殿っ! 某の団子を勝手に食べたのはそなたでござろう! またしても!」
「幸村がくれたくせに! 男の二言は醜いぞ!」
「某は差し上げた覚えなど一切ございませぬ!」
「嘘つき! 幸村のうーそーつーきー!」
「なっ! 殿こそ人の団子を無断で食べておいてなんと面の皮の厚い……! 言えば共に分け合ったものを!」
「なんで私が幸村と一緒にお茶しなきゃいけないわけ!」
「そ、それは某が殿を慕っておるからでござるっ!」
「お断りします!」
「くっ……、しかしこの程度でこの真田幸村引き下がりはせぬ! まだまだぁ!」
「引き下がりなよー!」
 ギャアギャアと言い争う二人が城中を騒がしく走り回っている。見慣れた光景に城の者は何も言わず二人に道を譲り、時に冷やかしの声をかける。
 樹上で仕事を放棄してまどろんでいた佐助は、城主とその賓客が巻き起こしている騒動を見て見ぬふりもできずによいしょと体を起こした。
 ――ちぇっ、偉いさんはいいよねぇ。遊んでても許されるんだからさ。
 心中で毒づき小さく溜息をこぼす。が、それは主に向けられたものではない。下層民の総意だよ、と誰にともなく言い訳して遠ざかった二人を追った。


 三方を壁に囲まれ、逃げ道には幸村が仁王立ちしている。
「さあ、後はありませぬ」
 汗だくで息を切らせたが壁に寄りかかっているのに、幸村はちっとも疲れた様子がみられない。それにしても、団子ごときに大層なご立腹である。
「謝ってくだされば水に流しましょうぞ」
 幸村の赤い鉢巻を浮かせた風が少し体を冷ました。唾を飲み込んで口を開く。
「謝るもなにも、幸村がくれたんだってば。なんで覚えてないわけ?」
「某には覚えがありませぬ」
「私にって取っておいてくれたんでしょ」
「知らぬと申しておりまする」
 これではどこまでいっても平行線にしかならない。低レベルな口げんかがまた始まる。
「いらないことばっかり覚えてるくせにそういうことは忘れちゃうんだ」
 ツン、とわざとらしいまでにきつい態度を取る。この程度で懲りるとも思えないが。
「某が殿のことで何かを忘れるはずがございませぬ。ここ一月の会話さえ復唱してみせましょうぞ」
「やめてそれはかなりひく。そういうのをいらないことって言うの! どうしてさっきの今のことを覚えてないわけ? 『水屋のお団子もらうよ』『承知』って」
 離れたところから呼び掛けたのがいけなかったのか、いつもは「どうぞお食べくだされ」だの「某も供に」だの言うのに、やたら堅苦しい返事だった。
 どちらにせよ、幸村の団子は佐助が作っているか城下で買ってくるものだから本当に困ったら佐助に頼めばいいのだ。
「というか、女の子にハレンチハレンチうるさいのに、どうして私にははれんちじゃないの?」
「慶次殿から……こ、こ、恋とはよきものと教わった! 殿が幸せなれば某は嬉しゅうござる! 某が幸せであれば殿も幸せではございませぬか?」
 うわあんと頭をかく。助けてもらったことに感謝してもしきれないけど、幸村にいらないことを吹きこんでいくのは切実に止めてほしい。
 ――慶次君のバカ!
 今頃どこかでくしゃみをしているかもしれない慶次はさておき、問題は目の前の熱い男である。どうやってはぐらかそうか。
「幸村が幸せだったら上田のお城の人も城下の人も領内の人も幸せってことだから、いいんじゃないの? 私もいいと思うよ」
「もうその手には騙されませぬ! 殿の心が知りたいのでござる!」
 ――手強くなった……!
 以前ならおざなりなおだてで軽くあしらえたのに、とショックを受ける。これは強敵だとホルスターから二十六年式を抜いた。ニッと楽しげに幸村も二槍を取り出す。
 バレルを折り、シリンダーに六発の実包を装填する。銃身と弾倉を戻して照準を幸村の額に向ける。肩の無駄な力を抜き、両足を踏ん張った。
「真田幸村、覚悟っ!」
 パン、と銃声はしたものの一発目は外れたらしい。二発目、よく狙ってトリガーを引く。ガキィンと何かに弾かれる音がした。
「もののふに、弾があたるかぁ!」
 幸村は槍を回転させてガードの体勢。二十六年式の鉛玉ごときが敵う相手じゃない。
 でもここで退いては敗北を認めることになってしまう。残弾を撃ち尽したら潔く白旗を挙げよう。
殿! 人に鉄砲を向けて撃つなど……すさんだとご両親が嘆かれますぞ!」
「じゃあ幸村は私がやられたっていいって言うの。せ、戦争なんだよ」
「そうでござるが……、されど人に鉄砲を向けるなど!」
 防戦一辺倒の幸村に、銃を乱射する
「幸村、幸村は私を好きじゃないの?」
「そのような! 某は殿を恋い慕っておりまする!」
「嘘つき」
 決着はつかないかと思われたが、銃を下ろし睫毛を伏せて皮肉げに呟いたの一言に幸村が槍を取り落とした。
、殿……」
「隙ありっ!」
 その間にひょいっとは幸村の脇を通り抜けて逃げ出した。勝利の証にハチマキを分捕ってくるのを忘れずに。


「あーらら、もしかして間に合わなかった?」
 ひょっこりとの消えた角から現れた佐助。幸村は無言で佐助を一瞥すると一言、吐き捨てた。
「減給」
「なんで俺様!?」









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2011/12/03
よしわたり



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