宗と二人、覗き込んで――あっという間に渋い顔になった。
「これは何ぞ」
 佐助と幸村を両隣にぺらりとページをめくっていたは元就の不機嫌そうな声に顔を上げる。ん、と首を傾げた彼女に突き付けられたのは、顔に白い布を載せた死に装束を着た人間の写真だった。ぷっと吹き出す佐助、おおお、と怯える幸村。見せろ、と元就からアルバムを奪い取った政宗は声を上げて笑う。
「毛利君じゃない」
 なんともないというように答えた、柳眉を怒らせる元就。
「そうではない。いつ撮ったのだ」
「最後にウィスキーの一気で勝負したでしょ? それで面白いように皆潰れちゃって。私だけかろうじて生き延びたから、一人ずつ死んでるのを撮ってからダウン」
 あはは、と笑うの言うとおり、以外が赤ら顔や苦しんでいる表情で倒れている写真があった。
「うわ、俺様情けねー」
「俺のがないでござる」
「真田君は先に寝たでしょ」
「そうであった」
 ちなみに、ハロウィンも佐助と幸村の家、つまりここで飲めや歌えの大騒ぎをしたのだった。衣装は手先の器用な元親が腕によりをかけて用意し、小道具はが探してきたり作ったりして、かなり本格的に変装した。
 政宗は上質なマントを翻し、タキシードを着た気品のあるヴァンパイア。元就は通夜を抜け出してきたかのような白装束に三角の布を額に当てた死人。幸村は固めの毛で覆われた耳と尾を生やして政宗よりも鋭い牙を備えたウェアウルフ。佐助は薄汚れたTシャツにジーンズ、赤黒い染みがあちこちについた包帯を腕やら額やらに巻いたゾンビ。は黒々としたカツラに赤のカラコンを入れて全身を緑で統一したアイルランドの妖精バンシー。
 今日はこの場にいない三人もハロウィンには参加していた。かすがは月桂樹の冠、ゆったりとした白のシフォンドレスに革のギリシア風胸当てをした女神アテーナー。天狗の面を斜め掛けにピシリと糊の効いた山伏の装束を着たのは慶次。元親は額に程近い頭に二本の角を生やして裂いたような虎柄の衣装を身に纏い、薄紫の羽織を肩から掛けていた。
 ぺらりぺらり、目を通しながら佐助が嘆息する。
「改めてこうしてみると、結構本格的だねー」
「真田、どうやって尻尾生やしたんだ?」
 幸村を背後から撮った写真を指差しながら、政宗が真っ当な質問をする。対する幸村は首を捻るばかり。着替えに関しては元親とが全てを請け負っていたため、本人でさえ知らないのだった。
「さあ……? どうやったのでござるか、殿」 「長曾我部君がね、神技を見せてくれたんだよ。まず真田君にジーンズ履いてもらって、丁度お尻のところにマチ針打ってから脱がせて、切り目を入れて尻尾を縫い付けるの。もちろん裏地に。違和感全然なかったでしょ」
 自慢げに話す。へぇ、と生返事で写真に目を戻した政宗、幸村はいささか驚いたように瞬いた。
「一度履いたものを脱がされるので不思議に思っていたが、針を刺したままだったとは……! 元親殿、さすがなり!」
「ふん、あやつは裁縫が得意であるからな。女々しい男よ」
「毛利の旦那、親の仇みたいに突っ掛かるの止めたら? 気が合わないのは判るけどさー」
 顔を合わせれば諍いを起こし、話題に上れば貶める。元就は元親に対してかなり不当な扱いをしていると思わざるを得ない。パスタをトングで取り分けながら佐助は呆れたように半目で元就を見遣る。
「貴様に言われるまでもないわ。、酒をもて」
「ちょっと、俺様スルーしないでよ! ちゃん、無視!」
「はーい。燗する?」
ちゃん!?」
「俺も頼む。そのままでいいだろ、毛利」
