教えて! 銀さん IN 万事屋 3(前半戦)







今日は姉上と一緒に万事屋に行った。
神楽ちゃんは姉上と大江戸デパートのバーゲンに出かけ、僕と銀さんはスーパーで買い物。
このところ、銀さんは妙にリッチだ。どこからお金が入ったのかは分からないけれど、滞納していた家賃は全部払ったみたいだし、 僕にも未払いのままだった何ヶ月か分の給料をまとめて払ってくれた。
その上神楽ちゃんにも酢昆布をあんなに沢山買ってあげて、バーゲンの軍資金だといって、5千円札を渡していた。
5千円札だよ5千円札。500円札じゃないんだよ! 
さっきもスーパーで『10円引き』シールを貼ってない定価のいちご牛乳を買っていた。

―――怪しい。絶対、怪しい。

……銀さんはいったいどんな悪い仕事に手を染めたんだ……。
金の出所を聞くのが怖くて、いや、出来ることなら知りたくなくて、僕は何も言わないでいる。


「結構買っちゃいましたね」
「あー、そうだなァ。冷蔵庫入るかコレ?」
原付を階段の下に止めて、裂けそうなくらい詰め込んだ袋を両手に持つ。
買い込んだせいで、結構重い。ヒィヒィ言いながら二人で階段を上がって、玄関の鍵を空けようとした……んだけど。
万事屋の中から、声が聞こえていた。それも、女性の声が二つ。


『あぁっ……ん、ゃぁっ……』
『ダメよ、逃げちゃ……ホラ、もうおツユがいっぱい……』
『だ……だって、あぁっ……すごすぎる……ッ』
『クリトリスがこんなに充血してるわ……なにもしなくてもお顔出してるのね、フフ……いやらしい子』
『ッ、言わないでッ……』
というような声が。


「……銀さん、この声って……」恐る恐る銀さんに声をかけると、銀さんの顔面はとっくに蒼白になっていた。
「やばい……新八……コレ……やばいぞ」
魔女っ子メグのノンみたいな顔色の銀さんは、ガタガタ震えていた。
「なにか心当たりでもあるんですか? 銀さん」
「……もしかしたらお妙と神楽がとっくに帰ってて、もしかしたら俺が冷凍庫に雪見大福の箱に隠しておいた 『結野アナ&花野アナ激似!? いいえ違います今度は絶対ホントの本人!』の レズもののエロDVDを見つけて、もしかしたら鑑賞会を開いてるのかもしれないぞぉぉぉぉっっ!!!」
「アンタなんて場所になんてものを隠してるんですかぁぁっ!! それ以前になんつうDVD買ってるんですかっっ!!」
「だって仕方ねえだろッッ!! 神楽に押入れ上半分占領されてっからッ!! 隠す場所が限られてるんだよッッ!!  それにあのDVDは激似じゃなくて絶ッッ対本人だッッ!! このカシオミニを賭けてもいいッッ!! あれはテレビ局の女子更衣室でレズってる、正真正銘結野アナと花野アナ本人の隠し撮りだッッ!!」
「どういう根拠ですかッッ!! そもそもここは獣医学部じゃありませんッッ!!  第一そんなもんよく似た髪形と背格好と隠し撮り特有の画像の悪さでなんとでもいえますよッッ!!」
「いいや違う! 俺の結野アナセンサーが反応したんだ!! いつもは謙虚な銀さんジュニアがピンコ立ちしたから あれは絶対結野アナだ! バツイチになった寂しさを、後輩アナとのレズプレイで埋めようとしてるんだ! あぁっ結野アナ!!  俺のところに来れば幾らでも埋めて差し上げるっていうのにぃっ!!」
「知りませんよアンタの下半身事情なんてッッ! っていうかいつまでここで揉めてても仕方ないでしょう!!」
「おお、そうだ! 早くDVDを奪還せねば! 神楽がケータイ小説の主人公まっしぐらになっちまう!!」
よく分からない言い争いの後、転がるように僕と銀さんは万事屋の中に入った。


「違うんだお妙ぇぇ!! 早まるな神楽ぁぁぁ!!」
「目を閉じてくださいッ! 姉上、神楽ちゃんッ!」


襖を開けた僕たちの目に飛び込んできたのは……。


「あら、銀さんに新八君。お帰りなさい」
「邪魔しているぞ」


姉上と神楽ちゃんじゃなくて。
さっちゃんさんと九兵衛さんでした。
それも、素っ裸の。
しかも、僕らが出かける前には確かに畳んで部屋の隅に片付けておいた銀さんの布団を部屋のど真ん中に広げてその上で。
いわゆる、シックスナインの体勢の。


