おきたらうたえ







「……いい天気」
お通は膝の上に重みを感じ、頬を掠める風の温かさにうっとりした。
縁側でお通の膝に頭を置いた高杉は、暖かな陽気に随分と無防備な顔で眠っていた。
高杉が住まいとして人づてに借りている古い屋敷の庭は手入れも行き届かず荒れていたが、 それでも春の訪れを感じさせる花が植え込みから顔を覗かせ、気の早い蝶がひらひらと舞っている。
眠る高杉の顔は平素と違って穏やかで、長い睫が印象的だ。
普段はとても怖く思えるのに、ふとしたときに無防備な表情や子供じみた仕草を見せる。
さっきもそうだった。へまをやらかした下っ端を怒鳴りつけていたのに、その後食べた団子のたれを頬に付けたままでお通に笑われた。
だからお通の中で、高杉は怖いと可愛らしいが半分半分だ。一回りも上の大人の男に可愛らしい、とはまた変な言い方かもしれないが。


『一眠りするから、起きたら歌え』


高杉がそうお通に膝枕を命じたのは十分ほど前。


起きたら歌え、とは何を歌えばいいのだろう。お通は悩んだ。
訳の分からない歌ばかり、といつもお通の歌を一蹴する癖に。


高杉の目を覆う包帯の、額の辺りにそっと触れた。
「……ん……」僅かに低く唸り、高杉が身動ぎする。お通はクス、と笑った。
「起きたら何歌おうかな」
お通は一人ごちて、高杉が目を覚ました時に歌う曲を考えた。
こんないい天気の、春の日和に似合う歌。


「……おやおや」
縁側に回った万斉は、どうりで、と納得した。
所用を終えて帰ったのに、晋助晋助と何度呼んでも返事がなく屋敷中を探し回っていたのだ。
縁側で高杉はお通の膝枕で眠っていた。
お通もまた、高杉に膝を預けたまま、覆い被さるように眠っていた。
「妬けるでござるな」
日が傾くには早い時間だが、総督と歌姫に風邪でも引かれては困ると、万斉は薄掛けを取りに部屋に戻った。


(幕)




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