「だ・て・ま・さ・む・ねぇえええ!!!」
「真田幸村ぁあああ!!」
すっかり周りのことなど見えなくなってしまった二人の将。両軍の部下は遠くから二人を取り巻いて、やいのやいのとそれぞれの大将に声援を送っている。よく見れば徳川軍も混じっていた。炎が這い、雷が走る。時折力が真正面からぶつかり合っては爆風を巻き起こす。そのたびに湧き上がる歓声。――小山の上には威風堂々と立つ甲斐の虎。
冷却を終えた真田丸の点検を部下に任せて鉄砲を担ぎ、息を切らせて決戦の場へと登ってきたは己の目を疑った。
「ど、どういう状況だこれ……」
「あはー、見ての通り」
「猿飛」
独り言に答えがあった。驚いて背後を振り返ればへらりと笑う忍が一人。半眼になってその名を呼んだ。
「見ての通りって」
「うん。大将元気になったっしょ? お館様もホラ、ピンピンしてるし」
よかったよかった、と泣き真似をする佐助に肩を落としてもう一度主君の姿を見る。好敵手と刃を交える表情は生き生きとして、笑顔さえ浮かんでいる。ぶわ、と舞い上がった火の粉は技の残滓か。相手の顔もひどく楽しそうに――およその人間には悪い笑みとしか見えないだろうが――見えた。視線を二人から外し、この場にいてはならない人物に向けると、かの人は満足気に頷きながら腕組みをして二人の戦いを見ていた。全く、病床にあるというのは流言だったのだろうかと思わんばかり。
軽く額を押さえて頭を振る。もう構っていられるか、とは佐助の腕を叩いてくるりと来た道へ向き直った。
「猿飛。私、帰る」
「え? ちょ、どういうこと?」
「言葉の通りだ。真田丸の解体に入る」
「待って待って! まだ大将の命令出てないから!」
鉄砲を背負い直して砂利道を下るの肩を掴んで佐助は止める。言っていることはもっともだが、当分何の命令も出されないのは確実だ。
「どうせ本多もぶっ飛ばしたし徳川にも勝ったし伊達とはあの調子。日が暮れても終わらないだろ。私はさっさと甲斐に帰ってゆっくりしたい。真田様についてずーっと行軍続きだったからいい加減疲れた」
「そんなの俺様だって一緒だよ! 何が悲しくて強行軍で最南端の薩摩まで行って大坂にとんぼ返りで休む間もなく働かなくちゃいけないの!? 給料上げて!」
「それこそ真田様に言えよ。それじゃ、また」
佐助の手を払ってずんずんと坂を下りて行ったが真田丸の中へ消えてから少しして、本当に解体作業を始めたようだった。木材を組んだり崩したりする様子が遠目からも窺えた。
「嘘だろー……」
は部下に幸村の指示だと言っているだろう。幸村に対してはしれっと巧く言い逃れるに違いない。そして怒られるのは佐助である。力無い笑みが青い顔に自然と浮かんだ。
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2010/08/22
書きたい気持ちだけが空回り……。情景に言葉がついてきてくれません。
よしわたり