『なにいろ、あかいろ、すきないろ』




「……情けねぇなぁ」
口端を歪ませ、佐伯四郎はやれやれとばかりに大げさに呆れた素振りをした。
わかっている。何が情けないかって。
「男なら雪が降ろうが槍が降ろうが、涼しい顔しているもんだろうがよ」
そういう佐伯四郎の格好は、この寒空の下、半袖のシャツとダメージジーンズ。素足にスニーカー。
街角ではそろそろクリスマスの飾りがちらほらお目見えする時期だというのに、いったいどこの南国から迷い込んだんだ。
「あいにく寒がりなもんでね」
「……長袖は大雪の日だけだ」
「手は大事な商売道具だからな、ライターにとっちゃ」
俺はわざとらしくハァ、と白い息を吐き、手袋をはめた両手を顔の前で擦り合わせた。
黒いダッフルコートの両手には赤い毛糸の手袋。
「いいだろう、これ」
俺がみせつけると、佐伯四郎はありえねぇ、と言って笑った。






「ジュリエッタ、何色が好き?」
「赤色」
クリスマスの飾りを店員が取り付けているすぐ傍の棚で、俺とマキは手袋を選んでいた。
「赤? ジュリエッタ、派手ねぇ」
「手袋ってすぐなくすだろう、派手だとすぐ見つかる」
「……子供みたい」
平日のショッピングセンターは人気もまばらで、大男大女のひどく目立つ組み合わせをじろじろと見るものは少ない。
「じゃあ、私も赤にしよう」
メンズ用とタグのついた赤い手袋と、レディース用とタグのついた赤い手袋。




マキも今頃、あの赤い手袋をはめて、友達とどこかへ出かけているんだろう。
「坂本ぉ、頼むから店に忘れてきたりすんなよ」
「……忘れてきてもすぐに分かるさ、こんなに派手な色なんだ」
「そういう問題かぁ?」
ふざけあいながら、佐伯四郎と飲み屋までの道を歩いた。
今にも雪が降ってきそうな、灰色の雲が分厚く掛かっていた。




「……でもジュリエッタってさ、いつも地味な服しか着てないじゃない。赤、ほんとに好きなの?」
支払いを済ませてエスカレーターを降りるすがら、マキは二つの包みを抱えて尋ねた。
「ああ、好きだよ、赤」
俺は目を細める。二段高いところにいる俺の目の前には、大好きな”赤”が、ある。
「マキの頭と同じ色だから」

(END)




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