 ビールを呷った政宗が口を出し、無言で首を縦にした元就に頷いては立ち上がる。料理はそこそこ減っており、ビールの空き缶が両手の数以上転がっていた。
ちゃんのバカ! 俺様可哀想」
 うう、と泣き真似をしながら空き缶をせっせと回収する佐助の背中が寂しそうで、小さく笑ったはそれを手伝いながらキッチンへと空き缶を持って行く。ついでに日本酒と猪口を取ってくるために。



 もきゅもきゅと口を忙しなく動かしながらマカロニを箸に何本も刺しながら幸村が訊く。
「ケーキはまだか?」
「旦那、だから口にもの入れたまま喋らないでって言ってるよね、俺様。それにマカロニは箸に刺すものじゃないから。いい加減にしてよ、もー」
「ん、ぐ、すまぬ」
 本気で嫌そうに顔をしかめた佐助に、幸村は謝ったそばから、げぷ、と音を漏らした口を慌てて押さえる。くく、と笑う政宗はほんのりと酒気を帯びて赤くなっている。シチューを掬っては戻し掬っては戻し、食べようとしているのかいないのか判らない。
「ホント勘弁してくんない? ケーキ抜くよ?」
「佐助、それだけは! まこと反省している!」
 ごくん、口の中のものを飲み込むやいなや、がばりと土下座する幸村に佐助は本気で情けないという顔をしていた。一際大きな溜息を落として、佐助が背を向けてキッチンへと消えた。それを見計らい、くつりと悪どい笑顔を浮かべて、政宗はが持ってきた猪口を持ち上げて揺らす。
「 Hey, 真田幸村。 Do you drink sake with us? 」
「いいのでござるか?」
「いいじゃねえか、今日くらい。そのグラスに入れりゃバレねえよ」
「しかし、佐助はごまかせても殿が厳しいのでござる……。年明けには入試が控えているから、と」
? テメエの親じゃねえんだ、多少大目に見てもらえ」
 こそこそと小声で話す二人。素知らぬ顔でサラダを食べながらちびりちびりとビールを飲んでいる元就。
「毛利も黙っててやるとよ。いいから付き合え」
「政宗殿、もしバレたら罪を被ってくださろうな」
「 Of course! 任せとけ」
 に、と笑って幸村と政宗はパチンと手を合わせ、ここに共同戦線が張られた。後方支援に元就をスタンバらせ、対するは強敵佐助・の保護者組だ。話が一段落ついたところにタイミングよく、何も知らないが満面の笑みで一升瓶を抱えてリビングに戻ってきた。
「はい、お待たせ。『わたくしとうつくしきつるぎ、ふたりからのくりすますぷれぜんとです。みなでのみなさい』と上杉先生からのお言葉も預かってまーす」
「なんであの人、贈り物と言えば酒なんだろ。前も酒くれたよな」
 に続いて、空いた食器を下げるためのトレイと台拭きを手に現れた佐助が疑問を呈する。そうねえ、と小首を傾げては呟いた。
「かすがが持ってきてくれた時ね……。地元振興のためというよりは、武田先生と飲むために常時保存してあるんじゃない?」
「あー、時間があれば大将と飲んでるな、そういえば」
 と佐助の会話に己が師匠、武田信玄の名を耳にした幸村が拳を握って、うむ、と力強く頷いた。
「お館様は酒豪であられるからな! 上杉殿が来られた時はいつも夜遅くまでお二人で飲んでおられる」
「え、旦那、大将んトコ泊まりに行った時は夜更かししてんの?」
 ぎょっとした佐助にちろりと視線を遣って、幸村は小莫迦にしたように鼻を鳴らした。
「するわけがない。厠へ行きたくて目が覚める時は佐助にもあろう」
「あー、そういうことね……。旦那さ、俺のことバカにしたでしょ」
