『母子芭雪〜湯けむり母子相姦〜』
(母子パラレル芭雪。白雪女体化)





……商店街の福引で、一等の温泉旅行を引き当てた。
や、オレ結構くじ運いいんだ。こう見えても。
プレステは雑誌の懸賞で当てたし、DSも正月にデパートの福袋で……って、そうじゃなくって。
温泉旅行はペア。我が家はお袋とオレら三人兄弟の、計4人家族。
二度の家族会議の結果、当てた本人のオレと、お袋が行くことになった。
信二と冥は家で留守番だ。ま、妥当な線じゃね?
つまり、だ。
何ていうか……これは、その。
千載一遇のチャンスってヤツじゃね?



「ほんといい景色……来て良かったねぇ、芭唐君」
「あー、……ああ、うん、まぁいいんじゃね?」
気のない返事をしながら、浴衣に着替えたお袋の後姿をこれ以上ないほどじっくりと見つめる。
や、お袋、浴衣似合いすぎだから、マジで。
電車で2時間、バスで1時間。バスったって、今時ボンネットバスだぜ?
でもってやっとこさついたのはひなびた温泉街。
山ん中で静かで、あんまり観光地観光地してなくって、煩いのが嫌いなお袋は偉く気に入ったらしい。
オレとしちゃあもっと観光地! って感じのほうがいいんだけどなぁ。
宿は創業百年だとかの老舗の旅館。お袋は着くなりさっさと浴衣に着替えて、部屋の窓全開にして景色見ながらはしゃいでる。
……親父が死んで、もう5年になる。親父の死以来、お袋はふさぎ込んでることが多かった。
オレら三人兄弟は、ふさぎ込みがちなお袋を中心に、喧嘩したり揉めたりしながらもなんとか5年を過ごしてきた。
こんな風にはしゃぐお袋を見るどころか、ちゃんと化粧しているのも、ホント久しぶりじゃないかな。
思い切って来て良かった……温泉旅行引き当てた瞬間、とりあえずお袋が喜ぶだろうって思った。
「冥君や信二君も一緒に来ればよかったな……」
「ペアなんだからしょうがねーじゃん」
ちゃんと化粧してちゃんとした格好したら、お袋は年よりずっと若く見えるんだ。
「ねえねえ芭唐君、お土産買いに行こうか?」
「え、まだ着いたばっかじゃん、帰りでいいっしょ?」
「帰りだと時間がないんだよ。先に買えば時間があるからちゃんと選べるし、宅配で家に送ってもらうようにしておけばいいでしょう?
冥君や信二君、きっとお土産心待ちにしてるよ」
「……んー、オレここにいるから、お袋買ってくれば?」
「えぇ、お友達にお土産は?」
「ガッコの友だちとかには行くこと自体言ってねぇから別にいらねーし。……あー、野球部に一つなんかチョコみてぇなのあったらそれでいいや」
「チョコ? おせんべいとかがいいんじゃないの?」
「……チョコが一番当たりさわりがねーんだよっ」
「チョコね、了解」
「20くらい入ってるやつ3つくらい頼むわ」
「はいはい、じゃあちょっと散歩がてら行ってくるね」
お袋は浴衣の上に羽織はおって、財布だけ持って部屋を出た。
ぱたん、と襖が軽い音を立てて閉まる。
「……あ゛〜〜〜〜……」
お袋が出かけて、一人になった部屋でオレは唸り声を上げた。
「くそ……なんて言えばいいんだ?」
口説き文句。
だから……お袋をなんていって口説くか、だ。



お袋のことはずっと前から……親父が死んでからかな、何となくだけど意識するようになって……その、つまり、だ。
オレはお袋が好き……お袋としては勿論だけど、女として、好きで、だ。
お袋のことはその、そういう……ぶっちゃけ性的な対象としても見てる。で、つまり。俺の言いたいことは、だ。
―――お袋とシたい。お袋を抱きたい。
「そういうことを言えばいいんだろうけど、もちっと巧くまとめられねーかな……」
このまんまじゃしどろもどろじゃねえかよオレ。口説き文句じゃなくて言い訳じゃねーかっ。
くっそ……どうする?
唸りながら部屋中歩き回って頭抱え込んだり腕組んだり。
畳に寝っ転がって部屋の端から端まで転がりながら移動したり逆立ちしたり……なにやってんだオレ。




