たからもの





あでやかな色のとんぼ玉がついた簪は、万斉がお通に贈ったもの。
そして、お通の宝物。


「折角あげたのに、全然付けてくれぬのは何故だ?」
お通の髪に触れながら、万斉は不満そうに言う。
今お通の髪を飾っているのは、万斉がくれたとんぼ玉の簪ではなく、少女らしい花簪。
何を、とお通が聞き返すと、万斉はあれでござるよ、と口を尖らせる。
「あれは……だって、付けるのが勿体無いんですもの」
お通は屈託の無い笑みを浮かべ、あれは私の宝物ですから、と続ける。


あでやかな色のとんぼ玉がついた簪。
お通の部屋の箪笥の中に、大事に大事に仕舞われている。


「使うてくれねば、宝の持ち腐れであろう?」
お通に似合うものをと、万斉が選びに選んだ簪だ。
勿論、そんなことまで口にする無粋な万斉ではないのだが。
お通の髪をあのとんぼ玉の簪が彩る様はさぞ美しいだろう。
なのに今までただの一度も、あの簪を挿して会ってくれたことはない。
「……でも、落としたり傷がついたら嫌なんです」
「そのときはまた買ってあげるでござるよ。だから、使って欲しいんでござる」
嘘ではない、これは万斉の本心だ。でも、お通に何かを買う口実も欲しい。
お通に次の贈り物をする口実。お通が喜ぶ顔が、もっと見たいから。


「じゃあ、明日はあの簪で来ます」
意を決したように、お通が言う。
「楽しみでござるよ」
万斉は微笑んだ。



次はどんな簪にしようか。それとも帯がいいだろうか。
万斉の頭の中は早くも次の贈り物のことで一杯だった。


たからものは、どんどん増えていく。

(幕)




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