 じとり、横目で幸村を見据えて、それでも手は皿を重ねテーブルを拭いている。器用ねえ、と佐助の芸当を褒めつつ、政宗と佐助の猪口に酒を注いでいた。元就にも注ごうとしたところで、彼が片手でそれを制した。
「どうしたの?」
「我はこのグラスに入れてくれればよい。それと、すまぬがやはり熱燗を二合頼む。そちらを猪口で飲む」
「わかった。じゃ、ちょっと時間かかるけど」
「構わぬ」
 すっとの前に元就が出したのは幸村のグラス。そうとは知らずにまろやかな芳香の透明な酒を注いで、は酒瓶を持ったままキッチンへと向かった。少し間があって、佐助、と彼女が呼ぶ。
「温めるのにどれ使えばいいー?」
「ちょっと待って、今そっち行くから」
「はーい」
 新しい布巾をテーブルに置いて、佐助は席を立つとの声がした方へとさっさと向かう。リビングに三人だけになり、テレビがごちゃごちゃと映像と音を垂れ流している中、静かに元就が口を開いた。
「我が采配に狂いはない」
 ふ、と口端を上げただけの笑みをみせた元就に、政宗と幸村は内心で拍手喝采する。
「お見事! ありがたく頂戴いたす」
「 So cool! Are you ready, guys? 」
「いえー!」
「 Be quiet! 真田幸村! 一口も飲まずに取り上げられてもいいのか!?」
「愚かな奴よ」
「すまぬ……」
「まあいい。とりあえず乾杯だ」
 元就はのうのうと佐助の猪口を手にとって口許を緩めた。くっと飲み干した政宗が、隻眼を細めて喜ぶ。
「美味いな。俺の地元も美味い酒蔵は多いが、越後にゃ負けるか。水みてえにするりと喉を通るくせして酒の香りはしっかり残る」
「程好い辛さをしておるが、甘みもないわけではない。よい酒よ」
「毛利、珍しいじゃねえか」
「我とて美酒を飲まずにくれてやることはせぬ。かすが、ひいては上杉の選んだものが美酒でないはずがなかろう」
「まぁな。どうだ、真田」
 酒談議に花を咲かせていた政宗と元就が、黙ったままの幸村を見て、絶句した。かくんと折れた首、垂れた後ろ毛。深く俯いているために表情は判らないが、彼の前に置いてあるグラスは空になっていた。
「もしかして全部飲みやがったな? おい、大丈夫か?」
 揺すって戻されてはかなわない、と政宗は声を掛けるだけに留めている。だが、それしきで意識が戻ってくるかといえばそうでもなく、幸村は無言のまま。元就の表情が微かに強張る。
「こやつ、飲めたのか?」
「 Yes. いける口のはずだ、と思うんだがな……」
「未成年の部分には目を瞑ってやるが、飲めぬ者に飲ませるのは感心せぬ」
「そんなこと言うなら未成年って時点で止めろよ」
「知らぬわ、たわけが。我は庇わぬぞ」
「チ、冷てえ奴」
 冷やかな空気が漂い出し、政宗も元就も無口になって料理を食べる。幸村は復活せず、佐助でもでもいいから戻って来い、との悲痛な叫びは二人の心の中にこだまするだけだった。

「またまたお待たせ。熱燗二合、お持ちしましたあ」
 気の抜けたような笑い声で片手に徳利を摘まみ、二合以上減っていると思われる酒瓶をもう一方に、が戻ってきた。肌が上気しているからには、酒を温めている横で待ちながら飲んでいたのだろう。が酒好きで、かなり強いというのは周知の事実だった。
「遅い。隠れて酒を舐めるとは妖怪のごとき奴よ」
「あはは、バレた? だってこのお酒おいしいんだから。さあさ、どうぞ」
 元就の悪口も意に介さず、は徳利を傾けて猪口を出すように求める。湯気の立つ熱燗は、香りがさらに引き立っている。元就と政宗に注いで、佐助の猪口がないことに疑問を持たず、空のままだった自分のものに手ずから注ごうとし、――は政宗に徳利を奪われた。