5年前、親父が不慮の事故で死んだ。まだ若かった。オレら三人兄弟はまだ小学生だった。
『照…ッ、照……』
親父の棺のそばで泣き崩れるお袋の姿を見、兄弟三人で誓いあった。お袋を守ろうって。
兄弟の仲で一番賢い信二が、
「これからは私達でお母さんを守りましょう」
と口にするまでもなく、オレはそうしなきゃいけないって確信していた。
あの頃、オレは信二や冥と同じ気持ちでお袋のことを見ていたと思う。
守るべき対象だったお袋。守るなんてガキのくせにたいそうなことを思ったもんだ。実際、どのくらい守れてたんだろう。
そんなお袋が恋愛対象に変わるのに、いったいオレの心はどういう筋道を辿ったのか、自分でもよくわかんねえ。
憂いを含んだ横顔にときめいたのは何時だったのか。細い腰を抱き寄せたいと思ったのは……。
三人の子供にいつも平等に愛を注いでくれるお袋を独占したいと思った。
その内、お袋を抱く夢まで見るようになって、下着を何度も汚した。
……わかんなくて当たり前かな。だって恋愛って理屈じゃねえし……って、これは言い訳か。
信二や冥はああみえてあっちのほうにはてんで鈍感だから、オレがどんな風にお袋を見てるかなんてきっとわかっていやしねえ。


「この機会逃したら、次いつ言えるかわかんねーし……」
ぽつりと呟く。
ホント、この旅行中に言えなかったら、オレ一体いつお袋に思いをぶつけりゃあいいんだろう。
溜め込みすぎて襲っちまう前に……んなことしたら一発で嫌われちまうし第一家にいられなくなるしな……。
っつかそれはオレ自身避けたいし……だからそうなる前に、上手く言えないもんかな。


「……眠いの? 芭唐君」
「―――あ」
顔を上げると、寝っ転がってる買い物袋を手にしたお袋が帰ってきた。
「ちょっと、うん」
「バス長いこと乗ってたもんね、疲れるよね」
お袋は肩を揺らして笑いながら、財布を鞄にしまう。
「あれ、お袋買い物行ってたんだろ? なんか早くね?」
「旅館の一階に売店があったでしょう、そこにしたの」
「あっそ、」
そしてオレのそばに来て、着ていた羽織を脱いで優しくかけてくれる。
その仕草、その顔。
紛れもなく母として、息子に接するときのそれだ。
「……ありがと」
「おなか冷やすよ」
「ん……」
「芭唐君は直ぐおなか冷やすんだから」
「……うん」
そもそもお袋を女として見ていいんだろうか……そんなさりげない仕草や表情ひとつに、オレの心は揺らぐ。
お袋が買ってきたのは、信二が好きな温泉卵に冥が好きな饅頭に、お袋の好物の煎餅に、わけわかんねえキーホルダーに。
これはご近所さん、これはだれそれさんと言いながら、カバンにつめていく。
「芭唐君、お煎餅食べる?」
煎餅の包みを開けながらお袋が尋ねてきたけど、そんな気分にはなれなかった。
「……いらねぇ」
「そ、じゃあ残しておくから後で食べなさいね」
オレは羽織を腹の上に載せたまま、大の字になってお袋を目で追った。
「いい景色……信二君にも冥君にも……お父さんにも見せたかったなぁ」
窓辺に煎餅片手に立って、外を眺めながらお袋が呟く。
その後姿は、ちょっと悲しげだった。
浴衣の裾から見える踝とか踵とか。うなじの辺りの色っぽさはホント垂涎モノで……って、心が揺らいでるんじゃないのかよ芭唐。
「信二と冥はまた来る機会あるだろ……親父は……あの人のことだしさ、あの世から見てるんじゃねえの?」
「あはは、そうかもね」
親父がもし生きていたら、きっとオレには付け入る隙なんかなかっただろうな、と思う。
だってすんげえ仲のいい夫婦だったし、いい年して親父はお袋が好きで好きで仕方なかったし、お袋も同じだった。
オレら三人は、親父とお袋の仲が良すぎるがゆえ、恥ずかしい思いを何度もしたもんだ。
人前でも子供の前でも平気でいちゃこらしてたんだもんな。
「………」
親父が死んだからって、オレがお袋の心や身体を奪っていいんだろうか?
オレと冥と信二。お袋の三人息子。
オレはオレに割り当てられた、息子としての三分の一のテリトリーから、抜け出していいんだろうか?


お袋の後姿を見ながら、オレは色々と考え込んでいた。


そしたらいつの間にか眠っていた。


「……ん、……あ、れ?」
薄暗くなった部屋で、オレは目を覚ました。
「お袋?」
お袋の姿はない。腹の上に乗せられていた羽織は羽根布団に変わり、窓は締め切られて冷房がついていた。
「温泉かな」
お袋の荷物の、温泉グッズだけを集めてた小さいカバンがないのに気付く。
「……オレも一風呂浴びるかなー」
荷物からタオルとトランクスを出し、オレは部屋を出た。


エレベーターで一階まで行き、廊下の表示どおりに露天風呂に向う。
「お袋もう上がってるかな……長風呂するからまだ入ってるかな?」
露天風呂ってことは、頑張ってみりゃああわよくば女風呂が覗けたり……なんてな。
「……双眼鏡持ってくりゃ良かったかも」
半分冗談、半分マジで呟いて角を曲がったところで、オレの目に飛び込んできたのは、湯上りらしく髪をアップにしたお袋、と。
「―――誰だよ?」
そのお袋に話しかける、見たこともない怪しげなオッサン。
「ですから、ボク高校生の子供がいるんで……」
「まあそう固いことを言わず……なんなら息子さんもご一緒に、」
「いえ、だからその、」
……おいおいおいおい。
お袋、ナンパされてんじゃねーか。
立派な口ひげ蓄えた、オールバックの見るからにエロそうな隻眼のオッサンは、明らかに嫌がってるお袋にしつこく食い下がってやがる。
「君のような美しい女性と一緒にお酒を飲みたいんだ、一杯でいいから付き合ってくれないかね?」
「あの、そういうのは困るんですが……」
「お酒が苦手かな? なんならお酌だけでも構わん」
ナニがお酌だよ。尺八して貰いてえんだろうがこのエロじじい。
「お袋!」
オレは思わず声を上げた。
「芭唐君、」
オレの声にお袋が振り返る。
お袋は慌ててオレに駆け寄る。オレはお袋を後ろに隠し、オッサンをにらんだ。
「オッサン、この人オレのお袋なの。ナンパするんなら他の人にしてくんないかな?」
オッサンはオレとお袋を見比べながら、フン、と鼻先で笑った。
「ほほう、随分と母親思いの息子さんだ……」
「なんだよ、やんのかよ」
「フン、子供相手に本気になっても大人気なかろう、……外の店に行けば幾らでも女は居るわ」
意外にもオッサンはあっさりとお袋を諦めた。
警戒するオレとお袋の隣を通り過ぎ、オッサンは去っていった。
「……ありがと、芭唐君」
お袋はほっとしのか、その場にしゃがみこんでしまった。
「お袋、大丈夫か? あのオッサンに変なことされなかったか?」
「うん、それはないよ、大丈夫……久しぶりの旅行で、ちょっとはしゃぎすぎちゃって……軽い女に見られちゃったみたい……。駄目だね、ホント」
「ち、ちげえよ、お袋が美人だから寄ってくるんだよ、軽いなんてそんな……」
「ありがと、芭唐君が来てくれなかったら、今頃どうなってたか」
「……う、」
「芭唐君が怒ってくれたから、あの人諦めたんだよ」
怒って、っつーか。マジムカついたんだ。
だってオレ……。
「や、なんつか……だって、こういうの子供として当たり前じゃねえか、別に感謝されるほどのことじゃねえし。信二や冥でも同じことしたと思うけど……」
「当たり前でも……でも、芭唐君のおかげだよ」
お袋が俯いて、オレの服をぎゅっと握る。湯上りのいい匂いが鼻をつく。
オレの心臓が、どきん、と跳ねる。
「べ、べつに感謝なんて……いいよ、オレもう風呂入るし。お袋、さっさと部屋に戻ってろよ!」
オレは恥ずかしさを隠すようにお袋の手を解いて、背中を向けて露天風呂に駆け込んだ。
恥ずかしさとかもどかしさとかを振り払うように、頭から湯を浴びた。
……駄目じゃん、オレ。
あんな場面でドキドキしてあんなに挙動不審じゃあ、告白なんて夢のまた夢じゃねえか。
っつか、さっきのあのシチュエーション。
好きだからの一言くらい、言えたんじゃねえのか?




……風呂から上がって部屋に戻ると、仲居さんが料理を次から次へと運んでいる最中で、机の上には豪華な料理が並んでいた。
「芭唐君おかえり。ねえ見て、凄い料理」
「……あ、ホント……すっげー」
「ね、早く食べようよ」
「うん、……」
風呂に入って体中洗ったらすっきりして、ちょっと落ち着いた。
さっきよりましになった……お袋の顔をちゃんと見られるしまともに話せる。
お袋も落ち着いたみたいで、明るい声だ。
ご馳走のおかげか、オレとお袋はさっきのことはもう忘れたかのように振舞えた。
海の幸山の幸、めったに食べることのない豪華な料理を腹いっぱい食った。
お袋は上げ膳据え膳なんてそれだけで嬉しいっていって上機嫌で、お酒もちょっとだけ飲んだ。
メシの後は二人で温泉街に繰り出して、お決まりの射的やったり、お土産買ったり、タコヤキとかアイスとか食べたり……。


楽しい時間は、あっという間に過ぎた。


夜遅く、宿に戻った。夜遅くといったって温泉街は不夜城みたいなもんで、旅館も少し人気がまばらなくらいだ。
お袋はもう寝るといって先に部屋に戻り、オレはもう一度温泉入って、部屋に戻ったらお袋はとっくに布団に入って背中を向けていた。
ああもう寝てるんだとばかり思って、髪も乾かさないでテレビ見るのもやめて、敷いてあった布団に入った。


「……芭唐君」
オレが布団に入って二、三分して。薄暗い部屋の中、お袋がオレの名を呼んだ。
「ん、」
なんだ、お袋起きてんじゃん。
「今日はホントありがと、芭唐君のおかげでこんないい処に来れたし、美味しいものも食べられたし……危ないところも 助けてもらったし……」
「最後の一つは余計だよ……別に、感謝されたくてやってるわけじゃねえって、さっきも言っただろ」
ああ、オレのアホ。
どういたしましてって、何で素直に言えないかな。
「でも、やっぱり感謝したいもん」
「―――好きにすれば」
「もう、芭唐君ってそういうところが可愛くないねえ……信二君や冥君はどういたしましてって言えるのに」
「別にぃ、オレは信二や冥とはちげーし」
……素直じゃないオレって、ホント馬鹿だよな。
オレが信二くらい素直で、冥くらい余計な口叩かない男だったら、とっくにお袋と結ばれてたかもな……。
「ね、芭唐君、ちょっといい?」
「ん?」
パチン、と音がして、お袋が枕元の灯りをつける。暖色の小さな灯り。
「こっち向いて」
いわれるがまま、オレはお袋の方に寝返った。
「……何だよ」
お袋は布団から頭だけ出してる。当たり前の寝姿。
―――ちょっと、ドキドキするな。こういうの。
お袋と一緒の部屋で寝るのってどのくらい振りだろう。
一昨年の台風のとき、一晩停電して、皆で居間で雑魚寝して以来じゃねえかな。
「芭唐君、ちょっとこっち、来てくれない?」
「あぁ? 何で」
「いいから、ね?」
「何でだよ」
「……来てくれたら教えてあげる。大事なお話なんだ」
「んだよ……わかったよ」
理由を聞いてもお袋は変にはぐらかす。
仕方なく布団から出て、オレはお袋のそばに膝をつく。
「何の用だよ一体」
枕元で話なんて、ほんと何の用だってんだ。
「あのね、芭唐君……」
お袋の白い手が、少しだけ布団から出る。そして、掛け布団がさっと肌蹴られる。
「……………あ」
オレは、その掛け布団の下の光景に、目を奪われた。


