『決勝戦の後』






その夜……都道府県対抗選抜大会の決勝戦が行われた日の夜。
大本命といわれた大阪選抜チームとの接戦の末、見事優勝を修めた埼玉選抜チームが宿舎としているホテルの屋上に、人影が二つあった。
本来なら立ち入り禁止となっているのだが、簡単な看板と申し訳程度にロープが張ってあるだけで、 宿泊客が屋上に出るのは容易いことだった。
「あぁっ、あぁっ、……は、あ、あ、うっ!!!」
落下防止のフェンスにしがみつき、尻を突き出して嬌声を上げているのは埼玉選抜メンバー・猿野の母だった。
長い黒髪をまとめていたはずのバレッタは落ちかけて既にその役目を果たしておらず、 スーツのジャケットは肌蹴け、彼女の豊かな胸を夜気に晒している。
タイトスカートは捲り上げられ白い尻を剥き出しにし、 ストッキングに至っては破られていた。
「いいですよ猿野さん、よく締まって……もっとイっちゃってくださいね」
彼女をそのような格好にし、尚且つ後ろから責めているのは、埼玉選抜監督の白雪だった。
選手たちはまだ部屋で祝賀会の真っ最中だというのに。
二人はそっと抜け出し、誰も来ないこの場所で肉欲をぶつけ合っていた。 猿野の母は年よりもずっと若く見え、身体の線はどれほども崩れてはいない。
若い頃はさぞ美しかっただろうことは容易に伺える。少々生活に疲れているところを差し引いても、お世辞でなく魅力的な女だった。
しかし今は、息子ほど歳の離れた男と、獣のように情欲を貪りあっているのだ。
白雪のペニスが熟したヴァギナを出入りする度、猿野の母がしがみついたフェンスはがしゃがしゃと音を立てる。
「んぁはぁっ……、監督さん、もっと……もっと頂戴、ぁ―――……」
自らも腰を振り、よりよい場所に当てようとしているその姿に、白雪の口元が自然と緩む。
もしも猿野が、母のこんな姿を目にしたら一体どんな顔をするだろうと考えると、彼女の腰を掴む手に力が篭る。
全く、最終日にこんな収穫があるなどと、白雪自身思いもよらなかった。
まさかあの猿野の母が、これほど美人だとは。ましてや話があるとこんな場所に呼び出してなんの警戒心も持たずにやってくるとは。
どちらも嬉しい誤算だった。
そして更に、白雪の甘い言葉にいとも簡単に絆され、身体を許してしまうほど男に飢えていたことも。
「もっと? もっと深く?」
「ッあ、……もっと、……」
目尻に光るものを浮かべ、猿の母は首を縦に振る。余程いいらしい。
コンクリートの床には彼女の歳の割りに派手な色の下着が、 大事な箇所に新しい染みを付着させて脱ぎ捨てられている。
久しぶりだという男、それもうんと若い……生活に追われ、それどころでなかっただろう猿野の母には、白雪が与えてくれる刺激は余りにも新鮮で堪らなかったのだ。
揺れる乳房は張りこそ少々失われているもののまだまだ大きく、褪せた肉色の乳首は偉そうにつんと上を向き、興奮に固くしこっていた。
白雪の手が乳房を後ろから揉みしだく。優しく繊細な手つきに、子宮は激しく収縮する。
「もぉ……あ、……イくぅ……ッ!! また、あ、あ、あーーーッ、」
肉付きのよい身体が海老反りになり、一瞬硬直し、果てる。
彼女が果てるのはこれでもう何度目だろう、 よほど感度がいいらしい。
そしてそのたび、白雪のペニスを膣全体が締め付ける。
「……そんなに気持ちいいですか? ……あんまり締め付けすぎると、ボクのがちぎれちゃいますよ……あれ、あのバスって大阪の……」
ペニスを締め付けられて苦笑しながら、白雪が気付いた。
丁度ホテルの駐車場にあたる場所で、大型バスが一台、ガイドの指示で方向転換をしている。 そのそばにはユニフォーム姿の大阪選抜チームの選手達が小さく見える。
「ああ、もう帰るみたいですね……」
大阪、という言葉に、我に返った猿野の母が目を見開いた。
「あ、黄泉……黄泉、あなた………!」
遠目にも一際目立つ髪の色と背格好の、あれは紛れも無い、彼女の生き別れた息子・黄泉だ。
そして黄泉ともう一人の選手に両脇を支えられ、今まさにバスに乗り込もうとしているのは、 別れた夫の九泉だ。
「黄泉、黄泉……」
「ダメですよ、何処に行くんですか」
「だって、黄泉がっ」
慌てて逃れようと身を捩る猿野の母を、白雪が抱え込む。
「こんな格好で行くんですか? 猿野さん」
「でも、私の息子が……!」
「折角こんないいことをしているのに……」
白雪の腕の中、離れようと必死にもがく猿野の母であったが、男と女では力の差は歴然だ。逃れられるわけがない。
「バスが……!」
選手達は次々とバスに乗り込み、ガイドが最後に乗り込んでドアが閉まる。
「黄泉……黄泉、ぁあ……」
バスはクラクションを一つ鳴らすと、ゆっくりと発車した。
「黄泉ぃ……黄泉―――…―――!」
声の限り叫んだ。





