『傷跡』(ペル×ビビ)
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傷だらけのペルの身体。
腕に、背中に、脚に、あちこちに無数の傷がある。
どの傷も、一つとして無駄なものはない。
それはどれもこれも、この国を守った戦士の誇り高き勲章なのだから。
ベッドの中で、ペルの胸の大きな傷を、指でそっと辿る。
あの日、アルバーナの時計台で……ペルは広場の爆破を阻止した。
砲弾をその身に受け、アラバスタを守ったその証は、ペルの胸に消えることなく残っている。
「ねぇペル、この傷……痛い?」
ペルに尋ねると、ペルは少し笑って、「時々」と答えた。
「……こんな天気の悪い日には、少し痛むのです。どうしてでしょうね……」
窓の外は雨だった。
あの戦いの後、この国には雨季にはちゃんと雨が降るようになった。時には晴れた空が恋しくなるるほど。
静かに降る雨は、砂漠のこの国を潤してくれる。
窓が濡れている。風がふている。雨はやむ気配がなかった。
「明日も雨?」
「ええ、そのようです」
「……晴れだったら、一緒に行きたいところがあるのに」
「ビビ様、明日はお勉強をなすって下さい」
ペルが呆れた顔をする。
「あらいいじゃない……ねぇペル、雨でも何処かに出かけましょうよ」
甘えて、ペルの腕に縋りつく。
「仕方のない方ですね……雨でも……図書館なら、雨でも大丈夫ですよ」
「図書館ね、いいわ」
縋りついた腕にも、傷がある。この腕の傷は、小さな頃私を守ってくれた傷。
その上の肩の傷は、鍛錬の際に槍で突かれた傷。
指の傷は初めての出撃で流れ弾に当たった時の傷。
一つ一つの傷の所以を私はペルに尋ねた。ペルの話を私は全部覚えているわ。
ペルの傷、どれが何の傷なのか、全部知っている。
大好きな人のことは、何でも知っておきたいから……。
胸が―――痛む。
あの日、あの時。アルバーナの空にペルが消えたときのことを思い出すと、私の胸はいつも痛い。
ちくちくと針で刺すように、私の胸は痛んだ。
それは傷跡。目には見えない、私の胸の中の傷跡。
雨が降る。
あの頃、文字通り渇望した雨が降る。
雨は私とペルの傷跡に、染みていく。
(END)
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