裸。
まばゆいばかりに美しいお袋の裸が、そこにはあった。
白い、すべらかな肌。長い手足がスッと伸びている。
お袋のそばにはぐしゃぐしゃになった浴衣が脱ぎ捨てられていた。
「……………―――」
夢にまで見た美しいその身体に、オレはしばらく見とれていた。
驚くことさえも忘れて。
オレ、夢みてるんだろうか。もしかして。
ほんとのオレは、今頃露天風呂で湯当たりしてて、フリチンでのぼせて旅館のオッサンに介抱されてんじゃねえの?
なんてことを頭の隅で考えながらも、しっかり両目はお袋の裸に釘付けで。
胸は奇麗な形をしていて、乳首はピンク色で小さめだ。
デルタゾーンは少し濃い目の柔毛が覆っていて……って、何で冷静に解説してんだよオレ!
「お、お袋っ……」
ようやく出た言葉はそれだった。
ああ。上ずってるよ。
「芭唐君、ねぇ」
お袋がオレの名を呼ぶ。甘く誘うような声で。
「芭唐君は見たかったんでしょう?……ボクの裸を」
「え、あ……」
思いもかけない質問に、オレは再び言葉を失った。
「ずっと想像してたんでしょ? ボクの裸がどんなのかって」
お袋の言葉に、オレの心臓は大きく跳ねた。
だってそれ、図星だったから。
お袋の問いかけに否定の言葉が出ない。無言は肯定だった。
「……………」
「ボクね、ずっと分かってたんだよ。芭唐君がどんな風にボクを見てるか……いつからだったかはボクも覚えてないけれど。
芭唐君が信二君や冥君とは違った目で、ボクを見てるって事」
お袋の淡い色の瞳が伏せられる。
「芭唐君がボクを見る目はね、照……死んだ父さんがボクを見ていたのと同じ目なんだよ」
「だ・だから、何なんだよ……オレが親父と同じ目でお袋を見てるから……何だってんだよ……」
オレは裸体から目をそらし、上ずった声を絞り出した。
お袋に悟られていたという事実に、オレの心は混乱していた。
しかも親父と同じ目、なんて。
俯いて唇を噛む。指先が冷たくなっていき、喉が酷く渇いて、今すぐここから去りたい気持ちで一杯だ。
……って、しっかりしろ、オレ!
オレはお袋が好きだったんじゃないのか?
でもってお袋に好きって言うんじゃなかったのか?
そもそもお袋がオレの気持ちに気付いてくれてたなんて、この上ないことじゃねえのか、って、頭じゃ分かっている。
でも、でも、でも。


