「佐助、! 気持ちがよいぞ。おぬしらもはよう来い!」
 にこにこと手招きする幸村。露天の温泉に肩まで浸かり、頭の上に手拭いを乗せ、肌身離さず首から下げている六文銭の他は何も身に付けていない。温泉に入る者としては当然と言えば当然の姿なのだが、一城の主がそのような無防備な姿をさらして万が一の事があっては困る。そこで佐助が戦装束を解かずに控えていたのだが、この主は判っているくせにそういうことをやってくるから性質が悪い。はあ、と溜息を吐いた佐助は幸村の近くに降り立った。
「あのねえ旦那。俺様は丸腰の旦那を守らなくちゃいけないの、だから湯に浸かってらんないの、判ってるでしょ? それとは女だってば」
「それがどうかしたか? 周囲に敵が居らぬ事は先刻、充分に確かめていただろう。たまにはおまえもゆっくりしてはどうだ」
 佐助の言葉などまるで意に介さないような態度の幸村は笑顔のまま。わざとらしく深々と溜息を落として、佐助はじと目で幸村を見やった。
「……お言葉だけありがたくいただいときます。で、は女だからね」
 念を押すように佐助が言えば、一瞬で赤面した幸村がばしゃんと大きな音を立てた。
「わ、わかっておる! そ、そそ某、一度おっ、おなごと入浴してみたいと……!」
「真田の旦那の変態。破廉恥はどこいったよ」
 拳を握りしめて湯気が出そうなほど力む幸村に佐助は白い目を向けてやれやれと肩を竦める。佐助の破廉恥に鸚鵡返しに破廉恥ッと叫んで、幸村はぐうと眉を寄せた。
「――ではあるが、しかしこれは某の夢であって今この機を逃せば次はないやもしれぬと思えばこそ……! おなごと湯に浸かりたい!」
 力いっぱい語る姿は凛々しいものだが、その内容はどうしようもない。額に手を当てて長い息を吐ききった佐助が沈黙の後に重々しく口を開いた。
「……じゃ、俺様が女に化けて入るからそれで我慢してくんない?」
「そういうことではござらぬぁああああ!」

 幸村の絶叫が静かな山林にこだまして、少し離れたところで警戒に当たっていたはびくりと声のした方を振り返った。
「なにがあったんだろ……」









戻る

2009/09/14
話に上ってる女の子は佐助の部下の忍、という設定で。
よしわたり



テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル