信彦×みおり←深道  「トライアングル」




その日は曇りだった。
特に予定も無い日だった。昼前に起きて、午後から大通り沿いにある喫茶店へ行き、
ノートパソコンで行きつけのサイトを巡回したり、メールの整理をしたりして時間を過ごした。
予定の無い日は大概こんな感じだ。30分ほど過ぎたところで、携帯が鳴った。
着信音は人毎に変えてある。この曲は……信彦だ。
「……メール?」
信彦が俺にメールを送ってくることは珍しかった。
何事かと思いメールを開くと、そこにはたった一文。


『窓の外、向かい側の通り』


「……?」
意味不明の文だが、その文の通り、窓の外に目をやってみた。
すると、答えは拍子抜けするくらい簡単だった。
「お、………」
窓の外、両側6車線の道路を挟んだ向かい側の通り。
こちらに手を振る、背の高い金髪と小さな赤髪の二人連れがいた。
「……成る程な」
遠目にも、それが信彦とみおりちゃんだと一目でわかった。
ああ、今日は土曜日だったのかと、今更のように気づく。
手を振る代わりに、返信した。


『奢ってやるから入って来いよ』


10分後、俺の向かいの席には、信彦とみおりちゃんが座っていた。
「なっ、言ったとおりだろ? ここのパフェ、超うまいだろ?」
信彦のテンションがいつになく高いのは、みおりちゃんが一緒にいるからだろう。
二人は俺の奢りで、特大のフルーツパフェ……一つで二人前のパフェを、仲良く食べている。
「うん、ホントおいしい!」
「みおりちゃん、チョコバナナ食う?」
「食べるっ!」
「はい、あーんして」
「あーん……」
ご馳走様、といいたくなるくらい仲のいい二人を見ながら、俺は3杯目のキリマンジャロを飲み干した。
「信彦、今日は補習があるんじゃないのか?」
「ん、サボった」
……即答か。
「腐っても誰かさんの弟だからね、補習出なくても、学年一番を譲るつもりないからさ」
「随分余裕だな、信彦。……油断は禁物って言葉知ってるか?」
「油断してねぇよ、ただの余裕」
「……深道弟って、勉強できるの?」
みおりちゃんがいぶかしげに信彦を見る。
「おう、俺、学年で一番だぜ、ずーーっと。……な、兄貴っ!」
「……今のところはな」
「すっごい! うちのお姉ちゃんなんか、赤点ばっかりだよ?」
「マジ? エアマスターが?」
「うん、だから今日もホコウっていうのに行ってるよ」
……補講、ね。


信彦とみおりちゃんの仲は、最初の頃から知っていた。
それが、単なる兄と妹的なものでなく、恋愛の類だと言うことも。



……まさか、信彦に先を越されるだなんて、思っても見なかった。



みおりちゃんを見つけたのは、俺が先なのに。


二人のおしゃべりをBGMに窓の外をぼんやり眺めながら、考えを巡らせる。
昔から、欲しいものを我慢出来るのが俺で、我慢できないのが信彦だった。
例えば欲しい玩具やゲームがあって、それを親にねだったとして。
クリスマスか誕生日に買ってあげるといわれればそれで我慢出来た俺と、
我慢できなくて駄々を捏ね、玩具屋の店先でひっくり返って泣き叫んで両親を困らせたのが信彦だった。
それは、恋愛でも同じことだった。
佐伯みおり。エアマスターの腹違いの妹。以前から気にはなっていた。
けれど、何と言ってもまだ小学生だ。
せめて5,6年は待つべきだ、と思っていたら、……あろうことか信彦に先を越された。
『……みおりちゃんとさ、付き合ってんだけど。マジ本気で』
信彦が真剣な顔で俺に打ち明けた時は、本気でショックを受けた。


信彦に何かで先を越されたのは、これが初めてだった。




俺の目の前で、みおりちゃんは俺ではなく信彦に微笑んでいる。
その笑顔、……可愛い、としか言いようが無い。
「あ、そうそう。深道のことみつけたの、私なんだよ」
みおりちゃんが、スプーンを咥えたまま俺を見た。
「……そうなんだ」
その笑顔と事実を喜んでいる自分がいる。……柄にも無く。
「うん、だって遠くから見ても深道って、すぐにわかるんだもん」
「兄貴のその格好、歩く目印だもんなぁ…」
「信彦、お前の鶏冠みたいな頭も立派な目印だ」
「ひっでぇ、兄貴。結構時間掛かるんだぜ、コレ」
「刺さりそうだから普通にしろ、信彦」
俺と信彦とのやり取りを、みおりちゃんはくすくす笑いながら見ていた。


……この笑顔を、独り占めできたらどんなに素敵だろう。


自分の中で、ドロドロとした欲望が溜まっていくのがわかる。
今はこうして、信彦とみおりちゃんの、まるでおままごとのような恋愛をまだ冷静な目で見ていられる。
信彦の隣に座るみおりちゃんを見ているだけでいい。時折向けられる笑顔で、満足できる。
自分のものに出来たら、でもこの子は信彦の、と……そう思うだけでいられる。
けれど。
一度くらいは、人間我慢できないこともある。


「みおりちゃん、ほっぺにクリーム付いてるぜ、ホラ」
信彦が、人目も憚らずにみおりちゃんの頬に付いたクリームを舐め取った。
「やだっ、もぉ、深道弟のエッチ!」
頬を真っ赤にして、みおりちゃんが飛び退く。
「いいじゃん、俺たち付き合ってんだし」
「もぉっ、公衆の面前で、深道弟はっ!」



我慢できなくなる時が、きっと来る。
……その時は、信彦。
悪いが弟だとて、容赦はしない。








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