やっぱりお袋に好きだなんて告白するの、オレには無理だったんだ……。



「……芭唐君、顔を上げて」
お袋に呼ばれ、オレは恐る恐る顔を上げる。
「ねえ芭唐君。ここには、冥君も信二君もいないんだよ」
「……うん」
「今日のことを知ってるのは、ボクと芭唐君の二人だけなんだよ。分かるよね?」
「分かる……けど」
何だよ、ナニが言いたいんだよお袋。
「ここには、二人だけだから……」
お袋は、ゆっくりと両手を広げた。
「―――おいで、芭唐君」
それは、幼い頃オレ達三人が甘えたがったときに良く見た姿だった。
「お袋……」
そして三人は競い合って、この腕の中に飛び込んで甘えた。
でも、あの頃と今は違う。
今のお袋は裸で、それにその仕草が示す結果は、子供の頃の甘えとは全く違ったものだ。
「芭唐君、……抱いて」
「だ、抱いてってお袋っ、ちょ、ちょっと待てよ」
抱いて、なんて今更ドラマでも聞かない台詞だぞそれ……。
お袋の顔は、思い切ったものの少し恥ずかしそうだった。頬がちょっと赤くなってて。
「お袋、冗談はやめろよ……ホントにいいのか?……」
オレは重ねて尋ねた。念押しだ。
「いいよ、だって……子供の気持ちに応えてあげるのがお母さんでしょう?」
「そうだけど、でも……でも、これは元々オレからおふくろに言うつもりのもので……それに、親父にも悪いし……」
オレ……言ってることが支離滅裂じゃねえか。
親父に悪いのになんでお袋が好きって言えるんだよ。
それ以前にいざその時が訪れたというのに、何言い訳がましいこと言ってんだよ。これじゃ告白どころか断る口実にしかならねえじゃねえかよ。
「オレはただ、お袋に好きって言えたらそれで……」
嘘付け。抱きたいってやりたいってさっき言ってたのは何処の誰だ?
どさくさにまぎれて大嘘こくんじゃねえよ、と、冷静に自分で自分に突っ込みながらも。
ああもうオレってほんと……駄目なヤツだと思う。
「ここにいるのは、ボクと芭唐君の二人だけ。お互いが黙っていたら、冥君にも信二君にも、他の人たちにも、きっとずっと秘密のままだよ。
それにね、芭唐君。昔から言うじゃない。”旅の恥はかき捨て”って」


随分迷った挙句、オレはお袋の気持ちに甘えることにした。
決めたもののまだ心のどこかで戸惑いながら、白い裸体の上に薄い影を作った。
そして憧れつづけたお袋の身体を、一晩中抱いた。
旅の恥はかき捨て……か。上手い言葉を捜してきたもんだよな。
お袋の言葉は、オレの心をかなり軽くした。