「 Stop. Do you have a clear sense? 」
「へ? なんで、伊達君」
「自分で自分に注ぐんじゃねえよ。あの口うるさい猿飛がいてマナーを知らないなんざ言わせねえ」
 酷く不機嫌な表情で、政宗は顎でに猪口を持つよう示す。ああそっか、と得心したはおとなしくそれを受けた。
「ありがと。ん、おいしい」
「さっきのもよかったが、燗も美味いな」
 政宗の言葉に元就も頷いて酒を口に含む。
「でしょ? かすがったら羨ましいよねえ。新酒の季節になると次々送られてくるんだって、上杉先生宛に。で、時々ご一緒させてもらうらしいよ」
 がふわりと幸せそうに微笑みながら、ちびちびと猪口を傾ける。黙って味わう元就、ぽつぽつと話すに相槌を打ちながらちろりと舐める政宗。料理はもうほとんどなくなって、肴もなしに酒を飲む。
 皿を洗って、ケーキを手に戻ってきた佐助がテーブルに残った大皿を下げていく。手伝うよ、と申し出たの頭をひとつ撫でて、彼は笑顔で首を横に振った。着々と片付けられていくテーブルを横目に、を始め三人は佐助に甘えて酒に酔う。徳利が空になる頃を見計らったように佐助はに別の徳利を渡し、空いたものを受け取る。僅かにとろりとした目を向けて、が佐助に一杯注げば、どーも、と笑いながら口をつけた。
「なんか普通逆だよねえ」
「まーね。でも俺様、好きでやってるからちゃんは気にしなくていーの。お疲れでしょ?」
「疲れなんてもうとっくに吹き飛んじゃった。そろそろケーキ食べよっか」
 楽しい時間ほど流れるのは早く、見上げた時計は午後十時を回っていた。



 テーブルには二つの箱と大きめのナイフ、五枚の取り皿にフォーク。コーヒーと紅茶どっちがいい、と佐助が問えば、三人ともがコーヒーと答え、カップに淹れたてのコーヒーが五つ、すぐに並べられた。
「旦那、お待ちかねのケーキだぜ」
 がくがくと佐助は幸村を揺さ振って起こそうとする。まさか酒を飲んだとは知らないために、どうにか起こそうとしてパチパチと頬を叩いたり肩を掴んで揺すったりしている。
「旦那ー? 何寝てんのさ、一番ケーキ楽しみにしてたんじゃないの? ちょっと、起きてよ」
「真田君、ケーキだよ、起きて」
 佐助と、二人掛かりでうんともすんともいわない幸村に四苦八苦しているのを、そっと目を逸らして政宗と元就は沈黙を守る。
「だーんーなー! 起、き、て、よ!」
 結局、佐助ががっくんがっくんと揺さ振った勢いで幸村を仰向けに倒れこませ、頭をゴツンと床に打ちつけたことで、ようやく小さな呻き声が上がった。
「う、うう、やめろ、さすけ……。吐き、そう、だ」
「え?」
 うう、と額に腕を乗せて呟いた幸村は顔面蒼白だった。げ、と飛び上がった佐助はバタバタと走り去り、タオルを濡らして戻ってきた。腕をどけて冷たいタオルを顔に乗せ、呼吸が楽になるように衣服を緩める。幸村の世話を焼きながら、佐助は政宗を睨む。
「旦那、もしかして酒飲んだ!? つか飲ませたでしょ伊達の旦那! 何してくれんの!」
「 Excuse. だが一杯だけだ。飲めただろ?」
 悪びれなく言う政宗に、あーもー、と唸る佐助。伊達君、とやけに柔らかな声に政宗がそちらを向いて、固まった。にこにこと聖女のように微笑むは、声音とは裏腹に凍えるような雰囲気を醸し出していた。
