『キッチン・ラヴァー』(サンジ×ロビン)
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深夜のキッチン。
今宵ばかりは、冷蔵庫泥棒さんもご遠慮願いたいもの。
「ニンジン、ポロ葱、セロリにジャガイモ、ウインナーソーセイジに……」
レシピに並んだ順番に、材料を確認する。
準備は万端、一つとしてかけたものはない。
サンジさんの指示通りに寸胴鍋の中へ材料を入れていく。
今夜の私は、サンジさんのアシスタント。
深夜のキッチン、二人並んで新しいメニューの試作中。
「このレシピにゃ自信があるんだ。バラティエ時代の賄いなんだけどね」
咥え煙草でにっと笑うサンジさん。
冬島が近くて寒いけれど、火を使っているから温かくて気持ちいい。
セルロイドの眼鏡を掛けている時は、いつもの三割り増しで真剣な証拠。
銅鍋の中で煮立つのは、サンジさん特製のポトフ。
けれどレシピを一読した限りでは、どこにでもあるポトフにしか見えない。
「……ブーケガルニに仕掛けでもあるの?」
私の問いかけに、サンジさんは意味ありげな笑みを湛えたまま、ノン、と大きくかぶりを振る。
「じゃあソーセイジ?」
「それも違う」
「じゃあ……何?」
知りたくなったら、分かるまで納得しないのが私の性格。学者の性分。
「何だと思う?」
「……意地悪」
ぷ、っと頬を膨らませたら、サンジさんがおかしそうに笑った。
「それはね、ロビンちゃん……」
細い指が、私の手からレードルを奪う。
「あ、」
口付け。軽く口付けられて、次に唇自体を奪われる。
その次は身体。背に腰にまわされた手は力強く、服の上からブラの金具を簡単に外した。
―――駄目よ、サンジさん
―――いいよしようよ……かまわないよ
―――でも、
―――いいんだ……ね、ほら
―――……あ、
床の上にサンジさんのジャケットを敷いて、啄ばむようなキスから次第に深いキスへと。
大人のキス、とサンジさんは言った。素敵な言い回しだわ。
恥らう年でもないけれど、サンジさんが耳元で囁く言葉はどれも私の頬を赤くして、容赦なく私を少女へと引き戻した。
クツクツとポトフの煮える音。
暗闇に、バーナーの炎。
「そんなに……広げないで……」
「だって、ちゃんと見えないじゃないか」
恥ずかしさにあえかな声で抵抗をしたけれど、サンジさんは聞いてくれない。
サンジさんの細い指は私の秘めた場所を薄闇に晒し、唾液で塗らし愛撫する。
「あ……ぁ、」
「いい塩味だよ」
「もう……言わないで……」
サンジさんは優しくて、時々意地悪。過ぎることはどちらもない。
私の方が年上なのに、リードされているのは完全に私……。
深夜のキッチン。
今宵ばかりは、冷蔵庫泥棒さんもご遠慮願いたいもの。
新しいメニューの試作中だし、それに……それに。
「駄目、もう……」
駄目、という言葉の持つ意味は広い。
嫌だと拒否の意味。もっととねだる意味。そして、限界の意味。
「もう……私……、……ぁ―――」
「ね、美味しいだろ?」
「本当……信じられない」
琥珀色のスープの味は、今まで食べたどのポトフにもない味だった。
「だって、レシピは普通だし……材料もいつもと同じなのに……どうして?」
「だからさ、このレシピの秘密はね」
―――愛し合う時間だけ煮込むこと。それ以上でも、それ以下でも駄目。
新しいメニューは、明日にでもテーブルに上るはず。
(END)
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