シートを被せられたボロボロの複葉機が最新鋭の戦闘機ばかりが眠る格納庫の隅に居心地悪そうに縮こまっていた。

 宿舎へ帰ってすぐ、ロビーでおそらくはあの複葉機の持ち主であろうがなにやら大きな紙を広げて難しい顔をしていた。ピ、と敬礼をしてきたに敬礼を返しつつテーブルを挟んだソファにぼすんと腰を下ろした。何か用でもあるのかと顔を上げたへ溜息雑じりで告げる。
「誰だあんなretroなの持ち込んだのは……」
「小官であります! 酒も煙草も遊びもしない、有給も丸潰れで働きアリのように整備整備また整備をしていたら上からのお達しで休みはやれないがその分換金してやるから何としてでも使いきれとのことだったので、全額つぎ込んで買ってまいりました!」
 この女は整備一筋でいつアラートが鳴るかもしれない最前線の基地では重宝されていた。それが行き過ぎたらしく、大金を得てしまったはいいがあんな形になるとは上層部も思わなかっただろう。格納庫の使用料も払うと言ったに違いない。呆れたものだ。
「……で、どうすんだよアレ。飛ぶのか?」
 とても飛ばせそうには見えなかったが、好奇心から聞いてみた。
「さあ? 前大戦の時の機体だそうですが保存状態が悪く、内部機関は全てオシャカでした。塗装はほとんど剥げていて、外形を保っていたのが奇跡といえますね。でも作りは頑丈ですよ」
「飛ぶのか飛ばねェのか」
 前大戦といえば一世紀も前の話だ。よくもそんなものを見つけてきたなと驚き半分呆れ半分、楽しげに話す女を見下ろすとはにんまりと笑みを深める。
「小官の整備士としての腕はご存知でしょう? 飛ばしてみせますよ。……許可が下りたら、の話ですけども」
 ふっと溜息を吐いたが遠い目で薄ら笑うのにつられて口端がひくりと歪む。
「……あァ、ここは軍事用の飛行場だし、出動も多いしな。整備進まねェだろ」
「でしょうね……。仮に飛ばせる状態にまで持っていけても、精々が博物館行きでしょうか。こんな時代だからこそ遊び心に満ちていた前世紀の機体を戦争に使わずに飛ばしてみたいと思ったんですけどね」
 テーブルに広げた図面――あの複葉機のものに目を落とし、整備服に縫い付けられた軍人を示す証は心臓の上。足を組んで鼻を鳴らした。
「Ha! 最低のjokeだな。軍人がそんなdouble standardでどうすんだ」
「……お言葉、真摯に受け止めさせていただきます。あー、私も空飛びたいです」
 小さく肩を竦め、苦笑したは両腕を突き上げて唸る。
「最初っから整備志望じゃなかったのか?」
 前にそう聞いたことがある、と問うてみればあっさりと認められた。
「そうですよ。パイロットと機体の安全を守るために全力を注ぐ、縁の下の力持ちってカッコいいじゃないですか。……戦争じゃないところで、のんびり飛びたいんですよ」
 なるほどな、と同意する。
「誰だってそうだろ。俺も思い切り好きに飛びたいぜ」
「よく言いますね。いつも命令無視してアクロバットしたり単独先行したりして始末書書かされているお人が」
 嫌味がましく言われたのは気のせいだろう。笑い飛ばして、雲の上を思い浮かべるように瞼を伏せた。
「それくらいなんてことねェよ、空に上がっている時の昂揚がかき消してくれる」
「はは、うらやましい。……そろそろ消灯時間ですので小官はこれで」
「Ya. アイツの整備、手伝わせてくれな」
 図面をしまい、立ち上がって一礼したの気配に目を開ける。政宗の言葉に軽く目を見開いて、はカツンとブーツの踵を鳴らすと身を翻した。
「考えておきましょう」









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2010/11/26
『坂の上の雲』と『ドリフターズ』に滾って軍パラ熱再燃。伊達はパイロット設定にしたいんですが、現実は隻眼だとパイロットになれないんですよね……。そのへんはパラレルとBASARAだからの魔法の呪文で!
よしわたり



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