やっぱ、お袋はオレより一枚も二枚も上手だ。


白い身体。夢にまで見た身体。
「お袋、ホントにいいんだよな?」
肌を重ねて問いかける。お袋は頷く。
頬が赤くなって、まるで少女みたいだ……可愛いな、って思った。
「いいよ、ホントにいいから……でも、優しくしてね?」
「……わかってるよ、乱暴にはしねぇよ」
お袋に心を見透かされてリードされて。されてばかりじゃ情けねえし。ここらで汚名返上しとかねえと。
「じ、じゃあ……」
と、白い肌に手を伸ばす。掌を、肩から鎖骨を滑らせ胸へと辿る。柔らかな乳房に触れ、掌が乳頭を掠めるとお袋が声を出した。
「ん、……」
その甘く誘うような声に、オレはすっげえドキドキしてた。
童貞棄てたときでさえ平気な顔してたってのに。
乳房を両手でやわやわと揉みしだいていく。そして、首筋からゆっくりと舌を這わせる。濡れた音がする。
「ぁ、あ……いい……」
頬を益々赤くして、お袋は気持ちよさそうにする。
お袋の肌の味は、なんだか甘い味がする。気のせいじゃなくて、ホントに。
「芭唐君、」
白い手がオレの頭を抱く。優しく、抱く。
頬擦りをしながら、乳房を手と舌で懸命に愛撫する。
「お袋、いい?」
オレの問いかけに、お袋は頷く。
「うん、芭唐君。今すごく……気持ちいい」
その言葉に、オレはほっとした。
夢にまで見た身体は、今まで寝たどの女の子よりも柔らかくて甘くて、そしてドキドキするものだった。
親父もこんな風にお袋を抱いたんだろうって、当たり前のことなんだけど、考えたらなんだか妙に口惜しくて。
いや、それがなきゃオレ今ここにいないんだけどな……。
……っつか、こんなことなら適当に童貞棄てるんじゃなかった。初めてがお袋だったら、どんなにか良かっただろう。
でももう何を考えたって、後の祭りだ。
今はただ、お袋との秘密の時間を楽しむんだと、自分自身に言い聞かせる。
お袋の身体は白くきめが細やかで、どこもかしこも柔らかくて……本当に素敵だった。
柔らかい乳房の感触。触れるのは赤ン坊の頃以来だ。
飽きるほど揉みしだき、吸い、転がし、痕をつけた。
臍を辿ってデルタゾーンへと指を潜り込ませて、湿ったその場所を掻き混ぜていくと、余裕あり気だったお袋は段々と息が荒くなっていって、 声が切なく変わっていった。
「ぁあん……ッ、芭唐君……、ぅ……」
額に汗が浮かび、前髪が張り付いている。眉根を寄せて悶えるその顔に、オレの背中がぞくぞくした。
「お袋、すっげえいい顔してる……」
その顔をもっと見たくて、指の動きを早める。やわやわと指を包む肉襞は少しずつ包みがきつくなってくる。
お袋、自分から腰を動かして、いい場所に当てようとしてる。その度に胸が上下に揺れる。
「自分で腰動かして、お袋って淫乱じゃねえの……」
「あぅ……だって……だって、」
だって、と言い訳を探しながら、お袋はまだ腰を振り続けた。
初めて見る。お袋のこんな姿……乱れた姿。切ない声も聞くのは初めてだった。
ゴクリと息を呑んだ。目の前の淫靡な光景に。
「だって、芭唐君……も、……駄目なの……っ、ああ、あ・あ―――……!」
細い体は仰け反り一瞬硬直し、すぐさま力を失い崩れ落ちる。
オレがそこから指を抜くと、透明な液体が弧を描いて飛び散った。


荒い息を整えさせる間も与えず、お袋の両脚を抱え、肩に担ぎ上げた。
まだ駄目、というお袋の言葉も聞かず、今さっきまで指で掻き混ぜていた場所へ、オレ自身をあてがって一気に貫いた。
ついさっき、優しくするって約束したのに……そんなん、守れねえよ。
「いや……あ、ああっ―――…!」
敏感になっている場所を貫かれ、お袋は声を裏返らせた。
「ああッ……凄い……」
「お袋……、中、すっげえ熱い……」
ズズッとはしたない音させながら、オレは自身を根元まで肉襞の中に埋めて、それからお袋とキスをした。
やっとお袋とつながった……何時の頃からか、ずっとこうしたかったんだ。
「お袋の中、気持ちよすぎ……」
中は指で探ったときよりももっと熱くてもっときつかった。
こんないい身体、親父が死んでからずっともてあましてたなんて……。
「芭唐君……凄い……固いよ……」
「モノのでかさじゃ親父にゃあ負けるけどな……へへっ」
もっとも、あの親父に勝てるとは思っちゃいないけど。オレはオレなりのことをするんだ。
「お袋、いくぞ……」
ゆっくりと、腰を前後させ始める。
ギリギリまで抜き、一気に最奥まで貫く。そのたびにお袋は嬌声を上げた。


お袋を貫く度に、脳天直撃の快感がオレを包む。
その中で、オレはぼんやりと考えていた。
5年前、あんなに愛し合ってた親父を突然亡くした。でもお袋は悲しみにくれる間なんかなかったんだ。
三人の子供との生活がこの細い身体に圧し掛かった。この細い身体で、いくつもの仕事をして、オレらを育ててくれた。
オレら三人に野球をずっとさせてくれた。
塞ぎこんでることが多かったのも仕方ない。だって、ホントにお袋一人だったんだ。
頼れる身内は近くにはいなく、愚痴を零せる人もいなかった。
周りに結婚反対されて、二人で手に手を取り合って故郷飛び出したんだって親父に昔聞いたから。
けれど親父との想い出を心の糧にできるほど、親父とお袋が過ごした期間は長くなかった。


