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「ベクトルの行方 3」
一週間後の土曜日。約束の日。
夜になってから、由紀は都内の某公園に向かった。
件のイベントは朝から開始の予定で、もうとっくに終わっている筈だった。
結果は見なくても聞かなくても分かっていた……坂本ジュリエッタが優勝しただろう。
深道は夜にこの公園に来るようにと由紀に言い、由紀はその通りにした。
「……こんばんわ、深道さん、」
公園内は薄暗く、街灯の明かりは余り役には立たなかった。
それでも深道の個性的な格好はいやでも目立ち、由紀はベンチに座って、ノートパソコンを弄っている
深道を見つけることができた。
「……あぁ、皆口」
後ろから声を掛けられ、深道は振り返りながらノートパソコンを閉じた。
既にスタッフも撤収したのか、辺りに人影はなかった。
アスファルトの上に点々と血の跡がある。それ以外は、イベントの影を残すものは何も無い。
「イベントは、……終わったのね?」
「ああ、終わった。……結果は予想通りさ」
「そう」
深道は隣に座るよう勧め、由紀はありがとうと礼を言い、深道の隣に腰掛けた。
夜風が心地よかった。
「……儲かったんでしょうね」
「勿論さ」
「そう……」
「今さっき、”賞品”を坂本に届けてきたところさ。賞金は後日振込みだけどね」
「……賞品」
賞品。それは、マキだった。
ヒトを簡単にモノ扱いするのは深道の悪い癖であると同時に、だからこそこんなイベントやら
ランキングやらが主催できるのだろう。モノと思えなければ、とてもではないが出来ないことだ。
「坂本、ものすごい喜んでたぜ」
「………」
「坂本のあんな顔は初めて見た。……と言うか、坂本があんな顔出来るとは思わなかった。
……なんていうのかな。満面の笑みってやつ」
深道は可笑しそうに笑いながら言う。
もう、坂本はマキを手に入れてしまったのだ。
自分には二度と振り返らない、それは確定したのだと由紀は感じた。
由紀は唇を噛み、ぐっと堪えていた。膝に置いた指の先が、力を込めて白くなっていく。
「……ところで皆口。夕飯、済ませた?」
「いえ、まだだけど……」
「いい店があるんだ。これから行かないか?」
勿論奢るよ、と深道は付け加えた。迷ったが、由紀は承諾した。
『……私はどうしようというのだろう。何を確かめようと……?』
深道とタクシーの後部座席に乗って、流れていく景色を眺めながら由紀は考えた。
『確かめることなど何も無いはず、もう坂本さんは私には振り返らない、あの子を手に入れてしまったのに。
なのに、今深道さんと会って、私はどうしようというの……』
由紀が取り留めの無い思考に陥っているうちに、タクシーは止まった。
「皆口、着いたよ」
深道に肩を叩かれ、由紀は我に返った。
「……ここ?」
タクシーに乗って、ほんの3メーター。
着いたのは、とある高級マンションの前だった。
「深道さん、……中華料理だって言わなかったかしら?」
どう見ても、中華料理店には見えない。それどころか。
「……ここは……坂本さんのマンションじゃないの……」
そう、そこは坂本の住む、あの公園とは同じ区にある高級マンションだった。
「当たり……」
深道は口の端を軽く上げた。
「最初からそのつもりだったのね?」
由紀の言葉に、深道は頷いた。
「今、9時26分か……10時まで玄関のロックを解除しといてくれるって、坂本との約束なんだ」
「ロックを解除?」
「まぁ、行けば分かるさ……」
深道に促され、由紀は言葉の意味を理解しないまま、マンションに入った。
エレベーターに乗り、4階で降りた。深道の言葉どおり、坂本の部屋の鍵は本当に開いていた。
「入るよ、」
深道が先に入り、由紀が後に続く。
夢にまで見た、坂本の部屋。ここを訪れることを、どれだけ焦がれたことか。
けれどそれは果たせないまま、いつも前を通り、坂本がいるかもしれないし、いないかもしれない部屋を
見上げるだけだった。
その坂本の部屋に、今こうしてあっさりと入ることが出来ることが、由紀には信じられなかった。
外見に相応しく、内部は安っぽさの欠片もなかった。
生活感は余り無く、モノは少ない。インテリアと呼べるようなものもそれほど無かった。
真っ白な壁紙の長い廊下を、先に立って深道が進んでいく。
由紀はその後に続く。
廊下の突当りには高いドアがあった。
「……ここだ」
深道はそのドアを、ゆっくりと開く。少しだけ開いて中を覗き、振り返って由紀を手招きした。
「おいで、皆口」
由紀は躊躇った。その奥にある光景を見ることを。
「何躊躇ってんだよ皆口。……自分の目で、確認するんだろう?」
深道が言う。
……ああ、そうだった。
由紀はその時理解した。自分がしようとしていることを。確かめようとしていることを……。
