『少女→女』
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鳥羽から渡されたA3サイズの封筒には、昨日撮ったばかりのお通のポスター用の写真が入っていた。
振り向きざま、下ろした洗い髪、艶やかな唇とドキっとするほど意志の強そうな眼差し。
メイクのせいもあるだろうが、まるで別人に思える。
今度からイメージキャラクターを務める化粧品会社の広告用のポスターだが、これまでの少女のイメージから、大人の女への脱却を強く意識したものとなっている。
「これはこれは……」
しげしげと写真を上から下までじっくりと見ながら、万斉は嘆息した。
「どうでしょう、つんぽさん。いいでしょう?」
「これにケチをつけるほど、拙者は物分りの悪い人間ではござらんよ」
つんぽこと万斉は珍しくおどけたように言いながら、視線は写真から離れなかった。
お通は十七だ。まだ十七、という人もいるが、少女と大人の女が鬩ぎ合い、少しずつ大人の女が征服していく時期だ。
あどけなさは期間限定のもの。
「曲の方も、そろそろ方向性を考えねばなるまいな……」一人ごちて、万斉はゆっくりと大人になっていくお通のことを考えた。
出会った時は幼くて、猪突猛進、危なっかしくて目を離せなかった。
気が付けば少女は聡くなり、”女”を身につけ、立ち居振る舞いはどんどん洗練されていく。
このごろでは万斉を言い負かすまでになった。
いつまで傍にいられるか。
手を伸ばしても届かない高嶺の花になるまで、自分は傍にいられるだろうか。
「鳥羽殿、このポスター、出来上がったら拙者にも一枚頼むでござるよ。出来れば広告を入れる前がいい」
「勿論です、是非」
写真を封筒に仕舞い鳥羽に返すと、万斉はふと鼻の奥がつんと痛い感覚に襲われた。
(幕)
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