「確かに真田君、飲めるよ。武田先生の許でいるんだから。でもね、受験を控えてるから絶対に飲まないって約束してたの。飲んだら相応のペナルティ課すからね、って決めて。ずーっと飲まないようにしてきて、ここでグラス一杯呷ったらそりゃあ酔うよね。そう思わない? 毛利君も」
 にこり、微笑んだは政宗から元就へと視線をずらす。だが、元就は片眉を上げてさも無関係を装う。
「我も加担したと?」
「私が判らないとでも思った? 悪いけど、そう思ってたなら毛利君の程度も知れてるよ」
「訳を言うてみよ」
「一つ、自分はグラスに注がせて熱燗を頼んだ。そのグラスが毛利君の前にはない。二つ、確かに注いだはずの佐助の猪口が空になっていた。三つ、毛利君は飲んでいないはずなのに、熱燗を飲んだ伊達君の言葉に頷いた。どう?」
「酔うてはおらぬようだな、」  挑戦的に瞳を輝かせた、すうと薄い笑みを口許に刷いた元就。
「真田君も断らなかったんだから、三人とも悪い。そういうこと、佐助」
「なにやってんだよ旦那……。飲むな、ってあれほど言ったでしょーが。毛利の旦那も酔ってるだろ、もー」
 眉間に皺を寄せ、三人を見て溜息をこぼす佐助。哀愁を背負い、げっそりと幸村に視線を戻した。幾度か苦しげに呼吸し、幸村が掠れた声を絞り出した。
「俺も、ケーキ、食べるぞ、佐助。殿が買ってきてくれたのだ、食べぬわけ、には」
「ダメ。旦那は明日。今日はもう寝な」
「それでは楽しみが、半減するではないか……」
「一箱置いておくから。それで我慢してくんない? ほら、起き上がって、俺様の肩に寄りかかって」
「むう、仕方ない……。すまぬ、先に失礼する、毛利殿、政宗殿」
 佐助に半ばおぶわれるようにして立ち上がり、焦点の定まらない双眸を何とか二人に向けて、幸村は声を出した。少しでも気を抜けば膝から崩れ落ちそうだった。
「養生せよ、真田」
「 Good night. 戻すんじゃねえぞ」
 言葉はそっけないが、元就も政宗も気遣いの色を浮かべて幸村を見上げている。こくり、と緩く頷いて、幸村は部屋へと向かうべくふらついた一歩を踏み出した。
ちゃんには?」
殿は泊まっていかれる、だろう? 明朝、礼を言う……」
「あのね、旦那。……ま、いいけど」
 さも当然のように言う幸村に佐助が呆れ、を見る。泊らせていただきます、と笑顔で頭を下げた彼女に、にまにまと緩む表情を抑えて、佐助はぷいと顔を逸らせた。
「先、食べてて」
 幸村を引きずりながら佐助がリビングを出て行き、は二つあるうちの大きい方の箱を開けた。出てきたのは四角いチョコレートケーキ。フランボワーズの甘酸っぱい匂いが香り、飾られたフルーツとシート状のチョコレートは豪華に見えて落ち着いている。
「クリスマス限定のケーキでーす。そんなに甘くなくて、どっちかっていうとカカオの苦味が生かされてるかな」
 ヒュウ、と上機嫌に口笛を鳴らして政宗がフランボワーズをひとつ摘まんで口に入れた。
「見事なもんじゃねえか」
「でしょ? なにげに有名なんだからウチの店。とりあえず試しに一切れどうぞ」
 は手際よくケーキを切り分け、二人の前に皿を置いた。層になった断面から見えるのは、ココア色のスポンジと深みのある赤のフランボワーズソース、垂れ落ちそうなチョコレートソース。幾重にも積まれたそれは、舌だけでなく目も楽しませるようだった。
「悪くはないな」
「毛利君、ぺろりと平らげてその感想はひどいね……」
「我はもう少し甘い方が好みなのでな」
「あら意外。甘党なんだ」
「俺はこのくらいが好きだぜ」
「伊達君は、うん。そんな感じ」
