『変』
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……この頃、お姉ちゃんはなんか変だ。
具体的にどこがどうっていうのは上手く言えないんだけど。
なんか、変。
夕飯の買出しにお姉ちゃんと出かけるのはいつものスーパー。
もっとも、料理はあたし担当。
お姉ちゃんに任せたら、どんな食材もあっという間に毒に変わっちゃうんだから。
例えば冷凍の空豆。袋に入ってるあれね。あの冷凍の空豆をただ塩ゆでしただけで食中毒になっちゃったり、
レンジでチンするだけのグラタンでも食中毒になっちゃったりする。お姉ちゃんっていったいどんな腕前してんだか……。
メニューを考えたり食材を選ぶのは二人で、料理はあたし。お皿洗いはお姉ちゃん。
そういう担当で今までずーーっと来てたのに、……なのに。
「……今日、あたし作ろっかな」
「え」
「何よみおり、そのあからさまに嫌そうな顔は」
カートを押すあたしの顔には、多分「まだ死にたくない」って書いてあったんだろうなぁと思う。
「……だってお姉ちゃんの料理でしょ? ……食材と医療費の無駄じゃない」
「う……うるさいなぁっ、作りたいなって思ったのっ!」
……ほら。
今までのお姉ちゃんなら、こんな風に言っても「わかった、じゃあ作るのはみおりに任せる」って
おとなしく引き下がってたのに。
最近、どうも引き下がりが悪い。
「料理番組であたしでも作れそうなのがあったの、だから作りたいなーって……一品くらいならいいでしょ?」
その一品が命取りなの!
「駄目。一品でも駄目ったら駄目」
「サラダよ、市販のドレッシングに生クリームとか入れて混ぜるだけなんだけどさ」
「そんな簡単な料理でも、お姉ちゃんが作るとどうなってるのよ毎回毎回っ」
「う……」
「だから駄目。あたしが作ります」
「……みおりのケチっ」
こんな感じ。
お姉ちゃんが料理作りたいとか言い出すなんて、なんか変。
そういえば最近、妙に物腰が柔らかいんだ。
格闘番組しか見なかったのに、恋愛ドラマも見だしたりなんかして。
……なんか、変。
ねぇ、お姉ちゃん。
一体どうしちゃったのよ。
(END)
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