「……あれ……」
「……え?」


玄関開けたら2分でご飯どころか。
玄関開けたら2秒でアハンでした。


「……さっちゃんお前……何してんの」
「九兵衛さん……何してるんですか」


結野アナと花野アナどころか。
さっちゃんさんのプリプリのお尻と、九兵衛さんの花びらが丸見えでした。


「……でっ。一から説明してもらおうか」
僕と銀さんは、さっちゃんさんと九兵衛さん(注:流石に服は着ました)と向かい合い、 コトのあらましについて説明を受けることになりました。
「大体なんでおめーらはよッ!! 人んちでよッ! しかも人の布団でよッ! レズプレイなんて大胆なことをかましてるんですかアンタらはッ!!」
銀さんの額には青筋。
童貞の僕は見てはいけないものを見てしまった感で一杯で、銀さんの隣で真っ赤になって俯いていた。
「帰ってきたのが俺らだからよかったもののッッ!! お妙と神楽だったらどーすんだよコレ!! 気まずさ100%で真中もいちごパンツ片手に逃げ出すよッッ!!」
「だから悪かったって言ってるじゃない、銀さん。とりあえず九兵衛さんの話を聞いてあげて」
怒りに任せてまくし立てる銀さんと、たしなめるさっちゃんさん。
ん? 九兵衛さんの話? 事の発端が九兵衛さんだってこと?
「あんだって? どういう話だよあん? コラァ」
「銀さん、アンタ完全にヤクザモードですよ……っていうか一から説明しようにも銀さんがそんなに喧嘩腰じゃ 話したくても話せませんよ。どうやら九兵衛さんが事の発端みたいですから……」
銀さんの耳元で小声で囁くと、銀さんはため息を一つついて、「んじゃあ、柳生さんちの九兵衛君。説明スタート」
とめんどくさそうに言った。
九兵衛さんがためらいがちに話し始めた。
「……今朝、僕がこちらへ来たら丁度さっちゃんと玄関前で会ったんだ。そもそも僕がこちらへ来た理由はさっちゃんと連絡を取って欲しかったからなんだ」
「さっちゃんさんと? どうしてですか?」
「……理由は後で話す。で、さっちゃんと玄関前で会って、しかもさっちゃんがここの合鍵を持っていたので、僕とさっちゃんは勝手に上がらせてもらってことに及んでいた」
「いやいや、それおかしいって。なんでいきなりコトに及ぶんだよッ! どちらのエロ漫画だよッ!つーかさっちゃん合鍵勝手に作んなっつーの!」
「銀さんっ! また喧嘩腰ですって! 落ち着いてくださいッ」
僕はまた喧嘩腰になった銀さんをたしなめた。全く、話が進む様で進まないよこの面子じゃ……。
「そもそもなんで九兵衛さんとさっちゃんさんなんですか? キャバクラの件で会ったのが初めてでしょう?  こんな仲になるほど親しかったんでしたっけ?」
「ああ、その理由については私から話すわ」今度はさっちゃんさんが話し始めた。
「私達が知り合ったのはキャバクラに上様がいらした時が確かに初めてだけれど、私がくのいちだから、 九兵衛さんは私に相談したかったらしいの。知っての通り、九兵衛さんは身体は女性だけれど、心は男性…… ということになっているのよね。けれど、それは生まれつきではなくて男性として育てられたが故のこと」
「……あー、確かに男として育てられたんだよな。んで? それがあのレズプレイとどう関係してんだぁ?」


「だ・か・ら。九兵衛さんは本能的な部分では”女”で、”女”として男性に抱かれたいと思ってる……ってこと」


「「…………」」
僕と銀さんは言葉を失った。
さっちゃんさんはさらっととんでもないことを口にしたからだ。
「僕……変なんだ」沈黙を打ち破るように、九兵衛さんが再び口を開いた。
「このところ、夜一人で布団の中で……その……自分を自分で慰める時、見知らぬ男に抱かれる妄想でしてしまうんだ……」
「おいおい……オブラートに包んだ言い方してるけとどのつまりオナニー話かよっ」
銀さん、なんでオブラートをわざわざ破くんですかアンタは。
確かにそういうことだよね。
九兵衛さんもオナニー……するんだ。
あ。
なんか……立ってきた。ちょっとまて僕の下半身。
さっきのレズプレイはあんなにくっきり見えてたのに反応しなかったじゃないかッ! 
ってあれは衝撃的過ぎて反応に至らなかっただけ?
「……そういうことだ。僕は……今迄男として育ってきて……それなのにその……男に、 女として扱われて抱かれる妄想でないと満足できないんだ……」
うわ……なんか……すごいことを聞いてしまったような……。
九兵衛さんは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。あの……恥ずかしいのは聞いてる僕も一緒なんですけど……。
「そういうわけで、九兵衛さんは私に相談をしてきたの。自分の性癖がどうなのかを客観的に判断して欲しいって」
それでレズプレイってわけ、とさっちゃんさんは得意げに言った。
ってわけ、じゃないですよ……さっちゃんさん。
確かにくのいちは夜の営みに関しては豊富な知識とスペックを持ってるんだっけ。
その知識とスペックにコロっといっちゃった天パの人が僕の隣に座ってるんだけど。
「で、どうだったんだよ。さっちゃんのジャッジはよォ」
「そうね、さらっと流した感じだけど……レズもダメってことはないけど、男性にガツガツ攻められるのが好きそうね。 
女性が好きだって口では言ってるけど、身体を重ねるなら男性の方がいいんじゃないかしら?」
「……そうなのか。でもお前男苦手だろ? なんならお妙にペニバンでもつけてもらって攻」
「なに人の姉上にさせようとしてるんですかアンタはあぁぁッッ!! 何がペニバンですか!!」
「……今のお妙ちゃんは僕のことはそういう対象としては見てくれてはいない……ペニバンは無理だ」
ってなんでペニバン話引きずるんですかっっ!! ペニバン前提なんですかっ!!
「相談されて同じ女として、困っている九兵衛さんをほっとけなかったのよ。銀さん、だから 浮気じゃないんだゾ、コレは♪」
「あー、そう? だったらいいんだけどォ。銀さんさっちゃんがレズ浮気だったらどーしようかと思ってェ」
「そんなわけないじゃない? でもさっちゃん、銀さんに見られるのってちょっと興奮したわ…… あんな恥ずかしい現場……」
「なぁんだ、いやーだったらもっとピーピングすりゃあよかったかなー隠し撮りすりゃあよかったかなぁー」
……のろけですかアンタら。人前で。また自分らのプレイにつなげようとするんですか。
それで本題何処行ったんですか。イスカンダルですか。
「でね、銀さん。モノは相談なんだけど」
さっちゃんさんが、懐から封筒を取り出した。
ちょ・何ですかこの分厚さっっ!ひと束確実に入ってるよ! 
「これはさっきのレズプレイの代金として九兵衛さんから私への報酬だけれど、このお金の半分を私が銀さんに払うわ。 銀さん、私からの依頼よ。九兵衛さんが本当に男性に抱かれたいのか、銀さんと九兵衛さんが寝て実際に確かめてみてほしいの」
さっちゃんさんは目を細め、ふふっ、と微笑んだ。