そしてゆっくりと、深道に近づいた。
深道が開いたドアの、僅かな隙間の向こうに見える光景。
それこそが、由紀が見たくないと思った、けれど確かめたかった光景だった。
隙間の向こうに見えた光景。
それは、余りにも生々しい光景だった。
一糸纏わぬ姿、つまりは全裸になったマキが、床に這いつくばっていた。
薄暗い部屋の中。ここは坂本の仕事部屋らしい。
マキは頭を床に着くほど下げ、白く形のいい尻を上に向けていた。
「早く、下さい……ッ、お願いです、」
震える声で、マキは懇願していた。這いつくばったマキの後ろで、
白い双丘の間を覗き込むように坂本がしゃがんでいた。
「本当に欲しかったら、もっと自分で広げてみろ……マキ、欲しいところを広げるんだ」
「……ッ、はい……」
マキは自分の手を脚の間に入れ、粘った音を立てながら花弁を広げた。
甘酸っぱい匂いは、扉の向こうの由紀のところにまで漂ってきた。
「何もして無いのにこれだけ濡れる様になっているとは……随分な調教もあったもんだ」
坂本が、一瞬だけこちらを見た。扉の向こうに立っている二人に、気づいているようだった。
マキはこちらに気づいていないようだ。
深道が由紀の隣で、小さく笑った。
由紀は目の前で繰り広げられている光景に、ただただじっと見入っていた。
それは本当なら嫌悪すべき光景で、見たくも無い光景であるはずなのに……。
なのに、由紀は見入っていた。息を殺し、目を大きく見開いて。
マキと坂本の繰り広げる、淫靡な光景を。
坂本はマキの花弁の奥へ、自分の中指を埋没させた。
「……ぁ、ああ、ッ!!」
ようやく与えられた刺激に、マキは堪えきれずに声を上げ腰を振り、もっと深くとねだる。
「ここか? ここがいいのか、マキ」
坂本は内部を抉るように、中指を大きく動かした。
「ア、や・ぁぁぁっ!」
「もっと入るな」
坂本が指を増やす。ぽたぽたと、マキのそこから透明な液体が滴り、床に落ちる。
乱暴な指使いに、マキは歓喜の声を上げて腰を振る。感じる箇所を刺激する坂本の指。
もう片方の坂本の手が、マキの豊な胸を後ろから鷲づかみにし、捏ね回した。
「んひぅ、……や、は、……あん……、もっと…」
乳房は坂本の手の中で自在に姿を変え、マキは声を裏返らせて喘いだ。
「もっと、下さいっ……あ、も、……」
「……あれが、”あの”エアマスターだ」
深道が、由紀の耳元で囁いた。
あの、とは過去の事をさすのだろう。
今のマキにはもう、過去のエアマスターの影は何処にも無かった。
「男好みの従順な身体に開発したんだ……。どんな男の前に出しても恥ずかしくないような
身体にね。Gスポ刺激したら直ぐ潮を吹くし、勿論中でイケる。
一日中セックスばっかりさせてたからね……色狂い……とも言うかな。
ほかの事は徹底的に排除して……そのことだけさせてたんだ」
「………」
深道は耳元で淡々と語った。
色狂い、と言う言葉に、由紀の下半身が僅かに疼いた。
「一日中、男のペニスを上の口と下の口に咥えてね……体のあちこちを弄られて……」
いつの間にか、深道の手が。
由紀の腰に回されていた。
坂本がボトムから猛り立った分身を引き出した。
「指だけでそれだけ狂えるのなら、もういいだろう……マキ、欲しいものをやろう」
「ん、あ……、」
そして、すっかり濡れぼそったマキのそこへあてがうと、一気に押し入った。
「あ・あああ……ッ!!!」
後ろから坂本に一気に突き上げられ、マキは大きく仰け反る。
「ここもいいか、マキ」
坂本は前後運動を繰り返しながら、マキの固くしこったクリトリスへと触れる。
「あ、いい……ッ、……もっと、触って……!」
目の前で繰り広げられる二人の行為。
それを見ながら、由紀はごくり、と息を呑んだ。
「……皆口」
深道の手が、由紀の腰のラインを撫でた。その感触に、由紀ははっとした。
「深道さん、」
「皆口、いいかい」
気がつけば、深道の顔が近い。直ぐ目の前にあった。
「……君もなりたくないか? エアマスターのように」
「エア…の、ように……?」
深道が、ぐ、っと由紀の腰を抱き寄せた。とっさに抵抗しようと由紀は試みたが、
抗おうとした手をあっけなく取られ、抱き寄せられたまま壁に押し付けられる。
「何を……ッ!」
「皆口、聞くんだ」
深道は不敵な笑みを浮かべ、そして言った。
「皆口、君のことを想っている男がいる……今はまだ名を明かせないけどね。
その男のために、……皆口。エアマスターのように、”調教”を受けてみないか?」
「……調教……を?」
「そう、調教を……」
深道は頷いた。
僅かに開いたドアの向こうでは、獣のようにむさぼりあうマキと坂本がいた。
思えば由紀は、この時既に、深道の計略に嵌っていたのだろう。
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