『モノカキと女子高生、共にストリートファイター』






「……美味しいか、マキ」
「うん、……まぁ、美味しいんじゃない?」
小さなテーブルに向かい合わせに座って。
真ん中に置いたプレートに山と盛り上げた冷凍ピラフ。
俺が作った、といってもレンジで温めただけのそれを、両側から二人でスプーンで掬って口に運ぶ。
「こんなものでよければ毎日作ってやるさ」
「……それって喜んでいいわけ?」
「喜びたければ」
マキがさっき作っていたカレーは、盛大に鍋を焦がして天に召された。
マキには料理の才能が、全くといって良いほど無いらしい。
天はニ物を与えずとはよく言ったものだ。よほど俺にマキの手作りカレーを食わせたくなかったのか。
「料理は駄目だけど、掃除と洗濯なら人並みにとはいかないけど、……ちょっとははできるわよっ。
少なくとも洗濯機とか掃除機とか壊したりはしないわっ!」
マキは少しイラついているらしく、吐き捨てるように言うとスプーン大盛りのピラフを一気に頬張った。
「ほう、それは初耳だ。じゃあ俺は掃除と洗濯が苦手になろう」
「……なろうって、どういうこと? ジュリエッタ」
「深い意味はないさ。そういうことだ」
「だからそういうことって、どういうこと?」
「さぁな」
「もう、またはぐらかすっ」
話をそこで無理やり終わらせて、後は無言でピラフを突き合う。





つまりは、そういうこと。





四袋分のピラフは結構な量だった。





二人がかりでピラフを平らげた後、俺はフローリングの床に大の字になった。
「マキ、食った直ぐ後で悪いが、この部屋の掃除を頼む。あと洗濯機の中の洗濯物も洗っといてくれ」
「ええっ……今から?」
「そうだ。四時に出版社の人間が来る。……掃除と洗濯なら人並みにとはいかないが、ちょっとはできるんだろう?」
「……そりゃそうだけど」
「出版社の人間が来ても、コーヒーは出さなくていい。頼んだぞ、マキ」
呆れ顔で俺の顔を覗き込んでいるマキ。
俺は目を閉じ、しばらくの時間夢を見ることにした。




「この部屋散らかりすぎよジュリエッタ、わかんないもの全部捨てちゃうよ」
「どうぞ、マキの好きにしてくれ」
「洗濯物も、ヨレヨレとか汚いのとかは捨てちゃうわよ」
「どうぞ……」





怒った顔は見たくない。だってマキの怒った顔は可愛くないんだ。
笑った顔が見たいんだ。
だから俺は掃除と洗濯が苦手になろう。
起きた後、きっとマキは笑顔で言うはずだ。
『どう? 綺麗になったでしょ』って。




つまりは、そういうこと。




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