いつの間にかオレらはお袋の背を越し、一人前の口を利くようになった。

人様に自慢できるくらい賢くてお袋思いの信二と、無口だけど野球には一番打ち込んで、お袋には全然心配かけない冥と、 遊んでばっかりで色々アレなオレ。
……オレ、どう考えたって三人兄弟で一番出来悪いじゃん。
なのにお袋は、いっつも三人平等に可愛がってくれて……その上、オレのこんな気持ちもちゃんとわかってくれて……。
今、受け止めてくれている。オレの欲望を。
―――ああ、そっか……。
オレは、その瞬間、とても大事なことを理解した。



「芭唐君、ぁあ、……ッ、奥、当たってる……!」
「お袋、お袋……ッ」
オレ自身もどんどん余裕がなくなっていく。
お袋への思い。気持ち。全部をぶつけるつもりで、激しく揺さぶった。
夢のような時間の終わりは、ゆっくりと近づいていて、窓の外は少しだけ白み始めている。
「だめ、また……ッあ……ああああ―――」
お袋がオレにしがみつく。お袋は泣いていた。
背中に爪が立てられ、限界だと教えてくれる。オレも、限界だった。
「お袋……ッ、オレ、お袋のこと……好きだ……」
「芭、唐君……!」
「あ、あ、あああっ―――!」
腹の底から出した声。お袋の一番深いところに、ありったけの思いを吐き出した。



愛しい、愛しい。
オレはお袋が、たまらなく愛しかった。




一泊二日の温泉旅行は終わった。
お袋とオレとは家に帰った。宅配頼んだ分のお土産の山が一歩先に家についていて、お袋はお土産をご近所に配り、隣のおばさんに 温泉が良かった、あれが美味しかったと楽しそうに話していた。
「お母さん、なんだか明るくなって……よほど楽しかったんですね」
「……良かったんじゃねえの」
お隣さんの玄関先でお袋が話す声は、こっちの家の茶の間にまで聞こえてくる。
「芭唐君は楽しくなかったんですか?」
煎餅片手の信二が、大の字に仰向けになったオレに問いかけてきた。
「……楽しかったよ、そりゃ」
「芭唐君の顔は楽しかったという風には見えませんが……」
「うっせーな信二」
「信二、ほっとけ。いつものことだろう。……とりあえずおかわり」
冥が空になった湯飲みを差し出し、信二が受け取る。
「……さーてと、飯でも作るかな……」
オレがむっくりと起き上がると、信二と冥が不思議そうな顔をした。
「んだよ、二人とも宇宙人でも見るような目で見るんじゃねーよ」
「ば……芭唐君がお夕飯を作るんですか? 一体どういう風の吹き回しかと……」
「……芭唐。お前、旅先で風邪でも引いたか?」
「うるせえな、たまにオレが作ったっていいじゃねえか! 男は黙って出されたモン食え!」
「……はあ」
「まあ、なんだっていいけど……」
お袋を抱いて、オレなりに分かったことがある。
お袋がオレに注いでくれた愛情に、オレは全然応えちゃいない。
オレは自分じゃ信二や冥たちと一緒になってお袋を支えてきた、守ってきたつもりでも、それはホントに「つもり」でしかなくて。
オレは自分に割り当てられた三分の一の役目も果たしちゃいないんだってこと。
注いでくれた愛情を当たり前のものとして受け取って、気付かないでいて、そしてもっともっとと欲しがって……。
それじゃ駄目じゃん、って。
そんなオレに、お袋を抱く資格なんか……少なくとも今は、ない。


お袋の隣にいて似合う男に、オレはなりたい。親父には勝てないと思うけれど。
次にお袋を抱くのは、オレが自分で納得いく位に成長してからだ。


「……飯炊いてるんだろ? チャーハンでいいよな?」
お隣さんと笑いあうお袋の声を聞きながら、オレは台所の明かりをつけた。
お袋の好物なんだ。卵の一杯入ったチャーハン。


(END)







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