「Him and the other him」








「……もう帰っちゃうの?」
私が帰り支度を始めたのと殆ど同時に、付けっ放しだったテレビは夕方のニュースを始めた。
ソファにねっ転がったままの深道弟は、
「まだ五時半じゃん」
と時計を見て言った。
「うん、けど……早く帰らないとうるさいんだ」
「ああ……なるほどね」
うるさそうだもんな、エアマスター。
深道弟は口ではそういいながらも名残惜しそうで、コートを取る手をちょっと止めた。
「……また明日会えるでしょ?」
「そりゃそうだけどさー……みおりちゃん、あと一時間、駄目?」
「駄目よ。……ホラ、そんな拗ねた顔しない!」
深道弟の顔には帰らないでよ、ってしっかり書いてある。




―――これじゃあどっちが子供なんだか。




「会えない時間が愛育てるのさ、って、CMでやってるじゃない?」
あれと同じね、だからまた明日ねと。
残念そうな深道弟に言い聞かせるように言って、それからほっぺにキスをして。
「じゃあね、信彦」
にぎにぎをしながら、スニーカーを履いて。深道弟の部屋を出ると、外はもう真っ暗。
冷えた空気は吐いた息を白くした。




「……みおりちゃん、おかえり」
「ただいまー」
家に帰ると、待ってたのは「お姉ちゃん」じゃなくて……「お兄ちゃん」。
私のじゃなくて、……深道弟の。
ベッドに腰掛けて雑誌を読んでるのは、深道。
「遅かったね」
「うん、誰かさんの弟がなかなか帰してくれなくって」
「ああ、うちの愚弟がね……」
皮肉っぽく言うと、深道はくくっと笑った。
深道の隣に座って、肩に頭を預けて。
ゴロゴロ、猫みたいに甘えるんだ。
「……悪い子だ、みおりちゃんは」
「あら、誰かさんが教えてくれたんじゃない?」
私の髪を優しく撫でる大きな手。
深道弟と、よく似てるけどちょっと違う手。
「ああ……そうだったっけ……」
深道弟と、全然似てない声。
深道弟と、よく似てる匂い。
抱き寄せられ、ベッドに組み敷かれた。
「あ、っ」
唇を奪う性急さ。流れ込んでくる、コーヒーの味の唾液。
深道弟と、全然似てない性格。



「んぁ……っ」
深道弟は、お姉ちゃんが早く帰って来いって言うから私が早く帰るんだと思ってるみたい。
でも私、一言も言ってないよ。お姉ちゃんが、だなんて。
実際には深道。
あまり家に帰ってこないお姉ちゃんの代わりに、この家に半ば居ついている、深道。
ハンドウセイ、ってやつかな。
深道弟は勿論知らない。深道は知ってるけど。
私が深道と深道弟と、両方と付き合ってるだなんて。




ごめんね、深道弟。




「深道ぃ……っ」
さっきまで深道弟に抱かれていた。今度は深道に抱かれる。
同じ身体を、兄弟ではんぶんこ。
深道弟と同じように、深道の肩に爪を立てて。
同じように喘いで、腰を振る。
深道弟より格段に上手い指遣いに、もうメロメロになってしまう。
「あーーっ、ああっ……イ、っ、イかせてぇ……っ」
さっきまで深道弟とエッチしてた身体は、ちょっとの刺激にも直ぐ火がついて。



……深道弟のこと、嫌いなわけじゃないのよ。



確かにエッチが上手いのは深道だけど。
一緒に歩いてて自慢になるのは深道弟。
一緒にいて楽しいのは……同じくらいかな。
どっちも、一長一短ってとこかな。
でもうまく使えばこんなに美味しいことって、ないと思わない?





「みおりちゃん……、シックスナイン、しようか?」
深道が言って……二人とも好きだな、この体位。
頷いて、深道の上に跨って。もうおっきくなってる深道のおちんちんに、舌を這わせた。
さっき舐めた深道弟のと、……これは深道弟が勝ってるかな……。




……うっかり名前を呼び間違えないように、それだけは気をつけるから。
このくらい、許してくれるよね、深道弟……?



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