「でだ。今年はどうするかって話なんだけど」
「バレンタインかあ。頭痛いなあ」
「毎年のことだけどさあ。ホント懲りないよね連中も」
「てか年々ひどくなってない? お涼が上級になる度に人気が高くなっていくような気がするんだけど」
「その分後輩が増えるからねえ。当然と言や当然なんだけど」
「もうアンタすでに一生分のチョコ食べてるでしょ」
「うーん。たしかにこの時期が一番チョコレート食べてるわね」
「てか何で女なのにバレンタインにチョコもらってんだって話だよなあ」
「宝塚じゃないっつうのにね」
「まあしょうがないわよ。コレがコレだもの。そんなことより私たちはどうやってブロックするかを考えましょ。現実を見なきゃ。現実を」
「たしかに去年までの大混乱考えると、今年も絶対にやばいことになるからね。気合い入れていかないと」
「みんな本当にありがとう。私のためにそんなにしてくれて」
「いいんだよお涼。でも本当にそう思うなら当日学校休んでくれないかな、なんて」
「ていうか涼、もうあんた休め!」
「それがダメなのよ。お涼休むと今度は家の方にまで被害が拡大しちゃうから」
「でも被害を最小に食い止めるにはやっぱり涼を隔離しといた方がよくなくない?」
「まるで疫病あつかいね私って」 
「というかここ何年かは確実に疫病神になってきてるわよ。中等の時はこんなひどくなかったじゃないのさ」
「弓道始めたからじゃないの?」
「いくらなんでもお涼に袴姿はマズイもんねえ……」
「おまけに去年、学祭クイーンの称号までもらっちゃってるから」
「あー、アレでまた巷に悪名が広がったもんねえ」
「あれで他校の生徒までが新たに参戦ですよ」
「大体あなた何で他校に行ってミスに選ばれるの?」
「あれはみんなが面白がっちゃって……」
「面白がっちゃってじゃないよ。まったくもー余計な手間増やしちゃって」
「ごめんなさい」
「今年はもう最後だから、ってんでさらに過激になるだろうしね」
「あ、最後って言えばこの後卒業式もあるじゃん」
「あーそれ最悪だ。エラいことになるかも」
「もう、せっかくこれ乗り越えたら楽になるって思ってたのに、嫌なこと思いださせんな!」
「ダメだ何か今から頭、痛くなってきたわ」
「問題山積ね」
「他人事みたいに言うな! あんたのせいなんだからね」
「ごめんなさい」

「もーアンタはいつだってそうやって周りに愛想振りまくから、勘違いした後輩どもが群がってくるんだからね」
「でも涼の場合、後輩だけじゃなくて先輩にも目をつけられてたからなあ」
「いたね、先輩の中にも。矢部とか」
「おー矢部!」
「なつかしーなその名前。今何やってんだろあの人」
「あと高畠先輩もけっこうその気だったんじゃなかったっけ」
「エーあたしあの人好きだったのになー」
「そういやよく一緒に見に行ったもんね。先輩の教室まで麗しの御姿をさ」
「少なくともアンタたちは人のこととやかく言えないってのがわかったわ」
「お涼が襲われそうになったのって、誰にだっけ? 矢部っち?」
「いやあれは剣丈さん。ほら二つ上の、バスケ部だった……」
「ああ、あの人は本物だったからねえ……」
「いやーやめて! あの人のこと思い出しちゃったじゃないのさ!」
「ホラ見て見て」
「うわ鳥肌スゴッ」
「そうか。そう言えばお涼は剣丈に全部奪われたんだよね」
「奪われてませんっ!」

「たしかすんでの所で誰かに助けてもらったんじゃなかった?」
「高畠さんよ。わたしが遅れていったら、ちょうど剣丈と入れ違いになるところで。お涼、状況把握してないんだもん。きょとんとしてるだけでさ」
「え、だって別に怖いことされたわけではないもの」
「何されたのさ」
「別に。目を閉じてって言われて」
「お涼、その時はおぼこだったもんね。何も知らなくてさ」
「今だって変わってないってこの子は」
「いや。最近男ができたって噂だから」
「お、その話聞いてないぞ。ナニナニ」
「ちょっとみんな、勝手なことばかり言わないの」
「男ってどんな感じのよ?」
「あんたたちガッツキすぎだって。で、で、いい男なんでしょ?」
「どうなのよどうなのよ」
「やっちゃった? やっちゃった?」
「もう。彼とはそんな関係じゃないって。いいお友達よ」
「彼! 彼ときたもんだ」
「おおーすごいね。お涼から彼なんて言葉が聞けるとは夢にも思わなかった」
「で、本当はお友達と言いつつ彼なんでしょ」
「やっちゃった? やっちゃった?」
「違うって。まだ電話でお話ししたりする関係よ」
「まだ! まだだって! じゃあこの先もあるってことじゃないのさー。この先は直接逢って……」
「告白してー」
「夜が近づくと」
「どちらからともなく近づいてきて」
「抱きあってー」
「抱きあう! それでそれで?」
「やっちゃった? やっちゃった?」
「それから二人は……」
「もう! 怒るわよ」
「うわヤバい、これ以上つっこむとこの子本気で怒るわ」
「じゃあ今度紹介してもらおうよ。それで彼の友達と合コンしよ合コン」
「やっちゃうかやっちゃうか」
「絶対にしません」



