ちゃんと二人で、テレビを見ながら夕食を取っていた。カタリ、と箸を置いた音がして、次の言葉に度肝が抜かれた。
「佐助、結婚しよう」
「はい?」
思わず箸を取り落とした。箸はどうでもいい。ちゃんの顔を見る。いたって真剣な様子。俺様をからかっているわけではなさそうだ。
「卒業してからって……」
「そのつもりだったけど、気が変わって。――今すぐじゃ、ダメ?」
真田の旦那は春休みで実家に帰っている。今、この家にいるのは俺様とちゃんの二人だけ。姿勢を正して、上目遣いに俺様を覗き込んでくるちゃんの表情が憂いを帯びてて、もちろんと即答したいところだけど……! 我慢だ、猿飛佐助!
「だ、誰に唆されちゃったの? 竜の旦那? それとも風来坊?」
それくらいしか今は思いつかない。だけど、ちゃんはふるふると首を振った。
「かすが」
「かすがぁ!?」
大声が出てしまったのも、声が裏返ってしまったのも仕方ないんじゃないだろうか。かすがは正反対のことを言う筆頭だと思ってるし。やれ佐助に近付くなだの佐助は止めておけだの……。思い出したら暗くなってきた。でも、ちゃんはそんなかすがに笑って、俺様が好きなんだってちゃんと言ってくれたから! 目の前で! うっひょー!
「……佐助?」
思い出にひたってたら、訝しげなちゃんの声に現実に戻ってきた。慌ててへらりと笑ってみせる。
「あ、ごめんごめん。で、なんでかすががそんなこと言ったの?」
「あのね、『佐助の女癖の悪さはも知っているだろう? 今でこそにベタ惚れだが、いつ気が変わるかも判らない。今のうちに行けるところまで行っておくべきだ! 婚姻届を出しておけ!』って言われて……」
「それで納得しちゃったの!?」
「うん……」
俯き加減のちゃんは、それだけでも絵になる。さっすが俺様の彼女。そうじゃない。かすがの言うことは一理ある。けど、今はもう、ちゃん以外の女の子なんて目に入らないんだ。どんなに可愛くても、どんなに性格がよくても、どんなに俺に尽くしてくれる子でも、ちゃん以上に魅力があるとは到底思えない。この子と出会ったのは運命だなんてバカらしいことさえ本気で言っちまえる。
猿飛佐助、ここで断ったら男が廃る! ちゃんの横に移動して細い肩に両手を置いて、目を合わせた。困ったような笑みと溜息はもう、俺様の一部なんだと思う。
「こんなムードのないシーンで言いたくはなかったけど……。ちゃんの決意が鈍ってしまわないうちに言うよ。俺と、結婚してください」
ほんのり頬を染めて、ちゃんはにっこりと笑った。
「はい、今日は何月何日でしょう?」
「へ? ……四月、一日。って! ウソだろー!?」
「ウソでーす! エイプリルフールのウソでしたー! 原案は毛利君、脚本は慶次君と元親君、監督は伊達君。スペシャルサンクスかすが、主演でお送りしました! 楽しんでいただけたでしょうか?」
にやにやと、悪友達を想起させるような笑みを浮かべたちゃんに、がっくりと肩を落として言葉を失う。このままだと絶対にネタにされ続ける。猿飛佐助、一生の不覚。――だけど、そう簡単にやられるかよ。
「……ちゃん」
顔は上げずに、できるだけ弱々しく呟く。なに、と上機嫌に訊ねてくるちゃんに心の中でゴメンネ、と謝ると、ぐいと肩を押した。イスから落ちかかって慌てて体勢を立て直そうとしてるちゃんは面白いように簡単にカーペットの上に横にできた。
身動きできないように太ももに軽めに座って、両手を絡めて床に縫い付ける。大暴れとはいかないまでも、なんとか体の自由を取り戻そうともがいているちゃんには悪いけど、……なんか俺様、ソノ気になってきちゃった。
「ご、ごめん、佐助! ちょっとイベントに乗っかってからかってみただけじゃない!」
悪戯したら、お仕置きっていうのが定番だよねー。
「ウソをつくような悪い子には、お仕置きです。ちょっともそっともありません」
俺様はマジメくさった表情を作ってそれだけ言うと、ちゃんの桜色の唇にかぶりついた。
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2010/04/01
エイプリルフールネタするならお気楽だろうと。
しかもろくなネタ思い浮かばなかったのでありがちのオチなしで。スンマセン。
よしわたり