「準備できた?」
 んー、とどちらともとれない生返事に振り返った佐助は己が目を疑った。
「ちょっと重装備かなぁ……」
「ちょっとじゃない!」
 ばしんとの頭を叩いた佐助が痛いとこぼす。痛くて当然、伊達政宗の黒漆塗五枚胴具足も真田幸村のライダースジャケットも裸足で逃げ出す戦装束がそこにあった。

 迷彩色の戦闘用ヘルメットに戦闘服、黒のグローブとブーツ、防弾チョッキにゴーグル。ベルトは弾帯と化し、水筒や救急道具も身に着け、背嚢はずっしりと重い。衣装だけなら陸自隊員にも見える。
 しかし、小火器がいささか物騒であった。RPG-7、ブローニング自動小銃M1918を両肩に、デザートイーグルと9mm拳銃をそれぞれホルスターに装備。歩く武器庫とでも言えばいいのか紛争地域の歩兵と言えばいいのか、背嚢から戦闘糧食ではなく手榴弾が転がり出てきても不思議ではないいでたちである。
 戦に行くとは言ったが、誰も前線に出てくれとは頼んでいない。佐助は盛大な溜息を落とした。
「ていうか、重たい……」
 へなへなとその場にへたりこんだ
「そりゃそうだろうねぇ……。全部脱げ! 置いてけ!」
 頭痛がするように顔をしかめ、こめかみに手を当てた佐助が反対の手で自分の隣を指差す。
 驚いたのはである。
 戦に行くからじゃあね、との前から姿を消そうとした佐助に猛反発した。――どういう理屈か、目を覚ましたらそこは戦国時代でした、に加えてゲームのキャラがいました、だったのである。ひ弱な若い現代人女性一人、たとえ無尽蔵に欲しい物が取り出せる便利な小箱付きとはいえそこらに放っておかれてはたまったものではない。主に精神的安定の面で。それ以外は上述の謎の小箱によってさしたる問題はない。現実世界に帰るためにはゲーム中のクリアと同じようななんらかのアクションを起こす必要がある、と前向きに考えると佐助が戦に行くのは好都合だった。現状はゲームでいうなら装備確認中だろうか。――などという一切の内情は全く表に出さずに。

「えーっ! 強いよ?」
 自分の身は自分で守ること、を条件に佐助と同行する流れになったが、まさか実戦経験があるはずもなくは悩んだ。己の弱さは判っている。だから武装しようと考えた。
 お飾りにしかならなくても武器を持っていれば威圧になるだろう。まず、刀や槍は扱えて当然であるだろうから、扱い方を知らないと侮られる可能性があり、よって除外。扇や鍋は論外である。
 映画やドラマで目にしたことがあってぱっと見て強そうで使えそうなもの、且つ戦国を舞台にしたゲームにあっても相手が武器だと判るもの。銃しか思いつかなかった。拳銃、自動小銃、対戦車グレネードランチャー。実にプロトタイプな装備である。
 便利な小箱から強化外骨格でも出して中に籠っていればいいと思い至らなかったのが悔やまれた。
「強くてもダメ。特に種子島みたいなのは絶対ダメ。見るからに物騒だし」
 おっかなびっくりといった様子で佐助はRPG-7をから取り上げる。奇妙な形に首を傾げつつちょんちょんと突いていると、BARM1918を置いたがにんまりと笑んだ。
「それ弾頭。柘榴弾だから気をつけて」
 固まった佐助。
「……まさかちょっとやそっとで炸裂しないよね」
「どうかなー?」
 ニヤニヤが止まらないは佐助を無視してごとんがこんと装備を外していく。ヘルメットを脱いでゴーグルを外し、ブハッと息をついたところで目の前に弾頭を持ってこられて仰け反った。
「しないよね!?」
「……うん」
 えらく真剣な目つきの佐助に気圧されて頷く。ほっと肩の力を抜いて、それでも慎重にRPG-7を地面に置いた。
「最初っからそう言えよ……」
「私もよく知らないし……」
 ごくごく小さな声でが呟いたのを聞き逃す忍ではなかった。

「もしかしてさぁ、これ全部使い方知らなかったりとか、まさかねー?」
 明るい声、にっこりと満面の笑み。の頬を片手で引っ掴んで今にも押し潰しそうではあるが。
「うー! うううー!!」
「何言ってんのかサッパリ判んない」
「うぐぐぐぐ……!」
「あっは、それも武器っぽいねー」
 腰の9mmに手を伸ばした瞬間に銃は蹴り飛ばされ、両手はあっさり拘束されて、蹴ってやろうにもひょいとかわされ。手も足も出せない状況にぐうの音も出ない。しばらく暴れて無理を悟ったのか、は抵抗を諦めた。おや、と片眉を上げた佐助が顔を覗き込む。涙目に赤くなっている頬を膨らませているのは少々憐れに見えた。
「これ全部仕舞って。どうせ使い方知らないんでしょ? こーんなキレイな手しちゃってさ」
 メタリックな籠手にやわやわと手のひらをもまれてがびくりと目を見開く。苦笑する佐助の顔が間近にあった。パ、と降参するように急に両手を上げられて、油断していたはどさりと尻もちをついた。
「いったたた……」
「アンタはまだ判んないこと多いし、このまま放っておくわけにもいかないし、ちゃんと戻ってくるから安心しなって。大丈夫、俺様強いから」
「信じていいんでしょうね?」
「もちろん」
 座り込んだまま睨み上げると、悠然と笑みを浮かべた佐助。
「……戻ってこなかったら近くの町が消し炭になると思ってて」
「おー、そりゃ大変だ」
 へら、と小さく肩を竦めたのに溜息を吐くと、は膝を抱えて顔を埋めた。これ以上駄々をこねる気はないようだと判断して佐助は影へと姿を沈めていく。あ、と残された声はぽつりと異様に黒くこごった影から聞こえてきた。
「ちっさいの一つくらい使えるようにしておいてね、お嬢さん」

 拾い上げた拳銃の埃を払ってスライドさせる。ジャカ、と小気味いい音がした。
「ま、制式だしね」
 弾倉が装填されているのを確認して、思い出したようにポーズを取ってみた。ふ、と妖艶に微笑んで声を意識する。
「試してみる? ……なんちゃって」
 へへへと笑った後の沈黙には耐えられなかった。
「さみしい……。早く帰ってこい佐助ぇ……」









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2011/04/12
中途半端に便利な状態で単独ゲーム中に放り出されたら、と考えてみるんですけど、どこまで便利にしていいものか悩むので結局いつもギリギリ死なない程度に落ち着きます。トリップの設定だけはいろいろとあるんですが巧くまとまらないもんです。最後のは少佐のマネ。
体力付いたらサバゲーしてみたい。FPSは手を出すと終わりかなと思ってる。
よしわたり



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