 もっと食べてじゃんじゃん食べて、とは先ほどより大きめに四切れカットした。自分もフォークで一口サイズに切ってぱくりと食べる。
「おいし。一日中甘ったるい匂いに苦しんで、絶対食欲湧かないだろうな、って思ってたのに。入るもんだねえ」
 しみじみとひとりごちる。音もなく戻ってきた佐助が、あはーちゃんマヌケ面してる、と彼女の頬を突っついた。
「止めて、佐助」
「はいはい。なーに、すっげー美味そうじゃん。これ食べていいの?」
 佐助はの隣に腰を下ろし、嬉しそうにそこに置いてあるケーキを指差した。コーヒーを啜りながら頷いたにへらりと笑ってとんでもないことを口にした。
「じゃあさ、あーん、って食べさせてくんない? 今日一日よく働いた俺様へのご褒美、ってことで!」
 唖然としたのはだけではない。カシャン、フォークを取り落とした者が二名。
「何を……」
「――場を弁えよ」
「 Get it out here, now. 」
「いやそりゃないっしょ独眼竜の旦那。アンタも泊めてやるってのに家主に対してその物言いはないんじゃないのー?」
「痛いところ突きやがって……!」
 ぐう、と唸って睨みつける政宗など眼中にないかの如く、佐助はへらへら笑っている。しどろもどろになりつつがばたばたと赤くなった顔を扇ぎながら荷物を引き寄せる。
「な、なあに、伊達君も泊まり? じゃあ私帰るよ、ほら部屋だって布団だってないでしょ? さっさと食べて帰りますか!」
「ダーメ、ちゃんは帰さないよ?」
 にっこりと、明らかに色を含んだ笑みをに向けて、その腰をかき抱く。ひい、と凍りついたを横目に佐助はくっと喉を鳴らした。
「ね、食べさせてよ……」
 低く、甘く、己の声に絶対の自信を持って佐助がささやく。色香の漂う声を耳に吹き込まれ、羞恥と悪寒に涙を目に溜めたは渋々ケーキを小さく切って彼の前に突き出した。
「……はい」
「んふ、不合格」
 ぱくり、ケーキを食べておきながら佐助は言い放った。にんまりと唇が歪められ、ぺろりと上唇を舐めた舌はいやに赤みを帯びていた。
「うーん、上目遣いに潤んだ瞳が嗜虐心をソソるけど。もっと可愛くお願い。もう一回、ね」
「うう……」
 理不尽、と声に出そうものなら悪ノリした佐助は増長するに決まっている、とは甘んじて要求を呑むことにした。二人分の憐憫の眼差しが逆に居た堪れない。腹を括って引きつった笑みを佐助に向けた。
「はい佐助、あーん」
 の声に、見惚れるほどとろけた笑顔で佐助が口を開く。しまりのないにやけ顔を見せ、おかえし、と彼がにケーキを食べさせようとしたところで、第三者の咳払いが二人の世界を打ち破った。

「興も冷めたわ」
 す、と立ち上がった救世主――元就は、荷物を手に玄関へと向かう。一度振り返り、残った三人を順に見て、ふっと穏やかに目を細めた。
、写真は何枚かもらっていくぞ。伊達、猿飛、今日は礼を言う。真田にもよろしく頼む。――今年は世話になった。迷惑を被った方が多いが、来年心を改めるというならば許してやらんでもない。よい年を送れ」
 彼らしい、突き放したような言い方は相変わらず、けれど声音は柔らかだった。はっと意識を取り戻したがかくかくと頷いた。
「うん、毛利君もよいお年を。気をつけて帰ってね。おやすみ」
「また、年明けに大学でな。 Good night, cool knight. 」
 犬歯を覗かせて意地悪げににやついている政宗に鼻で笑って返し、元就はくるりと背を向けてリビングを出て行った。一応見送りにと佐助が付いて行き、残った二人はテーブルの上を見て、言葉を失った。