それから三十分後。
和室にさっき畳んだ布団をまた敷いて、さっちゃんさんと九兵衛さんが着物を脱いでいる。
僕と銀さんは入り口のあたりで正座して、スタンバイ。
まずはさっちゃんさんと九兵衛さんがレズプレイで前戯をして、十分受け入れOKとなったところで 銀さんが挿入……ということになった。
「……カネに目が眩みましたね、銀さん」
「仕方ねーだろ新八……カネもそうだけど断っても引き受けても気まずさはかわらねーよ……」
「そうですけど……」
断ってもこの先会いづらいし引き受けても会いづらいのは確かだ。
どうせ同じ会い辛いなら引き受けて問題解決したほうがましといえばましだ。
けど実際に寝て確かめてみるとはとんでもない話なわけで。
男性に触れらたら思わず相手を投げ飛ばしてしまう九兵衛さんも、銀さんなら手を触れても(まああの時は場合が場合だったけど) 大丈夫だったんだから、ってことで九兵衛さんも了承してた。
というか冒頭でレズプレイをする前にそういう話で二人の間でまとまってたらしい。
……怖い話だ。
しかも、寝るって言ってもそもそも九兵衛さん処女じゃないんですか? と僕が恐る恐る尋ねたところ、 九兵衛さんはあっさりと
『そのことなら大丈夫だ。僕は処女じゃない』と衝撃的なカミングスーン……もとい、カミングアウトをかましてくれた。
何が来るんだカミングスーンて。シャンプー? あれはヴィダルサスーンか。
『『なんですと!?』』 あ。銀さんとハモッちゃった。
『武者修行の旅に出る際、夜盗に襲われたりしてからでは遅いということで、張り型で自分で破瓜を済ませた』
これがその張り型、と明らかに成人男性標準よりも立派な水牛の角製の張り型を見せてくれた。
……何で持ってきてるんだ。
処女喪失ってすごい痛いって聞いたけどそれを自分で済ませちゃうって辺り、九兵衛さんって凄いというか 肝が据わっているというか……。ま、済ませてるってコトは痛がる心配は要らないんだろうけど。
銀さんに触られた九兵衛さんがまた投げ飛ばしたりする可能性がゼロともいえないんじゃないかと 僕は不安を口にしたけど、さっちゃんさんは笑って『銀さんは挿入だけしてくれればいいのよ、 出来るだけ触るのが少ない体位で、投げ飛ばせないくらいトロトロに蕩けてれば大丈ブイ♪ いざとなったら私が縛っちゃうから』と。
……そういう問題だろうか。体位ってどんな体位だ。縛るってアレか。OPでやってたアレか。
「新八ィ、このことはお妙には内緒だぞ……いいな」
「わかってますって……報酬の半分、寄越してくださいよ」
「了解了解。あーあ、嫌な4時間目だなぁ……」
姉上は夕方まで帰らないとさっき連絡が取れたから安心だ。
……ん? 4時間目?
「銀さん、なんで4時間目なんですか? 僕1時間目しか受けてませんけど」
「え゛……あ、えーと……」銀さん……なんでしどろもどろなんだ? なんか怪しくない?
「……アレだ、ホラ、今昼飯前だろ? 昼飯前っつったら4時間目だろ? アハハハ……」
「……」なんか怪しいな。ま、いっか……。


ともあれそんなわけで、さっちゃんさん経由の九兵衛さん依頼は幕を開けた……。

(続く)




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