特に見たい番組もなかったから、とりあえずチャンネルを回すだけ回して、プツリと切ろうとした時だった。の手からチャンネルを取り上げた佐助がテレビ画面を見ながら感心していた。
「この爺さん、いい味出してるねー」
「え?」
佐助が指差す先には、老紳士役を演じる俳優さん。芸歴も長くて、が生まれるずっと前からいろんな役を演じてきたらしい。年齢を重ねてこそ出せる深みは重厚さとか洞察力の鋭さとか渋みとか、役者さんによって違うと思うけど、この俳優さんはひょうひょうとしたキャラを活かし、そこにいるだけで場を和ませるような雰囲気が深まっているんじゃないかと思う。――とはいっても、は彼の若かりし頃を知らないから想像するだけ。
「この間、向こうにいろんな奴らがいるって話、しただろ?」
「大散財の事ですか!」
「そんなに怒ることないだろ……。ま、見かけがいい奴も多いんだけどなんつーのかね、南蛮人やら女の子やら、そういうのもそこそこいるんだよ」
話の急展開に頭がついていかない。む、とが眉を寄せたのを目敏く覚って、佐助は穏やかに笑う。
「腰の折れたような爺さんがさ、提灯ぶら下げた棒……、まあ槍なんだけど、それ振り回してんの思い出した。『ひょええ〜!』なんて情けない声出しながら、『北条家の威光がー、ゴフンゴフン』とかって今にも倒れそうなのに戦場に出てくるんだぜ? この爺さんとは大違い」
家の中なのをいいことに人のカサを持ってきてリビングを歩いたり這ったりする姿は、佐助にもご老人にも非常に申し訳ないけど、徘徊老人のマネにしか見えない。憐みを込めて佐助を見下ろしていたら、気まずくなったのか、サッと廊下へ消えた。
そのまましばらく戻ってくる気はないらしく、廊下に座り込んだようだった。
「おバカさん……」
の呟いた言葉はしっかりと佐助の耳に届いていたらしい。
「俺様もそう思う……」
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2010/05/20
北条氏政からおヒョイさんを連想してしまってスイマセン……。
よしわたり