「……?」
「どないしたんや、ヨミ」
誰かに呼ばれたような気がして、黄泉は辺りを見渡した。
「いや、気のせいか……」
「疲れとんのやろ、ヨミ」
隣の席に座る鵙来が、スポーツドリンクの入ったペットボトルを差し出す。
「そうだな、……きっと疲れてるんだろう」
(母さんには結局会えなかった……天国の話では苦労したらしいが……元気にしているだろうか……)
気がかりを胸に秘めたまま、黄泉はペットボトルを受け取った。前の席に座る父の九泉に飲むか、と尋ねる。
バスは交差点を左に曲がり、高速道路に入った。





屋上ではまだ白雪と猿野の母が交わっていた。
逃れることは出来なかった。元の体勢に戻され、再び後ろから攻め立てられる。
白雪の腰の動きは激しくなり、ボトムのジッパーから出しただけのペニスはもう限界だった。
「出しますよ、猿野さん、ほら、……ほら、……出しますよっ、」
「いやぁっ、中は―――……あ―――」
フェンスにしがみついたまま、何度目かの絶頂が猿野の母に襲い掛かる。
ダメだと拒む間などなく、白雪のペニスから熱いものがたたきつけられるように放出された。
「ぁ―――ッ……、」
男の精を受け止め、脱力する猿野の母の身体を後ろから抱きしめ、白雪は更に残睾を吐き出す。
「あれ、もしかしてダメな日だったんですか? ……ボク、猿野君にお父さんって呼ばれちゃうんですかねぇ」
冗談交じりに白雪が言う。
「うっ……、」
子宮の奥へとたっぷり注がれた精液。それが奥へと届いてしまうことを思い、猿野の母は目を伏せ唇を噛んだ。
「ま、それはさておき……もっと楽しみましょうか、猿野さん」
白雪のペニスはまだ固さを保ったままで、再びゆっくりと動き始める。
「あ――あぁ、……そんな……ぁッ、」
「ホラ、もっとお尻つきだして……ああ、いいですよ猿野さん」
息子とのすれ違いを悲しむ気持ちは、白雪が与えてくれる、より激しい快楽を追い求める気持ちへと塗り替えられていった―――






「そういえば猿野さん。下の名前、まだ聞いていなかったですよね……聞いていいですか?」
思い出したように、白雪が耳元で囁いた。
そう、まだ白雪は猿野の母の、下の名前さえ聞いていなかったのだ。
「ボク知りたいなぁ、猿野さんのお名前。きっと素敵なんだろうなぁ」



まぁ知ったところでどうせ雌犬って呼ぶんですけどね、と白雪は付け加えた。


(END)









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