「毛利君、黙々とケーキ食べてたんだね……」
「 Ah……, I don’t realize his eating. It’s crazy. 」
 少し青褪めた二人の視線は、下敷だけを残したケーキの残骸へと向けられていた。

「毛利の旦那も帰ったことだし、お開きにする?」
 玄関から戻ってきた佐助が時計を見上げる。午後十一時半。腕を組んで考え込んだ政宗が時計と佐助を見遣って、酒瓶を手に取った。
「俺はまだ飲んでもいいか? どうせ明日もここから出られねえ。暇を持て余すくらいなら昼間に寝る」
「あー、いいけど。先シャワー浴びたら? それと、たぶん旦那は容赦なく早朝から騒ぐからその覚悟はよろしく」
「 I see. 悪ぃな」
「クリスマスだってのに寂しいねー、伊達の旦那も」
「 Ha! 誰のせいだと思ってやがる」
「人のせいにするわけ? やだね、僻んじゃってさー」
 にやにやと同類の笑みをして、佐助は政宗の向かいに腰を据える。ケーキの皿やフォーク、コーヒーカップを片付けてきたが猪口を二つテーブルに置いた。
「二人はまだ飲むんでしょ? 私、先に寝させてもらうね。シャワーとベッド借りるよ、佐助」
「あれ、珍しいじゃん。飲まないの、ちゃん?」
 驚く佐助に苦笑をこぼし、は欠伸を噛み殺す。その様子に疲れを見出して、佐助は立ち上がるとの頭を撫でる。されるがままのを軽く抱きしめてから目線を合わせて優しく微笑んだ。
「朝からバイト入って、すっごく忙しかったからもう限界。眠い」
「ん、お疲れ様。ゆっくり休みな。俺様ここで寝るからベッドも好きに使っちゃってー」
「ありがと。じゃ、二人ともおやすみ」
「ああ」
「おやすみー」
 片手を上げて見送る政宗に手を振り返し、リビングを出たところで、のバッグを持った佐助が後ろから抱きついた。
「どうしたの、佐助」
「んー……、忘れ物」
 バッグを渡し、腕の中に閉じ込めたを自分の方へと向き直らせ、佐助はくつりと笑う。照明の点いていない薄暗い廊下、彼の目だけが愉快そうに細められていた。
「な、に……、ん」
 の言葉は佐助に呑み込まれ、次いで紡ごうとした言葉の代わりに深いキス。佐助の手は頬を滑り、耳に髪を掛け、ぐいと後頭部を抱き込んで、より深く口づけを求める。応えるようにも佐助の首に腕を回し、奔放に口内を遊ぶ舌を絡めとって押し返す。ドア一枚隔てた向こうには政宗がいる、と判っているからか、佐助はに声を出させようとし、対するは吐息も漏らさない。
 静かに唇を離した佐助がこつんと額を合わせて一層強くを抱き締める。
「はッ、ちゃんってば強情だね」
「ん……、佐助は堪え性がないんだから。疲れてるって言ったでしょ、おやすみ」
 呼気だけで会話を交わし、トン、とが佐助の肩を押し腕の拘束を解いて意志の篭った微笑みを向ける。これ以上の手出しは不可能と悟った佐助は大人しく離れた。
「おやすみ、ちゃん。よい夢を」
 最後にひとつ、掠めるだけのキスをして、佐助はリビングに戻った。独りになって一気に赤くなった顔を両手で挟んだの呟きは深夜の空気に溶けて消えた。
「破廉恥、なんだから」









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2008/12/26
伊達の英語はウソ英語です。
時代を感じるところ:ケータイがパカパカのやつ。
よしわたり



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