Winter
 白い息を吐きながら、昇降口を抜ける。
「おはよう。今日も早いね」
 声を掛けてきたのは、一年の頃からずっと仲の良い響だった。
「そっちこそ。部活?」
 ジャージ姿の友人に尋ねる。
「そう。じゃあ、透子、またねっ」
 急いでいるのか、短くその一言だけを言って彼女は遠ざかって行った。あんまり慌てると転ぶぞ、なんて言ってやろうかとも思ったが、すんでの所で思いとどまる。そう言ったら本当に転びそうだから、なんて失礼な事を考えながら、バスケット部の割にはあまり背の高くない友人の姿を見えなくなるまで見送った。
「今日も寒いな」
 学校指定のコートの上に巻いたマフラーの中に手を入れて、冷たくなっていた指先を暖める。響のように動き回っていれば暖かそうな気もしたが、それもそれで面倒だった。決して苦手ではないが、無駄に動き回るのは好きではない。
「なに朝からやる気のない顔をしてるんだ?」
 不意に後ろから掛けられる声。
「あ、おはようございます、坂口先生」
「おはよう、じゃないだろ。もうすぐ朝の補習が始まるぞ」
「分かってます。すぐ行きますから」
「はは、まあ、そう急がなくてもまだ担当が居ないけどな」
 それはそうだ。何しろ、その当人が目の前に居る。
「じゃ、先に行くが遅れるなよ」
「はい」
 そして、私は一人になった。
 遠くから聞こえる、部活の朝練をやっている生徒の声。廊下を歩く、先生の足音。耳を澄ませ、息を吸い込む。
 体中に感じる、朝のしんとした空気。世界すら感じられるような、その一瞬。
 冬の研ぎ澄まされた空気と一体となって。
「さて、行くか」
 小さな気合いを込めて、そう呟く。
 
 12月の朝。

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