「もう勝手なことばかり言わない!」
「ほれ、話戻すわよ。席着く席」
「ハーイ、先生!」
「どうぞ」
「今年は変装させるの?」
「やらない。ていうか余り意味ないからなあ」
「去年はサングラスにトレンチコートだっけ? スカーフで真知子巻きにして」
「あれじゃ思いっきり怪しまれるもんね」
「でも髪型隠すにはよかったんじゃないの?」
「やっぱり髪がなあ」
「特徴的すぎるんだよね。お涼、坊主にしなよこの時期だけでいいから」
「坊主だと余計目立つよ。ショートでいいよ、この際少年みたいな感じで」
「でも、それだと男の子みたいになっちゃうから」
「あー余計に人気出るかあ……」
「もう……。言いたい放題ね」
「とりあえず裏門突破はまた使えるんじゃない?」
「アレやると余計に混乱するんだよね。連中が猛ダッシュして職員室呼ばれちゃうよ」
「また私たちの責任だ」
「だから今年はちゃんと告知しようかと思ってる。「何時に正門前に登場」って感じでさ」
「でも、それじゃ来て下さいって言ってるようなもんじゃないの」
「そうなの。で、ある程度満足させてから混乱しないように帰宅。チョコは無駄になるからって説明だけして、あ、あとお涼、その時に挨拶してもらうからね。コメント用意しといてよ」
「え、私?」
「そう。いつもありがとうとか何とか、適当でいいから来てくれた子たちをねぎらう感じで」
「うーん、まいったわね……」
「あと紙袋用意しといてね」
「うん」
「じゃあわたしが段ボールコンビニでもらってきとくよ」
「台車はどうする?」
「いらない。今年は何としてもガードする」
「いい? 今年は紙袋までで抑えるのが目標よ。それ以上はガードすること。わかった?」
「了解」
「お涼もいつものように手を出すってのはなしだからね」
「でもかわいそう……」
「こら。アンタのそれがあるから毎年ガードしきれないんじゃないの」
「そうとう人数集まるんじゃない?」
「そのために整備員必要なんだけどね。頭数、足りないんだよなあ。どっかから引っ張ってくるか」
「お涼、弓の後輩は? あの子たち頼めない?」
「ダメダメ。あれもお涼のファンなんだから。あっちこそ虎視眈々と狙ってるわよ。だから後輩なんて一番危険」
「元親衛隊はどうなのさ。アレは使えるんじゃないの? ちゃんと協定守ってるんでしょ」
「たしか仁科、あんたお目付役だよね」

「一応通達はしといた。なかよしクラブには」
「ダメなの?」
「ファンクラブ一派がなあ」
「ファンクラブ?」
「今のなかよしクラブっていうのが、涼の熱狂的なファンから成る追っかけと、お祭り好きのファンクラブの二つが合併している形なのよ。元々の成立過程が違うっていうか、ほら、一時期流行ったじゃないの。告白合戦」
「あ、二年の時か。みんなこぞってお涼に告白してたもんなあ」
「おまじないもあったよね。涼の机に赤ペンでサインするの」
「あと、お涼のネームを持ってると結ばれるってのも」
「何?」
「今も流行ってんじゃん。好きな男の子の名前を書いて自分のネームプレートに重ねておくと、両想いになるっていうおまじない。あれ、そもそもお涼のネームでみんなやってたことなんだよ」
「え、アレってそれが元ネタなの?」
「そうだよ。一時期、みんなお涼の下駄箱やロッカーのネームを盗ってきては自分の名前の裏に隠してたんだよ。それで涼の下駄箱だけいつもネームなくって。先生に叱られて」
「教科書も盗られたことあったし、机も落書きだらけになったし」
「もういじめよね、ある種」
「それでお涼の方がまいっちゃったんで、一応自粛、って形で落ち着いたじゃない?」
「その時に、勝手に告白しないようにって組織させたのが親衛隊なのよ。いわば相互監視装置みたいなもんね」
「ふんふん」
「で、それとは全く異なるんだけど、単に騒ぎたいって連中がいるじゃない。その連中が集まってキャアキャア言ってるのがファンクラブの方」
「こっちは規則なんてないし、そもそもが一緒に連帯感味わいたいっていうだけのものだから、とりあえずは人気のあるお涼を追っかけてるだけなの。親衛隊としては一番こういった奴らが許せないみたいなんだけどね」
「なるほど、それが一緒になったってわけか」
「そう、それが今のなかよしクラブの形なのよ。だけど、真剣に思い詰めているような子ってのは少数だから、大人数のファンには立ち向かう力ないのよ。面で押されてしまうっていうか」
「で、平気で規則も破ってしまうと」
「そうなの。で、そういった子たちにとってバレンタインなんてイベントは、」
「あー、もってこいの話だ」
「だから頭が痛いのよこっちは」
「問題はファン気質の子たちね」
「お祭りが好きなだけだかんねえ」
「そんなにキャーキャー騒ぎたいならアイドルの追っかけでもしてろっての。身近ですますなよもう」
「ごめんねみんな」
「まあ、当の本人がこういう人だから仕方ないかなって感じなんだけど」
「本当にありがたいと思ってる」
「いいよ別に感謝してくれなくても。友達じゃない」
「とにかく、このイベントを乗り切れればケーキ食べ放題だから。みんな気合い引き締めてがんばって」
「え、私ごちそうするの?」
「当たり前でしょ」
「楽しみにしてるね焼き肉食べ放題」
「ちがうわよイタリアンよ」
「私懐石の方がいい」
「じゃあ望むものは何でも褒美がでるから。そのつもりでがんばって」
「ええ、そんな私ちょっと待っ……」
「一堂解散!」



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