「半額チョコレート」



目の前には、見覚えのあるブルーの包装紙。
赤いリボンが可愛らしく付いている。
「……これ、何だ?」
分かっていながらわざと尋ねると、差し出したマキの頬はみるみる真っ赤になっていく。
「みっ、見たらわかるでしょっ!」
照れ隠しだと、子供が見ても分かるそのリアクション。
可笑しくて、愛しくて。
噴出しそうなのを堪えながら、マキの掌に乗っているブルーの包みを持ち上げてみる。
「……半額、か」
小さな包みに不似合いな、大きなシールが目に付いた。


『レジにて表示価格の半額』


「しょうがないでしょ……お店、一日過ぎたらそーゆー売り方するんだもん……」
ぷっ、と頬を膨らませ、マキは横を向いた。
壁にかかった日めくりカレンダーの日付は、2月15日。
「いいさ、何だって……マキがくれたものなら、俺は何だって嬉しい」


バレンタインデーだなんて、取ってつけたようなイベント、俺自身はどうだってよかった。
それでも、腐っても女子高生とでも言うのだろうか。
マキにはそれなりに大切な日だったんだろう。
「……一応、手作りあげたくて、妹と一緒に作ったりしたんだけど……」


『お姉ちゃんが手出ししたら、私のまで毒チョコになっちゃう!』


そう言われ、哀れマキは手を引かざるを得なかったという。
「で、慌てて買ってきた、って訳か」
「そう……よ」

―――私、不器用だから。
ポツリとつぶやくマキの指には、絆創膏がいくつも貼ってあった。


よく見れば、シールは剥がそうとした跡がある。
上手く剥がせず、そのままもってきたらしい。


「買って来ようが半額だろうが、俺には関係ないさ」
包装を破ると、小さな箱の中には、トリュフチョコが二つ。
その仰々しさはまるで宝物のようだった。
「ジュリエッタ……っ」
一つを摘まみ、自分の口に運ぶ。
小さなチョコは優しく溶け、嫌味なく甘かった。


「……おいしいぞ、マキ」
「―――買って来たやつよ、それ……」
「マキが買ってきてくれたから、旨いんじゃないか」
もう一つも、口に入れる。
二つのチョコはもうなくなった。
……ほんの一分か二分。味わって食べるのはそれだけの時間で。
でも、その短い時間のために、何かをしようとしたマキが、堪らなく愛しかった。



「……あっ、ありがと……」
マキは小さく頭を下げた。
「ホワイトデーは、三倍返しだったな、確か」
「えっ?」
「身体で返すとするか、今すぐ」
「……せっかち……ホント」
差し出した手を、マキはそう言いながらも取った。
「……半額のチョコでも、お返しはフルコースだからな」
白い手の甲に儀式のようにキスをする。



テーブルに残されたのは、青い色の夢の跡。





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