しばらく歩いた所に、高台があった。
 小さな鳥居と、小さなグラウンドがあった。
 見晴らしの良いそこは、格好の遊び場。
 山の方に住む友人の所に遊びに行く時、決まって最後に訪れるのはこの高台だった。
 川の流れと、まだ青々とした稲が風に揺れる田圃と、少年の住んでいる集落が、そこからは一望出来る。
 ゆったりとした弧を描く川の流れ。道路を走る軽トラック。遠く海の上を行く貨物。山道をゆっくりと登ってくる、籠を背負った老夫婦。
 そんなものを見ながら、誰も声を発しなかった。
 時刻はいつも夕方だった。
 だんだんと茜色に染まる景色を見ながら、少年達は叫んだ。
 鳥居の傍で、崖の近くで、グラウンドの隅で、色々な事を人知れず叫び続けた。
 
 ある時、いつものように高台へ行くと、少年の通う学校の教師が居た。
 彼は挨拶をしたきり何も言わず、ただ景色を眺め続ける。
 そして少年も、その隣で何も言わず叫んだ。
 
 やがて中学に入る頃になると、少年はもうあの頃の友人と遊ばなくなった。
 彼等にも別の友人が出来て、そして少年は殆ど高台に来ることも無くなっていた。
 中学生の少年は高校生になり、そして何事もなく卒業した。
 
 少年は町を離れ、新しい生活を始めた。
 だが、彼も、そして友人もあの高台を忘れることは無かった。
 風の便りによると、あの小さな鳥居はもうないらしい。
 それでも、確かに高台は残っているようだ。
 地元の青年団くらいしか使わないあのグラウンドも、まだしっかりと生き残っているらしい。
 
 そして、今でも少年は叫び続ける。
 声に出来ない、様々な事を。
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